第50話

 半年間無敗の王者相手に退路は無いと腹を括って先制攻撃を仕掛けようと一歩前に踏み出そうとした次の瞬間、さっきまで少し離れた場所に居たはずのソフィが眼前に姿を現した事に驚いて俺は反射的に防御の姿勢を!


「っ!?」


「九条さん後ろだ!!」


 突如としてソフィが視界から姿が消えてロイドの焦る声が聞こえた直後、背後から金属がぶつかり合う音がして俺はバッと振り返ってみた!


 そうしたら俺に背を向けた状態でショートブレードを振り払った姿勢になっているロイドと後方に向かって飛んで行くソフィの姿を発見した!


「逃がすかっ!」


『ロイド選手!空中で身動きが取れないソフィ選手に魔法を撃ち放ちます!これには対応するのは難しいかっ!?』


 無数に襲い掛かっていく鋭くて巨大な氷の破片がソフィに突き刺さったかに見えた次の瞬間、ロイドの放った魔法が一瞬にして砕け散っていった!?


「おいおい、マジかよ!」


 あまりの強さに舌打ちしたくなる衝動を抑えながらソフィの着地点に向かって走り出した俺は、地面に降り立ったその時を狙って攻撃を仕掛けようとしたんだが……!


「甘い。」


「はあっ!?うおおおっ!!?」


 魔法を使ったのか何なのか分からないが着地する寸前に空中で体勢を変えて斬撃を軽々しく避け切ったソフィは、即座にガラ空きの左手をこっちに向けて来ると俺達の間に魔法陣を出現させてそこから炎の球体を発射して即座に爆発させた!


 咄嗟にショートブレードの刃で防御してみたものの、爆風に耐えられず後方に吹き飛ばされて無様に地面を転がる事になってしまいながらもソフィの姿を必死に追ってみたらロイドの方に向かって行く姿が見えた……!


「フッ!」


「くっ!」


 魔法を撃って攻撃を中断させようと考えたが2人の距離があまりにも近付き過ぎていてロイドを巻き込む可能性を感じてしまった俺は、痛みに耐えながら立ち上がると武器を構えて走り出した!


『ギルド・ナインティア!連携して攻撃を仕掛けていきますが王者のポイントを奪う事が出来ません!反対に少しずつ減らされています!コレは非常にマズい状況に追い込まれているのかもしれません!』


 実況の声に反応する余裕もないぐらいガンガンに攻められていたその時、ソフィの攻撃を受けて吹き飛ばされてきたロイドの体を受け止めた事で後方に下げられた俺は無理やり足を止められてしまっていた!


「まだ終わりじゃない。」


「っ、させない!」


 身動きが取れない俺の目の前で再び魔法陣を出現させたソフィは、さっきロイドが 放ったのと同等かそれ以上の量の氷の破片をこっちに向けて発射して来やがった!


 それに合わせてロイドも左手を前に出して魔法を撃ち返したんだが、本能的に間に合わない事を察した俺はロイドを抱えたまま横に大きく飛び退いた!!


「うぐっ!」


『あぁっと!ギルド・ナインティアのポイントが更に減らされてしまいました!まだ余裕がある様には見えますが、このままでは危険です!』


 ロイドのおかげで直撃は避けられたが幾つか掠っていく痛みに襲われていた俺は、地面に倒れ込むのと同時に魔力を込めながら左手を地面に押し付けた!


『九条選手!大量の植物を生み出して王者に向かわせて行きました!ですがこの攻撃では王者の足を止める事は出来ません!!』


「っんな事は百も承知だよ!」


 触れる事すらままならないままソフィの魔法で燃やし尽くされてく植物に心の中で謝りながらロイドをその場に残して体勢を立て直した後、俺は振り払われたショートブレードの刃を真正面から受け止めて防いでみせた!


 その瞬間、言葉には出さなかったがソフィの顔に驚きの感情が浮かび上がり攻撃の手が一瞬だけ止まったので俺はその隙を付いて混じり合わせていた刃を力任せに押し込んでいった!


「っ!」


 大人と子供の体格差を利用するなんて卑怯だと罵られようと勝つ為に手段は選んでいられないという事で、ほんの少しだけソフィの体勢を崩す事に成功した俺は反撃をさせる間も与えない勢いで斬撃を繰り返していく!


 そうしている間に起き上がったロイドが素早く後ろから詰めて来て、ソフィに対し一緒に攻撃を仕掛けてくれた!


『皆様ご覧下さい!先程まで優勢だった王者が九条選手とロイド選手の連携によって立場の逆転を許してしまいました!ソフィ選手、コレをどう切り抜けるのか!?』


 今日一番の盛り上がりを見せる実況と観客達だったが、実際に戦っている俺達からしたら全然追い詰めている様には感じられない訳でして……!


 だってソフィの奴、俺とロイドが間髪入れずに叩き込んで行く斬撃を正確に対応し続けているんだからなぁ!マジでどんだけ強いんだよ王者って奴は!……けど!


「うおおおおっ!!!」


「くっ!」


「九条さん!」


「分かってる!ロイド、サポート頼んだ!」


「了解!」


 さっきと同じ様に力任せにショートブレードを振り抜いてソフィを後方へ退かせる事に成功した俺は、大きく飛び上がったソフィに向かって魔法の石槍を射出しながらロイドをその場に残して走り出した!


『ソフィ選手!飛んで来る石槍を魔法で吹き飛ばすと、お返しとばかりに九条選手とロイド選手の方に向かわせて行きました!これには流石に両選手共……おっと!九条選手!降り注ぐ石槍を見事に避けながら走り続けます!この展開はまさかぁ!』


「ハッ、そのまさかだよ!」


 これまでの攻防のおかげで順調に溜まり続けて来た経験値を生かしてさっきは失敗した攻撃を再び仕掛けようと考えながら、ソフィの着地点を目指していた俺は握っていた武器を構え直すと彼女がどう動いても言い様に見極めようとしたんだが……!


「無駄だよ。」


「なっ!?ぐううっ!!!」


 避けた先を狙おうと待ち構えていた俺の考えを完全に読み切ってたらしいソフィは魔法で落下速度を一気に加速させると、その勢いのまま俺に斬撃を繰り出して来た!


 手足に襲い掛かる重量感のある攻撃に歯を食い縛りながら何とか耐えていた直後、前方宙返りをしながら地面に着地をしたソフィはショートブレードを逆手に持ち替え容赦のない斬撃を次々と繰り出して来た!


『流石は無敗の王者!ソフィ選手!九条選手の作戦を読み切って回避では無く反撃の選択肢を選び取りました!ここで救援に向かいたいロイド選手だと思いますが、援護魔法を解除すればポイントを大きく減らされてしまう可能性大!悩み所ですね!!』


 クソッ!ロイドの魔法で身体能力も強化をされてる!経験値10倍の効果もある!それなのにまだこんだけの実力差が有るって言うのかよ!?


 ソフィの動きが目で追えないって訳じゃない!何とか一人でも対応する事が出来るまでなったって実感もある!だけど……反撃の隙がもう無さ過ぎる!!


 力任せに押し込もうとしても簡単に受け流されちまって、それすらも厳しい状況になってきちまった……!ギリギリポイントを減らさずには立ち回れるけど……!


「凄い。私の攻撃をこんなに完璧に防ぐ人は初めて。」


 ぐっ!喋りかけて来るとか随分と余裕だな!俺には言葉を返す余裕なんて何処にもないってのに……!それに完璧に防げてたって反撃するチャンスが……っ!!


「ぐはっ!!」


「九条さん!!」


 思考が一瞬止まっちまったせいでソフィの蹴りを腹部にもろ食らっちまった俺は、背中を地面に叩きつけながらロイドの近くまで吹き飛ばされてしまっていた……!


『ギルド・ナインティア!ポイントを更に減らされてしまい、残り7割付近の所まで追い詰められてしまいました!一方、王者は未だにポイントの減衰はありませんっ!やはり今回も伝説の記録を更新する事になるのでしょうか!』


「うっ、ぐっ……!はぁ、はぁ、はぁ………!」


「大丈夫かい九条さん!」


「あ、あぁ……何とかな……」


 心配するロイドを横目にしながら立ち上がった俺は、離れた場所でジッと動かないままこっちを見つめてきているソフィと視線を交わしていた。


「追撃せず、九条さんが起きる隙を与えてくれるとはね……アレも王者としての余裕というものなのかな。」


「……それならソレで好都合だよ。ロイド、聞いて欲しい事が2つある。」


「ん?何だい。」


「……1つ目、俺とソフィは接近戦に関しては恐らくほぼ互角だと言える事。ただ、魔法の扱いに関しては向こうの方が上だ。」


「……なるほど、2つ目は?」


「2つ目はお前とソフィは魔法の扱いはほとんど同等のレベルと言えるが、接近戦に関してはあっちの方が上って事だ。」


「……つまり、私と九条さんが力を合わせてやっとソフィ1人分になるって事か。」


「あぁ、悲しいけどそう言う事だな……で、そんな俺達でもソフィに勝てるかもしれない方法を1つだけ思いついたんだが……聞くか?」


「勿論。」


 真剣な眼差しを向けて来ながら即答してきたロイドにニヤリと笑って返すと、俺は静かにこっちを見つめてきているソフィを確認しながら作戦を伝えていった。


『ギルド・ナインティア!何か王者に勝利する為に秘策を思いついたのか!?対するソフィ選手は微動だにしません!どんな手を使ってこようとも必ず勝つと言う自信の現れなのでしょうか!!』


 実況の声とザワザワしてる観客達の視線を受けながら考えた作戦を伝え終えると、ロイドは何とも言えない……ってか、少しだけ怒っている様な表情を浮かべ始めた。


「……九条さん、それは本気で言っているのかい?」


「……そう言いたくなるのは分かる。けど、俺は本気だ。正直な話、このまま試合を続けたってジリジリとポイントを削られていくだけだ。それなら腹を括って勝ちへの道を無理やりにでも掴み取るしかないだろ。」


「いや、でも……だからってそんな作戦は……!それなら代わりに私が……!」


「いや、さっきも言ったけどコレは接近戦に対応出来る俺じゃないと難しい作戦だ。それはお前にだって分かるだろ?」


「そ、それは……っ!」


「……ロイド、もう俺達には後が無いんだ。時間的にもポイント的にもな。それなら一発逆転を狙ってやるしかないだろ?だから頼む、力を貸してくれ。」


 俺の言葉を聞いてしばらく無言のまま視線を下げていたロイドは、右手で額に触りため息を零しながらゆっくり頭を左右に振った。


「……仕方ないね。九条さんがそこまで覚悟を決めているのならもう何も言わないで手伝うしかないじゃないか。」


「ははっ、ありがとなロイド。お前ならそう言ってくれると思ったよ。」


「はいはい、お世辞は良いから作戦に取り掛かろう。それと、後でマホからお説教をされるかもしれないからそっちも覚悟しておいてね。多分、私もだろうけど。」


「だな。よしっ、そんじゃあ行くとすっか!」


「あぁ、終わらせよう!」


 ロイドと並び立ってソフィの方に改めて向き直った俺は、握り締めていたショートブレードの剣先をビシッと向けてニヤリと笑ってやった!


「ソフィ!倒す機会は幾らでもあったのに静観してくれてありがとうよ!おかげ様でお前に勝つ方法を思いついた!ってな訳だから、悔しい思いをしたくなけりゃ全力で掛かって来い!!」


 声高らかにそう宣言した次の瞬間、会場はバカでかい歓声に包まれていきソフィがこっちを見ながら闘志を高ぶらせていくのを手に取る様に感じられた。


『おぉっと!これはもしや1対1の戦いの申し出でしょうかっ!コレに対して王者の反応は……!武器を構えました!いよいよ決着の時が訪れるのかもしれませんねっ!皆様、目を離さずに2人の選手をご覧になっていて下さい!!』


 テンションの上がった実況の声が途切れたその直後、風の魔法で全身を覆って移動速度を上昇させた俺とソフィはほぼ同時に地面を蹴り飛ばすと相手の方へと一直線に突っ込んで行った!


「はあああああっ!!」


「フッ!!」


 ソフィを射程圏内に捉えた瞬間に握り締めたショートブレードの刃を振り払ってはみたが、予想していた通り斬撃を見事に防がれてしまった俺は後ろに下がりたくなる気持ちを必死に抑えつつ圧倒的な実力を見せる王者との攻防を開始するのだった!


『こ、コレは一体どうした事でしょうか!?九条選手、ソフィ選手の攻撃を防ぎきる事が出来ずにポイントを少しずつ減らされていますが一歩も後退をしません!もしやこの行動が思いついた作戦だとでも言うのでしょうか!?』


 っ、申し訳ないがまだ作戦は始まっちゃいねぇよ……!あぁもう、本音の言うならマジでこんな事はしたくねぇんだが……!勝つ為には腹を括るしかねぇ!!


 皮膚を斬り裂かれる痛みを歯を食い縛りながら耐え続けて、チャンスを伺い続けていた俺はソフィの攻撃が激しくなってきたタイミングを見計らって、半歩だけ後ろに足を引いた……!


 止めを刺すのに充分過ぎる隙が生まれたのをソフィが見逃す訳も無く素早い動きで懐にスッと潜り込んで来たソフィは、俺の心臓の辺りを目掛けてショートブレードの刃を突き刺そうとしてきた!


 ……自分の周りがスローモーションになったかの様な錯覚を感じながら作戦を実行する覚悟をした俺は、奥歯を噛み締めながら力を込めて左腕を胸の前に持ってきた!


「っ!?」


 明滅を繰り返す視界、人生で初めて味わう激痛で飛びそうになる意識を必死こいて保ちながら大きく目を見開いて動きを止めたソフィを眼前に捉えた俺は……!


「うぉぉおおおおおロイドオオオオオっ!!!!!!!」


 腹の奥底から絞り出す様に叫び声をあげたその直後、俺の左腕と突き刺さっていたショートブレードの刃とソフィの右腕が魔法陣の光に包まれて、一瞬にしてとびきり固い岩石に覆われていった!


 その状況に驚きつつ右腕が封じられた事を即座に理解したらしいソフィはまだ動く左手をこっちに向けて魔法を使おうとしたが、それよりも素早く俺の握り締めていたショートブレードの刃が彼女の胴体を右下から斬り裂いた……!


「か……はっ……!」


「っ、だらぁっ!!!」


 小さな断末魔をあげてゆっくり膝から崩れ落ちていったソフィの姿を見つめながらロイドの魔法が解除された事を視認した俺は、左腕を貫通してるショートブレードを一気に引き抜いていっでええええええええ!!!!


 もうもうもう痛い!!痛過ぎる!痛いなんてもんじゃない!血も出てないし傷跡も無いけどこんな激痛初めてえええええ!!!!いだあああああいよおおおおお!!!

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