第九話 少年と猫
「まったく、常識がないったらないわ!」
「まーまー、そっちの二人は大丈夫かな?」
オリビアは目の前で起こったことが全く理解できていなかったが、猫をなだめる少年が言ったことで我に返る。
「っ!!ブレンダ!ケイト!」二人の名を呼んで駆け寄る。
「くっ、申し訳ありません、瞬間的に動けなくなりましたが怪我はありません」
「うぅ、大丈夫です、地面に叩きつけられた瞬間は息ができなかったですけど、もう大丈夫です」
とブレンダもケイトリンも大きな怪我はないようだった。
「あんたが保護者ね、このお嬢ちゃんにしっかりと森での魔法のルールをねー!!……」
「まーまー、ほら、ミケそんなことよりあの熊どうするよ」
「グガァ!!!」
吹き飛ばされたグレートグリズリーも何が起こったか理解できていないようだったが邪魔が入ったことに怒りを感じているということは明らかだった。
「流石に蹴りをくれたくらいじゃ気絶もしないぞ、どうしようかなぁ……」
少年は頭をかきながら首をかしげる。
「そしたら、これを使えばいいじゃない」
ミケと呼ばれた羽根のの生えた猫は、オリビアの持っていた長い包みを爪で器用に引っ掛けて少年に向けて転がして見せる。
「んー、おー、カタナかー、ちょうどいいな、ちょいと借りるよ」
ひょいとその長い棒状のものを掴み、包みから丁寧に出しながらオリビアに向けて言った。
「あ、それは!」
「シャー!!おだまり!わかってるから、ユウにまかせておきなさい!」
ブレンダとケイトリンの様子を見ていたオリビアは、振り返り慌てて止めようとするが、猫にぴしゃりと言われてしまった。
再び立ち上がったグレートグリズリーの正面に立つ少年はオリビアが所持していた剣を携えて、中腰に構えた。
「グオオオオオ!」
怒り狂うグレートグリズリーに相対して臆することなくその目を見据えて一瞬のことだった。
「はぁっ!」
と気合いの一声とともに、ユウと呼ばれた少年が動き、剣が抜き放たれた。
「……おお〜、このカタナは、すごくいいカタナだな!」
と言いながら、剣を眺めてから鞘に収めた。
「おい!熊!これ以上やるんだったら爪だけじゃ済まないぞ!
木の実でも食って今日はもう寝ろ!爪はまた生えてくるからな!」
そう言うと少年はグレートグリズリーに背を向けてこちらに戻ってくる。
「くきゅ〜ん」
グレートグリズリーは怯えた子犬のように鳴き、切り落とされて爪がなくなった自身の両の前足を見て、洞穴に逃げ帰っていった。
三人はその様子をぽかーんと見ているしかなかった。
「にゃにゃ〜ん、だから言ったでしょ、ユウにまかせておきなさいって」
「ほい、こいつは返すよ、ありがとうな」
ユウと呼ばれた少年は勇魔の剣をオリビアに返しながら言った。
「危ないところを助けていただきありがとうございました。
それにしても、あなたは何者なのですか?」
立ち上がったブレンダがオリビアと少年の間に割って入る形で進み出て言う。
そのすぐ後ろにケイトリンも続いてオリビアの前に出る。
「そんなに怖い顔をしなくていいよ、俺は『ユウキ』。この森に住んでるんだ。そいで、こっちの猫は『ミケ』ってんだ」
少年は名乗り、猫はツンとしたすまし顔で毛づくろいをしている。
「ユウキ殿、改めて、危ないところを助けていただき、ありがとうございました。こちらの森にお住まいということは、この森の聖人様のご関係者様でしょうか?もしよろしければ聖人様にご紹介いただけないでしょうか?」
「ねーねー、リヴ、あの猫ってさー
「……グレートグリズリーを蹴り飛ばした??……爪だけ切った??……勇魔の剣を抜いた??……」
と、三者三様に同時に話をすると。
「シャー!!!あんたたち!ごちゃごちゃとうるさいわよ!このミケ様についてらっしゃい!!」
ミケと呼ばれた猫が怒った。
「こらーミケ、そんな言い方ないじゃないか。ひとまずここにいてまた魔物に絡まれると面倒なんでついてきてくれるか?歩きながら話そう」
そう言って少年は歩みを進め、そのとなりを猫がまとわりつくように飛んでいく。
三人は顔を見合わせて、その後をついていくことにした。
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