第十話 疑問の答え
窮地を救った少年は翼のある猫と勝手知ったる森の中をうしろからついてくる三人に話をしながらスタスタと歩みをすすめた。
「えーっと、まずは、殿とかってのは、やめてくれ、「ユウ」って呼んでほしい。そんな偉いもんじゃないからな。」
照れくさそうな笑顔でユウキはそういった。
「そうだなぁ、聖人ってのについてか。
うーん、この森に住んでいる人間は俺が知っている限り、じいちゃんとばあちゃんと俺だけだからなぁ……
うん、その聖人ってのは、たぶん、俺のじいさまかばあさまってことだな。」
「そうすると、やはりこの森には聖人様がいらっしゃるのですね?」
ユウキの言葉にオリビアがかえす。
「聖人かどうかは知らないけど、昔はこの大陸中を旅して、なにやらたいそうなことをやったって言うのは、人から聞いたことがあるなぁ、本人たちはあんまり話したがらないんけどね」
「にゃははーん、そのあたりは、このミケ様が説明してあげたいところだけど、あの二人からかんたんに話してくれるなってくいを刺されているのよね〜」
「ミケ、それをいうならくぎだぞ」
ミケの言い間違いを優しく指摘するユウキ。
「にゃにゃ!?そう、そうよ、くぎよ、くぎ!まぁ、詳しく聞きたいなら二人に直接聞きなさいな」
取り繕いながら、話すミケに対して、今度はケイトリンが
「そういえば、ミケちゃんは『
ミケに近寄って言う。
「そうだなぁ、どの伝説だか知らないけどミケは『翼猫』ってやつらしいな、俺が生まれたときから一緒にいるんだけどね。じいちゃんが生まれてからしばらくして出会ったんだってさ。なぁ、ミケ、お前って伝説の生き物なのか?」
ユウキはミケに聞いた。
「シャー!!誰が年寄りよ!レディーに失礼でしょ!!」
何故か怒ってユウキを引っ掻いた。
そんなこといってないだろ〜とユウキは涙目になって引っかかれたところをさすっている。
「あのね〜あたしが伝説かなんて、あたしが知るわけ無いでしょ。あんたたちだって、『伝説の人間か?』って言われたらなんて答えるのよ。
あー、でも、神様の使いってのは正しいかもね〜」
ミケは首を少しかしげて言った。
「だって、生き物は神様が創ったって言われてるんでしょ、だとしたら、あんたたち人間だって神様の使いかもしんないでしょ。
そんなことを気にするよりも、自分が何者かは自分で決めんのよ!」
ミケはフンスと鼻息荒く言った。
「だから、あたしはただの猫自由気まま、勝手気ままな猫!ただの猫よ。翼が生えている分、他の猫よりもずっと自由かもしれないわね」
ミケは興奮した自分を落ち着かせるかのように、今度はツンとすましたように言った。
「そっか〜『ただの猫』ね、わかった!
あたしはケイトリン、猫が大好きなの!ケイトって呼んでね、かわいいミケちゃん!」
「えっ!か、かわいい?あんた、なかなかわかってるじゃない。
あんた、ケイトね、あとで撫でさせてあげてもいいわよ」
「ミケ、チョロいな……」
グネグネ体をよじり照れながらいうミケに目を向けながら、ユウキがつぶやいた。
「え!あ、あの私も猫さんが好きなんです、ミケさん!」
とオリビアが続けて言う。
「しゃー!!あんたはだめー、なんかだめー、特にユウに近づくな」
ケイトリンとうってかわって、何故かオリビアを威嚇した。
「おいおい、ミケ、仲良くしろよな、いいじゃないか、こんなかわいい子が、お前のこと『好き』って言ってくれてるんだぞ」
威嚇するミケにユウキが言った。
「へ?かわいい??」
さり気なくユウキが言った言葉におどろくオリビア。
「え?あ、いや、いやいや、なんでもないなんでもないぞ!」
自分で何を突然口走ったのか、慌てて手をバタバタするユウキ。
「シャー!なんなの?なんなのよ!やっぱりユウに近づくなー!!!」
オリビアを威嚇するミケ。
「なんだか、不思議な三角関係が出来上がったみたいだねぇ、お姉様?」
「お、おお、ケイト、随分冷静だな……」
じゃれ合っているようにしか見えない二人と一匹を微笑ましそうにうしろから眺める姉妹だった。
———
「あー、あといっこ質問なんだったっけ?」
じゃれ合いが一段落して、ユウキが言った。
「えーっと、正しくは質問は三つですね。
『グレートグリズリーを蹴り飛ばした』というのと、『爪だけ切った』というのと、『剣を鞘から抜きました』よね?」
オリビアが言う。
「ああ、熊は蹴り飛ばしたな、あれはただの飛び蹴りだ。
ミケがいい匂いがするから見に行ってみようって言うから、手ぶらで散歩してたんだ。そしたら、熊の巣で女の子が襲われていたみたいだったから、熊を蹴り飛ばした。
んで、ミケがキミの持ってるカタナを俺に見せてきたから、借りて、爪を切ったんだけど……」
ユウキは事の次第を細かく説明した。
「あの一瞬で切る技はなんです?あんな技は見たことがありません」
ユウキがすべてを言い終わる前に、今度はブレンダが聞いた。
「あれは、じいちゃんに教わった、『バットウジツ』っていう技だ。
鞘から刃を抜いて即座に切る技なんだけど、鞘から刃を抜かないから、相手が警戒する前に片をつけることができる。
んで、気がついたらもう終わってるから、相手はよりビビるだろ?
そんで、さっきは熊をビビらせて寝床に帰らせたんだ、うまくいってよかったよ」
とユウキは、してやったりと笑いながら言いった。
「つまり、熊の爪を最初から狙っていたと?」
ブレンダは狙っていたことを改めて確認した。
「まぁ、そういうことだな。
あーそうそう、あの熊はもともと木の実しか食わないんだ、でも、自分の巣にいる子供は守るだろう?
だから、巣に飛び込んできたあんたたちを追い払おうと気が立ってた。
ただ、それだけのことなのに切ったらかわいそうじゃないか、だから、爪だけ切って脅かして帰らせたんだ、爪はそのうち生えてくるからね」
改めて狙いを説明するユウキ。
「……優しんですね……」オリビアはつぶやいた。
「……」驚きでブレンダは声が出なかった。
「で、最後の質問だけど、鞘から剣を抜いたけど、それってなんか変だったか??」
少年はあたりまえのことをしたのに、なぜそのことが問われるのか、まったく理解できていない様子だった。
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