第49話

『会場の修復作業が終了致しました。ギルド・ナインティアは準備が出来ましたら、会場への移動をお願い致します。』


「ようやくか。九条さん、体調に問題はないかい?」


「あぁ、もう何処にも痛みは感じてないぞ。」


「ふふっ、それなら良かった。それでは……会いに行くとしようか。」


「……そうだな。」


 座っていたソファーから腰を上げて武器を手にしながら控え室を後にした俺達は、沢山の歓声を耳にしながらさっきまでの戦闘の痕跡が綺麗サッパリ消え去った会場に戻って来るのだった。


『さぁ!いよいよ当イベントの最終試合、王者との試合が始まります!!決勝戦では九条選手が死闘を制して見事に勝利を勝ち取りました!今回の試合ではロイド選手と共闘する姿を見られる事でしょう!いやぁ、非常に楽しみですねぇ!』


「「「「「きゃあああああああ!ロイド様ー!!!!!」」」」」


「おやおや、どうやら期待されてしまっているみたいだね。」


「まぁ、ファンの子達は特にそうだろうな。そもそも闘技場にやって来たのだって、お前の活躍が見たいからこそだろうしさ。」


「ふふっ、それなら今回こそは彼女達の期待に応えてあげないといけないね。」


 キメ顔でそう言いながらロイドがショートブレードを軽く一振りすると、後ろから割れんばかりの女の子達の悲鳴にも似た歓声が盛大に聞こえてきた。


『皆様、大変長らくお待たせ致しました!これより半年間、王者として君臨し続けた生きる伝説!ソフィ・オーリア選手が入場されます!今回も絶対的強者の威厳を見せつけるのか!それともその伝説に終止符を打たれるのか!!どうぞ盛大な拍手と共に迎えてあげて下さい!!』


 盛り上がる実況と観客達の声に包まれつつ視線の先にある通路を見つめていると、暗闇の向こうから絶対的な強者の風格を感じさせる彼女がゆっくりと俺達の前に姿を現した。


「……本当に、来てくれるとは思わなかった。それも、ロイドと一緒に……」


「ふふっ、久しぶりだねソフィ。まさか君とこの場所で、こうして相対する事になるとは想像もしていなかったよ。」


「……それは私も同じ。約束も、守ってくれるとは思わなかった。」


「……まぁ、そうだろうな。俺自身、一度顔を合わせただけの女の子の為にここまで来るとは思ってもなかったからな……けど、何とか辿り着いてみせたぞ。」


「……うん、ありがとう。」


『おぉーっと!王者と挑戦者!何やら試合開始前に話し込んでいる様ですが、もしや以前からの知り合いだったのでしょうか!?非常に気になりますねぇ!』


「おっとっと、コレは早く試合を開始して欲しい催促でもあるのかな?だとしたら、期待には応えてあげないといけないね。」


 静かに闘志を燃え上がらせながら武器を構えたロイドと横目に見ていた俺は、短いため息を零してから真剣な眼差しを向けてきているソフィと視線を交わした。


「……九条さん、ロイド、2人がここまで来てくれた事は嬉しい。だけど、私はこの闘技場の王者だから一切の加減はしない。全力で、貴方達を倒しに行く。」


『おおおっ!皆様、お聞きになりましたでしょうか!何と王者の方から挑戦者に対し宣戦布告を行いました!今まで実況を通して彼女の試合を何度も見て来ましたけど、こんな事は初めてではないでしょうか!?挑戦者はコレにどう答えるのか!?』


 ……肌がピリピリとする様な殺気を放ち始めたソフィの言葉に嘘も冗談も混じっていない事を本能で感じ取った俺は、実況や歓声が遠くから聞こえる様な錯覚を覚える中で思わず自然と笑みが零れていた。


「いやはや、誠実と言うか何と言うか……王者の座を半年間も護り続けて来たお前にそんな事を言われるとマジで恐怖心しか感じないんだが……だからって、俺としてもここまで来ておいて逃げ出すつもりは無い。だから……お前を倒すよ。必ず。」


「……ありがとう。」


「ふふっ、感謝を言うにはまだ早いんじゃないかな?その言葉は、君から王者の座を奪った後に聞かせてもらうよ。」


「……それは難しいと思う。だって、私は負けないから。」


「おぉおぉ、こりゃまた凄い自信だなぁ……アレだけ大口を叩いておいて何だけど、マジでちょっと降参宣言したくなってきた気分なんですけど……」


「九条さん、大丈夫。今回は一人で戦う訳じゃないんだからね。背中は私に任せて、貴方はソフィを倒す事だけを考えるんだ。」


「……了解。本当、頼りになる仲間だ事で……よしっ、行くぞ!」


「うん!」


『さぁ!泣いても笑ってもコレが最後の試合となりました!王者はその座を守り切る事が出来るのか!?それとも挑戦者が新たなる王者となって君臨する事になるのか!皆様!歴史的瞬間が訪れるかもしれないこの一時から目を離さないで下さい!では、試合開始です!!』


 その宣言と同時に鳴り響いた大音量のブザーを耳にしながら武器を握り締める手と全身に力を入れた俺とロイドは、目の前に居る少女の願いを叶える為に最後の戦いに挑む事になるのだった!

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