第4話


 ファミレスを出た後も、半透明のヨークシャーテリアは僕らのあとをついてきた。正確に言えば、僕の前をふらつきながら歩く彼のあとを追うように素直に、姿が透けている事と水しぶきが上がらない事以外はなんら普通の犬と変わるところもなく、地面に足をつけてぽてぽて歩いて行くのだった。


「かわいい子ですね」


 容姿のことではなく、犬が飼い主を健気に追いかけていく様がお世辞抜きに愛らしく、僕はそう言った。しかし彼は、ふうん、と興味なさげに頷いただけだった。

「さて、どうしようかね」

「なにがですか?」

「僕の犬を殺した奴が、この近くにいるはずなんだ。でも、ここ、人が多いね」

 僕は辺りをぐるりと見回した。街のど真ん中だった。

「どうしてこの近くに、犯人がいるって思うんです?」

「死体が、ね」

「死体?」

 言いにくそうに口ごもると、頬に手をやり、彼は言葉を続ける。

「死体が見つかったのが、ここだったから。僕の家は、ここからは少し遠い」

「その……傷とかは? 酷かったんですか?」

 そう聞くと、彼はこちらににこりと笑いかけたが、その笑みにはどこか有無を言わせない迫力があった。

「それはあまり、言いたくない」

 とっさに僕は自分の言動を反省した。もし犬の死体に外傷がなかったのなら、そんな言葉を吐くわけがない。彼は誤魔化すようにまたタバコを取り出し、火をつけて吸い始めた。雨は霧のような小雨になっていた。

「とにかくね、僕は、僕の犬を殺した奴を探さなくちゃいけないんだ。でも、ほら……僕はあまり頭が良くないだろ? だから、代わりに君に見つけてほしい。大学入試に受かったくらいなんだし、頭は悪くないんだろ?」

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