第98話

「参加者の皆様はこちらで待機をお願いしまーす!」


 数名の係員らしき人達の指示に従って建物の手前側にある広場っぽい所までやって来た俺は、少し離れた場所に立っている皆から視線を外して同じ様に腕輪を付けてる人達の様子を静かに観察していた。


「……ふーん、年齢層的にはやっぱりこんな感じになるか。」


 貰える賞品がアレだから少なからず身体を張る事にはなるだろうと参加者の全員が予想した結果なんだろうが、10代後半から30代半ばぐらいの人達ばかり集まっている現状に俺は少なからずホッとして胸を撫で下ろしていた。


 あんまり幅があり過ぎると勝負とは言え気を遣わなきゃいけなくなっちまう可能性だってあったからな。これならちょっとぐらい無茶をしても問題無さそうだ。


「……午後6時となりましたので、これにて参加者受付は終了を致します!」


「コレで終わりか……参加者はザっと数えて30人ぐらいか?」


 周囲を見渡してみてそう呟きながら冷えて来た身体を両腕でさすっていると、すぐ近くになった街頭スピーカーから小さなノイズ音が聞こえてきた。


『ご来園になってる全てのお客様!もう間もなく本日のメインイベントが開始される時刻となります!どうぞ足をお止めになって付近にあるモニターをご覧下さい!』


 テンション高めのテーラー・パークが大声でそう告げた直後、あちこちにある大型モニターの画面が切り替わり俺も含めた参加者達の姿がパッと映し出された。


『皆様が目にしているモニターではイベントに奮闘している参加者の様子を見る事が出来ます!ですのでご家族やご友人、または恋人の方は是非ともモニターを見ながら暖かくも熱い声援を送ってあげて下さい!それはきっと大きな力となるでしょう!』


 テーラー・パークの煽りが効いたのかそこら中から口笛や歓声が聞こえてきて……チッ、な~にが優勝したらホテルで祝杯をあげましょうだ!何処の誰だかは知らねぇけど恋人が居る野郎には絶対に負ける訳にはいかねぇ!絶対にだ!!!


『おぉっと!イベントが始まる前から闘志を燃やしている方も居るみたいですねぇ!コレは見ている我々としても熱くなってしまいますよぉ!』


「ん?そんな奴がってうぇっ!?う、映ってんの俺じゃねぇか……!」


 随分と気合が入ってる奴が居るんだな~とか思ってチラッと遠くにあるモニターに視線を移してみると、そこには握り拳を作りながらカップルの片割れ野郎を睨んでる俺の姿があった……!ヤメテ!恥ずかしいから別の人を映してお願い!


『ではでは!そろそろ待っているのも退屈になってきた頃でしょう!参加者の皆様!どうぞイベント会場に足を踏み入れて下さいませ!』


「……皆さーん!私の後について来て下さーい!離れない様にお願いしまーす!」


 スピーカーの電源が落ちて直後、係員のお姉さんが大きく手を上げながらそう指示してきたので俺達は大人しく彼女の後に続いて重々しい音を鳴らしながら開いていく扉を通ってイベント会場となっている建物の中に入って行くのだった。


「……随分と暗いんですね。コレって大丈夫なんですか?」


「はい、扉が閉まると照明が点きますのでご安心下さい。」


 参加者の質問にお姉さんが返事をしてから数秒後、音の反響具合でそれなりに広いって事ぐらいしか分からない空間の真ん中辺りまで進んで来ると背後にあった巨大な扉がゆっくりと閉まっていき周囲が完全な暗闇に包まれてしまった。

 

 好奇心からなのか恐怖心からなのか分からないが参加者達がザワザワと騒ぎ始めたその数秒後、場所は分からないがコッコッコッと固い物が地面を叩く……いや、足音みたいなものが何処からともなく聞こえて来た。


「うふふ、貴方達がイベントの参加者達ね。中々に楽しめそうじゃないの。」


「だ、誰だ!?」


 ……反響のせいで位置は分からないが挑発する様な女性の声が聞こえて来た直後、今度は近くから主人公みたいな台詞の大声が聞こえて来て俺は思わず身体をビクッと震えさせてしまっていた。


 って言うかマジで何なんだ?もしかしてイベントの演出みたいなもんなのか?もしそうだとしたら、結構意味あり気な感じなんだが……へっ!?


「「「「「お、おおおおおおおおおおおおおおっ!!??!?!!」」」」」


 真っ暗で何も見えなかった空間に突如としてスポットライトが出現して、その事に驚きの声をあげる前に聞こえて来たの一斉に顔を上げた野郎達の興奮した声……!


 どうしてそんな事になったのか、その理由はただ1つ!スポットライトに照らされ姿を現したのが仮面を付けたメイド服姿のナイスバディだったからだ!


 しかもしかも!履いているスカートの丈がメチャクチャ短いのにも関わらず王様が座る様な椅子に座って脚なんか組んだりしちゃって……!それを見上げる形になっているもんだからギリギリ、見えそうで見えない素晴らしい光景が目の前に……!


「な、何という……!」


 ここには優勝を目指して競い合うライバルしか居ないはずだったけど……この瞬間だけは、俺達は同じ気持ちを分かち合う仲間となるのだった……!

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