第110話

 雑貨屋や服屋、その他にもスイーツ店なんかも巡ったりしてそれはもう平和としか言い様が無い素晴らしい時間を過ごしてきた俺達は夕暮れに染まった大通りの十字路付近に集まっていた。


「フラウさん、今日は俺達に付き合ってくれて本当にありがとうな。」


「いえいえ、こちらこそありがとうございました。皆さんのおかげで今日は充実した時間を過ごす事が出来ました。」


「えへへ、そう思って頂けたなら良かったです!」


 嬉しそうにしているマホと視線を交わしながら優しく微笑んでいたフラウさんは、近くに設置してあった街頭時計に目を向けた。


「……名残惜しいですがそろそろお別れをしなければいけない時間になってしまったみたいです。この後、ちょっとした用事が入ってしまっていて……」


「ふむ、それならばもう解散するとしようか。フラウさん、今日まで一緒に過ごせて凄く楽しかったよ。」


「うふふ、それは私も同じですよ。皆さんと巡り会えて本当に良かったです。」


 まるで美しい女神様みたいな慈しみに満ち溢れた表情を浮かべているフラウさんを目の当たりにして、俺はついついその姿に見惚れてしまいそうになっていた……


「また、会えると思う?」


「えぇ、きっとまた。あっ、そうだ。もしよろしければ皆さんが暮らしている住所を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


「住所?」


「はい。私は各地を巡って魔術師として公演をしたりしていますので、機会が有れば皆さんの住んでいる所にも行かせて頂くかもしれませんから。その時、皆さんの事をご招待させて欲しいんです。」


「本当ですか!?それでしたら、おじさんの家の住所を教えますね!実は私達そこで一緒に暮らしているんです!」


「えっ?私達って事は……ロイドさんやソフィさんもですか?」


「うん、そうだよ。」


「同じ家で暮らしてる。」


「あっ、勘違いしないでくれよ!きちんと分別ある大人として対応してるから!」


「うふふ、そんなに慌てなくても分かっていますから大丈夫ですよ九条さん。」


「そ、それなら良いんだけど……」


 年頃の女の子複数人と1つ屋根の下で暮らしている変態野郎なんて認識をされたら色々な意味で終わっちまう所だったぜ……


 背中に冷や汗が流れるのを感じながら苦笑いをしていると、さっき雑貨屋で買った女の子向けのメモ帳に住所を書き込んだマホがそれを千切りフラウさんに手渡した。


「コレがおじさんの家の住所になります。」


「マホさん、どうもありがとうございます。それでは何かありましたらこちらの方にご連絡させて頂きますね。」


「はい、よろしくお願いします!あっ、もし良かったらフラウさんが住んでいる所も教えて頂けませんか?こちらからお手紙とか送りたいですし!……ダメですか?」


「あぁいえ、ダメと言う事では無いんですけども……先程も説明した通り私は各地を転々としているので普段は滞在している宿屋を利用しているんです。だからもし私に手紙を送って下さる場合は、王都にある預り所にお願い出来ますか?」


「預り所?」


「えぇ、何処に送ったら良いのか分からないお手紙や荷物を一時的に預かってくれる場所があるんです。私に手紙を送って下さる時はそこに。」


「分かりました!それじゃあそうしますね!手紙、楽しみにしていて下さい!」


「うふふ、心待ちにしていますね。さてと、それでは本当にそろそろ失礼させて頂きますね。皆さん、また何時かお会い致しましょう。」


「はい!また会いましょうね!」


「それではまた。」


「ばいばい。」


 別れを挨拶を済ませてフラウさんが人混みの中に消えていくのを見送った後、俺は少しずつ傾き始めた太陽をチラッと見上げると……


「ふぅ、それじゃあ俺達も宿屋に向かうとするか。何だかんだで買い物をしまくったせいで歩き疲れて来ちまったからな。」


「えへへ、そうですね!暗くなる前に行くとしましょうか!案内しますので、ついて来て下さい!」


「あぁ、よろしく頼む。それにしてもいよいよ明日にはトリアルに帰る訳か……」


「ふふっ、寂しいかい?」


「……まぁ、それなりにはな。色々と大変な目には遭ったけどさ、それも含めて良い思い出になったんじゃねぇかな。」


「えぇ、それにフラウさんにも出会えましたからね!こんなに素敵な旅行を計画してくれた皆さんには感謝の言葉しかありませんよ!またこんな風に旅をしてみたいって思っちゃいました!」


「ふふっ、それは良いね。次は何処に行こうか。」


「おいおい、それを決めるのはまだ早すぎるんじゃないのか?つーか、人通りも多くなってきたみたいだしマジでそろそろ移動しようぜ。」


「うん、ちょっとだけ疲れた。」


「あっ、すみません!それでは改めて出発しましょうか!」


 満面の笑みを浮かべながら歩き始めたマホを先頭にして俺達は宿屋に向かって行く事にするのだった。


 その道中でこれまでの旅の思い出なんかを柄にもなく語り合ったりしちまったが、これもまた旅行の醍醐味ってやつなのかねぇ……?

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