第6・5章

第106話

「さてと、最終確認だ。全員、忘れ物はしてないな?」


「はい、大丈夫です!」


「私もバッチリだよ。」


「問題無し。」


「よしっ、それじゃあ行くとするか。」


 激闘を繰り広げる事になったイベントが開催された次の日、荷物を纏めたバッグを担いで廊下に出た俺達は受付に足を運ぶと借りていた鍵を返却するのだった。


 その後、王都行きの馬車が出る広場に向かう為に外に通じる扉の方に歩いていると小さな女の子がいきなりこっちに走り寄って来て……俺の前で立ち止まった……?


「あ、あの……!き、きのう!みてました!」


「……へ?」


「すごく、かっこよかったです!かんどーしました!」


「あ、あぁ………ど、どうもありがとう?」


 突然の事に戸惑いながらとりあえずお礼を言っていると、少女の両親らしき人達が慌てた様子で駆け寄って来た。


「す、すみません!こら、ダメじゃないの!」


「失礼しました!娘がご迷惑をお掛けしてしまったみたいで……」


「あぁいえ、別に迷惑だなんて事は無いんですけども……その……娘さんはどうして俺なんかに声を?」


「……実はですね、昨夜のイベントの様子を見ていた娘が貴方の戦いぶりを見て感動してしまったみたいでして……いえ!私達も素晴らしかったと思っています!それでつい、貴方の事を見掛けて興奮してしまったのかと……」


「あ、あ~……あっ、なるほど!そうでしたか!それはそれは!」


「……おじさん、何をにやけているんですか。」


「へあっ?!い、いやいや!にやけてるとかそんな事ある訳ないだろ!は、はは!」


「むぅ~普段はあんなに目立つのは嫌だって言ってる癖に、いざとなったらデレデレしちゃって……これだからおじさんは。」


「まぁまぁ、こんなに可愛らしいお嬢さんに褒められたら誰でも喜んでしまうよ。」


「九条さん、良かったね。」


「ん!?ま、まぁ悪い気は……しないな!うん!むしろ本当に心の底からありがとうって言ってやるべき所だろう!ですので、貴方達もそんなに気にしないで下さい!」


「あ、ありがとうございます!そう言って頂けると……」


「くじょうさん!あ、あくしゅして……くれませんか!」


「あ、握手?……お、俺なんかで良ければ!」


 まさかこんな事が起こり得るとは思いもしなかった俺は、それはもうとびっきりの笑顔を浮かべながら少女と握手を交わして求められちゃったからついサインなんかもしちゃったりして!


「ありがとうございます!たいせつにします!」


「お、おう!えっと、それじゃあ俺達は馬車の時間がありますのでこれで!」


「はい、本当に感謝します。どうか、道中お気を付けて。」


 少女とその両親に見送られながら宿屋を後にした俺達は、朝もそれなりに早いのにかなり賑わってる大通りの方に向かって行き……ちょっとだけ後悔するのだった……


「はぁ……しんどい……」


「おじさん、さっきまでの威勢は何処に置いて来ちゃったんですか?」


「多分、そこら辺に……って言うか、まさかたった一晩でこんだけ顔が知られる事になっちまうだなんて思いもしなかったわ……つーか、どうしてあんな風に声を掛けてこられるんだよ……俺達ってば初対面じゃないですかぁ……」


「ふふっ、それだけイベントを楽しんでくれた人が多かったという事だろう。むしろコレは誇っても良い事だと思うんだけどな。」


「……そんな風に考えられる所、マジで尊敬するわ……俺には無理だな。どうしても面倒だって気持ちが出て来ちまう……本当、どんな生き方をしてきたらそんな感じになれるんだ?」


「んー……その質問に答えるのは少々難しいけれど、私の場合は貴族の娘として生を受けたという点が今の私を作り上げているんだと思うよ。幼い頃から父の付き添いで様々な社交界に顔を出していたからね。そこで人との接し方を学ばせて貰ったよ。」


「なるほど!つまり知らない人に慣れていないおじさんは社交界に出てもっと人との交流をするべきという事ですね!ロイドさん、お願い出来ますか?」


「あぁ、父さんに頼めばそう言う場に行けると思うよ。どうする、九条さん。」


「はっはっは……丁重にお断りさせてもらうよバカヤローめ。そんな事をされたら、マジで精神が持たないっての。それにエリオさんにも迷惑が掛かるしな。」


「ふむ、良い経験になると思ったんだけどな。」


「確かに良い経験にはなるだろうけど場違いにも程があるだろ。俺は別に貴族って訳でもない、ただの冒険者でしか無いんだからな。それより広場が見えて来たからまた声を掛けられる前にさっさと行くとしようぜ……」


「はいはい、分かりましたよ。それじゃあ急いであげるとしますか!」


「あっ、わざわざ走って行かなくても……って、聞いちゃいねぇな。」


 ため息を零して肩をすくめながらマホの後を追いかて数多くの馬車が停車している広場までやって来た俺達は、そこで予想外の人物と再会を果たすのだった。


「あっ、皆さんおはようございます。」


「フラウんさん!おはようございます!」


「お、おはようございます……あーっと、何でここに?」


「もう、おじさんってばそんなの聞くまでも無いじゃないですか!ですよね?」


「うふふ、はい。私も皆さんと同じく王都に向かう予定なんです。昨夜のイベントも無事に終わりましたから。」


「あ、あーそうでしたね!俺達も見ましたよ、イベント。凄かったよな!」


「えぇ!本当に素敵で見惚れちゃいましたよ!」


「ありがとうございます。そう言って頂けると本当に嬉しいです。九条さんも昨夜のイベント、お疲れ様でした。とっても素敵でしたよ。」


「あっ、ありがとうございます!結果としては優勝を逃してしまったので恥ずかしい気持ちではあるんですけど……」


「そんな、恥ずかしく思う必要なんてないと思いますよ。」


「そ、そうですかね……あ、あはは……」


「九条さん、積もる話はまた後にした方が良いんじゃないかな。」


「出発時間、もうそろそろ。」


「っと、そうだったな。すみません、ちょっと失礼します。」


「はい、いってらっしゃい。」


 小さく手を振ってくれる女神様みたいに美しくも可愛らしいフラウさんに見送られながらその場を後にした俺達は、乗車の手続きをしていくのだった!


 その後、嬉しい事にまたまたフラウさんと同じ馬車に乗る事が決まった俺達は出発時刻を迎えたのでそのままミューズの街を離れて王都を目指すのだった!

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