第2話
ファミレスに行こうというので、ついていった。家に帰ったところですることもない。それに彼の言う「犬を殺しそうな顔」というのが、一体どんな顔なのか、少し気にもなっていた。
「マンゴーパフェくださーい」
席に着くなり、あらかじめ注文を決めていたようで、彼はボタンを押し、やってきた可愛らしい店員に自分の分をオーダーした。
「君はなんかたべる?」
「……じゃあ、同じので」
「同じの?」
彼は少しものいいたげな顔でこちらを見たが、特に何をするでもなく、店員に「じゃ、マンゴーパフェ、ふたつ」と笑いかけた。
パフェが来るまでの間、僕は彼に色々質問をしてみることにした。名前や年齢、住所や職業などについてだ。しかし彼は子どものように忙しく、こちらの質問はすべて無視し、テーブルにあるものをいじって遊ぶばかりだった。
「貴方の犬は」
しかし、唯一、その「犬」という単語をぶつけた時だけ、彼はぴくりと反応し、こちらをちらりと見るのだった。
「貴方の犬は、どんな犬だったんですか?」
さほど興味は無かったが、そう聞いてみた。彼は手持ち無沙汰にタバスコの蓋を開けたり閉めたりしていたが、やがてぽつりと「ヨークシャーテリア」とだけ言った。
「ヨークシャーテリアですか」
正直、僕は犬の品種に詳しくない。飼っていたこともなければ、興味もない。チワワとプードルと柴犬くらいしか知らない。けれど犬を飼うような人間なら、誰しも愛犬が可愛いものだろうと思ったので、「可愛い犬だったんでしょうね」と言った。心は1ミリも篭もらないが、何も言わないよりはマシだろう。
すると彼は、タバスコを元の場所に置き、だらりとテーブルに伏しながら、
「強い犬だったよ」
と、そう言った。視線は窓の外、降りしきる雨に向いていた。つられて僕もそちらを見る。雨足は強まっていた。辺りは霧がかかったように白く霞み、すぐそばの国道を行く車が勢いよく飛ばす飛沫の音が、こちらまで聞こえてきそうに思えた。
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