第69話

 階段を下りた先にも存在していた侵入者達をさっきと同じ様に奇襲、拘束しながら何とか玄関ホールの手前ぐらいまで進んで来た俺達だったが……


「チッ、流石に数が多すぎるな……」


 空中に浮かんでいる3つの光に照らされている6つの人影を物陰に潜みながら目にする事になった俺は、舌打ちをしながら見張りをしている侵入者達を見ていた。


「……全員倒す?」


「いや、あれだけ人数が居たら応援を呼ばれちまう可能性が出て来る。そうなったらマホやシアンが人質に取られて最悪の結末を迎える事になるかもしれない。ひとまずここら辺で隠れながらどうにか隙が生まれないか……ん?」


 ホールの真ん中に立ってた侵入者達が外へと続いている扉の前に集まり始めたのを見て何事かと思っていると、連中は一斉に床の上へ両手を付いて魔法陣を生み出すと巨大な石柱を作り上げて出入り口を塞いでしまった!?


「お、おじさん!あれじゃあ外に出られませんよ……!」


「クソッ、面倒な事になったな……」


 つーか、マジで何を考えてやがるんだあいつ等は?あんな事をしたら、連中だって外に逃げられないだろうに……本当に何の目的を持って動いてやがるんだ?


 そんな事を考えながらしばし固まってしまっていると、腰の辺りをトントンと軽く叩かれたので何事かと思って振り返ってみると、そこにはこっちを見上げてきているシアンの姿があった。


「あの、ここは危険だと思いますので2階に戻りませんか?」


「……そうだな。」


 シアンの提案を聞いて歩いてきた廊下を戻り始めた俺達は、さっきマホとシアンが身を隠していた部屋に入ってそこにある窓から中庭の様子を全員で覗いてみた。


「うぅ……ここから外に出るのは難しそうですね……」


「あぁ、奇襲を仕掛けるにも広過ぎて隠れる場所が無い。はてさて、手詰まりってな感じになってきたなぁ……」


「九条さん、1階の窓から外回りに逃げるのはどうでしょうか?」


「悪くない案だとは思う。だけど中庭に侵入者達が居る以上、そっちにも連中が居る可能性は否定出来ない。無茶をしなきゃいけない場面が何処かにあるのは間違いないけど、今はもう少しだけ様子を見た方が良いかもしれないな。」


「うん。2人を危険な目に遭わせない為にも。」


「……ごめんなさい。皆さんの足手まといになってしまって……」


「ははっ、何を言ってんだよシアン。足手まといなんて言うなっての。」


「そうですよ!気にする必要はありません!悪いのはロイドさんのご実家を襲撃してきた人達だけなんですから!」


「そうそう、だからシアンが気に病む事は無いんだよ。」


「大丈夫、絶対に護るから。」


「……ありがとう、ございます。」


 ペコリを頭を下げて小さく微笑んでみせたシアンと視線を交わしながら静かに息を吐き出した俺は、アゴを触りながら唸り声をあげると……


「あー……ちょっと作戦を考えたいから、少しだけ1人にさせてもらって良いか?」


「えぇ、分かりました。それじゃあ私達は扉の方を見張っていますね。」


「あぁ、頼んだ。」


 3人が揃って扉の方へ歩いて行った後、月明かりと魔法の光が照らしている中庭を眺めながら俺は静かに意識を集中させていき頭の中でロイドに声を掛けた。


(ロイド、そっちは今どんな状況だ?)


(九条さん!私達の方は招待客の避難誘導を終えた所だよ。今の所、他に不審な動きみたいなものは見受けられない。そちらはどうなっているんだい?問題は?)


(……残念だがある。実はな……)


 会場から目の届かない位置に大勢の侵入者が存在している事、そいつ等はロイドの家を襲撃してきた連中と同じ装備を身に付けている事、玄関ホールから脱出しようとしたら巨大な柱を作られて外に出れない事を俺は順を追って説明していった。


(……なるほど、それは中々に厄介な状況だね。)


(あぁ、だから何処か脱出経路になりそうな所を知らないか?)


(そうだね……少し時間を貰えるかな?カームに情報提供を求めて来るから。)


(分かった。)


 中庭を行き来している侵入者達の様子を見張りながらしばらく息を潜めていると、頭の中にロイドの声が届いてきた。


(すまない、待たせてしまったかな?)


(いや、謝らなくても大丈夫だ。それよりも何か情報は得られたか?)


(うん。九条さん達が隠れている所からは少し遠くなるんだけど、1階の食糧庫には使われなくなった勝手口があるみたいなんだ。そこからなら、侵入者達の目を盗んで外に逃げられるかもしれない。)


(1階か……分かった、とりあえず向かってみるよ。)


(了解。そう言えばシアンも一緒に居るって話だったよね?彼女は大丈夫かい?)


(あぁ、まだまだ子供だってのに気丈に振舞ってるよ。そっちは?アリシアさんにはシアンの事は伝えたのか?)


(うん。凄く取り乱していたから屋敷の中に九条さん達と居るって伝えておいたよ。そうしたら彼女、慌てて迎えに行こうとしたから説得して止めておいたよ。)


(助かる、下手にこっちへ来たら連中に捕まってた可能性があるしな。)


(そうだね。さてと、私は招待客の安否の確認を手伝ってくるよ。父さんと母さんも皆を落ち着ける為に行動しているからね。)


(そうか。じゃあまた後でな。)


(うん、どうか気を付けて。)


 ロイドとの会話を終らせて扉付近で待機してくれていた皆の元に向かった後、俺は以前教えてもらったという感じで食糧庫からなら脱出する事が出来るかもしれないという事を伝えていった。


「なるほど、それなら急いで行動した方が良いですね。シアンさんのお姉さんも心配しているかもしれませんし。」


「は、はい!早くお姉様を安心させてあげたいです。」


「了解。それじゃあさっきと同じ陣形で食糧庫まで向かうぞ。邪魔になりそうな奴は排除しながらな。」


「うん、任せて。」


 とりあえずの方針を決めて互いに視線を交わし合いつつ小さく頷いた俺達は、扉の取っ手に手を掛けて廊下に出て行った。


「……ん?」


「おじさん、このノイズ音って……」


 階段を下りている途中で急に鳴り始めた異音がしている方に視線を向けてみると、侵入者から奪い取った通信機器が反応している事に気が付いて……


『こちら第4部隊、屋敷周辺でドレス姿の女を確保した。』


「……何だって?」


『分かった。すぐにこちらへ連行してこい。』


『了解。』


 短いやり取りだったが充分過ぎるぐらいに状況が分かる会話を聞かされた俺達は、何の音もしなくなった通信機器を無言のまま囲いながら固まってしまっていた。


「ど、どうしましょう……誰かが捕まってしまったみたいですが……」


「一体誰が……ドレス姿の女性という事でしたが……」


 おいおい、まさかとは思うけどコレは……いや、まだそうと決まった訳じゃない!だって俺のこの予想が当たっちまったらフラグの回収が早すぎるってなもんだろ!


(ロイド!今すぐにアリシアさんの所在を確認してくれ!)


(おや、いきなりどうしたんだ?)


(さっき侵入者の通信機器にドレス姿の女を捕まえたって連絡が入ったんだよ!もしそれがシアンを探しに来たアリシアさんだとしたら……!)


(っ、分かった。すぐに確かめるから少し待っていてくれ。)


(あぁ、頼んだ!)


 何も言わずにどうしようかと悩むフリをしながらその場にしばらく留まっているとロイドの声が頭の中に聞こえて来たんだが……


(九条さん、マズいかもしれない。会場の中、そして周辺を探してみたけれど彼女の姿が何処にも見当たらないんだ。もしかしたら……)


(チッ、やっぱりそうか……!ロイド、引き続きアリシアさんの所在を探してくれ。俺は捕まった女の人を助けに行って来る。)


(いや、待ってくれ!それならここが落ち着いたら護衛部隊を引き連れて皆で)


(ロイド、悪いが護衛部隊を待ってる様な余裕は無い。すぐにでも助けに行かなきゃ最低最悪レベルの展開が待っているのは間違いないからな……!)


 漫画、アニメ、ゲーム、その全てにおいてヤバい奴に捕まった女の人に訪れるのは俺としては到底受け入れる事が出来ないイベントに決まってる……!


 創作物の中であっても胸クソが悪いってのに、現実世界においてそんな事は絶対にさせる訳にはいかねぇ……!


(……分かったよ。どうせ止めたって聞きはしないんだろう?)


(あぁ、コレばっかりは譲れないからな。)


(やれやれ、そこまで言われては仕方ないな。了解した。こちらが落ち着いたらすぐそちらに向かうから、それまでどうか気を付けて。)


(おう、そっちも何が起こるか分からないから気を付けろよ。)


(うん、警戒は怠らないよ。)


 ロイドとの会話を終らせて大きく深呼吸をした俺は、不安そうにしているシアンの前でスッと片膝を付いて目線を合わせた。


「シアン、侵入者達に捕まったのはアリシアさんの可能性がある。」


「……えっ?九条さん、どうしてその様な事を……」


「実は言ってなかったんだが、侵入者達を拘束してる時にロイドから通信があった。その時にアリシアさんがシアンを探しているって教えて貰ったんだが……」


「ま、まさか……!」


「……あぁ、彼女はシアンを探して屋敷の方に来ちまった可能性がある。」


「っ!」


 声を無くして驚きの表情を浮かべたシアンがふらふらっと倒れそうになった直後、マホが慌てて駆け寄りその肩をギュッと抱き留めてあげた。


「お、おじさん!本当にアリシアさんが捕まってしまったんですか?」


「まだ予想の範囲ではあるがまず間違いないと思う。」


「そ、そんなっ……!お姉様が捕まってしまったなんて……!わ、私のせいで……!い、一体どうしたら……!」


 顔面蒼白になりながら涙目になっていくシアンにジッと見つめられた俺は、彼女の頭にポンっと手を置いた。


「シアン、安心しろ。アリシアさんは俺が助け出してくる。だからお前達は一足先に食糧庫の方に行って」


 脱出してくれ……そう言おうとした直後、呆れた様な表情を浮かべながらため息を零し始めたマホと目が合って……へっ?


「はぁ……おじさん、いちいち言うのも馬鹿らしいですが私達も一緒に行きますよ。そうですよね、ソフィさん?」


「当然。」


「は?いやいや、お前達はまず脱出してだな」


「はいはい、おじさんには拒否権がありませんからそのつもりで。それにシアンさんだってそんな話を聞かされて大人しく脱出するとでも思いますか?」


「うっ、そ、それは……」


 正直に話さないって選択肢もあったんだが、シアンの事を考えて真実を伝えた事を少しだけマズかったかもなんて考えながら視線を動かしてみると……


「わ、私も行きます!九条さんになんて言われようと!だ、だって……捕まったのが

お姉様かもしれないんですから……!見捨てて逃げたくありません!」


「と、いう訳です。理解してくれましたか?」


「……あぁもう、1分前の自分をぶん殴ってやりてぇ……!」


「おじさん、ぶん殴るのは後にして下さい。今は時間がありませんからね。」


 何故か勝ち誇った様な笑みを浮かべているマホに微笑まれながら苦々しい顔をしていた俺は、バカでかいため息を零しながら立ち上がっていくのだった。


「……分かったよ。サッサと言って、サッサと助け出すぞ。」


「はい!……でも、女の人が何処に連れて行かれたのか分かりませんよ?」


「手当たり次第に探す?」


「いや、その必要は無い。こういう時、何処に行けば良いのかってのは大体だが予想出来るからな。」


「そ、それって何処なんですか!」


「……簡単な話だよ。悪党ってのは似たり寄ったりに考えをしている様な連中ばかりだからな。」


 さぁてと、それじゃあ捕まっちまったお嬢様の救出作戦を始めるとしますかね……最悪のイベントが起こっちまうその前にな。

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