第99話

『おぉっと!参加者全員がしゃがみ込んだまま揃って同じ体勢を取りながら2階へと続いている階段の方へと熱い視線を注いでいます!コレはある意味素晴らしい団結力とでも言えるのでしょうか!』


(……ご主人様、何をしていらっしゃるんですか?)


(っ!あ、いや……!ま、まさか見て……)


(えぇ、シッカリとモニター越しに見させて頂いていますよ。ご主人様が他の参加者さん達と一緒にメイドさんのスカートの中を覗こうとしている姿を……)


(あっ、うっ!そ、それはその……!)


(……えへへ、大丈夫ですよご主人様。私、怒っていませんから。)


(……へ?そ、そうなのか?)


(はい。だって……ご主人様だって男の人ですから……そういう事に興味があるのは理解して……うぅ……)


(マ、マホ?マホさんッ!?お願いですから泣き真似をするのは勘弁してくれませんかねぇ!?おいロイド!ソフィ!聞こえてたらマホの奴をどうにかしてくれ!)


(すまない。九条さんのあんな姿を見てしまった後に協力する訳には……ね?)


(……うん、諦めて。)


(ぐふぅっ!ど、どうしてこんな事に……!)


 自業自得、って言われたらそれまでだけど仕方がないじゃないか!いきなりあんな素敵な光景を目の当たりにして本能に従わない男が居るだろうか!?いや、居ない!みたいな感じで開き直れるぐらいだったらこんなに後悔してない訳ですよねぇ!!


 自分の情けない姿が映し出されていたという事実を思い出して揃いも揃って焦っている参加者達の気持ちに共感しながら皆に向けて必死に言い訳を繰り返していると、階段の上で何故か豪勢な椅子に座っていた仮面を付けたメイドが立ち上がり始めた。


『はてさて、参加者達の今後が気になる所ではありますがソレは置いておいて彼女の紹介をさせて頂きたいと思います!彼女は前回に開催されたイベントの優勝者、その名も仮面のメイドさんで~ございます!』


「……仮面の、メイド?なんじゃそりゃ……」


 格好もさることながら名前までそんな感じとか設定が盛り盛りすぎじゃねぇのか?しかも前回の優勝者とか、色々と情報量多すぎて処理が追い付かないですけども!?


「うふふ、わざわざご紹介して頂きありがとうございます。参加者の皆さん、どうも初めまして。仮面のメイドと申します。気軽にメイドさんと呼んでちょうだいね。」


 両手を前の方で組みながら丁寧にお辞儀をしてきた仮面のメイドが何とも言えない自己紹介を終えたタイミングで、俺の隣に立っていた白髪頭のイケメンがおずおずと手を上げて一歩前に出て行った。


「え、えっと……メイドさんだっけか。さっき前回の優勝者って紹介されてたけど、今回も抽選が当たったからイベントに参加してるのか?もしそうだとしたらとんでもない豪運の持ち主って事になるんだが……」


「いいえ、そうではないわ。私は前回の優勝者だから招待されて、それに応じたからここに居るだけよ。」


『ほっほっほ、ありがとうございます!これまでは所在が分からなかったのでご招待出来るか不安だったのですが、昨夜いきなり私の前に再び姿を現してくれたのです。いやはや、本当に良かった良かった!おかげで大盛り上がり間違いなしですから!』


「うふふ、それはどうかしらね?まぁ、招待して頂いた分はシッカリ働かせてもらうから心配をする必要はないけどね。優勝賞品も手に入れないといけないし。」


「……なるほど、参加するにはやっぱりアンタも優勝狙いな訳か。それならこっちも精一杯やらせてもらうから覚悟しろよ!」


「えぇ、私を退屈させないでちょうだいね。」


 おいおい、こんな主人公と謎のヒロインみたいな奴のやり取りを目の前で見られるだなんて……最っ高じゃねぇかよ!この2人、一体コレからどうなっちまうんだ!?


 ラノベとかで起こりそうな展開を目の当たりにして思わず胸を高鳴らせていると、スピーカーの向こうから拍手の音みたいなものが聞こえてきた。


『ほっほっほ!やる気が満ち溢れている様で私も嬉しい限りでございますよ!さて、イベントを開始させて頂く前に参加者の皆様は階段の右側をご覧下さいませ!』


「ん?右側……?」


 テーラー・パークに言われるがままにそっちの方へ視線を向けて見ると、そこには入れる所が幾つもあるロッカーみたいな物がひっそり存在していた。


『これより行われるイベントは命の危険性はありませんが非常に過激なものになると言えます!アクセサリー等を身に付けていると紛失してしまう可能性もありますので念の為、そちらのロッカーに貴重品を入れておく事をお勧め致しますよぉ!』


「えー、ロッカーをご利用なさりたい方はこちらにお越し下さい!万が一、貴重品を紛失してしまったとしてもこちらでは責任を負えませんのでご了承下さーい!」


「……って事は、コレは預けとかないとマズいかもしれないな。」


 可能性を提示された以上は最悪の事態を回避したいので、俺はロッカーの前で手を振っている係員さんの方に何人かの参加者達と一緒に向かう事にしたんだが……


(あー……マホ?モニター越しに聞こえてたと思うんだが、このネックレスを無くす訳にはいかないから預ける……な?さっきの続きはまた帰ってからって事に……)


(……ご主人様、分かってますよ。)


(そ、そうか?)


(はい……つまり、お説教は帰って来てからにして欲しいって事ですよね!)


(お、おぅ!………おぅ?)


(えへへ、頑張って下さいねご主人様!優勝してくれたいっぱい褒めてあげますよ!それといーっぱい怒ってあげますからね!)


(いやあの、どうせだったら褒めてくれるだけで良いんですけども……)


(ふむ、褒められながら説教を受ける九条さんを見られるかもしれないのか。それは何とも興味を惹かれる見世物だね。)


(ワクワクしてきた。)


(おいっ!!見世物になるつもりはねぇしワクワクもしてるんじゃねぇっての!あぁもう!ったく、それじゃあまた後でな!)


 好き勝手な事ばっかり言ってやがる皆の反応を聞く前にネックレスを外した俺は、係員さんの説明を聞くとロッカーにネックレスを入れて扉についているキーパットに4桁の数字を打ち込んで鍵を掛けた。


『それでは準備が出来た参加者の方は階段を上がり扉の前で待機をお願いします!』


 アナウンスでそう指示されたその後、あんまり人混みに紛れたくない俺は最後尾になる形でそれなりに長く続いている階段に足を乗せて


「ねぇ、そこの貴方。」


「あ?……アンタは……俺に何か用かよ?」


 何時の間にか1階に来ていたらしい仮面のメイドに声を掛けられて眉をひそめつつ返事をすると、彼女は口元に手を当ててクスクスと笑い出した。


「ごめんなさい、特に用があるって訳じゃないんだけど……面白そうな人が居たからつい声を掛けちゃったの。」


「面白そうなって……初対面だってのに中々失礼な奴だな。つーか、そんなおかしな格好しているメイドにそんな事を言われる筋合いは無いっての。」


「うふふ、それもそうね。ここで会ったのも何かの縁かもしれないし、今夜はお互い頑張るとしましょう。」


 ……近くで会話をしてるはずなのにボイスチェンジャーがあるかの様にハッキリと聞き取る事が出来ない彼女の声に違和感を覚えながら、俺は差し出されている彼女の手を慎重に握り締めた。


「あぁ、どうなるか分からんが最後まで生き残れる様に頑張らせてもらうさ。」


「えぇ、期待しているわよ。」


 そう言って階段を上がって行くメイドの後姿を見つめながら静かにため息を零した俺は、その後を追い掛けて2階へと向かうのだった。


『さぁ、それではこれより第1ステージの扉を開きたいと思います!参加者の皆様、どうか奥に進み過ぎない様にご注意下さいませぇ~!』


 絶妙にイラっとさせられる喋り方でテーマパークがそう告げると、ゴゴゴッという音を鳴らしながら目の前にある扉がゆっくりと開かれていった。


 最初にここを訪れた時と同様に薄暗い部屋に参加者全員で足を踏み入れて行くと、背後にあった扉がさっきとは反対に勢いよく閉められてしまった!


「何も見えないな……一体ここで何が行われてええええええぇぇぇ…………!」


「えっ、なっ、はっ!?」


『おーっと何という事でしょう!悲しい事に脱落者が早速出てしまいましたねぇ~!アレほど奥には進み過ぎない様にとご忠告を致しましたのに!まっ、起きてしまった事は仕方がありませんよね!それでは明かりを~どうぞ!』


「っ!………お、おいおいおい……どうなってんだよ、この部屋は………!?」


 周囲がザワザワと騒ぎ始めたそんな中、俺は視界の先にある足場が存在していないだだっ広い空間を目にして思わず言葉を失ってしまうのだった……!

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