第10話

 ……しばらく呆然とした後に数秒掛けて何とか状況を理解した俺は、心の奥底から湧き上がる面倒だという感情が表情に出ない様に必死に隠していた。


 って言うか金髪爽やかイケメン女子とその取り巻きを連れてダンジョンに行くとか何その無理ゲー………流石に俺の手には余るんですけど。


(……なぁマホ、これって断っても許されるか?)


(いやいや、何を言ってるんですか!?この方達はご主人様が書いたお断りする理由には引っ掛かって無いんだから良いじゃないですか!)


(そうは言うけどさぁ………俺はもうちょい普通の人に来て欲しい……っていうか、ぶっちゃけこんなにキャラが濃い奴らとは関わり合いになりたくないんですけど。)


(その気持ちは少し分かりますけど、もう来てしまってるんですから諦めて下さい!それにこの機会を逃したらもうダンジョンに行く機会が無いかもしれませんし!)


(はぁ……そうは言うけどさぁ………)


 マホとやり取りをしながらどうするべきか考えていると、金髪イケメン女子が俺と向かい合う様にして正面側にある長椅子に座りやがった………そしてその周りを囲う感じで取り巻きの女の子も移動して……うわぁ、襲い掛かる圧力が半端じゃないね!


「ふふっ、それでどうだろうか?私達を貴方のパーティーに入れてくれるかい?」


「あぁ……それはその………」


「おや、もしかして私達以外のパーティーが既に決まっているのかな。」


「別にそういう訳じゃないんだが………1つだけ質問に答えて貰っても良いか?」


「勿論、私に答えられる事なら。」


「……どうして俺の所に来たんだ?そんだけ沢山の人が居るんなら、あんた等だけでパーティーを組んだ方が良いと思うんだが。」


「あぁ、確かにそう考えるのも無理はない話だろう。しかしそういう訳にもいかない事情がこちらにもありましてね。」


「……事情?」


「えぇ、実は彼女達は戦闘の経験がほとんど無くて戦力にはならないんですよ。」


「はぁ?だったら危険なダンジョンに行く前に訓練所に足を運んで戦闘の基礎知識を叩き込んでもらうのが先なんじゃねぇのかよ。」


「ふふっ、ごもっともな意見をありがとうございます。ですが私の心はけがれを知らぬ彼女達の美しい手がモンスターの返り血で染まる事を良しとしないのです。女性には綺麗なままの姿で居て欲しいですからね。」


 襟足をファサっと払った金髪イケメン女子が爽やかに微笑みかけてきたその瞬間、後ろに立ってた女の子達がキャーキャーと黄色い歓声を上げ始めて………俺は両肘をテーブルに置いてガッツリ頭を抱える事になるのだった。


(ヤバい……断りたい……逃げたい……お家に帰りたい………!)


(この人……色々と凄すぎですね………)


 この場から居なくなりたい一心でどうしたもんかと悩みまくっていると、正面から金髪イケメン女子のため息が聞こえてきて俺はチラッと視線を上にあげてみた。


「……ですがレベルが重要とされている世の中では何時までも戦闘から逃げ続けるという訳にはいきません。だから私は戦闘をせずとも経験値が分配されるパーティーを組んで、彼女達と共にダンジョンに行こうと考えた訳なんですよ。」


(うわぁ……メチャクチャ甘やかしまくった考えだな………って、ちょっと待てよ。マホ、コイツが言ってた経験値が分配されるってどういう意味だ?)


(あっ、すみません!今までパーティーを組もうとしてこなかったご主人様には縁が無いと思ってすっかり説明するのを忘れてました!)


(……おい、言い方には気を付けろ。心が更に傷つくだろうが。)


(まぁまぁ!それよりも経験値の事についてなんですけど、実はパーティーを組んでいる人がモンスターを倒すと誰でも手に入る仕組みになっているんですよ!)


(えっ、マジで?)


(はい!平等に振り分けられちゃう手に入る経験値自体は少ないですし、遠く離れてしまうと入手出来なかったりしますけどね!それでも1人でコツコツと頑張るよりもかなり効率的にレベルを上げられると思います!)


(……なぁ、それって彼女達にとって意味がある行為なのか?)


(それは私には分かりませんが、この世界でレベルと言うのはある種の証明書の様な役割がありますので低いままだと色々と不便なのは間違いないですね。時々ですが、レベル上げを手伝って欲しいなんてクエストもあったりしますから。)


(……そんなのあったか?)


(ご主人様はソロクエストしか見てませんから、知らないのも仕方が無いですね。)


(……まぁ、見つけた所でそもそも受けないからな。)


 それにしてもレベルが証明書の代わりねぇ………って事は良いサービス受けたり、高級な装備品を買ったりするって時に低レベルだとお断りされちゃうのかしら?


 なんて考えながらボーっとしていると、金髪イケメン女子が目の前でいきなり指をパチンと鳴らして俺をジッと見つめてきた。


「それでどうかな、私の話を聞いて貴方の考えはまとまったかい?」


「……聞いた上て同じ質問をさせて貰うが、どうして俺とパーティーを組むんだよ?レベル上げを目的としてるんなら、メチャクチャ非効率的だと思うんだが。」


「確かに貴方と行動を共にすれば取得する経験値は減ってしまうが、彼女達の安全を考えるとそれも仕方が無いと思うんだ。」


「………もしかしてだけど、俺を護衛役として同行させようとしてんのか?」


「あぁ、私だけでは彼女達をモンスターから護り抜く事は難しいからね。」


「はぁ……だったら街の外で少しずつレベルを上げたら良いじゃねぇか。」


「いや、街の外ではモンスターが四方から襲ってくる可能性があるからそういう訳にいかないんだよ。」


「……それなのにダンジョンには行くっておかしくね?」


「私達が行こうと思っていたダンジョンは初心者冒険者にお勧めされている場所で、細長い通路と幾つかの小部屋と最奥にある広間だけといった構造になっているんだ。だから戦える私と貴方が居ればどうにか対処が出来るはずさ。」


「そう言われてもなぁ……」


 俺とコイツだけでこの女の子達をモンスターから護れって、どう考えたって人手が足りてないと思うんだが………とは言え、ここで断ったりしたら二度とパーティーを組もうとは思わねぇし………さて、マジでどうしたもんか。


「貴方の募集要項の通り私達は女性だけで来たから、そこには問題は無いだろう?」


「まぁ……そりゃそうだが。」


「それならば私達と共にダンジョンに行こうじゃないか。そうすれば貴方も経験値を稼げる出来るだろうし、倒したモンスターの素材は全て差し上げても構わないよ。」


「……は?素材を全てって……アンタ達の取り分は?」


「ふふっ、実は私達の両親はこの街で貴族と呼ばれているんだ。だからお金に関して不自由している訳では無いから、こちらの事は気にしなくても構わないよ。」


「……なるほど、欲しいのはレベルを上げる為に経験値だけって事か。」


「あぁ、そう言う事だね。」


 要するに貴族としての見栄の為にレベルを上げる必要があるのかよ………ったく、ここは何とも面倒な世界だな。


(……それにしてもコイツ。ダンジョンの構造なんてよく知ってるよな。やっぱ貴族だから情報が入ってきてるって事なのか?)


(あぁいえ、恐らく受付の方に聞いたんだと思います。ほら、ダンジョンは斡旋所が管理してるってお話をしたじゃないですか。)


(そう言えば……え、そんな場所に行く意味って本当にあるのか?それってつまり、もう完璧に調べ尽くされてるって事だろ?)


(うーん、それは無いと思いますよ。ダンジョンっていうのは定期的に内部の構造がガラッと変わってしまう仕組みになっていますからね。)


(はぁ?なんじゃそりゃ……ゲームじゃあるまいし、それに何の意味があるんだか。)


(……ふっふっふ、それが大ありなんですよ!実はダンジョンの中にはお宝があってですね、構造が変わると中身と共に復活するんですよ!)


(うおっ!?きゅ、急にテンション上げんなよビックリするだろうが!………って、宝箱の中身が復活するだと?!それってマジなのか!?)


(はい!マジです!)


(おいおい!それじゃあタイミング良く行けば稼ぎまくれるじゃねぇかよ!)


(その通りなんです!……ただダンジョンの中に居るモンスターの強さを考えると、それが効率的だと言えるかどうかは分かりませんけどね。それに奥の広間にはボスが出現するって情報がありますから、命の危険が更に増えますし。)


(………ボス?え、それってゲームとかで出て来るあのボス?)


(はい、そのボスですよ。)


(………参考までに聞きたいんだが、それってどんな奴なんだ?)


(さぁ?私は見た事ありませんから。)


(えぇー……そこはしっかりサポートしてくれよ……)


(そう言われても困りますよ!私はご主人様の日常生活をサポートする為に居る妖精なんですから!それ以上の事は無理です!)


(そうですか……まぁ、どうせ遭遇しないだろうから別に良いんだけどさ。)


 マホから気になる情報を教えられて不安な気持ちが少しだけ出て来た俺だったが、とりあえず今は心に留めておくだけにした。


「……さてと、それではそろそろ聞かせてくれないかな。私達を貴方が募集しているパーティーに入れてくれるかどうかをね。」


「………分かった。経験値が稼げて素材も貰えるってんなら断る理由は無いしな。」


「ふふっ、それじゃあこれからよろしくね。ほら、君達を挨拶をするんだ。」


「「「はーい。よろしくお願いしまーす。」」」


 うわぁ、やる気の感じられない返事……まぁ、キャーキャー言ってる相手と冒険が出来ると思っていたら知らないおっさんが混じって来たんだもんな……その気持ちは痛いほど分かるけど、もう少し隠す努力をしないといい加減に泣きそうなんだが?


「……とりあえず自己紹介を済ませておくか。俺は九条透。募集要項に書いてる通りレベルは7だ。好きな様に呼んでくれて構わない。」


「九条透さんか……不思議な響きの名前だね。」


(うん、そりゃそうだとしか言い様がないな。)


(異世界から来た人の名前ですからね!馴染みが無くて当然です!)


「では次は私が自己紹介をしようか。私の名前は『ロイド』。現在のレベルは5だ。それじゃあ今日はよろしくね、九条さん。」


 ニコッと微笑みかけてきたロイドと歓声を上げてる女の子達に精神的なダメージを負いながら自己紹介を聞き続けた俺は、イケメンなど滅んでしまえ!!という想いを抱きながら受付に向かいパーティーを組む為の正式な手続きを始めるのだった。

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