第27話
予想外の苦労をさせられたが何とかパーティーに使う食材を買い揃えた後、俺達は身支度を整えてから再集合する約束をして自宅前で解散をした。
そして我が家に帰って来た俺とマホは本棚から料理本を幾つか引っ張ってくると、2人で協力をしながら慣れない手付きで料理の仕込みを開始するのだった。
「……ふぅ、とりあえずこんなもんかな。マホ、そっちはどんな感じだ?」
「バッチリです!……でも、結構な時間が掛かっちゃいましたね。」
「あぁ、気付いたらもう日が暮れ始めてるしなぁ……っと、どうやら招待客がご到着したみたいだ。悪いマホ、出迎えてやってくれるか?」
「はーい!それじゃあ行ってきますね!」
元気に返事をしてからリビングを小走りで出て行ったマホが玄関の扉を開ける音が聞こえてきたそのすぐ後、今度は何かに驚いたかの様な声がこっちまで届いてきた?
「うわぁ……!ロイドさん!その服、とっても可愛くて素敵ですね!」
「ふふっ、ありがとうマホ。君が着ている服はさっき買ってきたヤツだね。そちらも凄く似合っているよ。」
「えへへーありがとうございます!ではロイドさん、どうぞこちらへ!」
「うん、それではお邪魔します。」
鍋を軽くかき回しながら近付いて来る2人の足音に耳を傾けていると、リビングと廊下を隔てている扉が開かれてマホに連れられてロイドが姿を現したんだが……
「お、おぉ……ロイド、お前そんな服も持ってたのか。」
「ふふっ、あまり着る機会は無いけどね。どうだい、似合っているかな?」
見慣れた甲冑姿ではなくてゆったりとしたお嬢様が着る様なワンピース姿で微笑みかけてきたロイドに一瞬ドキッとさせられたが絶対に悟られたくなかった俺は!……へ、平静を保ちながら余裕のある大人らしい対応を取る覚悟を決めた……!
「ま、まぁ悪くはねぇんじゃないか?うん……似合ってると思うぞ。」
「ありがとう、気に入ってくれたのなら何よりだよ。こういった格好を見せる異性は父以外では九条さんが初めてだったから少し不安だったんだけど、そう言って貰えて安心したよ。」
「ふふーん、やるじゃないですかご主人様!」
「いや、何をだよ……それよりもほら、ロイドを席に案内してやれ。俺は完成してる料理を皿に盛ってくから。」
「はい、分かりました!ロイドさん、こちらの席にお座り下さい。」
「うん、それでは失礼するよ。」
マホの引いた椅子にロイドが腰を下ろすのを横目に見ながら出来上がってる料理を皿に盛りつけてった俺は、こっちに来たマホと協力しながら食卓の上にそれ等を次々並べていった。
「へぇ、どの料理も凄く美味しそうだね。」
「ははっ、見た目だけ良くても実際お嬢様の口に合うかどうかはまだ分からんが……さてと、それそろささやかなギルド結成を祝いパーティーを始めるとするか。」
「えぇ!それではー……いただきます!」
「「いただきます。」」
異世界であろうと共通だった挨拶をして手を合わせてから、俺達は皿に盛られてる料理に手を伸ばしていった。
「うわぁ!何だかもう、ほっぺたが落ちちゃいそうなぐらい美味しいですね!」
「ふふっ、コレは素晴らしいな。実家のシェフが作る料理にも負けない味だよ。」
「いやいや、流石にそれは言い過ぎだっての。でもまぁ、ありがとうな。そう言ってもらえると作った甲斐があるってもんだ。」
とりあえず料理の方は成功したみたいでホッと胸を撫で下ろしながら何て事もない会話を楽しんでいった俺達は、それなりに用意をしてあった料理を全て食べ終えると片付けもそこそこに斡旋所で渡されたタブレットをテーブルの上に持ってきた。
「えへへ、それではこれより明日からの行動方針を話し合いましょうか!そっち方がきっと動きやすくなりますからね!」
「うん、私達はまだギルドを結成したばかりだからね。互いの事を知っていく為にも共通の目標みたいな物は必要になるだろう。」
「だな……とは言え、やる事はもうほとんど決まっている様なもんだな。明日からはとりあえず斡旋所から出されるミッションをこなしていくって事で良いんだろ?」
「そうだね、異論は無いよ。」
「よしっ、そうと決まればちゃっちゃと確認してみるか。」
タブレット横にある電源を入れて画面を付けた俺は、ミッション項目と書かれてる部分をタッチして飛ばされたページに表示された文字を目で追っていった。
「……何だか色々とありますね。基本的にはコレをクエストと一緒にこなしてくって事になるんでしょうか?」
「多分そんな感じだろうな。で、この横に書いてあるのが残り日数でこの期間以内に終わらせれば追加で報酬が貰えるって事なんだろ。」
「うん、貰える報酬は様々みたいだね。Gだけじゃなくて新規冒険者では入手困難であろう素材もあるみたいだ。ほら、コレなんて王都でしか買えない物だよ。」
「はぁ……それなりに力が入ってるんだなぁ……」
……って、今ロイドが王都とか言ってたのが聞こえたけど、この世界には王様とかそういう存在がいるって事か?まぁ、こんな世界観だから居てもおかしくはねぇか。
「……ふーん、討伐系のミッションの報酬は金銭的なもんが多いらしいな。」
「採集系ミッションの報酬は傷薬とかだね。自分で買うとなるとそれなりに値が張るからお得と言えばお得なのかな。」
「うーん、こうして見ていると何をするのか悩んじゃいますねぇ。」
「あぁ、でもここはレベル上げも兼ねて討伐系のミッションをやってくのはどうだ?せめてトリアル周辺に出現するモンスターに苦戦しない程度に強くならねぇとな。」
「ふふっ、確かにね。今のレベルとステータスでは、トリアルから離れるのは難しいだろうからレベル10ぐらいを目安に頑張っていこうか。」
「おう。っと、そう言えばロイドって今のレベルはどれぐらいなんだ?ダンジョンでボスを倒したから少しは上がったのか?」
「うん、そうだね。あの後に確認してみたんだが私のレベルは6になっていたよ。」
「へぇ、だったらトリアルで発注されてるほとんどのクエストは受けられるな。」
「えへへ、それと合わせてご主人様が今まで出来なかったパーティーを組む事が必須だったクエストも出来ますよ!」
「……うん、そうだけどソレを今デカデカと言う必要がありましたかねぇ……って、そうだ!悪いロイド、明日はクエストに行く前に加工屋に寄っても良いか?頼んでた武器がそろそろ出来上がってるはずだからさ。」
「あぁ、それは構わないよ。けど、武器の加工を依頼していたんだね。もしかして、ボスの素材を使用して?」
「まぁそんな感じだ。今まで使ってた武器は大量生産された安物で刃がダメになっちまってたからな。そのせいでボスとの戦いもヤバい目に遭ったから、反省して早急に依頼をしたって訳だ。」
「なるほどね、それでは明日はまず加工屋に九条さんの武器を取りに行こうか。」
「えへへ!どんな感じに仕上がっているか楽しみですね!ご主人様!」
「おう、それなりに苦労して手に入れた素材で作られた武器だからな。少しだけだが年甲斐もなくワクワクしてるよ。」
そんなやり取りをしていたらあっという間に時間は過ぎていき、気が付いた時には綺麗な満月と星々が見える時間帯になってしまっていた。
「九条さん、マホ、今日は美味しい食事をありがとう。とっても楽しかったよ。」
「ははっ、貴族のご令嬢の口にあったのなら何よりだよ。」
「ふふっ、それでは私はそろそろ失礼しようかな。2人共、また明日。」
「はい!それではまた……あっ、そうだロイドさん!もし良かったら今日は泊まっていきませんか?」
「え?」
「……は?」
「私、ロイドさんともっと仲良くなる為に色々な事をお喋りしてみたいんです!……ダメですか?」
「マホ……そんな寂しそうな顔をしないでくれ。私もマホともっと仲良くなりたいと思っているからね……九条さん、どうだろうか?ご迷惑でなければその……」
「やれやれ、お前もそんな顔をすんなっての。ウチには客室がそれなりにあるから、別に迷惑だなんて事はねぇよ。ロイドが構わねぇってんなら泊まってけ。」
「っ、ありがとう!それでは、そのお言葉に甘えさせてもらおうかな。」
「わーい!それじゃあロイドさん!今日はいーっぱいお喋りしましょうね!」
「うん、そうだね。」
大はしゃぎをしているマホと爽やかな笑みを浮かべているロイドを横目に見ながら頬杖をついた俺は、静かにため息を吐き出すのだった。
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