第六話 魔物の森

フィルと別れ、町を出発してから三日目、聖魔の森にいた。


リナガリの町からの二日間は、国境の町へ向かう街道を歩いた。

街道はそれなりに人が通り、見回りも定期的に行われているため、野盗や魔物にも遭遇しにくい。


追手に遭遇する可能性もあったが、その先で森に入ることを考えると、街道を使って体力を温存しておきたかった。森では道なき道を行くことになるのだから。


二日目の夜、森が近くなってきたところで夜営をし、朝から森へ入ることにした。


そして、早朝になって森の中に入り、しばらくいったところで、早速魔物に遭遇した。


そのウサギの様なネズミの様な魔物は、防衛本能なのか、ただ知能が低いだけなのか、襲われる前に襲えと言わんばかりに、敵意をむき出しにして襲いかかってきた。


三人は森の中に入る前に対策を練ってきていたので、焦ることなく対処のために行動を起こす。


ケイトリンがショートソードを抜いて正面に立つ。

ブレンダは盾を構えてケイトリンの少し前に出る、オリビアはケイトリンの後ろで魔法を唱えるために意識を集中する。


走り寄ってくる魔ウサギに対してオリビアが土の魔法を唱える。


「万物の根源たるマナよ、我が槍となり敵を穿て『土の矛アース・パイク』!!」


魔ウサギの前に数本の鋭い突起が地面からせり出してくると同時に驚いた魔ウサギは飛び越えようとジャンプした。

しかし、空中では身動きが取れず、飛びかかってくる魔ウサギは待ち構えたケイトリンに斬り伏せられた。


これが三人で事前に練った対策だ。

オリビアが魔法で先制攻撃、行動が制限できる魔法を使って、ケイトリンがその後を対処する。それで仕留められなければ、オリビアが次の手を打つという連携だ。


実力はそれなりにあるが、魔物と戦う実践に乏しい二人には役割を分けることで、まずは実践になれることを優先した。


斥候役として、ブレンダが先頭に立って魔物の強さを測り、二人で対処できる魔物をぶつけるようにしている。


ブレンダは騎士なので、戦うことには全く抵抗はなかったし、魔物の討伐に騎士として出向いたこともある。


問題はオリビアとケイトリンだった、二人共身を守るために戦う術は学んでいたが、魔獣についての知識もあるが、実物を見るのは初めてだった。

そして、生き物を殺すという経験もはじめての経験だった。


魔王国の住人は魔力に優れ、魔法の威力が大きくなる傾向にある。また魔法を使える回数も聖王国の人間よりも多い。

それが魔王国と一般的に呼ばれている所以だ、正式名称は『魔法王国リガルディ』という。


その中でも魔王となるものは魔法の行使に優れているものが選出されている。その娘であるオリビアも才能を引き継いでいた。


ブレンダは魔物と対峙するのになれないといけないと考えて、できる限り手を出さず、オリビアとケイトリンの二人に対処させることにした。


はじめのうちはそれでも全く問題はなかった。

出くわすのはネズミのような魔物や、ウサギのような小動物系の魔物というよりも獣に近いものばかりだったので、オリビアとケイトリンだけでも問題がなかった。なかったのだが......


「ふぅ……なんだか、魔物と遭遇するのが増えてきていませんか?」オリビアがどちらにともなく話しかける。


ブレンダもケイトリンも同じように感じていた。半日程森の中を進み、何度めかの遭遇か、はじめは数えていたが、10を超えたあたりから数えるのをやめた。

延々と景色の変わらない森の中を歩いているからと言うのもあるだろうが、数百メートル進むたびに魔物と遭遇しているようだ。

このまま増え続けるのであればちょっと問題だ。

そろそろブレンダも手を出して体力を温存していかないと夜営までもたないかもしれない。


そんなことを考えて、「ここらで小休止しましょう」とブレンダは言った。

ちょうど先にある泉が見えたこともあって、少し休みながら、これからの行動を検討しようと考えたのだった。


———


泉の周りは開けていて、鬱蒼とした森に光が指し、水は透き通ってキラキラと日に照らされて輝いていた。


三人は泉の近くで、昼食の用意をする。

枯れ枝を集めて、火を起こし、森で狩った魔物とリナガリの町から持ってきた食料を簡単に調理する。


町で数日は過ごせる食料を手に入れていたが、この森の魔物は食料にることができるので、食べるものにはおおよそ困らなそうだ。

泉の水も澄んでいて飲むにも問題がない。


だが、ここは魔の森だ、ブレンダは冒険者ではないので、魔物を狩ったり夜営を常にしてるわけではない。

今後のことを考えていて泉がその森にとってどのようなものなのかまで考えが至らなかったのは仕方ないことだった。


「お昼ができましたよ〜」

お肉を焼くいい匂いがしてきたところで、ケイトリンが二人に声をかけた。

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