第七話 森の魔物
三人は小休止して昼食をとっていた。
昼食は町から持ってきたパンに焼いた魔うさぎの肉を串に挿して焼いたものを挟んで食べた。
夜営であれば、そのあたりに生えていそうな、きのこを取ってきて、鍋などにしてもう一品ほど追加したいところだが、森の中の小休止なので、贅沢は言っていられない。
「ケイトが作るとなんでこんなに美味しいのでしょう」
オリビアは不思議に思う。
ただ焼いただけだ、多少の調味料は使っているがそれ以上のことはしていない、なのに明らかに自分が作るよりも美味しいのだ。
これは、今回に限ったことではない。
お城で一緒に料理を学んでいるときもそうだった。
「ふっふっふーそれは秘密ですー」満足そうな笑顔で胸を張るケイトリン。
「つまり何か秘密があると?」ブレンダが聞く。
ブレンダもケイトリンとに一緒に料理を作ったことがあるが、同じように作っているはずなのに何故か味が違うのだった。
「へっへっへー、ソレハナイショデース」
ニマニマと笑うケイトリン。
何故か片言で話す妹に若干イラっとしつつ、ブレンダは周りの異変に気がついた。
「……何かきます」
幸い小休止のつもりだったのでほとんど荷解きをしていなかった。
手早く火を消し、荷物を持って移動を開始し、異変を感じる方向と逆の茂みの中に隠れた。
ガサガサと茂みが揺れると、子どもくらいの身長の人のような姿をしたものが現れた。数は三つ。
「あれは、ゴブリン」
ブレンダはかつて切ったことのある魔物の名を呟いた。
ゴブリンはこの森に入ってから倒してきた魔物とは少し違う、集団をつくり、子を育て、狩りをする。
言語を話せば人とほぼ変わりないが、動物や魔物も人も手当たりしだいに食料とする。
一体一体はそれほどの驚異ではないが、集団で狩りをするので、多少力が上とみられる相手にも集団で襲いかかってくるので、今までの獣のような魔物に比べて少しばかり厄介だ。
「……うかつだった、森の中の泉がどういうのものか、考慮を欠いてしまった」
水は人だけでなく、ありとあらゆる生物にとって必要なものであり、水場に集まる生き物を狙うということも森の中で生きる者たちにとって当たり前のことであった。
ましてや焚き火を炊いて肉を焼いてしまったのだ、起こした火の上昇気流によって肉を焼く匂いがあたりに広がれば、それが刺激となって森の中の生き物を呼び寄せることになる。
三体のゴブリンは、焚き火のあとを見つけ、その場であたりを見回す。
三体とも動物の毛皮のようなものを腰に巻き、手には太い木の枝や動物の骨を持っている。
その場に落ちていた肉を見つけて奪い合って食べたり周囲の様子を伺っている。
「あの三体を倒してしまうのはどうですか?」オリビアはブレンダにたずねた。
「それも一つの方法ですが、あれは斥候です。おそらく別働隊があたりにいるはずです、その数がわからないので、少し待ったほうがよいでしょう。
このまま何もなければ本隊に戻るはずです。」
三人はできるだけ気配をさせないように息を殺して時間がすぎるのを待った。
しばらくすると三体のゴブリンが出てきたところから、本隊と思しき集団が出てきた、数は七つ。
どうやら水を飲むために泉に向かってきているところに肉を焼く匂いを感じて、斥候を先に向かわせたようだった。
ここでもブレンダの目論見ははずれてしまった。
しかし、ゴブリンは集団で行動するが、それほど賢い生物ではない、引き続き身を隠していれば、去っていくはずだ。
ブレンダはそのことを伝えようとしてオリビアとケイトリンの方を向いたときだった。
「ぃっくちん!!」
ケイトリンがくしゃみをした。
「はわわ!ご!ごめむぐぅ……」
慌ててあやまろうとするケイトリンの口をオリビアが手で抑えて、そーっとゴブリンたちの方をみると、雄叫びのような声を発しながらすでに臨戦態勢でこちらに向かって来ていた。
「バラバラにならないように気をつけながら、とにかく逃げるわよ!」
ブレンダは二人に指示を出し、二人に走ることを促す。
「万物の根源たるマナよ、我が鎚となりて敵を叩け『
ゴブリンたちの目の前の地面が盛り上がり、ゴブリンに向かって襲いかかる。
効果範囲が大きいが速度はそれほど早くないので、その様子をみたゴブリンたちは走る方向を慌てて変えたり飛び退いたりすることで避けた。
それは少し足止めをする目的で放った魔法であって、ブレンダの目論見通りだった。
ブレンダはその様子をみることなく、先に走る二人を全速力で追いかけた。
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