第33話

 心の準備をする間もなく始まってしまった戦闘に驚きのあまりどう行動すれば良いのか迷ってしまっている俺達を他所に、ボスはそんな事はお構いなしに巨大な両腕を勢いよく振り上げてこっちに向かって振り下ろしてきた!


「っ!!」


 ギリギリの所で俺とライルさん、ロイドとリリアさんはそれぞれ別の方向に大きく飛び退いて攻撃を避けられたが腕が振り下ろされた場所にはバカでかい穴が生まれてしまっていた!


(ちょ、ちょっと!あんなの食らったらひとたまりもありませんよ!?)


(ンな事は言われなくても分かってるよ!) 


「九条さん!そっちは無事かい!?」


「あぁ!問題はない!それよりも気を付けろ!次の攻撃が来るぞ!」


 俺とロイドが互いの無事を確認した次の瞬間、ボスの全身からツタみたいな植物が大量に伸びてきて一斉に俺達へ襲い掛かって来た!


「ライルさん!魔法で援護を頼む!」


「は、はい!」


「リリア!」


「承知致しました!」


 息の合った動きでツタを斬っていくロイドとリリアさんを視界の端で確かめながらライルさんの風魔法による身体能力の強化を受けた俺は、彼女に植物が届かない様にただひたすらにブレードを振り回し続けた! 


(ほらご主人様!上から来ますよ!次は右!あぁ左からも!)


(クソッ!こんだけ相手の手数が多くちゃ反撃する隙が見えてこねぇ!)


 ツタの動き自体は単調だから対処をする事は難しくはない!だが、どれだけツタを斬り落としても次から次へ新しいのが襲い掛かって来るからこのままだと押し負ける展開になっちまうのは火を見るよりも明らかだ!それなら……!


「ロイド!リリアさん!ライルさん!一瞬だけで良い!ボスの注意を引き付けて俺が動ける隙を作ってくれ!」


「っ!何か策を思いついたのかい!?」


「あぁ!とっておきのヤツをな!」


「分かった!2人共、頼む!」


「かしこまりましたわ!」


「わ、分かりました!」


(ご主人様!一体何を思いついたって言うんですか?!)


(ハッ、簡単に行っちまえばボスをぶっ倒す方法だよ。)


(えっ!?ほ、本当ですか?!)


(こんな時に嘘なんて言う訳ねぇだろ!……そろそろアイツの動きを把握出来たから仕掛けるなら今しかない。皆の体力と魔力が尽きる前にケリを付けるっ!その為にはまず最初に……!)


 ブレードの持ち手を強く握りしめて身を低くした俺は、全神経を集中させて歩みを前に進めながらこっちに伸びて来ているツタを一気に斬り落としていった!


 そんな俺の動きを見逃さずに援護魔法を解除させたライルさんは、空中に魔法陣を無数に発生させるとそこから鋭い風の刃を出してボスの全身を切り刻んだ!


 ロイドとリリアさんも合わせる様に斬撃を繰り返してツタの攻撃を止めた後、風の魔法を放ってボスに攻撃を加えていった!


「うおおおおおおおっ!!!!!」


 そうして生み出された数秒にも満たないチャンスに身を任せて地面を蹴って空中に飛び上がった俺は、勢いそのままにボスの背中にブレードの刃を突き立ててやった!


「なっ!九条さん!?」


(ご、ご主人様?!一体何をしているんですか!?)


(はっはっはっ!何をしてるって決まってんだろ!とっておきの策ってやつだよ!!)


 ニヤリと笑いながら力任せにブレードを押し込んでいくと、剣先にガツンっと固い物が当たる感触が伝わって来た!けど……!


「チッ!意外と深い所にあんのかよ!これじゃあ……!」


(ご主人様!危ない!)


「ぐふっ!!?」


 腹部に何かを薙ぎ払わう様にぶち当てられてボスの体から強制的に離れさせられた俺は、その姿勢をどうこうする事も出来ないまま地面に!


「えーいっ!」


「うおっと!?ぐへっ!」


「あっ!だ、大丈夫ですか九条さん!」


「あ、あぁ……助かったライルさん……魔法で衝撃を抑えてくれたおかげで、あまり痛い思いをせずに済んだよ……」


「それなら良かったです!」


「九条さん!」


「九条様!」


「2人共……悪いな、格好付けた癖にこんな様で……」


「いや、謝る事は無いよ。それよりも教えて欲しい。どうしてあんな無茶を?」


「そうですわ!一歩間違えば大怪我では済みませんでしたわよ!」


(ですです!詳しい説明を求めます!)


「あーはいはい!簡単に説明するとボスのコアである宝箱をぶっ壊そうとしたんだ!でも微妙に剣先が届かなくて……って、お喋りはここまでだ!次の作戦に移るぞ!」


 体が絶妙に痛いが大人として男としてこいつ等の前で情けない姿は見せられねぇ!そう自分に言い聞かせてボスの方を見てみると、様子がさっきまでと変わっていた!


「ど、どういう事でしょう?何だか苦しんでいるみたいな……」


「……ふふっ!どうやら九条さんの無茶が上手くいってくれたみたいだね!」


「あぁ、どうやらコアを傷付けられてヤツの再生機能が働くなったみたいだな!コレなら……!ロイド!お前は前からヤツの体内にある宝箱を貫け!リリアさんとライルさんはここで援護魔法を!俺は背中に突き刺さってる刃を更に押し込んで来る!」


「そんな!?ソレはあまりにも無謀というものでは?!」


「ははっ、そうだろうな。でも、この状況から逃げられないだろ?だったら無謀でも何でもやるしかないんだよ。」


「……っ……」


「……そんな不安そうにしなくても大丈夫。死ぬ為に行くんじゃない。全員で生きて帰る為に全力を尽くすんだ。だからリリアさん、援護はよろしく頼んだぞ。」


「……分かりました。後ろは私とライルさんにお任せ下さいませ!」


「おう!皆、準備は良いか!」


「勿論!」


「何時でも行けますわ!」


「全力でサポートします!」


「よしっ、それじゃあ行くぞ!」


 掛け声と同時に全身が風の魔法で包まれて体が軽くなるのを感じた俺とロイドは、迎撃の為に伸びて来たと思われるツタを斬り裂きながらボスに急接近していった!


「九条さん!」


「あぁ!」


 なりふり構わない感じで振り払われた巨大な植物の腕を避けながらロイドと別れてボスの背後に回り込んだ俺は、再び背中に飛び乗ると全体重を掛けて刃を更に奥へと押し込んでいくのだった!


「よし!これで倒せたはず……うわっ!」


 固い物を貫いた感触が2重に伝わって来て勝利を確信した次の瞬間、ボスが方向を上げながら天を仰ぐ様にしながら体を折り曲げやがった!?


 マズいと思って咄嗟にボスから離れようとした俺だったが、大量のツタが足に絡み付いてきてそのまま俺の全身に巻き付いてきやがった!!


(ご主人様!早く抜け出して下さい!)


(そ、それが出来たらとっくにやってる!足に絡まった触手のせいで身動きが……!仕方ねぇマホ、お前は先に避難してろ!)


(え!?ご主人様、何を言って!?)


「ロイド!!悪いがコイツを預かっといてくれ!」


「うわっ!九条さん!?」


 一足先にボスから離れていたロイドの姿を視界に捉えていた俺は、ポーチの中からスマホを取り出すと完璧に投げ渡す事に成功した!


(ご主人様!駄目です!私も一緒に)


 強い力で引きずり込まれる様な感覚を味わった直後に頭の中に聞こえてきたマホの声が届かなくなり、とてつもない脱力感に襲われ始めた……!


「は、はは……なるほど……こうやって俺を養分にでもするつもりか……だけど……この程度でやられる程、ヤワじゃねぇんだよ……!」


 歯を食い縛りコアとなる宝箱からブレードを強引に引き抜いた俺は、刃が刺さっていた箇所に右手を添えると全身の魔力を一気に練り上げていき……!


「やっぱり草系のモンスターには……炎の魔法を使わないとダメだよなぁ!」


 ニヤリと笑いながら今ある全ての力を振り絞って宝箱の中に爆炎を出現させると、俺の全身に巻き付いていたツタの力が更に協力になってきた!が、そんな事はお構い無しに攻撃を続けていると今度はボスが全身を震わせながら断末魔が聞こえてきた!


「テメェの運の尽きは俺を体内に取り込んだ事だ!こっちはボスを殺すなら油断せず徹底的にヤレって学んだばかりなんだよ!このまま一気に灰となりやがれ!!」


 宝箱の中が赤く燃え広がっていくのを目にしながらギリギリ締め付けてくるツタに何とか耐えていたその時、いきなり首根っこを力強く引っ張られる感覚が!?


「ぐうぇっ!!」


 何とも情けない声を出しながらボスの体外に無理やり引っ張り出されていた直後、俺が目にしたのは体の内側から燃えているボスの姿だった!


「ハアッ!」


 そして次に見えたのは、俺を再び捕まえようと伸ばしてきた幾つものツタを華麗に切り捨てるリリアさんの姿で……それからしばらくした後、静かになったボス部屋に残っていた物は真っ黒になった巨大な植物の塊と熱々の宝箱だけだった。


「……ふぃ~……どうにかボスを倒す事が出来たみたいでぇっ!!?」


 地面に座りながら安堵のため息を零していたら背後に立っていたロイドが俺の頭に思いっきり拳骨を落としてきた!?


「……九条さん、何か言いたい事はあるかな?」


「す、すみませんでしたぁ!」


 私、凄く怒っていますという感情をメチャクチャ含ませた笑顔を浮かべるロイドと目が合った俺は気付いた時には瞬時に土下座をかましていた訳なのさ!


(ご主人様!もう!本当に……本当に心配したんですからね!う、うぅ……いきなりボスに取り込まれちゃうし、私の声も届かなくなっちゃうしで……!どうして良いか分からなくてすっごく不安だったんですから!!)


(は、はい……申し訳ございませんでした……!)


 頭の中でもマホに対して深々と土下座をしながら謝罪をしていると、リリアさんとライルさんが俺達の方へゆっくりと歩み寄って来た。


「あ、あの……大丈夫ですの?先程ロイド様に思いっきり殴られていましたが……」


「ま、まぁ、自分のせいだから全然大丈夫だよ……っとと……」


「あっ、動かないで下さい九条さん。すぐに回復魔法を掛けますから!」


「いや、魔法は必要ないよライル。九条さんにはこの痛みを感じて貰って少し反省をしてもらわないといけないからね。」


「えっ、そのぉ……出来れば火傷だけでも回復してもらえると助かるんだが……」


「ふむ、それなら九条さんが持っている傷薬を火傷跡に塗ってあげるよ。」


「いや!ちょっと待って!あの傷薬って結構染みるから魔法の方が良いんですが!」


「なーに遠慮する事はないよ。火傷が辛いんだろう?私がきちんと手当てをするからジッとしていてね。」


「ジ、ジッとしてろってそもそもボスのせいで体に力が入らなくて……あっ、違う嘘だから!そんな事は無いから自分で塗れるから!あ、あ、あああああああ!!!!」


 ニコッと微笑みかけてきたロイドに火傷した所を問答無用で治療された俺は、もう2度とあんな無茶な真似はしないと強く強く心に誓うのだった……!うぅ………

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