第102話

「……にしても、あれだけ居た参加者がたった2ステージで俺達だけになっちまうだなんて思いもしなかったな。」


「うふふ、確かにそうね。前回のイベントではここまで大幅に参加者が減ったりしていないもの。」


「前回……?あぁ、そう言えばお前さんはその時の優勝者だったか。」


 テーマパーク内にある建物だからなのかは知らないが真っ赤なカーペットが敷いてある広々とした階段を上がっていた俺は、無言の気まずさを誤魔化す為に絞り出した話題で仮面のメイドが紹介された時の文言をふっと思い出していた。


「えぇ、だから断言してあげるわ。次のステージが最後になるってね。」


「ふーん、つまりそこら辺に関しては前回のイベントとは変わってないって事か……競技内容とかはどうなんだ?前もコレぐらい難易度が高かったりしたのか?」


「いいえ、明らかに今回の方が難易度は高いわね。さっきも言ったけど、私が優勝をした時のイベントは最終ステージでも参加者が10人程度は残っていたから。」


「そうだったのか……だとしたら、今回のイベントが難しくなりまくったのはそこが原因なのかもな。最終ステージに人が残り過ぎちまったってさ。」


「うふふ、もしそうなら随分と極端な難易度調整ね。今回のイベント、下手をしたら参加者が1人も決勝に行けないって可能性もあったかもしれないし。」


「あー……さっきにイベントとかはヤバかったもんな。あんな風に動きやがる奴らを相手に鍵を奪えって無茶ぶりにも程があるってもんだからな。しかも鍵は2つだけ。協力関係を結ぶって手段を選ぶのも難しい所だったろうな。」


「えぇ、私達は運良く鍵の数と同じ2人だけが残ったから協力出来ただけだものね。だから次のステージでは正真正銘、ちゃんと敵同士になるわ。手加減はしてあげないから、覚悟してちょうだいね。」


「はっ、それはこっちの台詞だっての。何をするのか分からないが、ここまで来たら俺も負けるつもりはねぇ。きちんと決着を付けさせてもらうよ。」


 階段の途中で立ち止まって仮面のメイドと視線を交わしながらニヤリと笑った後、再び歩き始めた俺はしばらく進んだ先にあった巨大な扉の前で立ち止まるのだった。


「この扉の先が最終ステージの会場よ。心の準備は良い?」


「あぁ、聞かれるまでもない。」


 閉じられている巨大な扉をグイっと押し込んでゆっくり開いて行くと、視界の先に豪華でバカでかいシャンデリアが存在するとんでもなく広々とした空間が現れた。


 その光景に少しだけ圧倒されながら2,3歩後ろに下がって行くと仮面のメイドが入れ替わる様にして部屋の中に足を踏み入れてしまったので、俺は短く息を吐き出し決意を固めながらその後に続いて行った。


「内装的にはさっきの部屋と変わらないっ!!?っと、び、ビックリしたぁ……」


「あらあら、こんな事で驚くなんて可愛らしい所もあるのね。」


「か、可愛らしいは止めろっての!つーか、あんな勢いよく扉を閉められたりしたら普通は驚くだろうが……お前はどうして平然としてられんだよ……」


「うふふ、それなりに場数を踏んでいるからよ。」


「場数って……まぁ良いや、それよりもここで何をさせるつもりなんだ……?」


 これまでの経験上から床の方を注意しながら室内を見渡していると、何処かに設置されているらしいスピーカーに電源が入ったのか小さなノイズ音が聞こえて来た。


『仮面のメイド様、九条様、ここまで辿り着けた事をまずはお祝いをさせて下さい!本当に、本当におめでとうございます!数々の試練を乗り越えて来た貴方達の実力は非常に素晴らしいと言えるでしょう!皆様、どうぞお二方に盛大な拍手を!!』


「……褒めてくれてどうもありがとうよ。まぁ、数々って言ってる割には試練なんて2つしか無かった訳だが……」


『おっと、それは言わないお約束でございますよ!いやはや、それにしてもここまで来て頂いたのですがここで悲しいお知らせをしなくてはなりません。貴方達は、この最終ステージで揃って脱落してしまう可能性が高いというお知らせを……うぅ……』


「うふふ、いきなりおかしな事を言うのね。ここが最終ステージなら私と九条さんのどちらかは勝ち上がる事になるんじゃないの?どうして揃って失格になるのかしら。ご説明して頂けるかしら?」


『えぇ、勿論ですとも!と、言いたい所ですが今回も見て頂くのが早いと思います!それでは危険ですのでその場にて少々お待ち下さいませ!』


「危険?それって……チッ、またこの展開かよ!」


 シャンデリアが小刻みに震え始めて何処からかガシャンガシャンという機械の動く音が聞こえてきて思わず舌打ちをしていた俺は、平然としている仮面のメイドの横で次第に大きくなり出した揺れに耐える為に両脚に力を入れて必死に耐え続けていた!


「……九条さん、分かる?何かが近付いて来ているわ。」


「な、何かって何だよ!?」


「さぁ、それは分からないけれど……来たわよ。」


 仮面のメイドがそう告げた直後、奥の方に存在している階段の先にある巨大な扉がバンっと勢いよく開かれてその向こうにある暗闇の向こうから何かが飛び出して来てシャンデリアの真下に着地をした!


「うおおっ!!」


「っ!」


 コレまでとは比べ物にならないぐらいの激しい揺れと砕け散った床の小さな破片、そして舞い上がった粉塵に襲われて反射的に両腕を顔を護りながら片目だけを何とか開けて状況の確認をしようとした俺は……


「お、おいおい……何なんだよアレは……!?」


「ほーっほっほっほっほ!素晴らしい反応ですねぇ九条様!その驚きに満ちた表情、大変嬉しく思いますよぉ!えぇえぇ!!」


 バカでかい球体上の鉄製の体躯から生えた4本の機械の脚、そして上部に設置してある半透明のガラスに覆われたピエロメイクをしたテーラー・パークの邪悪な笑みが見えて俺の思考は完全に固まってしまうのだった……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る