第28話

 翌日、あくびを噛み殺しながら目を覚ました俺は歯を磨きシャワーで寝汗を流してからリビングへ足を運ぶとちゃちゃっと朝飯作りに取り掛かった。


 それからしばらくしてマホとロイドが揃って起きてきたので、たった一晩でよくもまぁこんだけ仲良くなれたもんだなと思いながら俺は料理を盛りつけた料理を食卓の上に並べていった。


「……いただきます。」


「「いただきます。」」


「……うん、昨日に引き続きこんなに美味しい朝食を頂けるとは嬉しい限りだね。」


「いや、そんなに言われる様なもんじゃねぇだろ。ほとんど手抜きだぞ。パンとかも買ってきたやつをそのままバスケットに入れてるだけだしな。」


「ふふっ、謙遜する事はないよ。パンはそうかもしれないけれど、それ以外の料理は九条さんが作ってくれたものだろう?」


「そりゃまぁ……そうだけど……」


「えへへ、ご主人様は褒められ慣れていないので照れているだけなんですよ。」


「おや、そうなのかい?それはそれは、可愛らしい所もあるんだね。」


「か、かわっ!?おまっ、人をからかうんじゃねぇっての!こんなおっさんを相手に可愛いにもねぇだろうが……アホな事を言ってないでさっさと食っちまえ。この後は加工屋に武器を受け取りにいかなけりゃならねぇんだから。」


「はいはい、分かったよ。」


「ご主人様、どんな武器が仕上がっているのか楽しみですね!」


「あぁ、とりあえず使い勝手の良いヤツが出来上がってると助かるんだけどな。」


 そう言ってパンをひとかじりしてから十数分後、我が家を後にした俺達は加工屋の娘さんと挨拶を交わして武器を受け取る手続きを始めたんだが……


「もう、九条さん!来るのが遅いよ!仕上がるのは昨日だって伝えてたのに!」


「いやー悪いな。昨日は闘技場に行ったりギルドを組んだりと色々あってここに来る暇が無かったんだよ。」


「ぶぅー……ってそうだギルド!ロイドさん、九条さんとギルドを組んだんですね!ちょっとした噂になっていましたよ!」


「おや、昨日の今日なのにもう噂になっていたのかい?」


「うん!ロイドさんってば有名人ですから!特に女の子の間で!九条さん、そんな訳だから夜道には気を付けた方がいいよ~?」


「……恐ろしい事をサラっと笑顔で言わないで欲しいんですが……つーか、そろそろ俺が依頼して作成してもらった武器を見せてもらっても良いか?」


「あっ、ゴメンゴメン!すぐに持ってくるからちょーっと待っててね!」


「……やれやれ、朝っぱらからあのテンションは疲れるなぁ……」


「ふふっ、元気に溢れてる素敵な女性だよね。」


「はい!話をしていると、こっちまで元気になっちゃいますよね!」


「はぁ、俺にとっちゃ元気過ぎて困りもんなんだけどな……」


 これまでの人生を陰キャとして生きてきた俺とはあまりにも対照的すぎる娘さんに精神力をゴリゴリ削られてしまい、ちょっともう我が家が恋しくなってきた……


 なんて事を考えながらしばらく待っていると、娘さんが縦長でそれなりの大きさがある黒色のケースを抱えて戻って来た。


「はいお待たせー!コレが依頼されてた品物だよ!絶対に気に入ると思うから、早く確認してみて!」


「分かった!分かったからグイっと顔を近づけて来るんじゃない!なんか何処かからメチャクチャ怖い圧みたいなものを感じるから!!」


 距離感がバグっている娘さんに少しだけ動揺させられたりはしたがギリギリ平静を保てた俺は、ケースに掛かっていた鍵を外すとゆっくり上蓋を開けていった。


「……おぉ、こりゃあ……良いなぁ。」


「うん、細部にまで強いこだわりを感じるよ。刀身も美しいね。」


「へへっ、そうでしょそうでしょう!ウチの親方が作り上げた最高の一品だからね!ほら、早く持ってみて!」


「あ、あぁ…………凄いな、初めて持ったのにメチャクチャ手に馴染む……少しだけ重量は感じるけど、体が振り回されるって程じゃねぇな。」


「当然だよ!使用者に迷惑を掛ける物は作らないってのがウチの信条だから!それでどうかな?気に入ってくれた?ショートブレードの方も軽さが違うだけで手に馴染む感じは一緒だと思うよ!」


「ははっ、ありがとうな。素直にここへ依頼して良かったって思ってるよ。」


「それなら良かった!あっ、実は他にも投げナイフを幾つか作ったからそれも貰ってくれる?」


「えっ、そんなのまで作ってくれたのか?じゃあ料金は……」


「大丈夫!こっちが勝手にやった事だからお代は要らないから!っと、お嬢さんにはアクセサリーだったよね!はい、どうぞ!」


「うわぁー!ありがとうございます!……綺麗ですねぇ……」


「ふむ、三日月の形をしたネックレスか。マホ、付けてあげようか。」


「あっ、はい!お願いします!」


「ふふっ、了解しましたお嬢様。それでは後ろ、失礼するよ。」


 鞘に収められた長さの違う2つのブレードを腰に差して投げナイフを用意されてた専用のポーチに仕舞い込んだ俺は、すぐ隣でネックレスを付けてもらっているマホの様子を横目で見ていた。


「はい、こっちを向いて……うん、良く似合っているよ。」


「えへへ、本当ですか?おじさん、どうですかね?」


「……まぁ、悪くはねぇんじゃないか。」


「そうですか?そうですか!?えへへー!」


 首から掛けられたネックレスを手に持って眺めながらニヤニヤとしてるマホの事を見ながら小さく肩をすくめた俺は、隣に立っているロイドの方に視線を向けた。


「そう言えばロイド、さっきのやり取りを聞いてて思ったんだけど2人って知り合いなのか?」


「あぁ、知り合いと言えばそうなるのかな。実は、私が扱っている武器もここで加工してもらった品なんだよ。」


「へぇーそうだったのか。お前の事だから王都にある超高級な店とかに頼んで武器を作ってもらってるのかと思ったよ。見るからに高そうだからな。」


「うんうん、九条さんがそう思っちゃうのも仕方ないよ。だってロイドさんの武器は使われている素材がどれも滅多に手に入らない一級品レベルの物だからね。斬れ味は抜群で強固な皮膚を持ったモンスターだって一刀両断にしちゃうんだから!」


「ふーん……となると、値段の方も一級品レベルのもんになるんだろうな。」


「まぁそうだねぇ。大きい声じゃ言えないけれど、小さな家だったらポンっと買えるぐらいの値段はするかな。」


「お、お家がですか!?そ、そんなに……」


「ふふっ、自分が命を預ける武器を作成しようと思ったらそれだけの値段がしてね。高かったけど後悔はしていないよ。むしろ大満足の仕上がりさ。」


「ありがとうございます!そう言って頂けると、気合を入れて武器を作成した親方も喜んでくれます!さてと、皆さん今日は他にご用件はございますか?」


「いや、今日の所は特に用事はないな。」


「了解!それでは皆さん、またのご来店をお待ちしておりますね!九条さん、武器の感想を今度聞かせてね!」


「はいよ、それじゃあまたな。」


 娘さんに見送られて加工屋を後にした俺達は、トリアルの大通りまで戻って来るとそのまま斡旋所に向かって行く事にした。


「九条さん、今日は討伐クエストをこなしていくんだよね?だったら少し歩く事にはなるけれど、森の方に行ってみないかい?そうすれば、採取系のミッションも同時にクリアする事が出来ると思うんだ。」


「あー……確かにそうかもなぁ。よしっ、そうと決まれば森に関するクエストが張り出されてるかどうか確認してみるか。」


「はい!おじさん、ロイドさん、気を付けて頑張って下さいね!」


「おう、この新武器の斬れ味を試せるモンスターが現れてくれると良いんだがな。」

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