第70話
侵入者達が基本的に2人組か3人組で動いてくれているおかげで奇襲と拘束に慣れ始めて来た俺とソフィは、順調に目的地の目前までやって来る事に成功した。
「ふぅ、装備は良い物を使っているみたいだが中身がそこまで強くなかったおかげで何とかここまで来れたな。後はアリシアさんがここに連れて来られるかどうか……」
「おじさん、もしなしなくても向かってた場所って……」
「あぁ、エリオさんの仕事部屋だ。この屋敷の主たる人物の部屋に悪人だったら足を運ぶんじゃないかと思っていたんだが、どうやらそれは正解だったみたいだな。」
「うん、他と比べて警備が厳重に見える。」
廊下の角に潜みながら先の方に視線を向けてみると、見張り役だと思われる侵入者2人組がエリオさんの執務室に通じている一本道を塞ぐ様にして並び立っていた。
「九条さん、お姉様はあの先で捕まっているんですか?」
「いや、さっきも言ったが連れて来られるかどうかはまだ分からない。恐らくここで間違いないはずだけど、まだ空気が落ち着いている。アリシアさんがここに居るならもう少しぐらい騒がしくなっているんじゃないかって思うんだ。」
「……では、まだお姉様は連れて来られている途中だと?」
「多分な……とりあえず周囲を警戒しながらしばらく待機だ。ソフィ、何時でも動き出せる様にしといてくれ。マホとシアンは隠れられそうな場所の目星だけでも付けておいてくれるか。」
「分かりました!」
「は、はい!」
3人に指示を出してから改めて見張りの方に視線を向けたその直後、俺は頭の中でロイドに声を掛けてみた。
(ロイド、アリシアさんの事について何か情報はあったか?)
(うん、かなり悪い情報ではあるけどね。聞くかい?)
(……おう、聞かせてくれ。)
初っ端からメチャクチャ嫌な予感をさせてくる事を言ってきたロイドに文句の1つでも言ってやろうかと思ったが、それをグッと飲み込んで俺は言葉の続きを待つ事にした。
(まずは結論から言わせてもらおう。侵入者に捕まってしまったのはアリシアさんで間違いないはずだ。)
(チッ、マジかよ……そう断言出来る根拠は?)
(彼女のビジネスパートナーさ。さっき怒りながらアリシアさんが屋敷に向かったと私達に報告してきたよ。)
(なるほど……って、怒りながら?なんでだ?)
(ふふっ、どうやら彼女に平手打ちを受けたみたいだよ。)
(ひ、平手打ち?どうしてそんな事に?)
(彼から聞いた所によると、妹を探したいから一緒に屋敷の方へ行ってくれないかとアリシアさんに頼まれたそうだよ。でも、こんな状況の中でそんな事をしている暇は無いと断ったそうなんだ。それで……)
(あー……それは何と言うか……まぁ、殴られても仕方ないって感じがするな。奴の身からしたら理不尽だって思うかもしれないが。)
(そうだね。だけどアリシアさんが大切な妹の為に行動を起こした結果、掴まったという仮説はコレで成り立つんじゃないかな。)
(だな……恐らくだが、俺がマホとシアンを抱えて会場を出ていく姿を誰かに教えて貰ったのかもしれない。)
(それで屋敷まで来たら正面の扉は開かず、裏から入ろうとしたら侵入者に見つかり捕まってしまったと……)
(そういう事になるだろうな……あぁもう、要するに俺のせいじゃねぇか……!)
(九条さん、後悔するのはまだ早いよ。捕まってしまったのが彼女とは限らないし、もしそうならそうで助け出せば良いだけの話だからね。)
(分かってるよ。アリシアさんかどうか分からないが捕まった女の人を助け出したら何とかしてそっちに戻る。それまで何が起こるか分からないから気を付けろよ。)
(うん、九条さん達もね。)
「……さ…!」
「お、おじさん!今のって!?」
「あぁ、どうやら来たみたいだな……」
ロイドから情報を教えて貰い静かに息を吐き出したその時、遠くから誰かの叫び声みたいなものが聞こえてきて俺達は廊下の先に視線を向けてみた……すると……
「は、離して下さい!貴方達、こんな事をしてただで済むと思っているんですか!」
「うるせぇ!さっきから何度も同じことを言うんじゃねぇよ!嬢ちゃんよぉ、俺達の心配よりも自分の心配をしたほうが良いんじゃねぇのかぁ?ひっひっひ!」
「ど、どういう事ですか!」
「分からねぇのか?まぁ、それならそれで構わねぇ……たぁっぷりと教え込んでやるから覚悟しろよぉ~」
「い、いや!離して!誰か……誰かぁ!」
「はっ!そんなに叫んだって助けなんか来やしねぇよ!」
俺達が隠れていた位置とは正反対の方向から姿を現した侵入者達と後ろ手に拘束をされているアリシアさんは、足早に見張りの間を通過していってしまった!
「く、九条さん!お姉様が!」
「おじさん!早くしないとアリシアさんが危ないです!」
「分かってる!ソフィ、行くぞ!」
「了解。」
警棒を握り締めて物陰から飛び出して一気に見張りの方に突っ込んで行った俺達は勢いそのままに2人組の意識を奪い取った!
「っ!な、何だお前達は!?」
「おい!さっさとこの女を連れて行くぞ!そうすりゃ手出しは出来ねぇ!」
「た、助けて!!」
「黙れ!」
「あぁっ!」
「お姉様!!」
俺達の存在に気付いて強引にアリシアさんを執務室に連れ込もうとしている連中を視界に入れながらシアンの叫び声が耳に届いてきた次の瞬間、反射的に地面を蹴っていた俺はそのまま両脚にグッと力を込めると……!
「ぐうぇぇぇ!!!!」
タイミング良く1列に並んでくれていた侵入者達に向かって飛び蹴りを入れながら閉じられていた扉をぶっ壊して、その勢いのまま執務室の中に入って行くのだった!
「な、何だっ!?」
「貴様!一体何処から?!」
「……やれやれ……」
仲間が蹴り飛ばされた事に驚き戸惑いながらも武器を構え始めた侵入者達と対峙をしながら短く息を吐き出した俺は、警棒を握り締めながら首を少しだけ傾けた。
(あー……マホ、先に謝っておくわ。マジでごめんな。)
(ご、ご主人様!?どうしてそんな事を?!)
(ソフィ、今すぐに皆を連れて屋敷から脱出しろ。)
(ちょ、ちょっと待って下さいご主人様!まだ話は終わってっ!?)
頭の中で慌てた声をあげているマホの話を遮る様にしてぶっ壊れた扉の木枠に拳を叩き込んだ瞬間、木で出来た格子状の柵が魔法陣と共に伸びて行き唯一の出入り口を塞いでいった。
「あ、貴方は……」
「何をしているんですかおじさん!!」
背後から聞こえて来た怒鳴り声に反応して振り返ってみると、網目の向こう側から俺を見つめてきているマホと床に尻もちをついているアリシアさんの姿があった。
「何をしているのか……って質問に対する答えは、お前達を逃がす為に囮の役をやる事になったって感じだな。そこからでも見て分かると思うが、この人数を相手にして屋敷から脱出出来るとは思えんからな。」
「そ、それは……でも!」
「ソフィ!話している暇が惜しい……早く皆を連れて行け!」
「……分かった。」
「あっ!は、離して下さいソフィさん!おじさん!おじさーーーん!!」
ソフィに抱えられる様にして廊下の奥にマホが消えていった直後、今度はシアンが視線の先に姿を現した。
「く、九条さん!」
「シアン!お姉さんの事は任せたぞ!」
「っ!は、はい!お姉様!」
「え、えっ!?」
シアンに手を引かれて立ち上がったアリシアさんが混乱した様な表情を浮かべつつ薄暗い廊下の向こうへと走って消えていった。
「……何者か知らないが、随分と勝手な真似をしてくれたじゃねぇか。テメェ、死ぬ覚悟は出来ているんだろうな?」
「はっはっは、そんな覚悟なんて出来ている訳ないだろ?ってか、俺の事を知らないとか冗談は止してくれよ。」
「あ?何だと?」
「ここで会ったのも何かの縁だしどうせもう2度と顔を合わせる事も無いだろうから最初で最後の自己紹介をさせてもらうとしようかねぇ。どうも初めまして、ロイドの仲間で最初の襲撃を邪魔させてもらった九条透だ。」
ニヤリと笑いながら仰々しくお辞儀をして挨拶をすると、指に貴金属を沢山付けて葉巻を咥えていた小太りのおっさんは苛立ちながら俺を睨み付けてきて……
「……なるほど、テメェが俺達の邪魔をしやがったクソ野郎か……!」
「クソ野郎とは人聞きの悪い。それはこっちの台詞ってなもんだろ?ってか、文句を言うんだったら目的の人物が何処に居るのかも確かめずに襲い掛かって来たマヌケなお仲間さん達に言ったらどうだ?つーか、思ったよりも人数が少ないな。」
俺は心底馬鹿にした様な表情をしながら殺気立っている侵入者達に視線を送る……うんうん、良い感じで俺に意識を向けてやがるねぇ……この調子ならあいつ等が屋敷から抜け出す為の時間ぐらいは作れるはず……
「ふんっ、それはそうだろう……何故なら私達の本命はここではないからな。」
「……何だって?」
「おい、やれ。」
恐らくこの事態の首謀者である小太りのおっさん商人が、エリオさんの座っていた椅子の上にふんぞり返りながら机の上に置かれていた通信機に対してそう声を掛けた次の瞬間、爆発音みたいなものが再び響き渡った!?
「っ、何をしやがった!」
「くっくっく、最初の爆発は人質となる貴族達を一か所に集める為の物だ……そして今度の爆発は、外で待ち伏せていた者達が襲撃を仕掛ける合図となっているのだ!」
「なっ!?」
勝ち誇った様な笑みを浮かべているおっさんの言葉を耳にした直後、すぐに意識を集中させた俺はロイドに頭の中で話しかける!
(ロイド!大丈夫か!?)
(九条さん!すまないが今は話をしている余裕が無いんだ!無人の馬車が突っ込んで来て門を破壊する程の爆発を起こしたんだ!それと同時に武装した者達が敷地の中に侵入して来た!そちらの対処に追われて手が離せない!だからまた後で!)
その言葉を最後にロイドの声が聞こえなくなった俺は、警棒を握り締めながら机の向こうでニヤニヤとしている商人を睨み付けた……!
「がっはっは!さっきまでの威勢はどうした?あぁ、そう言えば先程ここから逃げて行った女達が居たなぁ……安心しろ、すぐにそいつ等も捕まえてこの場に連れて来てやる!その時は目の前でたっぷりと遊んでやぶぶばばばばばば!!!!」
「ボ、ボス!」
「テメェ!何しやがる!!」
「ぶち殺されてぇのか!あぁん!!?」
下卑た笑いをしていやがった商人目掛けて電撃を撃ち込んだ俺は、すぐにでも襲い掛かって来そうな気配を放っている侵入者達を前にしながらゆっくり武器を構えた。
「……御託は良い、殺る気があんならさっさと来い!!」
ソフィが一緒だから万が一なんて可能性も存在してはいないはずだ。でも、だからってこいつ等とのんびり遊んでる訳にはいかねぇからな……!
そう決意をして戦う覚悟を決めて腹を括った俺は、侵入者達が生み出した幾つもの光の玉に照らされながら何時でも動き出せる様に姿勢を低くしていくのだった……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます