第十四話 魔王国

みなで水晶球を覗き込むと、建物の屋根が見えてきた。


「これは?」

ブレンダがマヤに聞く。


「この水晶球は、動物たちの目を借りてものを見る力があるの。これは鳥ね。

どうやら、大きな被害があるところとそれほど被害のなかったところがあるみたいね」


門への投石によりその周囲の建物は崩れているところがあるが、少し離れるとそれほど被害は無いようだ。


水晶球の像が、崩れた門の支柱の上から見下ろしているように切り替わった。


どうやら職人たちが門の周りの建物の復旧のために打ち合わせをしているようだ。


「思ったよりも街の人達の被害は少なそうですね」

オリビアはつぶやいた。


「じゃあ、城のほうがどうなっているか見てみましょうか」

マヤはそう言うと手を動かし水晶球の像を切り替えた。


今度は床が見えた。忙しく行き交う数人足が見え、何やら指示をだす声が聞こえている。


「これは、厨房ですね?」

ケイトリンが言う。


「あらあら、厨房にネズミがいるみたいねぇ、衛生的に大丈夫かしら〜

そんなことより、この子にウロウロしてもらいましょうか」

そう言うと、そのネズミはそこから離れて、壁の穴に入ったようだ。


しばらく暗い像が続き、奥の方から明かりが見えてきた。

何やら声が聞こえてきた。


------


「……で、潜伏先は……と……箇所に絞られたのか?」


「はっ、しかし、確実とはまだまだ言えなそうです……」


「仕方がない、ひとまずはどこに潜伏しているかを探すことが先決だ、その状態で反旗を翻すように仕向ければ、大義がこちらにあることの証明ができる。

早急に情報を得よ。」


「はっ!」

最敬礼をして騎士は踵を返して王の間から出ていった。


「うーむ、相変わらず要領が良いな、逃げることと姿を隠すのは得意か」

その男は、王の間の玉座に座って顎に手をやりながら言った。


「しかし、居場所はだいぶ絞り込めました。案ずることはありません、真魔王様。

それよりも、勇魔の剣はしっかりとお手元から離さないようにしてください。」

脇に控える男が言う。


その男は白色のローブを纏い、いかにも魔法使い然とした格好で、背丈ほどもある杖を持っていた。

杖の先にはこぶし大ほどの宝玉がついており、サッとその先を少し動かすと妖しげに光った。


「う、ううむ、そうか、そうだな。勇魔の剣は、これこの通り手元にある、安心せい。

それにしても、わかってはいたがやはり抜けない剣を持つのはなんだか複雑な気持ちだ」

玉座から立ち上がり、背もたれと自身の間に隠れて見えていなかった剣を取り出してみせた。


「ふふふ、そうです、その剣は魔王様を真なる魔王とせし証の剣、抜けるのは勇者のみ、抜けないのは魔王であるゆえ、しっかりとお手元から離さないようにしていてください」

再び杖を振ると宝玉が妖しげ光った。


「う、ううむ、貴様もしっかりと余を補助せよ」

そう言いながら、剣を元の位置に納めると、玉座に座りじっと兵士の出て行った扉のあたりを見つめる。


「光栄至極に存じます、陛下」

男はそういうと、最敬礼し頭を深々と下げた。


水晶には映らなかったその表情は歪な笑顔にゆがんでいた。






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