第29話

 今日も今日とてそれなりに繁盛してる斡旋所にやって来た俺達は、掲示板を見上げながら良さげなクエストがないかを探していた。


「さてと、森って言っても範囲としてはかなり広いからなるべく遠出しなくても良いヤツがあれば良いんだけど……」


「ふむ……九条さん、それならばこのクエストはどうかな?難易度が低いから報酬はあまり高額ではないが、この周辺は採取出来る素材が色々とあるんだよ。」


「へぇーそうなのか?よくそんな事を知ってるな。」


「ふふっ、女の子達を危険な目に遭わせずそれなりに達成感の持てる様なクエストが出来る場所をよく探していたからね。」


「あー……そういう理由か……まぁ良いや、ちょっとソレ見せてくれ。」


「うん、どうぞ。」


 掲示板から剥がされた一枚の用紙をロイドから手渡された俺は、クエストの詳細を確認していった。


「えっと、討伐対象になってるのは……食人草か……確か森の中に生息していて迷い込んだ人間をパクリとしちまう危険なモンスターだっけか?」


「あぁ、他にも食べたばかりの人間の顔が体に浮かび上がってくるなんて事も言われているね。」


「う、うぅ……何だか怖いですね……」


「ふふっ、大丈夫だよマホ。このモンスターは動きが遅いからよっぽどウッカリしていないと食べられる事はないからね。ただ注意すべき点が1つだけあるんだが、このモンスターは常に複数匹で行動しているんだ。」


「ふーん……って事は、不意を突かれない様に気を付けて戦わなきゃならん訳か。」


「うん。足元には要注意ってね。」


「了解。それじゃあこのクエストを受けるとするかね。コイツ、納品するとかなりの額になるみたいだし。」


「えっ、そうなんですか?」


「あぁ、以前ここら辺に出現するモンスターの情報を調べた時にそれらしい事が確か書いてあったはずだぞ。何でもコイツからは傷薬を作る為の素材が採れるとか。まぁ今となっちゃその素材は普通に栽培されてるから希少価値は低いっぽいけどな。」


「なるほど、だから報酬もそんなに貰える訳じゃないんですかね?」


「多分な。さてと、それじゃあクエスト申請してくるから先に外で待っててくれ。」


「うん、分かった。マホ、行こうか。」


「はい!」


 そんな感じで今日の目的でもあった討伐クエストを受ける事にした俺達は、装備の見直しを軽く行ってからトリアルを離れて平原の向こう側に広がっている森の方へと歩いて行くのだった……マホは念の為、スマホの中に戻ってもらった。


「……いやぁ、それにしても今日は良い天気だなぁ……ほら、あっちを見てみろよ。冒険者達が元気にモンスターと戦ってるぞ。」


「ん?確かにそうだね。けど、急にどうしたんだい?」


「あぁいや、黙ったままってのもアレだから無理やり話題を振ってみた次第だ……」


「ふふっ、そうだったのかい?気を使ってくれてありがとうね。うん、今日は本当に良い天気だ。これならピクニックでもしたい気分だよ。」


(あっ、良いですね!私もしてみたいです……でも、モンスターに襲われる危険性がありますからそういう訳にはいきませんよね……)


「まぁ、のんびりしてて後ろからガブッとやられたらたまらねぇからなぁ。何処かにそういった事が出来る場所が有れば考えない事もないんだが……」


「九条さん、マホ、有るよ。そういう場所。」


「え?有るのか?ここら辺に?」


「うん、トリアルの正門がある位置は方角的に北側なんだけどその反対側。南側まで行けば雄大な景色が広がってるんだ。そこは身を潜める為の場所がほとんど存在していないから、モンスターの縄張りにもなっていないのさ。」


「はぁー……なるほどねぇ……だけどそこに行くまでが大変そうだな。」


「うん、だからピクニックをしようとする人はほとんど居ないんだ。」


(おぉ!つまりは人の目を気にする必要が無いって事ですね!ご主人様、コレはもう行くしかありませんよね!)


「……時間と金に余裕が有ったらな。それよりもロイドに1つ聞きたい事があるんだけどさ、正門から真っすぐ伸びてる街道ってやっぱり王都に行く為のものなのか?」


「うん、そうだよ。あの道を2日も歩けば王都に辿り着けるんだ。」


(えっ、2日も歩かなきゃいけないですか!?それじゃあ王都に用事がある人は移動するのが大変ですねぇ……)


「ふふっ、それがそうでもないのさ。きちんと王都行きの馬車があるからね。それを利用すれば夕方頃には到着するはずだよ。」


「ふーん、そんなのがあるなら何時か王都にも行ってみたいもんだな。」


(そうですね!どんな所なのか観光してみたいです!ロイドさんは王都に行った事はあるんですか?)


「あぁ、父親の付き合いで何度かね。本当に凄い所だよ王都は。大陸中から人と物が集まる中心地でもあるからね。初めて訪れた時はそのあまりの衝撃にしばし固まってしまっていたよ。」


「はぁー……そりゃまた凄そうだなぁ……」


 その後もロイドから王都に関する話を教えてもらいながら歩き続けていた俺達は、無事に討伐対象となっているモンスターが生息している付近まで辿り着いた。


「さてと、それでは捜索を始めるとしようか。情報では森に入ってすぐの辺りに居るという事だったよね。」


「おう、その情報が間違ってなければな……とりあえず警戒しながら進んでみるぞ。他のモンスター共も潜んでる事だろうしな。」


「了解。」


 草木の生い茂った森の中を慎重に進んでみると、やはりと言うか何と言うか当然の如く様々なモンスターが姿を現して俺達の邪魔をしてきやがった。


 まぁ、だからってそこまで苦戦させられる訳でもなく命懸けでボスと戦った俺からすればザコとしか呼べない様なモンスター達を討伐しては次々と納品していった。


「……よしっ、今日の収穫は中々じゃないか?目的のモンスターとまだ出会えてない事が残念で仕方がないが、こりゃそれなりの報酬が期待出来るかもな。」


「そうだね。スライムの体液は美容に使う薬液の材料となるからそれなりの値段にはなるだろうし、さっき討伐をしたモンスターから採れるお肉は美味しいと評判だから同じぐらいの値段で買い取ってくれるはずだよ。」


(あっ、ご主人様!お肉の方は夕食の材料として使いたいので受付で貰えるかどうか聞いて下さいね!)


「へいへい、分かってるよっとうわっ!?」


 マホの言葉を聞いて晩飯の献立を考えようとしたその時、いきなり右腕をグイっと引っ張られた俺は木の陰に倒れ込むようにして尻もちをついていた。


「ってぇ……おいロイド、いきなり何を」


「すまない九条さん。今は声を潜めてあっちの方を見てくれないか。」


「はぁ?………あっ、あいつ等は………」


「ふふっ、ようやく出会う事が出来たね。」


 不敵な笑みを浮かべているロイドの視線の先には全身が緑色でデカくて口しかない頭部と体をゆらゆらとさせているモンスターが3匹突っ立っていた。


「……よしっ、俺は右と真ん中をやる。ロイドは左をやれ。」


「分かった。それでは……行くよ!」


(ご主人様、ロイドさん!どうかお気をつけて!)


「おう!」


 素早く地面を蹴って木の陰から飛び出した俺は魔法を使ってモンスターを捕まえる様に竜巻を発生させて体の自由を奪い取ると、2匹の間を通り抜けながらそれぞれの腹と背中に一太刀浴びせて胴体を真っ二つにしてやった!


 そしてロイドもまた俺と同じ様に手にしていたブレードを左斜め下から振り上げてモンスターを斬り捨てるのだった。


「……うん、こんなものかな。周囲に他のモンスターはなし。クエスト達成かな。」


「あぁ、そうみたいだな。さてと、それじゃあ納品作業を始めるとするかね。マホ、手伝ってくれるか?」


(はい、了解しました!)


 その後、スマホの中から出てきたマホと一緒にモンスターの亡骸を納品していった俺は大きく伸びをしながら武器を鞘に仕舞うのだった。


「ふぅ、これで依頼は終わり。街に帰るとするか。」


「あぁ、流石にちょっと疲れてきたからね。まぁ、その成果としてレベルがまた1つ上がったから嬉しくもあるんだけどね。」


「うわぁ!そうなんですか!おめでとうございますロイドさん!」


「うん、ありがとうマホ。コレでまた強くなれたよ。」


「……って事はレベル7になったって事か。10になるには道のりが遠いなぁ。俺も人の事は言えんが。」


「ふふっ、気長にやっていくとしようじゃないか。ね。」


「えぇ、私達の冒険は始まったばっかりなんですから!」


「……その台詞、あんまり良い感じで使われた記憶はない気がするぞ……?」


 何かのフラグになりそうな事を満面の笑みで言っているマホにちょっとした不安を感じながらも森を脱出した俺達は、クエスト達成の報告と報酬を受け取る為に斡旋所まで戻ってたんだが……


「あぁ皆さん!やっと戻って来てくれましたか!お帰りをお待ちしていましたよ!」


「へっ?お帰りをって……俺達のですか?な、何でまた……?」


「それがその、実はですね……」


「ロイド様!!ようやく……ようやくお戻りになって頂けましたか!私、ロイド様のお帰りをずぅっとお待ちしておりましたんですのよ!!」


 受付の方から聞こえてきた大音声にビックリして反射的に目線をそっちに動かしてみると、そこには屈強なボディーガードらしき男達に囲われた赤茶色髪の縦巻ツインテールの美少女がこっちに向かって凄い勢いで向かって来てる姿が見えて……うん、何だか分からないけど今すぐ逃げ出したい気分になってきたなぁ……!

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