第104話

「う、うぐぐ……そんな……どうしてこんな事に……はっ!」


「よぉ、テーラー・パークさん。」


「うふふ、ご機嫌はいかがかしら?」


 バッと上半身を起こして尻もちをついた状態のまま俺達の気配に反応してこっちに振り返って来たテーラー・パークは、一瞬だけ動揺した様な表情を浮かべていたけどすぐに両手をすり合わせながらニコニコっと微笑み始めた。


「お、おめでとーうございます!いやはや、ディザイア君を討伐してしまうとは私も驚きを隠せませんよ!えぇ!実にお見事でございます!」


「あぁ、そりゃ驚きも隠せないだろうなぁ。俺達が不利な状況だったのは誰の目にも明らかだった訳だしな。」


「えぇ、攻撃が通じない武器を渡されたんですもの。まさか私達が勝利するだなんて誰も思っていなかったんじゃないかしら。いえ、そもそも今回のイベントでは優勝者なんて出すつもりはなかったとか?」


「あ、あははは~!そ、そんな誰しもが考える予想を超えた仮面のメイド様と九条様には改めて最大限の賛辞と拍手を送らせて頂きます~!モニターをご覧になっている皆様もどうぞお二人をお祝いしてあげて下さいませぇ!」


 建物の外から微かに聞こえて来る歓声とパチパチという拍手の音を耳にしつつ肩をすくめた俺は、ニコッと微笑みながらテーラー・パークを見下ろした。


「おいおい、まだ最終ステージは攻略出来てないってのに何を勝手に締めようとしているんだ?」


「へ、へっ?いえいえ!ディザイア君を討伐したその時点で、最終ステージは攻略」


「うふふ、テーラー・パークさん。確かにディザイア君は動かなくしたけれど私達の気はそれじゃあ済まないの。ここまで好き放題されてきたんだもの。きちんと悪役にお仕置きしてあげないとね。」


「あ、悪役……ですか?そ、それはもしかしなくても……!」


「まぁ、そう言うこった。自分がやった事の報い、シッカリと受け取ってくれ。」


「おやすみなさい。次はこんな結末を迎えない様に頑張ってね。」


「あ、あ、アギャアアアアアアアアアアアア!!!?!!!??!!!」


 警棒の電流と弓から放たれた電気の矢を真正面から食らったテーラー・パークは、全身をビカビカさせながらそのまま絶叫と共に意識を失って行くのだった。


『こうしてお宝の番人は勇敢な参加者の手によって倒される事となりました!皆様、もう一度仮面のメイド様と九条様に盛大な拍手と声援をよろしくお願い致します!』


「うおっ!……凄いな、テーラー・パークがしていた実況の代わりをもう用意してたのか。随分と用意周到なこって。」


「こうなるかもしれないって予想していたのかもしれないわね。それがどれぐらいの確率だったのかは知る由もないけれどね。それじゃあ九条さん、奥にある端末を起動させに行きましょうか。」


「っと、そうだな。」


 腕輪に異常が無い事を確かめてから巨大な扉に続いている階段に目を向けた俺は、淡い光を放っている端末の方に向かって歩き始めた。


『さぁ!これにて準備は整いました!次はいよいよ今回のイベントの優勝者を決める戦いが始まります!先手を仕掛けるのは一体どちらとなるのか実に楽しみです!』


「ん?優勝者を決める戦い………って、そうだ!コレって端末を起動させる為だけの戦闘だった!ア、アイツはってうわっ!!?」


 すっかり頭の中から抜け落ちていた情報を思い出して慌てて振り返った次の瞬間、いきなり目の前が真っ白な煙に覆い隠されて何にも見えなくなってしまった!


『おぉっと!先に仕掛けたのは仮面のメイド様の様です!九条様!油断していた所を襲われてしまい大丈夫なのでしょうか!?と言うか何も見えないので状況がサッパリ分かりません!早くどうにかしてくださーい!』


「ど、どうにかして下さいって言われたって……!……え?」


 トンッと軽い衝撃が胸の辺りにあって反射的に顔を下げてみると、そこにはダーツみたいな物が突き刺さっていて……


「何だこレ……は……?」


「……うふふ、ごめんなさいね九条さん。」


 突如として全身から力が抜けてしまい受け身も取れないまま膝から崩れ落ちて……気付いたら仰向けになっていて……視線を動かしたその先に……アイツが……


「……お、俺に……なに、を……し……?」


「即効性の睡眠薬を……せてもらった……」


 くそっ……マズい……意識が、飛びそうだ……アイツの言ってる事が……聞き取れなく……なってきた……


「ちきしょう……こん、な……まね……しやがって……」


「えぇ、好きな……卑怯者と罵ってくれ……構わない……けど……あの女神の臓……ぜった……回収……が……あって…………」


 やべぇ……もうほとんど……何を言ってるのか……分かんねぇ……それよりも……めちゃくちゃ……ねみぃなぁ………


「それじゃあ……一緒に戦えて……ったわ……しゅじん…ま………」


 頬に柔らかい感触が……伝わった気がしたが……それが何なのかが分かる前に……おれが…いしきが……きえ……て……い……く…………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る