第51話
『皆様!目の前の光景をご覧になっていますでしょうかっ!今!この時!この瞬間!無敗伝説に終止符が打たれて、ギルド・ナインティアが新たなる王者として闘技場に君臨する事となりましああああああああ!!!!』
「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」」」」」」」」
空気が振動しているのが感じられる程の歓声を上げてくれている観客達の姿を見る暇も無いぐらいの痛みに襲われていた俺は、若干涙目になりながら必死になって腕を魔法で冷やし続けていた!
いや、痛いんだろうなとは思ってたよ!?けどコレはちょっと予想外にも程がある痛さなんですけど?!漫画とかアニメの主人公達はどんな所を刺されたり斬られたりしてもケロッとしているから実際そんなもんなのかなって考えてたけど全然違うね!
現実に食らうとマジで息がまともに出来ないぐらいの激痛っていうか、ぶっちゃけ今すぐにでも気絶しちゃいたい気分なんですが!!?
「ハァ…ハァ…ハァ………うぐぐぅ~………!ふぅ、ふぅ~……!ん~~~っ!!」
「全く、だから私が代ろうかと言ったのに……大丈夫かい、九条さん。」
「だ、大丈夫って見えを張りたい所だが……むり……痛すぎる……でも……へへっ、何とか……勝てたな……!」
「やれやれ、そんな冷や汗だらけの顔で微笑まれても恰好が付かないよ。」
「や、やかましいわ……!そこは素直に褒めといてくれっての……!つーか、マジで痛みが引いていかねぇ……!」
呆れ顔でこっちを見下ろしてきているロイドと視線を交わしながら浅い呼吸を繰り返していた俺は、どうにかこうにか頑張って体を起こしていった。
「ふふっ、しばらく我慢するしかないね。腕を刃で貫かれてしまったんだ痛みが引くまでにはかなりの時間が必要になると思うよ。」
「うへぇ……出来れば試合が終わった瞬間にさっさと消えて欲しかったなぁ……」
「人生、そう甘くはないと言う事だね。で、九条さん。そろそろ立てそうかい?」
「……まぁ、お前が手を貸してくれるんならな。」
「なるほど、了解した。」
爽やかな笑みを浮かべながらロイドが差し伸べて来た手を握った俺は、彼女に腕を引っ張られながら立ち上がっていくのだった。
「はぁ……ありがとうな。」
「どういたしまして。それでどうだい?絶対的王者を倒した感想は。」
「いや、感想も何も……正直、痛すぎて喜ぶ余裕もねぇって感じだよ……」
「おっと、それは勿体無い。こんなにも大勢の人達が私達に向けて祝福の声をあげてくれていると言うのに。」
俺から視線を逸らして周囲を見渡すような動きをしてみせたロイドに合わせて顔を上げてみると、そこには観客達が両手を叩く上げて拍手をしてくれている姿が……
その光景に思わず圧倒されていたら、ソフィがやって来た通路の向こうから職員の人達がやって来て気絶したままの彼女をタンカーに乗せて何処かへ行ってしまった。
『それではこれより新たなる王者の誕生を祝して表彰式を執り行いたいと思います!ギルド・ナインティアのお二人はしばしその場でお待ち下さい!』
「……マジかよ、俺としてはさっさと控え室に戻って休みたいですけど……」
「まぁまぁ、そう言わずにもう少しの辛抱だからさ。それに今ここで帰ってしまえば観客達から悪印象を持たれてしまうかもしれないよ。九条さんだってそれは避けたい所だろ?」
「それは……はぁ、仕方ないか……」
実況の指示に従ってしばらく待機をしていると、ソフィが運ばれていった通路の先からサイズの大きすぎるサングラスを掛けた女性がマイクを持って姿を現して……
「どうもです!こうして顔を合わせてお話するのは初めてになりますね!私は今回のイベントで実況を務めていた者です!気軽に実況ちゃんと呼んで下さい!」
「あ、ど、どうも……」
うん、何となくそうじゃないかなーとは思ってたんだが……まさかこんなに派手な格好をした女性がやって来るとは……多分、顔立ちは良いんだろうけどそれら全てを打ち消すぐらいの印象を初対面で与えてくるとか色々な意味で凄いなおい……
「九条選手、ロイド選手、改めてになりますけど試合お疲れ様でした!一時たりとも目が離せない激しい戦いとなりましたが、勝利を収められた今のご感想は?」
「ご、ご感想?いや、そうですねぇ……あー……えっと……」
「ふふっ、最強の称号を与えられているのが当然だと実感出来る程の実力者と戦えて良い経験になりました。そしてそんな相手に九条さんと協力して勝てた事も、私達にとっては自信になります。ね?」
「あ、あぁ!そうだな!2人で協力したから勝てたんだよな!うん!」
「なるほど!信頼する仲間が居たからこそ手に入れられた勝利という事なんですね!素晴らしい関係に羨ましいと思う気持ちを隠せません!さて、他にも色々とご質問をしたい事があるんですが試合後という事で次で最後とさせて頂きます!」
「あ、はぁ……」
実況ちゃ……実況さんは高らかにそう宣言してマイクをこっちの方へ向けて来ると左手でサングラスを掛け直してニヤリと微笑んだ。
「ギルドリーダーである九条選手にズバリ聞きます!新王者として、今後はどの様な活躍を見せて行きたいと思っているのでしょうか!」
「新王者として……ですか……?それは……」
実況さんと観客達から期待の籠った視線を送られている事をヒシヒシと感じているせいで自分の中にある答えを口に出して良いのか迷っていると、真横に居たロイドが俺の肩にポンっと手をのせてきた。
「九条さん、迷う必要は無いよ。どうするかは最初から決めていたんだから、無理に誰かの期待に応えなくても大丈夫さ。」
……ったく、爽やかに微笑まれながらそんな事を言われたらこっちとしても覚悟を決めるしかないだろうに……本当、ロイドには助けられてばっかりだな。
「……すみません、折角手に入れた王者の座ですがギルド・ナインティアはその座を受け取らずに闘技場へお返ししたいと思います。」
俺がそう告げるとしばしの沈黙が会場を包み込んで行って、その直後には全員から大絶叫の驚きの声が沸き上がってきた。
「く、九条選手!それはもしかして、王者にはならないという事でしょうか!?」
「えぇ、申し訳ありませんがそう言う事になります。今回、イベントに参加したのは腕試しと言う意味合いが強くて最初から王者になるつもりは無かったんです。」
「な、なるほど……しかしよろしいのですか?王者になれば豪華な屋敷と大金を手にする事が出来ますが……」
「構いません。俺達は気ままに冒険者として生きていきたいので……観客の皆さんもここまで応援して頂いたのに本当にすみません!ですが、コレが俺達の意思です!」
深々と頭を下げて非難の声が飛んで来る事を覚悟していたんだが……しばらくして聞こえて来たのは惜しみない拍手の音だった。
「かしこまりました!ギルド・ナインティアは今回、王者の座を辞退するという事になりましたので次回のイベントで新たなる王者が誕生する事になるでしょう!では、今回イベントに参加して下さった全ての選手の皆様に改めて盛大な拍手を!!」
実況さんの掛け声に合わせて更に大きな拍手をしてくれた観客達に心の中で感謝をした後、俺とロイドは揃って全方面に向かってお辞儀をしていくのだった。
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