第103話

「うふふ、まさか貴方が直々に登場して来れるとは思ってもいなかったわ。しかも、そんな物に乗って来るだなんてね。」


「ほっほっほ!私もまさか最終ステージまで勝ち上がって来る参加者がいらっしゃるとは思ってもいませんでしたよぉ!カイちゃんとトウくんの手によって全員が脱落をしてしまうと予想しておりましたのでねぇ!」


「んなっ!?ちょっ、ふざけんなよ!何だよその予想は!」


「おやおや?何を怒っていらっしゃるのですか九条様。私はただ、自分の予想を口に出してお伝えしただけですよ?」


「いや、怒るに決まってんだろうが!それってつまり今回のイベントは参加者全員が失格になっちまってもおかしくない様な難易度だったって事だよな!?」


「えぇ!その通りでございます!ですから本当に私も驚いているのですよ!ここまで勝ち上がって来た貴方達に!だから何度でも言いましょう!本当に素晴らしいと!」


「っ、この野郎……!」


 コレまでやってきた事を虚仮にされた気分になってきて憎たらしく笑っていやがるテーラー・パークを睨んでいると、そんな俺を制するかの様に手を真っすぐ伸ばして目の前を塞いできた仮面のメイドがクスクスと微笑みながら一歩前に出て行った。


「まぁ、貴方の予想がどうだったかなんて話はどうでも良いわ。それよりもこの階で私達がやる事を教えてくれるかしら?何時までもこんなお喋りをしていたら見ている観客の方達が退屈してきちゃうかもしれないから。」


『おっと!それもそうですねぇ!それでは手短に最終ステージのルール説明をさせて頂くと致しましょう!ここでやって頂く事も実にシンプル!その内容は……私が操縦しているディザイア君を倒し、奥に見える扉の先に進んで頂く事でございます!』


「た、倒しだって!?いやいや、そんな鉄の塊みたいなもんを俺達だけでどうやって倒せって言うんだよ!こちとら武器の1つもねぇんだぞ!?」


『ほっほっほ!九条様、まだ説明は終わっていませんので慌てないで下さいませ~!大丈夫です、武器ならばきちんよご用意させて頂きますから!ほいっ!』


 おかしな掛け声と共にテーラー・パークが手をパンっと打ち鳴らした瞬間、背後に何かが落ちて来たみたいな音が聞こえてきて少しだけ驚いてしまったが、それを顔に出さない様に平静を装いながら俺は仮面のメイドと揃って振り返ってみた。


「……コレはもしかして……」


「下の階でカイちゃんとトウくんが使っていた武器、みたいね。」


『その通りでございます!弓は魔力を流しながら弦を引くと電撃の矢が自動的に装填される優れもの!そして電気警棒は持ち手の部分にあるスイッチを入れるだけで起動する武器となっております!今回のステージではそちらのご使用下さいませ!』


「……マジかよ……こ、こんなのであんなのに立ち向かえって言うのか……?」


「うふふ、無いよりはマシとでも思っておきましょう。それで、九条さんはどちらの武器を使いたいのかしら?私はどちらでも構わないわよ。」


「……警棒だ。俺に弓は使いこなせねぇ。」


「分かったわ。それじゃあテーラー・パークさん、少しだけ時間を貰えるかしら。」


『勿論でございます!観客の皆様を退屈させない程度の時間であれば幾らでもお待ち致しますよぉ!』


 それって具体的にはどれだけの時間なんだよ……なんて考えながら床に落ちているさっさと警棒を拾い上げた俺は、邪魔にならない程度に存在しているスイッチを指で押して電気系統が落ちた衝撃で故障していない事を確かめるのだった。


「へぇ、本当に魔力を流して弦を引くだけで矢が出るのね。テーラー・パークさん、もし良かったらコレを頂けないかしら?」


『申し訳ございません!そちらは社外秘となっている特別な技術が使用されていますので、テーマパークの外に持ち出す事は出来ないのです!』


「あら、それは残念。まぁ、それなら仕方ないわね。それで、私達は貴方が操縦しているディザイア君を倒せばステージクリアって事になるのよね。」


『はい!武器、そして魔法!何でもありのこの空間、いかなる手段を使ってでもこのディザイア君の機能を停止させて下さいませ!そうしなければ優勝の場に続いている扉前にある端末は使用が出来ません!』


「なるほどね。貴方を出し抜いて端末の所に辿り着けても意味がない訳ね。うふふ、中々に楽しめそうじゃない。ね、九条さん。」


「ね、って言われても困るんだけどな……武器を与えられたとはいえ、こんなもんでどうやってあんなバカでかいもんを倒せって言うんだよ。」


「さぁ?それは戦いながら考えれば良いんじゃないかしら。そもそも、貴方の本職は冒険者なんでしょう。なら、あの程度の脅威は何度も相手にしてきたんじゃない?」


「いや、確かに図体のデカさで言えば似た様なのを何度か相手にはしてきたが……」


 手強いとは言え攻撃手段が比較的単純だったボスモンスターと超技術が組み込んでいる可能性が高い機械の塊って、比べてみたら圧倒的に後者の方が難易度的に高いと考えるのは当然だと思うんですけども!?


『さてと、それではお喋りはそれぐらいにして頂いて最終ステージを始めさせて頂きたいと思います!仮面のメイド様、九条様、お覚悟はよろしいですねぇ!スイッチ、オーン!!』


「は?うわっ!!」


 大きく上げた右手でテーラー・パークが何かのスイッチを押したその直後、機械が真っ白な蒸気を吹き出しながら突如として変形を始めやがった!?


『ここまで勝ち上がって来たお二方を相手にするにはこの姿では少々不利だと判断をさせて頂きました!ですので、気持ちばかりの武装をさせてもらいますねぇ!』


「き、気持ちばかりって……冗談だろ……!?」


 球体上の本体から飛び出してガトリング砲みたいな巨大な銃身と10本近く生えてきたビリビリと電気の流れている巨大な警棒、明らかに理不尽とも思える武装を目の当たりにした俺は自然と後ずさっていた……!


『ほーっほっほっほっほ!その絶望に満ちた表情、実にたまりませんねぇ!九条様の抱いている不安と恐怖が手に取る様に分かりますよ!しかし、諦めてはいけません!どうか仮面のメイド様と協力して、見事に私達を倒してみて下さいませぇ!』


「っざっけんなよ!そんな重武装しといて倒してくださいも何もねぇだろ!」


「九条さん、文句を言ってる暇は無いわよ。早く構えなさい。」


「っ!あぁ、クソッ!」


『それでは最終ステージ、開始ぃいいいいいいい!!!!!』


 冷や汗が流れ落ちて来るのを感じながらテーラー・パークの叫び声とブザーの音を耳にした俺は、動き始めたディザイア君とやらを睨み上げるのだった……!


「さぁさぁ、まずは手始めにぃ~ポチッとな!!」


 テーラー・パークが大きく掲げた右手で勢いよく何かを押す動作をした次の瞬間、2つのガトリング砲が俺達それぞれに狙いを付けながら回転を始めやがった!?


「やっべぇ!」


「逃げるわよ!」


 一気にケリを付けるには距離が離れ過ぎている上に真正面から突っ込んだら確実に攻撃が避け切れないと判断した俺達は、散り散りになる様に別方向に走って行った!


 その一瞬後、ガトリング砲から撃ち出された何かが俺達の立っていた所に凄まじい速度でぶち当たって大量の水しぶきが舞い上がった!?


『ほっほっほ!いかがでしょうか?超高速で発射された水風船の威力は!当たったら腕輪の機能を確実に停止させますので、頑張って逃げ回って下さいねぇ!』


「チィッ!」


 砲身の動き自体はそれほど早くないからその場に留まり続けない限り撃ち出されている水風船には当たらないのは分かる……!だけど、このままじゃ反撃が出来ねぇ!


「うふふ、近付けないなら私の出番ね!」


『おぉ!流石は仮面のメイド様!しかし、甘いですねぇ!!』


 あっちもあっちで人間離れした水風船を動きで回避し続けながら弓を引いて電撃の矢を発射してみせた仮面のメイドだったが、それらは全て本体から生えている警棒に叩き落されてしまった!


「ハッ!甘いのはアンタだよ!!」


 テーラー・パークの意識が仮面のメイドに向けられたおかげで2つの砲身が俺から逸れたその瞬間、即座に風魔法を纏って移動速度を上昇させた俺は急いで本体に接近すると片方のガトリング砲に警棒を叩きつけてやった!


『うおっとっと!九条様も中々やりますねぇ!ですが~ほいっ!』


「っ、しまっぐへっ!!」


 右腕全体が痺れる様な衝撃に襲われながらも無理やり本体のバランスを崩す事には成功したんだが、その影響で足が止まってしまった俺を目掛けて巨大な警棒が4本の脚の間をすり抜ける様にして突っ込んで来た!


 ヤバいと本能的に分かったが身動きが取れずにいたら、いきなり腹部にワイヤーが巻き付いて来て俺は汚らしい声を漏らしながら後方に引っ張られて行っていた!


「うふふ、感謝の言葉なら後で受け付けるわよ。」


「げほっ、げほっ……そうかよ……!」


『いやはや、出会ったばかりだとは思えない動きですねぇ!そしておめでとうございます!今の攻撃を受けて砲身が不具合を起こしてしまいましたぁ!コレで優勝に一歩近付いた事になりますよぉ!』


「そ、その割には随分と余裕そうじゃねぇか……!」


『ほっほっほ!そんな事はございませんよぉ!ただ、砲身を1つ動かなくした程度で勝利を譲るつもりは無いというだけでございます!』


「……だろうな。まぁ、こっちとしてもそう簡単に勝てるとは思ってない」


「九条さん、感謝の言葉なら後で受け付けるわよ。」


「あ?だから分かったっていてててて!お、おい!ワイヤーが締まってるって!何をしてやがるんだお前は!?」


「……感謝の言葉なら、後で受け付けるわよ?」


「あ、ありがとうございます感謝しています!貴女のおかげで助かりました!!!」


「いえいえ、どういたしまして。」


「はぁ……はぁ……はぁ……!ったく、マジで何がしたんだお前は……」


 ワイヤーが巻き付いていた所を摩りながらクスクスと微笑んでいる仮面のメイドにジト目を送っていると、テーラー・パークの癪に障る笑い声が聞こえてきた。


『んっふっふ~!見事な連係で砲身を止めたお2人にここで特別な情報をお教え致しましょう!実は私が操っているディザイア君、電撃を通さない性質となっています!ですので、貴方達が持っている武器は通用しないとご報告させて頂きますねぇ!』


「んなっ?!待てよおい!それじゃあ!」


『無駄話は終了!それでは戦闘再開と参りましょうか!』


「くっ!ざっけんな……!」


「九条さん、私から離れないで。」


「はぁ!?お前もいきなり何を!?」


「良いから大人しくしていなさい!」


 ガトリング砲が再び回転を始めたのとほぼ同時に仮面のメイドが片膝と両手を床に付いた直後、正面の地面に魔法陣が出現して俺達とテーラー・パークの間に巨大な壁みたいな物が出現しやがった!!?


『ほっほっほ!もしやそれは防護壁と言う物でしょうか~!?一瞬にして作り上げた魔法技術は素晴らしいですが、ディザイア君が放つ水風船に何時まで耐えられるのか楽しみですねぇ!それそれそれぇ~!!』


 頭上から降り注いでくる水しぶきに腕輪が当たらない様にしながらしゃがみ込んだ俺は、一息ついている仮面のメイドと視線を交わした。


「これで少しは時間が稼げるわね。それじゃあ作戦会議を始めましょうか。」


「作戦会議だって?そんな事をしてる暇なんてないんじゃないか?アイツも言ってたけど、そう長くは耐えられないと思うぞ。」


「確かにそうね。だけど私達の武器が通じないと判断した今、何の考えも無しに彼に挑むのは無謀なんじゃない?」


「それは……」


「うふふ、言われなくても分かってるって顔ね。それなら彼に良い様にされたまま、負けたくは無いって思いも共通認識だって考えて良いのかしら。」


「……あぁ、このまま黙って負けるつもりはねぇ。だが、どうするんだ?用意された武器は無意味、離れれば水風船が近付けば警棒が邪魔をして来るぞ。」


「それに加えて本体自体も強固な作りになっているでしょうからね。だから……狙うのはテーラー・パーク自身よ。」


「アイツ自身を狙う?いや、確かにそれが出来れば勝てるだろうが……アイツの事を覆っているガラスみたいな物は、そう簡単には破れないと思うぞ。何とか隙を付いて警棒を叩き込めたとしても壊せるかどうか……」


「九条さん、それなら丁度良い物が私達の目の前にあるじゃない。」


「丁度良い物………って、おいまさかとは思うが……」


「えぇ、アレを落としてぶつけるのよ。」


 ニコッと微笑みながら仮面のメイドが見つめている先には、天井から吊り下がっている豪勢な作りのバカでかいシャンデリアが小さく揺れていて……


「ま、待てよ!あんなのぶつけちまったら死んじまうかもしれねぇぞ!?」


「大丈夫よ、そんなに柔な作りはしていないと思うから。多分。」


「多分ってお前なぁ……」


「大丈夫よ。彼が言っていた事を信じるならあの機械は最新の技術を使われている。きっとシャンデリアが当たったくらいじゃ死にはしないはずよ。それに他に良い案がある訳じゃないんでしょ?だったら男らしく腹を括りなさいな。」


「……あぁもう、分かったよ!アイツだってここまで好き放題やってきたんだ。なら自分が何をされたとしても文句なんか言える立場じゃねぇだろ!」


 電撃が通じないなんてふざけた作りをしている癖にこんな武器を黙って渡してきたアイツがどうなろうと自業自得だ!


 仮面のメイドに言われた通り自分にそう言い聞かせて腹を括った俺は、頭上にあるシャンデリアを見つめながら警棒を握り直すのだった!


「その意気よ九条さん。それじゃあ彼の誘導、よろしくお願いね!」


「おう!……ってうおっと!?」


 仮面のメイドに突然背中を押されて水風船を防いでいた壁から外れてしまった俺は前のめりになったままゆっくりと顔を横にずらしていって……にんまりと笑っているテーラー・パークと視線が交わってしまった。


『おやおやぁ?もしかして仲間割れでもしてしまいましたかぁ?まぁ、貴方達は所詮敵同士!邪魔者は排除しなければなりませんものねぇ!』


「ひいいいいっ!!う、恨むからなこんにゃろー!!!」


 勢いよく回転するガトリング砲から撃ち出される水風船から逃げ回る様に全速力で走り始めた俺は、視界の端にテーラー・パークに捉われない様に素早く移動していく仮面のメイドを見つけるのだった!


『さぁさぁ!逃げているだけではディザイア君に勝つ事は出来ませんよぉ!正々堂々戦いを挑んで来てはどうですかぁ!?』


「クソッ!どの口が正々堂々とか抜かしやがる!だがまぁ、それもそうだな!!」


 有無を言わさず囮役にされちまったがそんな事を愚痴っている暇はねぇ!今はただアイツが作戦を遂行出来る様にテーラー・パークをシャンデリアの下に誘導していくだけだ!


『おぉ!まさか言葉通り正面から挑んでくるつもりですかぁ!?面白い!それならば手加減無しで叩き潰して差し上げましょう!』


 ディザイア君とやらを回り込む様に逃げ続けていた俺は、ガトリング砲がこっちに狙いを付ける前にテーラー・パークの方に突っ走って行くと水風船が発射されるその寸前に地面を蹴って空中に飛び上がった!


「オラァッ!!」


『ぶへらっ!こ、この生意気なっ!これでも食らいなさいな!』


 強化ガラスを踏み付けながら思いっきり警棒を叩きつけてやったその直後、激しく揺れ動いたディザイア君の操縦席に座っていたテーラー・パークは歯茎を剥き出しにして怒りを露わにすると巨大な警棒で俺を薙ぎ払おうとしてきた!


「ハッ!そんなもん当たるかよ!」


 1つ目の警棒を弾き上げて2つ目の警棒が直撃する前にディザイア君を滑り落ちて行って真下に潜り込んだ俺は、地団駄を踏み始めた4本の脚を躱しながらウロチョロ動き回っていた!


『ひ、卑怯ですよ!姿を現しなさい!』


「だーかーら!どの口が卑怯だなんだって言ってるんだよ!」


『うひゃあああ!!!?!!』


 暴れ回っているディザイア君の脚を避けつつ床に両手を付いて魔法陣を出現させた後に転がる様にその場から離れて行った直後、円形状の石の柱がグンッと伸びていき球体上の本体を突き上げていった!


「ひゅぅ!我ながらナイスショット!」


 バランスを崩して転がっているディザイア君を見ながらガッツポーズを決めた俺は一瞬だけ周囲を見渡して仮面のメイドの行方を探そうとしたが、それよりも早く復帰してみせたヤツのガトリング砲に狙いを定められてしまって……!


『ディザイア君をビリヤードの球の様に突くとは何と小癪な!貴女は彼女よりも先に退場して頂く必要があるみたいですねぇ!』


「あぁ!やれるもんならやってみろよっと!」


『ぐううっ!あぁっ!?砲身に警棒を投げ入れるとは何という事を!?』


「驚くのはまだ早いっての!うおおおおおっ!!!」


 警棒を引っ掛けてガトリング砲の回転を無理やり止めた俺は、ディザイア君の方に接近していくと装填されている水風船に2種類の魔法を即座に撃ち込んだ!


『は、離れなさい!』


「はいはい!言われなくても離れてやるよ!」


 その直後、何本かの警棒がなりふり構わない感じで襲い掛かって来たので俺は砲身から回収した武器で防御しつつ後ろに下がってある程度の距離を取ると、足を止めて少しだけ荒くなってきていた呼吸を整えていった。


『ほ、ほっほっほ!どうしたんですか?もしかしてコレまでの戦いでディザイア君に勝つのは不可能だと理解したのですかぁ?それならば……止めを刺してあげましょうかねぇ!……えっ?ど、どうして……どうして動かないのですか?!』


「どうして……どうしてねぇ……理由は簡単、さっきからずーっとソイツが魔だったから、ちょっとした小細工をさせて貰ったんだよ。」


 水風船を鋭い風の刃を当てて破裂させて、溢れ出た大量の水が砲身から零れ落ちる前に凍らせるという荒業が成功するか自分でやっといて半信半疑だったが、どうやら上手くいってくれたみたいだな。


『ぐっ!この、このっ!動きなさいな!』


 よしっ、あの調子ならしばらく長距離攻撃を仕掛けて来るのは無理そうだな。後はアイツをどうやってシャンデリアの下に移動させるか……そんでもって、その場から動かない様にさせるかを考えないとな。


 仮面のメイドの姿はここからじゃ見えないが、多分だけどもう仕掛ける準備自体は出来ているはずだ……確信は無いがな。


「今はアイツを信じて自分の役割をこなすしかないか……!」


『何を言っているのですか!?それよりも貴方、覚悟は出来ているのでしょうねぇ!例え砲身が動かずとも、こちらにはまだ攻撃手段が残っているのですよ!』


「……あぁ、覚悟ならとっくに出来てるよ。」


 ただしそれは負ける方の覚悟じゃなくて、勝ってやるって覚悟の方だけどな……!とは言え、マジでどうしたもんか……誘導する事自体は難しくないとは思う。だけど足止めをする方法が……無い、訳じゃないんだが……


『よろしい!それでは今度こそ止めを刺してさしあげましょう!』


「はぁ……仮面のメイド、マジで頼むぞ……!」


 一か八か、成功するか否か半々ぐらいの確率の作戦を思いついた俺はそれが上手く行く事を祈りながら警棒を握り直してテーラー・パークと向かい合うのだった!


『イベントを楽しんで下さっている皆様方の為にコレまで多少の手心をさせて頂いていましたが、そろそろ終わりにして差し上げましょうかねぇ!』


 その宣言通りなのか何なのか知らないが本体から生えた幾つもの巨大な警棒を全て振り回しながらディザイア君がこっちに突っ込んで来た直後、決着を付ける為に俺も真正面から戦いを挑んで行く!


「ッ!オラァ!!」


『きぃぃ!これだけの手数でどうして押し切れないのですか!?いい加減にそろそろやられてしまいなさいな!』


 当然だが重量差があるせいで振り下ろされ、薙ぎ払われる警棒を防いだり弾いたりすれば腕はとんでもなく痺れて身体は後ろに吹き飛ばされそうにはなる!


 だが、何度も攻防を繰り返してきたおかげで経験値10倍のチート能力が作用して動きに無駄が無くなりつつある事を実感していた俺は考え付いた作戦を実行する為にどう立ち回るのかを意識しながらある地点に向かって移動を始めた!


「おいおい!そんな!眠たくなる様な攻撃じゃ!何時まで経っても俺を仕留められはしないぞ!」


『こ、このぉ!調子に乗るんじゃありませんよっ!良いでしょう!こうなったら奥の手を見せて差し上げます!ぽちっとな!』


「うおっ!!?な、何だコレ?!うぐっ!!」


 テーラー・パークの掛け声に合わせてディザイア君からいきなり真っ白な水蒸気が噴き出してきて視界を完全に覆い隠されてしまった次の瞬間、動揺している間もなく反射的に身体が動いて警棒を振り上げたら右手にとんでもなく重たい衝撃がっ!


『いかがですかぁ!?何処から襲われるか分からない恐怖は!ほっほっほ!何時まで耐えられますかねぇ!』


「チィッ!ふざけた真似をしやがって……!うわっ!!」


 空気の揺れる音とバチバチという電流の音だけを頼りに攻撃を躱し続けていたが、一瞬だけ反応が遅れてしまい警棒を弾き飛ばされてしまった俺は突如として足に絡み付いてきた何かによって体勢を崩されてそのまま宙吊り状態にされてしまった!


 その直後、突風が前方から襲い掛かって来て咄嗟に両腕で顔を負っていると周囲を覆い隠していた真っ白な煙が一瞬にして消されていき……!


『う~ん!これはこれは!御機嫌ようでございます九条様!お元気ですかぁ?』


「……テーラー・パーク……この姿を見て元気だと思うのか?」


『ほっほっほ!それもそうですねぇ!いやぁ、それにしても愉快ですよぉ!九条様のその様な無様な格好をこうして間近で拝見出来るのは!』 


 強化ガラスに両手と顔面を張り付けてニタニタしてるテーラー・パークを逆さまになったまま睨み付けていた俺は、自分の足に絡み付いている物に視線を向けた。


「まさかこんな小細工まで用意してたとはなぁ。本当に色々と仕込まれてやがるな、そのディザイア君とやらは。」


『えぇ!どんな相手にも、どんな事態にも対処出来る様に造り上げましたからねぇ!今回の事で問題点も見えましたので、色々と改良は必要になりそうですが!九条様、本当にありがとうございます!……では、そろそろ止めと参りましょうか。』


 感情の消えた声でそう告げたテーラー・パークはより一層バチバチと激しく明滅を繰り返している全ての警棒の先端をこっちに向けてゆっくり近付けて来たが……俺はその光景を見つめながら落ち着いて大きく息を吐き出していた。


「やれやれ、どうなる事かと思ったが何とかなったみたいだな。」


『はぃ~?何とかなった、ですか?九条様、もしかしてこの状況を前にしておかしくなってしまったのでしょうか?』


「ははっ、それはどうだろうなぁ……そう言えばご主人様。どなたかお忘れになっておいでではありませんか?例えば……あちらのメイド様とか。」


『へっ?』


 俺の視線の先、自分の頭上に顔を向けたテーラー・パークはシャンデリアの上からこっちに向けて小さく手を振っている仮面のメイドの姿を発見して……


「はぁ~い、ご主人様。私からの贈り物、どうぞお受け取り下さいな。」


『なっ!んなああああああっ!!?!?!?!!』


 投げキッスの仕草をしてみせた仮面のメイドがその場から離れて行った次の瞬間、天井から吊り下がっていた巨大なシャンデリアがテーラー・パーク目掛けてゆっくり落下してくるのが見えた。


 驚きと困惑と何が起きているのか状況把握が出来ずに4本脚をジタバタさせたまま逃げるのが間に合わなかったテーラー・パークは、強化ガラスを開けると操縦席から転がり出て行った……ってうぉい!


「ま、待てよオイ!せめて俺を解放してから逃げぐべええええっ!!」


 落ちて来たシャンデリアが操縦席に突き刺さった衝撃で思いっきり吹き飛ばされてしまっていた俺は、地面に背中から叩きつけられて痛みのあまり呻き声をあげながらちょっとだけ涙目になっていた……!


「う、うぅ……と、とりあえず……どうにかなった……のか?」


 間接照明と幾つもある大きな縦長の窓から差し込んで来る月明かりしか頼りにならない薄暗い部屋の中で起き上って行くと、隣に人の気配を感じたのでそっちに視線を向けて見るとそこには仮面のメイトが一仕事終えた感じで立っていた。


「ふぅ、随分と待たされたわよ。もう少し早く誘導をお願いしたかったわね。」


「……それが無理やり囮役を押し付けた奴が言う台詞かよ……」


「うふふ、冗談よ。お疲れ様、九条さん。良くやってくれたわね。」


「……あぁ、お前さんもな。」


 仮面のメイドから差し出された手を握り返して立ち上がった俺は、あちこち壊れてしまった部屋の中を見渡していった。


「さてと、それじゃあ最後の仕上げといきましょうか。」


「ん?最後のって……あぁ、そういう事か。了解、終わらせるとするか。」


 小さく頷いて首を軽く左右に曲げた俺は、尻を付き出す様な形で床に転がっているテーラー・パークの方に仮面のメイドと向かって行くのだった。

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