Act2, ホテル麦秋
「こんなコトだと思った……」
お札が貼られている。
いわゆる
この部屋に近づいたときから嫌な感じはしていた。
それ以前に、マネージャーの
チェックインの時に受付で言われた言葉も「よろしくお願いします」だった。
刹那は売れないアイドルをしている。
しかも海外SF・ファンタジー小説マニアという需要が明らかに狭い属性を与えられている。
この秋保温泉の『ホテル麦秋』に泊まることになったのも、イベントのために仙台まで来たからだ。
百人集まれば大成功のイベントをやっている刹那が使わせてもらえるのは、素泊まりの安宿か、よくてビジネスホテルだ。
因みに刹那の最高集客数は六三人、今日は二回やって合計二三人、完璧に失敗だ。しかも両方ともほぼ同じ客が来ている。
今回の仕事は、SF作家ロイス・マクマスター・ビジョルドの新刊発売にかこつけた、握手会兼トークイベントだった。
新刊発売記念と
更に言えば、出版社から依頼を受けたオフィシャルサポーターでもない。
勝手に便乗して早紀が書店から取ってきた仕事だ。
そのお陰で徹夜で新刊を読み終え、感想をまとめ、イベントのトーク時間を埋められるようにしなければならなっかた。
が、二回イベントをやるという事は、トークも二回しなければならないという事だ。そしてほぼ同じ客が
暖かく見守ってくれるファンには頭が下がるが、中には「さっきもその話聞いたぞ!」とか「少しは内容変えろよ!」などとツッコミを入れて来るヤツがいる。
聞きたくないなら帰れッ、という言葉を飲み込み、「ゴメン、もう一度聞いてね!」と笑顔で返さなければならない。
無視できれば良いのだが、人数が少ないのでそれも難しい。
そして来場者の数を見て、当然だが主催者もいい顔をしない。
早紀が敏腕マネージャーぶりを発揮し、その場は上手く乗り切ってくれたがこの書店が再び刹那を使ってくれることは無いだろう。
たしかにいつもの事だし、もともと好きでアイドルをやっているわけでもない。それでも、それなりに精神的なダメージを受けて、それなりにヘコんでもいる。
そこに来てこのホテルである。
刹那は溜息を吐いた。
赤字を埋めるために副業をしろって事なのね、おばさん。
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