第7話 えっ、この状態からでも契約できる精霊がいるんですか?
「俺が、精霊と契約?」
一茶が尋ねると、シルフィアは首肯した。
「精霊と人間が契約する際、精霊は人間の"位"を確認します。この"位"が何を差しているのかは私たち人間には分かりませんが……要するに精霊も、相手を選んで契約しているということです。駄目な人間と好んで契約する精霊はいません。逆に言えば――イッサさんほどの人間なら、多くの精霊が契約を結んでくれる筈です」
シルフィアの言葉に一茶は納得した。
仮に一茶の"位"が高ければ、一茶と契約を結んでくれる精霊が沢山いるかもしれない。
「しかし、この状態からでも契約できる精霊っているのか?」
「それは……可能性に、賭けるしかありません」
シルフォアは真剣な面持ちで言う。
「ローゼリア王国の王家には、代々語り継がれてきた伝承があります。……今から凡そ四世紀ほど前。ローゼリア王国は建国の際、ある上位精霊の力を借りたとのことです。ここ霊峰グランジオには、その偉大なる精霊が眠っていると聞きました」
つまりその精霊の力を借りることができれば、勝機はあると、言っているのだろう。
「ん? あれ? もしかして……」
ふと、一茶は顎に人差し指を添えて考えた。
霊峰グランジオ。その単語を、少し前にも聞いたような……。
「……あの爺さん、魔物じゃなくて精霊だったのか……?」
『今更気づいたのか……っ!』
一茶が呟くと同時、目の前にぼんやりと光る老人の顔が現われる。
シルフィアと出会う前、一茶が山の頂上で殴り飛ばした幻影だった。
「あ、貴方様は、まさか……大精霊グランジオ様では……?」
『如何にも。我こそがグランジオなり』
シルフィアの問いに、幻影は偉そうな口調で答える。
なんと、このゆらゆらと揺れる幻影は、正真正銘の精霊だったらしい。
「チャ、チャンスです! イッサさん、グランジオ様は精霊の中でもかなり上位にあたる存在……グランジオ様と契約すれば、私たちが負けることはありません!」
シルフィアが興奮気味に言う。きっと今の状況を奇跡のようだと感じているのだろう。
しかし実際のところ、一茶は既にこの精霊と一度会っていた。
そして最初に会った時、一茶はこの精霊に――かなり失礼な態度を取っている。
『我は、その男とは契約せん』
大精霊グランジオは、刺々しい口調で一茶を睨みながら言った。
「な、何故ですか!?」
『その男には、我に対する礼節が足りん。――我に傅くと誓え。そうすれば、契約してやろう』
グランジオが厳めしい声音で言う。
「イッサさん……」
シルフィアが不安気な表情で一茶を見た。
鍛え上げた上腕二頭筋を見せびらかすかのように腕を組んでいた一茶は、グランジオの貫禄に鼻白むことなく、鷹揚と口を開く。
「……お前は、俺と契約したいわけじゃないのか?」
『我が貴様と? ふん、愚かな! 大精霊と呼ばれるこの我が、人間如きに媚びるとでも?』
「じゃあなんで、俺の前に現われたんだよ」
『ぬぐっ!?』
グランジオが返事に詰まった。
そこで、シルフィアが何かを思い出した様子で声を発す。
「……聞いたことがあります。あまりにも格式が高すぎる精霊は、その力が強すぎるせいで、通常の人間とは契約を結べないとか。……もしかすると、イッサさんはグランジオ様にとって、久々に契約できる相手なのではないでしょうか」
『ち、違う! 我は別に……』
シルフィアの予想が正しければ、グランジオは久々に契約できる相手を見つけて内心浮かれていることになる。もしそれが事実なら威厳も糞もない。ただの寂しいお爺ちゃんだ。若い頃やんちゃしすぎてハブられたのかな?
だが、事実はどうであれ、今は言い争っている時間はない。
山賊たちは少しずつ、確実にこちらへ近づいている。
一茶はグランジオに頭を下げた。
「頼む、グランジオ。お前の力を貸してくれ。……どうやら俺には、精霊の力が必要みたいだ」
頭を下げた一茶に、シルフィアは唇を引き結び、事の顛末を見届けると決めた。
ヴァルキュリアは空気と化している。
『仕方ない。そこまで言うのであれば……契約してやろうッ!!』
カッ! と老人の顔の幻影が眩く光る。
刹那、一茶の腕に鋭い痛みが走った。
「ぐおっ!? お、俺の前腕筋がっ!?」
具体的には浅指屈筋と深指屈筋が!
見れば、前腕の表面に翡翠色の文字が刻まれていた。異世界の文字だろうか。そこに記された内容は読めないが、文字自体から不思議な力を感じる。
『契約――成立じゃ!』
グランジオの声が、頭の中から聞こえる。
『さあ! 我を呼べ! この大精霊グランジオが、貴様らの敵を蹴散らしてやろう!』
瞬間、一茶の脳内で、グランジオを呼ぶための呪文が浮かんだ。
一茶はそれを、無我夢中で口にする。
「森羅を統べる翡翠の王よ、今こそ万象を打ち砕け! ――《翡翠龍グランジオ》ッ!!」
両手を突き出し、グランジオの名を呼ぶ一茶。
前腕に刻まれた文字が輝き、幾何学模様の魔法陣が幾重にも重なったその時――一茶の目の前に、巨大な、翡翠色の龍が現われた。
『グゥオォォオォォォオォォオオォオオ――ッッ!』
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