Act10, ブレーブスタジオ パート1
ブレーブでは所属タレントを使った独自のインターネット番組『ブレーブストリーム』を、月二回のペースで配信している。
弱小プロダクションがやる本気で予算の無い放送のため、専門のスタッフなどは使えない。
社長を筆頭にマネージャーはもちろん、タレントも交代でスタッフをしている素人番組だ。
当然スタジオも、事務所を片付けでギリギリのスペースで安物のカメラとPCで配信している。
出演者の衣装も自前ならば、メイクも自分でしなければならない。
因みに、ブレーブでも売れているタレントは出演しない。
あくまで売り出し中のタレントに少しでも活躍の機会を与えると同時に、個人的な営業活動を阻止するためのガス抜きの場なのだ。
そんな『ブレーブストリーム』だが、今回は様子が違っていた。
スペシャルゲストとして他社のアイドルが呼ばれ、撮影も専門のスタッフを呼んでいる。
にも関わらずブレーブから出るのは、売れる見込みがほとんどないアイドルが一人だけだ。
「本当に大丈夫なんでしょうか?」
鳴滝亜矢は自分の隣に座る御堂刹那に小声で尋ねた。
「もちろんさ、先生に任せておけば心配いらないよ。そうでしょう?」
答えたのは御堂ではなくマネージャーの安倍新一だった。
事実上、無期限休業になってしまった亜矢だったが、昨日の深夜安倍がおとずれ、この仕事について教えられた。
ただし、仕事と言っても亜矢に取り憑いた〈影〉を祓うために必要で、当然ギャラも出ない。
それでも仕事が出来ることは嬉しいし、〈影〉が消えてくれればこれまで通り、いやこれまで以上に芸能界で活躍できるはずだ。
「ええ、今日で終わるはずです」
亜矢は御堂の表情をこっそり
本番前だからか御堂はほとんど話しをせず、表情も硬い。今まで抱いていた快活な雰囲気とは大分違う。
そして『今日で終わる』という言葉が安心よりもなぜか不安を誘った。
更に亜矢にはもう一つ気になることがあった、リョータがこの事務所に来ているのだ。
先ほどから不機嫌そうにこちらを見ている、御堂が挨拶に行った時は非常にピリピリしていた。
どう見ても出演する雰囲気ではないし、そういった事も聞いていない。
「そろそろ時間です」
御堂のマネージャー荒木早紀が時計を確認して声を上げた。
「カメラ回します」
竹田和成が応じ、御堂は笑みを浮かべた。
亜矢は感情を押し殺して無表情を装った。
神秘性を高めるため、余り笑顔を見せないようにしているのだ。
もちろん九〇年代の二人組アイドルのマネをしたところで、現代は売れる見込みはない。なのでポイントポイントで表情を変えて、ギャップを生み出している。
「さぁ、始まりました『ブレーブストリーム・トワイライトスペシャル!』、本日の司会は外国産のSFやファンタジー小説が大好物、御堂刹那です。よろしくお願いしま~す!
さ~てさてさて、今回はスペシャルと言うことで、初のゲストをお呼びしています。
それでは自己紹介、どうぞ!」
「はじめまして、鳴滝亜矢です」
先ほどまでの硬い表情とは一転しハイテンションで飛ばす御堂に対し、亜矢は物静かに答えた。
「は~い、この二人でお送りしていきますが、今回ですね『トワイライトスペシャル』となっておりまして、そうなんです、コワイお話を中心にやっていくんですよね。
だから売れないあたしが担当なんですかねぇ~、どうなってもイイから?
ヒドイ事務所だ……
亜矢ちゃん、実際この部屋に霊とかっているの?」
不安げな表情で御堂が亜矢を見つめる。
当然、亜矢には何も視えない、視えているのは御堂の方だ。
彼女は自分の背後にいる〈影〉を視るためにこちらを向いたのだろう。
「そうですね、複数の少女の気配がします。ただそれは亡くなった方ではなくて、生きている方々です」
「生き霊ってコト?」
「そうとも言えますが、厳密には違います。霊というよりも、思いがこの場所に残っているんです」
「なるほど……実を言うとここは『ブレーブ』の事務所内にあるスタジオなんです。なので、アイドルを目指したけど、結局売れなかった娘たちの思いが視えているのかもですね」
「えぇ……」
「うわッ、あたしもその中に入っちゃうのかなぁ」
御堂はおどけて言っているが、それは亜矢も同じだ。いや、すでに亜矢のアイドル生命は風前の灯火なのだ。
放送台本を読んで冒頭でこの内容をやることを知ったとき、心底嫌で変更して欲しかっが、御堂が考えた物だと聞かされ、やむなく受け入れた。
とにかく〈影〉をどうにかして貰わないことには、本当に芸能界をあきらめなければならない。
絶対にそれだけはイヤ。
芸能界で生きていくためにあらゆる努力をしてきた、この業界でやっていくためにはキレイ事だけでは済まない。
「それで亜矢ちゃんは生き残っていくために、何をしたの?」
御堂の言葉にドキリとして思わず顔を見つめる。
先ほどと変わらず笑顔をだが、眼に冷たい輝きが宿っている。
「あの……」
亜矢が何かしら答えようとした時、いきなりライトが消えて室内は闇に包まれた。
「カメラ、電源落ちました!」
竹田の声を合図にしたかのように、スタッフが浮き足立つのを感じた。
亜矢は思わず眼を見張った。
闇の中にボンヤリと女性のシルエットが見えた。
廃墟のホテル以来、何度となく視てきた〈影〉だ。
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