第34話

「いててて……少しは手加減ってものをしてくれよな……」


「ふふっ、それは無理な相談というものだね。さてと、それでは動けない九条さんはこのままにして納品作業を始めて行こうか。リリア、ライル、やり方は分かる?」


「はい!バッチリお任せ下さいませロイド様!」


「私も問題ありません。九条様、しばらくここで待っていて下さいね。」


「うん、迷惑かけて悪いけどよろしく頼んだ。」


 軽く手を上げながら焼け焦げたボスの方へ向かって行く皆の姿を眺めていた俺は、あんな無茶をしてよく生き残れたもんだとホッと胸を撫で下ろしていた。


(ご主人様、体調はどうですか?まだお辛いですか?もしアレでしたら私が外に出て看病をしてまげますよ!)


(いやいや、それだとリリアさんとライルさんを驚かせる事になるだろ。俺は大丈夫だからそこまで心配しなくても良いよ。怪我だって泣きたくなる様な思いをして治療されたばかりだし、体力の方も少ししたら戻って来るだろうからな。)


(むぅ、それなら良いんですけど……今日は家に帰ったら安静にしていて下さいね。晩御飯は私が作りますから。)


(おう、面倒掛けてごめんな。)


(えへへ、良いんですよ!だって私はご主人様の暮らしをサポートする為の妖精さんなんですから!)


(ははっ、そう言えばそうだったな。だったらとことん甘えさせてもらうよ。)


(えぇ、お任せ下さい!)


 頭の中でマホとそんなやり取りをしてると、ボスの納品を終わらせた3人が揃って焦げの付いた宝箱に近付いて行くのが見えた。


「ふむ、下手に触ると火傷してしまいそうな熱気を感じるね。ライル、すまないけど魔法で宝箱を冷やしてくれるかな?」


「わ、分かりました!少しだけ待っていて下さい。」


 ロイドに頼まれて嬉しかったのか少しだけ上ずった声で返事をしたライルさんは、両手で握りしめた杖の先を宝箱に向けてこっちにまで伝わってくる冷気を放って熱を下げ始めた。


「……うん、これぐらいで良いだろう。リリア、コレを九条さんの所に運びたいから手を貸してくれるかい?」


「はい!勿論ですわロイド様!では、私はこちらの方を持ちますので!」


「了解、私はこっちだね。いくよ、せーの!」


 恐らくそこまで重量は無いだろうが2人は息を合わせて宝箱を持ち上げると、俺の方へとゆっくり運んで来てくれた。


「ふぅ、ありがとうねリリア。それとライルも助かったよ。」


「いえ!ロイド様のお役に立てたのなら何よりですわ!」


「え、えへへ……」


「ふふっ、それでは九条さん。早速だけど宝箱の中を確認してみようか。」


「あぁ、アレだけ苦労したんだらそれに見合った物が入ってると良いんだけど……」


 大きな期待と少しの不安を抱きながら宝箱の蓋に触れた俺は、静かに深呼吸をしてからそれを開けていった。


「うわぁ……!綺麗な宝石が沢山入っていますね!」


「えぇ、コレがボスを倒した報酬……という事でよろしいのでしょうか?」


「うん、かなりの量があるからそれなりの報酬になるはずだよ。」


「そうだな。斡旋所に戻って換金するのが楽しみだ。それじゃあ全員で分けていくとしますかね。」


「いえ、分ける必要はございませんわ。」


「えっ、何でだ?」


「今回、ボスの討伐に一番貢献したのが九条様である事は皆が認めている所ですからこちらの宝石類は九条様がお受け取り下さいませ。」


「えっ、いや流石にソレは……ボスは全員で協力して倒したんだぞ?それなのに、俺だけが宝石を貰う訳には……」


「大丈夫ですわ。こんな事を言うと気分を害されてしまうかもしれませんが、私達はお金に困っている訳ではございませんから。」


「ふふっ、これでも一応は貴族のご令嬢だからね。」


「あ、あはは……そういう事なので、どうぞ貰ってしまって下さい。」


「……ありがとうな。それじゃあ遠慮なく頂くとするよ。」


 皆の厚意に感謝しながら宝石類をポーチに仕舞った俺は、そろそろダンジョンから脱出しようかと考えたいたんだが……


「あっ、そう言えばコレって俺とリリアさんの決闘だったな……」


「……そうだったね。すっかり忘れてしまっていたよ。」


「……って事は、今回の勝負は俺達の負けって事になるのかねぇ。」


(そ、そんな!それじゃあロイドさんが!折角結成したギルドが!)


(マホ、勝負は勝負だ。残念だけど……)


「はぁ~……ヤレヤレですわね。」


「えぇ、本当に何を言ってるんですかって感じです。」


「……へ?」


 優しく微笑んでいるライルさんと腕を組みながらいかにも呆れていますと言う顔をしているリリアさんに見下ろされて、何が何だか分からずに首を傾げていると……


「九条様、私達をバカにしないで頂けますか?我が身の危険をかえりみずにボスを討伐した九条様を差し置いて勝利を収めるなど私のプライドが許しません!という事で、私もここに残り九条様をお護りいたします。そうですわよねライルさん。」


「はい。もう勝負がどうこうという話ではありません。」


「いや、しかしそれでは……」


「ロイド様、その件につきましては街に戻ってからという事に致しませんか?まずは九条様の為にもダンジョンを離れるべきかと思います。」


「…………ふふっ、まさかリリアがそんな事を言い出すだなんてね。今朝の様子からでは想像も出来ないよ。」


「わ、私も色々と思う所があったという事ですわ!は、恥ずかしいのであまり追及はしないで下さいませ!」


「了解、そうと決まれば長居は無用だ。九条さん、歩けそうかい?」


「あぁ、何とかな……ただ戦闘ってなるとキツイかもしれねぇな。」


「分かった。それなら私とリリアが前を歩くから、ライルは後方で私達のサポートをお願い出来るかな?」


「は、はい!九条様、ツラかったら何時でも仰って下さいね。」


「おう。」


「おーっほっほっほ!それではいざ!街へ戻りまわよ!」


 その後、ボス部屋を後にした俺達はダンジョン内に残っていたモンスターと戦闘をしながら外に出ると歩いてきた道をそのまま戻り始めるのだった。


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