第2章 女騎士とダンジョンとおっさん
第9話
決意を新たにクエストに挑む様になってから3日が過ぎ、順調に金を稼ぎながらもレベルを上げていた俺とマホは……目の前にある素敵な建物を見てワナワナと感動に打ち震えていた!
「やっと………やっと我が家が完成したぜぇ!!ふぅーー!!!」
「えぇ、やりましたねご主人様!!これで宿屋生活ともおさらばですよ!」
「おう!これで金が減っていく恐怖に怯えなくても済むぜ!はっはっはっは!!」
「えへへ!それじゃあご主人様、早速ですが家の中に入ってみましょうよ!」
「あぁ、そうだな!」
今朝方すぐに支払いを済ませて管理商会の人から受け取った鍵を使って扉を開いた俺は、新築の香りに包まれながらマホと一緒に家の中の様子を玄関から眺めてみた!
「うわぁ……!ご主人様、見て下さいよ!壁も床もピカピカですよ!」
「うおおおお……ここが今日から俺達の家になるのか……なんかもう、感動しすぎて泣きそうなんですけども!?」
「いやいや、まだ泣くのは早いですって!ほら、早く他の所も見てみましょうよ!」
「はっはっは、了解したぜぇ!」
テンションがバカみたいに上がった状態で家の中にある各部屋を一通り見て回った俺達は、少しだけ落ち着きを取り戻すと様々な家具や食器類が揃っているリビングにやって来てソファーに座り込むのだった。
「いやぁ……こんなに立派な家が3日で建つなんて……異世界、マジで恐るべし。」
「それに1階のお部屋にはベッドやタンス、本棚まで置いてありましたからね!」
「あぁ、もう快適すぎて家から一歩も出たくなくなっちまうよなぁ……」
「そうですねって言いたい所ですけど、今日もクエストを受けにいきますよ。」
「えぇ……こっから斡旋所までは歩いて30分もするんだぞ………我が家が完成した記念すべき今日ぐらいは行かなくても良くないか?」
「ダメですよ。そうやって自分に甘えちゃうと、それが癖になっちゃいますからね。ほら、早くお出掛けの準備をして下さい。」
「はぁ……分かりましたよ……ったく、母親に叱られる息子の気分だな………」
後頭部をガシガシと掻きながらソファーから立ち上がって装備を身につけた俺は、スマホの中に戻ったマホと家を出ると扉に鍵を掛けて斡旋所に向かって歩き始めた。
(あっ、そうだご主人様!折角ですから今日はパーティーを組んでクエストを受けてみませんか?)
(……パーティー?)
(はい!ご主人様そこそこレベルが高くなりましたし、今だったら一緒にクエストを受けてくれる人が現れるかもしれませんよ!)
(うーん……でもなぁ……この街に居る冒険者ってほとんど若い奴だしさ……そんな奴らと一緒に冒険をするってのはちょっとしんどいんですが……)
(もう!そんな事ばっかり言ってたらいけませんよ!ソロだとダンジョンに行ったり出来ないんですからね!)
(そうは言うけど…………ん?おい、この世界ってダンジョンが存在してるのか?)
(当たり前じゃないですか!……って、あれ?言ってませんでしたっけ?)
(あぁ、これっぽっちも聞いた覚えがねぇな……訓練所でもそこら辺の事は説明してくれなかったしさ。)
(……そう言えばそうでしたね。多分、ダンジョンに関連する事をレベルの低かったご主人様に教えるのはまだ早いって判断したんだと思います。)
(まだ早いって……もしかしてダンジョンって場所は、そこそこレベルが高くないと行ったらいけない所って事なのか?)
(そういう訳でも無いんですけど………とりあえず、ダンジョンと言う場所に着いて1からご説明をしますね。)
(いや、別に説明されなくても大体分かってるよ。ダンジョンってのは洞窟とか遺跡とかそういう場所の事を言うんだろ?)
(確かにその認識でも間違ってはいないんですが、もう少し情報を付け加えるならばダンジョンと言うのは斡旋所が管理している特殊な場所の事を言うんです。)
(え、管理されてるって……ダンジョンって勝手に行ったらダメなのか?)
(はい。きちんと手続きを済ませて斡旋所が出す幾つかの条件をクリアしなければ、ダンジョンに入る事は出来ません。)
(マジでか……イメージと全然違うんですけど………で、その条件ってのは?)
(まずはパーティーを組むという事です。ダンジョンの中ではモンスターに遭遇する頻度がかなり高いですから、単独で行く事は禁止されているんです。)
(えぇ……何それぼっちに厳しすぎるだろ………まぁとりあえずそれは置いておくとして、他にはどんな条件があるんだ?)
(他にはダンジョン内で死亡しても斡旋所側に責任を問いませんと書かれた誓約書と怪我をしても救助を求めませんという誓約書に署名をする事ですかね。)
(……なるほど、ダンジョンに行った結果はどうあれ自己責任って事か。)
(その通りです。ダンジョンの中に居るモンスターは外に生息しているのよりも強い個体が多いですから、何があっても自分で何とかして下さいって事ですね。)
(はぁ……なぁマホ、そんな危険な場所にわざわざ行く必要って無いんじゃないか?普通にクエストをやってればそこそこ稼げるだろうに。)
(いえ、ダンジョンに行くメリットはちゃんとあるんですよ。まず強いモンスターが数多く生息してますから、倒せばかなりの経験値が期待できます。それに素材も質が良いのが手に入りますから、お金も稼げますし武器や防具の作成に役立ちますよ!)
(……それだったらまぁ、行ってみる価値はあるのかもしれないな。いつもやってるクエストと比較して、どれぐらい稼げるのか気になるしさ。)
(そうですよね!まだ貯金が残っているとはいえ、更にお金が増える分に困ったりはしませんから!それじゃあ今日は、ダンジョンに行く為のパーティーを募集をしてみましょう!)
(あぁ、誰も来なかったら諦めるけどな。それとカップルが参加したいと言ってきた場合も諦める。ついでにハーレム野郎が来た場合も諦める。っていうか男女が一緒に来た場合は絶対に諦めるからよろしく。)
(いや、諦める要因が多すぎじゃありませんか?!)
(あのなぁ、俺は自分の為にダンジョンに潜りに行くんだ。だから俺が気に入らない奴らをパーティに入れる気はない!)
(はぁ……ご主人様、何を勘違いしているのか知りませんけどね。ご主人様は選ぶ側ではなくて選ばれる側の人なんですよ?)
(だ、だまらっしゃい!っていうかマホ、お前ちょっと俺に辛辣すぎじゃね?!)
(そんなはず無いじゃないですか!私はご主人様の事を大切に想ってるんですから!)
(マ、マホ……お前………)
(ただ、若い人を相手に卑屈になっているご主人様は見るに堪えないぐらい情けないのでそこは嫌いですけどね。)
(そ、そんなにハッキリ言うんじゃねよ!つうかなぁ、学生時代に青春という言葉が憎かった俺にとっちゃテンションの高い若い連中ってのは大体が敵って認識になっちまってんだよ!)
(敵って………まぁそれでも良いですけど、早く斡旋所に向かってくださいね。)
……一緒に過ごす時間が増えて優しくなる所か厳しくなってきているマホにほんの少しだけ悲しさを感じた俺は、重い足取りで斡旋所にやって来ると受付に足を運んでパーティーを募集する為の用紙を受け取り記入をしていくのだった。
『年齢30歳。男性。レベル7。一緒にダンジョンに行ってくれる人を募集します。※男女のペアはお断りさせて頂きます。』
真心込めて記入した用紙を受付のお姉さんに手渡して正式に手続きをしてもらっていたんだが……その時に何故だか残念な人を見る様な目つきを向けられた気がするが俺は気のせいだと判断して空いているテーブル席に座って時間を過ごす事にした。
さて、一体どんな奴が俺とパーティーを組んでくれるのかねぇ……どうせだったら可愛らしい美少女が照れながらやって来てくれねぇかな!……そんな風に期待に胸を膨らませ始めてから数時間後、俺はテーブルに突っ伏してため息を零していた。
(あー……誰も来ねぇなぁ………)
(そりゃそうですよ。あんなバカみたいな募集要項で誰が来るっていうんですか。)
(そりゃそうだけどさぁ……1人ぐらいは現れると思うだろうがよぉ………)
(もう、そんなに落ち込むぐらいだったら募集要項を書き直したらどうです?それかどこかのパーティーに入れてもらうとか。)
(そう言われてもなぁ……若い奴らと喋れる気がマジでしないんですけど………)
俺がまだ10代とかだったら多少なりとも頑張ってコミュニケーションを取れたり出来た可能性もあるけど、この歳になったら性格は変えられねぇしさ……はぁ………異世界に来たって現実ってのは厳しいなぁ………
「そこの貴方、少しよろしいかな。」
(なぁ、もうダンジョン諦めて帰っても良いか?)
(もう!まだ何も始まってないのにそんな事でどうするんですか!ほら、早く受付に行って募集要項を書き直して来て下さい!)
(いや、でもこんな時間帯に募集して誰か来るのか?)
「ふむ、もしかして聞こえていないのかな?すまないが、少し良いかな」
「……あ?」
不意に肩を叩かれてマホとの会話を中断させられた俺は、何故か周囲がざわざわとしている事が気になりながら体を起こして後ろに居る誰かの方に視線……を………
「ふふっ、やっとこっちを見てくれましたね。貴方がパーティーを募集している方で間違いありませんか?」
「そ、そうだけど………アンタ、誰?」
数人の女の子に囲われた騎士みたいな恰好をしている金髪の超絶イケメンに思わず訝し気な視線を向けながらそう尋ねてみると、いきなり女の子達の視線がスッと細くなって俺を睨みつけてきた……?
「ちょっと聞いた?このおっさん、ロイド様にアンタとか言いましたわよ。」
「えぇ、それにどなたかご存知ないだなんて……これだからおっさんは……」
「ごふぅ!?」
(ご、ご主人様!?気をしっかり持ってください!)
初対面の女子の達からおっさんと呼ばれてボロカスに言われた俺は、心に深い傷を負ってしまい泣きわめきながら逃げ出したい気持ちに襲われていた……!
「こら、ダメじゃないか君達。初対面の人にそういう言い方は失礼だよ。」
「あっ、すみませんロイド様!」
「申し訳ありませんロイド様!」
「うん、これからは気を付けるんだよ。」
(むぅ!謝る相手はその人じゃなくてご主人様ですよ!!失礼しちゃいますね!)
(イケメンの周りに居る女の子ってのは大体がこんな感じだろうよ。いちいち怒ってたらキリが無いぞ……まぁ、お前の気持ちは嬉しいけどな。ありがとうよ。)
(……いえ、どういたしまして。)
何とかマホをなだめることに成功した俺は、目の前で女の子達と楽しそうに話しているイケメンに目を向けるとわざとらしく咳払いをしてやった………うん、睨みたい気持ちも分かるけど怖いからこっちを見ないで下さい!
「失礼、彼女達の非礼は私が代わりにお詫びしよう。申し訳なかったね。」
「いや、それは別に良いんだが……アンタ、俺に何の用事があって来たんだ?さっき俺がパーティーを募集している奴かどうか訪ねてたけど………まさか………」
「あぁ、貴方が募集しているパーティーに参加させて欲しいんだ。どうだろう?」
「……悪いんだが、募集要項にも書いてあった通り男女になっている奴らはお断りをさせて貰ってるんだ。そういう訳だから別のパーティーに応募して来てくれるか。」
「ふふっ、その募集要項ならば読ませて貰ったよ。そして安心して欲しい。この様な格好をしてはいるが、私は間違いなく女性だからね。」
「……………へっ?」
少し長めの襟足を軽く払ったイケメンに微笑まれながら衝撃的な事実を知らされた俺は、生まれて初めて脳味噌の処理が追い付かないという経験をするのだった………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます