第62話
「ただいまーっと……まだマホとソフィは帰って来てないみたいだな。」
「うん、どうやらそうみたいだね。九条さん、私は自室に行って着替えて来るよ。」
「了解。俺も着替えるついでにマホに連絡を取ってみるわ。」
「分かった。お願いするよ。」
洗面所で手洗いうがいを済ませてから廊下でロイドと別れて自分の部屋まで戻って来た俺は、部屋着になりながら静かに意識を集中させていった。
(おーい、俺の声が聞こえてるかー?)
(あっ、はい!バッチリ聞こえてますよ!どうかしましたか、ご主人様。)
(いや、特にどうしたって訳じゃないんだけど俺とロイドはもう家に帰って来たからその報告をしようと思ってな。2人は今何処に居るんだ?)
(私達も帰っている途中。もうすぐ家に着く。)
(ふーん、夕食はもう済ませて来たのか?)
(いいえ、まだです。本当だったらリリアさんやライルさんと一緒に頂く事になっていたんですが、実は昨夜の件が耳に届いていたらしくて『遅くなってロイド様や九条様に心配を掛けると申し訳ないですから』って言って解散になりました。)
(なるほど、わざわざ気を遣ってくれたって訳か。)
(えぇ、だから晩御飯は帰ってからって事になりました!それで食材も買ってきたんですけど、ご主人様達はもう食べて来たんですか?)
(いや、俺達もまだだ。)
(分かりました!そう言う事でしたらすぐに帰りますので待っていて下さい!)
(あぁ、気を付けてな。)
とりあえずマホとソフィが無事であった事にホッと胸を撫で下ろしながら着替えを済ませた俺は、リビングで合流したロイドにその事を報告してから本棚に手を伸ばし引っ張り出して来た料理本を眺めながら2人が帰って来るのを待ち続けた。
「ただいまでーす!」
「ただいま。」
「ふふっ、お帰りなさい2人共。」
「お帰りー……って、こりゃまた凄い量の荷物だな……」
両手に2つずつぐらいの紙袋を持って現れた2人の姿を目の当たりにして若干頬を引きつらせていると、買ってきたのであろう純白のワンピースを着てるマホが満面の浮かべながらタタタっとこっちに走り寄って来た!?
「えへへー!素敵な服がいっぱいあったのでついつい買い込んじゃったんですよー!それよりもどうですかご主人様?私、可愛いですか?似合ってますか?」
「ちょっ、近い近い!そんなに近寄られちゃよく見えないから少し離れろっての!」
「おや、もしかして照れているのかい九条さん?まぁ、その気持ちは良く分かるよ。こんなに可愛い女の子に詰め寄られたら誰だってドキドキしてしまうからね。本当に羨ましい限りだよ。」
「え~そうなんですかご主人様?それならそうと言ってくれれば良いのに~!」
「ち、違うから!別にドキドキしてるとかそんなんじゃねぇから!つーかマジで近いから離れて下さいお願いします!」
何だかんだ言いながらもマホが美少女である事には変わりないせいで心臓に無駄な負荷を掛けられてしまった俺は、静かに深呼吸を繰り返してからわざと咳払いをしていくのだった……!
「全くもう、そろそろ可愛い女の子に慣れていかないと今後が大変ですよ?」
「自分で言うなそう言う事を……で、それが買ってきた服って訳か?」
「はい!他にも何着かあるんですけど、一番のお気に入りはコレですね!それでどうでしょうか?感想、教えてくれませんか?」
「ふふっ、マホらしくてとても良いと思うよ。可愛いって表現がこんなにピッタリな女の子を拝めるだなんて幸福の極みだよ。ね、九条さん?」
「え?あ、まぁ……その……わ、悪くはないんじゃねぇのか……知らんけど……」
「やれやれ、ロイドさんの褒め方をもう少し見習った方が良いと思いますよ。でも、ありがとうございます。そう言って貰えて嬉しいです!」
「お、おう……って、そう言えばソフィはまだ着替えてるのか?」
「んーもうそろそろ来る頃だと思いますが……あっ!」
「……着替えてきた。」
「おぉ、コレはコレは……素晴らしいとしか言えないね。」
「うんうん!お店でも思いましたが、やっぱり似合ってますよね!」
「……………」
紺色のロングスカートに薄紫色のゆったりしたシャツに着替えて普段とは違って、大人びた雰囲気を感じさせるソフィは何故だかこっちに近寄って来て……っ!?
「……どう?」
「お、うぇ?あ、うん、あー……そのー……に、似合ってる……んじゃないかなー?その、良い感じだと思うぞ……うん……」
いやさ、俺だってもうこっとサラっと褒めてあげたかったよ?でも無理じゃん!!こんな美少女に上目遣いで見つめられながら普通にしていられるなんてさ!ってか、マジでどうしたらこういった経験値を貯められるですか!?誰か教えて下さい!!
「……ありがとう、嬉しい。」
「良かったですねソフィさん!ご主人様の褒め方はほとぼ0点に近いですが!」
「や、やかましいわ!そんな事はどうでも良いからさっさと晩飯を作るぞ!俺はもう腹が減って仕方がねぇんだから!」
「はいはい、分かりましたよ。私もお手伝いしますからそう怒らないで下さい。」
「べ、別に怒ってねぇっての!ったく……!」
自分の仲間がとんでもない美少女なんだという事を久しぶりに実感させられながら調理を進めていった後、完成した料理を皿に盛りつけて食卓に並べて行った俺は皆と食卓を囲う様にしながら普段使っている椅子に腰を下ろした。
「それじゃあ、いただきます。」
「「「いただきます。」」」
確実に料理の腕が上達している事を感じつつ晩飯を食べ始めた俺とロイドは、今日得た情報をマホとソフィに教えていくのだった。
「……つまりロイドさんを狙ったのはお金と復讐目的だったって事ですか?」
「あぁ、恐らくはな。」
「そんな……自分達が悪い事をしたせいだって言うのに、そんな逆恨みをするなんて許せませんよ!」
「マホ、その気持ちは嬉しいけれど落ち着いてね。今は食事中だから。」
「あっ!す、すいませんつい……でも、やっぱり許せませんよ!」
「うん、早く捕まえたい。」
「あぁ、そんな奴らのせいで心穏やかに過ごせないなんて迷惑極まりないからな……でも、それも時間の問題だと思うぞ。相手側の情報はほとんどこっちにある訳だし、警備兵も2度目の失態なんて犯したくはないだろうからな。」
「ふふっ、それは言えてるね。また犯人を逃がしたりすれば、警備隊の信用問題にも関わってくるから本気で取り掛かってくれるはずさ。」
「むぅ、それなら良いんですけど……」
「ほらほら、そんな風に暗い顔をしている暇は無いよ。実は襲撃犯の情報以外にも、2人には伝えたい事があるんだから。九条さん、例の物を。」
「ん?あ、あーあーあー……そう言えばそうだったな。」
「例の物……?って、何ですか?」
「それは見てからのお楽しみだよ。」
手にしていた食器をテーブルの上に置いて立ち上がった俺は、リビングに置かれた背の低い棚の上から2つの封筒を持ってくるとそれを2人に渡していった。
「ご主人様、この封筒は一体何なんですか?何だが豪華な装飾がされてますが……」
「……それはまぁ、簡単に言っちまえばパーティーへの招待状だ。」
「はぁ、パーティーですか……って、えぇっ!?パ、パーティー!!?そ、それってどういう事ですか!?」
驚きの声をあげるマホと恰好だけは大人びているが表情は普段通りと言った感じのソフィに向けて、俺とロイドは近々社交界が開催されてそこに招待される事になったという話をしていくのだった。
「そ、それじゃあ私専用のドレスとかも用意してくれるって事なんですか?!」
「うん、生地や柄。他にもどんなスタイルのドレスが良いのかも事細かに決められるはずだよ。」
「え、えぇっ!?本当ですか!ではでは……!」
ロイドの説明を聞いて興奮しているマホと普段と変わらず落ち着いているソフィの様子を横目に見ながら、俺は久しぶりにスリープ状態にしたままだったスマホを起動してみた。
「最近レベルも上がった事だし、何か新機能でも有れば良いんだけど……おっ。」
【新しく追加された機能があります。】と電源の入ったスマホの画面に表示されたのを目にしながらその文字をタッチした直後、大盛り上がりだったマホの声がパッと止まったかと思ったら慌てた様子でこっちに駆け寄って来た!?
「ご、ご主人様!今、私に新機能がインストールされてきたんですが!?」
「あ、あぁ。どうやら何時の間にか追加されてたみたいだな。」
「えへへ!やりましたねご主人様!」
「マホ、何だか嬉しそうだけど一体どうしたんだい?」
「あっ!聞いて下さいロイドさん!実は私に新しい機能が追加されたんですよ!」
「新機能?それはつまり、マホの身体の大きさが変えられたりするのと似た様な事が出来る様になったって意味かい?」
「はい!その通りです!」
「へぇ、それはおめでとう。それで一体何が出来る様になったのかな?」
「ふふーん!見ていて下さいね!」
アッサリとそこら辺の事情を流してくれるロイドの器の大きさと何も聞いてこないソフィに感謝をしながら、タタッと小走りで俺達から距離を取って行ったマホの事をジッと見つめていると……へっ!?
「えへへ、どうですか!新しく追加された機能のおかげで髪の長さを自由に変更する事が出来る様になったんですよ!」
「す、凄いよマホ!ショートも素敵だったがロングになるとまた違った魅力が溢れて雰囲気がガラっと変わるね!コレはドレスを作る際にも参考にしないといけないっ!あぁ!本当に君はなんて最高だ!」
「え、あの、ロイドさん?」
「こうしてはいられない!さぁマホ、ちょっと私の部屋に一緒に行こうじゃないか!ドレスを仕立てる前に君に一番似合う髪型を探さないといけないからね!さぁ!」
「ご、ご主人様!助けて下さい!ロイドさんが暴走しちゃって……あぁっ!」
誘拐犯の如くマホを自分の部屋に連れ去ろうとしている我を忘れたロイドを何とか説得して正気を取り戻させた後、俺は静かにため息を零すのだった。
「ったく、気持ちは分からんでもないがもう少し冷静さを保てっての。」
「す、すまない……あまりの衝撃に少々取り乱してしまった……マホも悪かった。」
「い、いえ!褒めて下さった事は純粋に嬉しかったですから気にしないで下さい。」
「そう言ってくれてありがとう。次からは気を付けるよ。」
「あぁ、頼むからそうしてくれ……」
ガクッと肩を落としながらそう告げた直後、腰の辺りまで髪を伸ばしているマホがニコニコとしながら俺の前まで歩み寄って来た。
「ご主人様、いかがですか?」
「……な、何が?」
「ですから、この髪型ですよ。私に似合ってますか?」
「あ、あー……まぁ……に、似合ってるんじゃないか?」
「むぅ~……ご主人様、そう思ってくれているのならシッカリ私の目を見ながらそう言って下さいよね。そんなんじゃ今後が大変ですよ!」
「……ふんっ、余計なお世話だ。」
人差し指をピンっと立てながらそんな事を言ってきたマホから目線を逸らしたら、今度はグルっとそっちの方向に回り込んで来て……
「そう言えば、ご主人様の好きな髪型ってどんなの何ですか?今なら、リクエストに応えてあげない事も無いですよ。」
「ポニーテール。」
「はやっ!そんな事は即答出来るんですか?」
「う、うるせぇな!反射で答えちまったんだよ!」
「なるほど、つまりそれだけポニーテールが大好きという事ですか。そう言う事なら仕方ありませんね!すぐにしますんでちょっと待っていて下さい!」
「あっ、やるんだったら前髪も後ろに持っていく感じの固いポニーテールじゃなくて後ろの部分だけをゆるく纏めた感じで頼む。」
「……注文が多いですね。」
「い、良いだろ別に!どうせやってもらうんだったら妥協したくねぇんだよ。」
「はいはい、分かりましたよ。」
呆れてるんだか何だか分からない表情を浮かべながら軽い足取りで女性陣が専用で使っている小物入れ用の棚に向かって行ったマホは、そこからフリフリの付いているヘアゴム……シュシュ?を、取り出すとそれで髪を括っていき……
「っ!……くっ!か、可愛い……!」
「ふふーん!どうですかどうですか!ご要望通りポニーテールにしてあげましたよ!えへへー、私の魅力にメロメロになっちゃいましたか~?」
腰に手を当ててドヤ顔になりながらこっちを見つめてきたマホに若干イラっとさせられない事も無いが、それ以上に美少女が自分好みの髪型になっている事に恥ずかしながら胸をドキッとさせられてしまった訳で……!
「ま、まぁ良いんじゃないか?うん、うん、うん。」
「あれあれ~?ご主人様どうしちゃったんですか~?ほらほら、もっとちゃんと私の事を見て下さいよー!」
「ちょっ、顔が近いから!あんまり寄って来るんじゃないっての!」
調子に乗りまくっているのが手に取る様に分かるマホに詰め寄られたりしながら、その後はロイドやソフィの意見も交えつつ俺達はマホに似合う髪型を探しながら夜を過ごしていくのだった。
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