第25話Brownie the cat - 魅惑の猫ルーム

 ガチャ。

「あけおめー!」


 シーーーン……。


「マグミ?」

 驚く梶浦さん。


「おいおい!何だよ!来ちゃダメだった的な?俺が来ちゃダメだった的な?」

「いや…。驚いた!確かに、これたら来いとは言ったけど。何で?何でこのタイミング?」


「そこにいるのは大榧おおかやさん! 先日はどうもです! あらー?あらららーーー? 隣にいる可愛いお嬢さんは彼女的な? ねぇねぇ的な? 的な?」


 突然現れたマグミは空気を読まずに、この場を盛り上げようとしている。しかし、空回りだ。


「いえ! 私たちは娘です!」

 イラついたように言う美梨さん。


「実は写真を見せてもらっているから、知っていたよ。美梨さん。」

 本人はイケボで言ってるつもりだろうが、なんだか逆効果ぎですよぉ…。ヤバいな! マグミさん、超うざい!


「あれ? 何? 何何何何? バゲットさん泣いてる的な? ねぇねぇ、泣いちゃってる的な? 悲しい的な?」


「あっあの…。マグミさん。ちょっと今は…そういうノリはタブー的な?」

 兼太君が少し怒っている的な? ヤバい! ジワルんだけど…。


「じゃあさ! 登場してもらっちゃいますか? ますか? ねぇねぇ! ますか? はい! この方々でーす!」




 ルシエールさん、日向子さんとルキエラ、天王様と共に登場する僕…的な?


「母様! 颯太!」

 バグエが駆け寄ってくる。


「ルシエール様! 颯太さん!」

 エリーゼも駆け寄って来た。


「二人とも、よく頑張りましたね。」

 ルシエールさんの労いの言葉に、エリーゼは片膝を着き頭を下げる。バグエはルシエールさんに抱きついた。


「マグミ…。お前、前置き長すぎ…。あと5秒長かったらケリ入れたぞ!」

 梶浦さんに言われるマグミさん。てへっ!ってしているけど、逆効果ですよぉ…。って、あれ?バグエ?バグエは僕の方を見た。

 ん?怒っている的な?そして、エリーゼも立ち上がり、僕の方を見る。あれ?あれれ?エリーゼも怒っている的な?


「颯太!nなぜ私とヤシタを置き去りにした! 一応言っておくが、私は怒っているぞ!」


「あっ、いや…。すみません…。だからこの登場はやめようって言ったのに! マグミさん!」

「颯太さん! なぜ私を! 私達だけを現世うつしよに帰したの!」

「エリーゼ。あ、あの時はそうするしかなかったし…。」


「颯太! アリゼーは後だ! 今は私の話を聞け!」

「あっ、はい。」


「颯太さん! こんな子供の言うことなど後です!nまずは私の話を聞きなさい!私は怒っています!」


 二人に言い寄られ、あたふたしている。でも、バグエにまた会えた事がとても嬉しい。


「こら颯太! 何をニヤニヤしている!」

 怒りながら近寄るバグエに僕は…。


「バグエ! 大好きだ!」

 バグエを抱きしめた。


「こら! 颯太! ごまかすな…。みんなが…見ているぞ…。」

 恥ずかしそうに言うバグエ。


「颯太さん…。私には?」


「エリーゼありがとう! エリーゼがいなかったら僕はダメだったよ。Νύξ,ニュクス様のルキエラには勝てなかった!」


「あの…。颯太さん…。私にも…。その…。バグエみたいに…。」

 エリーゼも目を腫らしている。バグエだけじゃない、エリーゼも僕を心配してくれていたんだ…。


「エリーゼ。心配かけました。」

 そう言って、エリーゼを抱きしめてあげた。


「颯太。一応言っておくけど、颯太ママンも泣いていたよ。心配してたよぉ~。」

 ヤシタは冷やかしながら言う。


「母さん心配かけました。戻ってこれました。先に言っておくけど、悪いのはこの女だよ。このル・キ・エ・ラ!」


「だから! 颯太!」

 ルキエラはしどろもどろだ。


「もぉいいわ…。いいのよ…。もう…。お前が無事なら…。何があったのか、なんて聞かないわ。お前が無事ならね…。」

「そうそう! 母さん。紹介するね! こちらがバグエのお母さんでルシエールさん。ダークエルフのおさで、北の大地の女王様。」

 僕に紹介されたルシエールさんは母さんの近くに行き、手の甲をとり、キスをした。


「颯太殿の母様。私はバグエの母で、ルシエールと申します。この度は バグエが…。うちの娘が大変お世話になりました。颯太殿の母様。貴女のご子息、颯太殿には私ども、北の大地の民が感謝をしている。我が民は2億人ほどだが、その全ての民が颯太殿を受け入れる準備ができている。」

「ルシエールさん? それって…。」

 驚く母さん。


「我が民の父となってほしい。Νύξ,ニュクスの真意はわかりませんが、隠世かくりよの王たる資格を見極めるため。というのも、もあったと思います。颯太殿にはその資格があったらしい。それに、エルフ族の民はルキエラの…。エルフ族全てを統括するルキエラの帰還を願っております。こんな女ですが、私の姉でもあるのです。」

「ちょっと待って下さい!」

 母さんは気が動転している。


「すぐにではありません。颯太殿がやり残したことはたくさんあると思います。私どもは待ちます。」

「あの…。颯太とはもう会えないのですか?」

 泣きそうな顔をしながらルシエールさんに聞く日向ちゃん。


「会いに行かせるし、会いに来てください。来たときには歓迎致します。」

 日向ちゃんに対しても上品に対応するルシエールさん。


「納得いかない…。」

 大榧さんが小声で言う。


大榧おおかや美桜みおうさん。貴女が納得する必要はのみ欠片かけらほどもないのよ。」

「まぁまぁ、ルシエール。今はその話はやめて飲みましょう!」

 日向子さんは乾杯を提案した。


「そうだよね! いっちゃう? 乾杯いっちゃう?」

 マグミさん、早く飲みたかったんだね…。


「よし! じゃあ! 皆さんのご健康とご健勝をお祈りしまして、乾杯!」


 マグミさん、まだみんな用意できてないですよ? しかもそれ、最後の締じゃん? 三本締めとかじゃん? 誰もカンパーイって言ってないし…。


「ルシエールさん! ビールって飲んだことありますか?」

 日向ちゃんがビール瓶を片手にやって来た。

「初めて聞きます…。」

「じゃあどーぞどーぞ! コップを斜めにしないと泡だらけになりますよぉー。そうそう、ここら辺でコップを立てて下さい! はい! じゃあカンパーイ!」

「カ、カンパーイ…。」

 照れ臭そうに言うルシエールさん。


「母様、どうですか?」

 バグエはルシエールさんの隣に座り言う。


「どうだ? ルシエール。ビールって旨いだろ?」

 ルキエラはほろ酔いでルシエールさんに近付いた。


「ええ。不思議な味ね…。なんだかホワーとする。」

「ルシエールさんって、ルキエラさんと違って品があると言うか、美人ですよね! 貫禄があるし。ん? あっ! そうか! バグエのお母さんだもんな…。当たり前か! アハハ!」

 日向ちゃんがまたもや女性を誉める。


「日向殿。」

「嫌だなぁ~! ルシエールさん! 日向でいいですよぉ!」

「それでは日向、質問です。貴女は颯太殿を奪う私とバグエを憎くはないのですか?」

 眉間にシワを寄せ、申し訳なさそうに聞くルシエールさん。


「颯太が幸せならいいじゃないですか。いつでも会えるんですよね…。」

 下を向きながら話す日向ちゃん。


 そんな日向ちゃんの頭を撫でながらルシエールさんは言う。


「ええ。いつでも歓迎致します。それに、日向は服飾のお仕事をされていますね?私どもの城下町に貴女がデザインした装飾品や、服飾品を展示販売されたら如何かしら? 昨夜バグエとヤシタが着ていた服は日向がデザインされたのしょ? とっても素敵でした。二人とも悦んでいましたし。」

「えっ? 昨夜?」

 驚いた顔でルシエールさんに聞く日向ちゃん。


「申し訳ありません。娘の事が心配で、見に来てしまいました。」

「そうだったんですか…。でもそれなら、姿を出してくれれば…。」

「誰にも紹介されずに、人前には出れません。覗き見をしてしまい。申し訳ありませんでした。」

「いえ…。とんでもないです。」





 おじさん達エリア


「なぁマグミ? あの…あちらの方々は?」

 梶浦さんはマグミさんに質問するが…。


「知らん! だいたいさぁ。あの子! あの子が日向子と一緒にいたことすら知らんかった。」


 あの子って…。ルキエラはマグミさんの年かける1,000倍位ですよぉ…。


「何よ今さら…。何度も紹介しようとしたのに、マグミ君が私の話を聞かなかったんじゃない! バカ…。」


 日向子さん…。少し酔ってますね。


「だってさー。椚田んがそんなの信じられないじゃん! しかも椚田だぜ? あいつはただの乱暴者なだけじゃん? まぁ…、颯太が産まれてからは変わったけどさ。」

 マグミさんは腕組をしながら話す。


「確かに暴れん坊だったな…。」

 梶浦さんまで…。


「でも、爺さんは強かったよな! 椚田はただのランボーだったけど。」

 パァと明るい顔をするマグミさん。


「ああ! ヤバかった! あれはヤバかったな! 颯太知ってるか? お前の爺さんな。俺とマグミが駅前で暴走族と喧嘩したときにな、たまたま通りかかってさ! みんなを投げ飛ばしたんだよ! 皆だぜ! しかも俺たちまで。」

 参ったな。という顔で話す梶浦さん。


「あー。ありゃビビったわ! 風だよな! ヒュルヒュルゥ~って舞ってみんなを投げ飛ばしたよ!」

 マグミさんも楽しそうに話す。


「フェイレイ、そうなの?」

「主よ。確かにあのバカ二人は毎日のように爺さんに叱られていたな。まぁ、主の父も一緒にだが。でも、そこのバカ二人は特にやられてた。」


 カタン…。

 コップを落とす、マグミさん…。


「あー! 爺さんと話してた犬じゃね? 思い出したよ! マジかー! マジで喋れんのかよ! スゲーな!」


「だから! 言ったじゃない! 颯太君には使い魔がいるって! チャーチグリムだって!」


「話が…ついていけない…。何で? 犬が…。」

 大榧パパリンは後から来た中原父と首を傾げている。


「主よ。面白そうだから人の姿になるぞ。」

「えっ? 今から? うーん…。いきなり変わると確かに面白そうだし…。いいんじゃないかな?」

 この後のみんなのリアクションが楽しみだ!


 フェイレイは立ち上がると、淡い光を放ちながら、人の姿へと変わる。本人の言うオリジナル像だ。


「キャー!」

 五和ちゃん。思った通りで面白いっす…。


「犬が…。」

 大榧パパリンは固まった。あまり面白くない…。


「うんうん。可愛い娘だ。理恵の小さい頃にちょっと似てるな。」

「えっ? 絶対に似てないでしょ!」

 僕は中原父に言った。


「馬鹿者! 私は今も昔も可愛いぞ! だいたい君は私で卒業したいんだろ? みんなの前で言ったじゃないか! ん? どうなんだ? その辺は?」


 ペシン!


「それは終わった話だ! いい加減にしろ理恵さとえ!」

 日向ちゃんが理恵ちゃんの頭を平手打ちしながら言う。


「日向ママ! 日向が叩くよ~!」

「あらあら、可哀想に。でも、颯太に手を出したら大変な事になるからやめなさいね。」

「それはないな…。私は日向と結婚するからさ。なっ! 日向!」


「うーん…。そうだな…。私も颯太以外の男は嫌だし…。よし! 理恵! 結婚しよう!」

「バカ! 冗談だ! 私は百合ゆりじゃねぇよ!」

「私が百合なんだよ!」

「バカ! マジやめろ! くっつくな!」

「やめるものか! 理恵! 愛している!」

「やめろぉー! 離れろぉー!!」

 日向ちゃんと理恵ちゃんのアホらしい会話をよそにひかりちゃんたちはフェイレイで盛り上がっている。


「本当にフェイレイさん? 可愛いんだけど! 可愛いすぎなんですけど!」

 ひかりちゃんはフェイレイを抱き上げた。


「ああー! 俺も俺も俺も!」

「兼太君はダメ! イヤらしいことしそうだから!」


 ひかりちゃん…。イヤらしいことって…。


「ひかり! 私も私も! 抱っこさせて!」


 フェイレイは地に足も着けずに五和ちゃんに預けられた。


「あぁ! フェイレイさん! 可愛い! 癒される!」

「なあ五和…。」

「弥彦もダメ!」

「しかたがない…。私を抱っこするか?」

 ルキエラが立ち上がる。


「ルキエラさん! いいんですか?」

 兼太君と弥彦君が嬉しそうに立ち上がる。それはもう嬉しそうだ。


「兼太! あなたは何を言っているの! ルキエラもダメよ! お座りしなさい!」

 日向子さんが強い口調で言った。


 ペタン! と座るルキエラ。ヤバッ! 面白すぎ! 僕もやりたい!


「ルキエラ。おさの貫禄がまるでないな。」

 ルシエールさんが上品に笑いながら言う。


「ところでチャーチグリムよ。お前はそんな幼子の時にこの世を去ったのか?」

「矢が飛び交い、石弾が飛び交う時代。男たちは皆、盾を持ち剣を振るう時代だ。幼子が1人命を落とすなど、誰も気にしない。」

「そうであったか…。人間はいつの世も争いを好むからな…。それで、チャーチグリムよ、ユリとは何だ?」

「ルシエール、そんな事など私が知るわけないだろ。」

 フェイレイに言われ、僕を見るルシエールさん。


「あーー。それは…。何て言うか…。」

 僕は口ごもった。


薔薇ばらぞくの反対ですよ!」

 マグミさん! あんた頭悪いでしょ! ねぇ悪いですよね!


「ちょっとマグミ君!」

 日向子さん大変ですね…。


「バラゾク?」

「女性同士で愛し合うのが百合族。薔薇族はその反対…。男同士。ちなみにあの二人は冗談でやっているので本気にしないでね。」

 日向子さんは小声でルシエールさんに言うが、ルシエールさんの顔は徐々に赤くなっていった。何の話をしているのか一発でわかる状態だ。



 五和ちゃんは 先ほどのルシエールさんとフェイレイの会話を聞いて、いたたまれない顔をした。

 そして相変わらず無表情のフェイレイをギュッと抱きしめた。だが、フェイレイはというと。

「おろしてもらってもよいか? 私は主の近くにいたい…。」


 宙に浮いた足をパタパタさせている。

 ちゃんはそんなフェイレイを五和ちゃんから解放してあげた。そしてテクテクと歩いて、僕のとなりにちょこんと座る


「ちょっとフェイレイ! 退きなさい! あなたはずっと颯太さんと一緒だったんでしょう!」


 エリーゼの言った事など気にしないでフェイレイは嘲笑うかのように言う。

「主は私がいて主だと言っていた。忘れたか?」

 フェイレイはエリーゼを軽くあしらった。


「なぁフェイレイさん、今の容姿でそれを言うと颯太はまるでロリコンだな!アハハハハハ!」

 理恵ちゃんはいまだに日向ちゃんに抱きつかれながらの大爆笑。ちなみにみんなは苦笑いだ。


「颯太は兄コンでロリコンだ! ザマァねーな! ウヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 桑原さん…。久しぶりに喋ってウヒャヒャヒャヒャヒャかよ…。


「颯太さん、このバカっぽい男を殴りますか? それとも両手両足を切り裂き、何かのオブジェにでも致しますか? あぁ。オブジェにもならない気持ち悪い男でしたね。ふふふ…。」


「アリゼーさんが言うと、本気でやりそうで恐いですな…。」

 桑原さんは顔面蒼白で日向ちゃん達の後ろに隠れた。


「なんだかさぁ。こうやってみると颯太ってさぁ。女をはべらせてるよな。もちろん悪い意味で…。」

「マグミ君、今の発言はヤバいね…。」

 日向子さんは嬉しそうに言う。


 バグエはもちろん、エリーゼ、ルキエラ、フェイレイ、セルフィー、ヤシタまでもがマグミさんを睨み付けている。


「マグミさん。言葉には気をつけて頂きたい。颯太は私たちを侍らすような男ではない。」

 バグエが低い声で言うと、マグミさんはケタケタと笑いだした。


「アハハハハハ! だよな! そうだそうだ! 言われてみれば、あいつの息子だもんな! 椚田もさ! 二矢にや以外の女を相手にしなかったもんな!」


「ニヤ? 誰?」

 ヤシタが母さんに聞く。


「私の名前よ。椚田二矢ですよぉ。」

「可愛い! ニヤ!」

「こら! ヤシエッタ! 娘が失礼なことを言った。申し訳ない。」

 セルフィーがすまなそうに母さんに頭を下げた。


「いいんですよ。私には兄がいるのですが、兄の名前は一矢(カズヤ)。私は2番目に産まれたので、二矢です。なんだかやっつけで名前をつけられちゃいました。」

 恥ずかしそうに言う母さん。


「ねえ母様、私は?  私はなぜバゲット?」

 ルシエールさんは 微笑んでバグエを抱きしめて言う。


「まだ教えません。婚儀の時にでも教えましょうね。」

「うん。」


 ああ…。今の、うん。はキタなぁ…。キュンとキタぁ…。


「颯太さん、私の方を見てください。」

「エリーゼ? どうしたの?」

「うん。」

「え?」

「うん。……キュンときましたか?」

 そう言うことか……。


「はい! バッチグーです!」

 ふと、兼太君と弥彦君を見た。エリーゼを見てだらしない顔をしている。


「本っ当に笹目って無理だわ…。」

 美梨が小声で言うが、五和ちゃんには聞こえたようだ。


「この人の良さは私だけがわかればいいのよ…。」

「だろうね、五和いつわ以外は惚れないよ。」

 美梨と五和ちゃんは笑いあった。


 僕は二人の会話に心がなごむ。そんな僕に中原父がフラフラと来て言う。


「なあ颯太。ママさんがお店を辞めるのはお前のせいだと聞いたが本当か?」

 中原父は目がすわっている。


「おじさん、僕のせいと言うか、僕のせいかな…。」

「いなくならないで! ママさん…。」

 突然しゃがみこむ中原父。


「おい! ジジィ! やめろ! 娘が見てる前で何をしてるんだ!」

 理恵ちゃん。今にもおじさんにケリを入れそう…。てか、日向ちゃん。いい加減、理恵ちゃんを解放してあげたら?


「颯太さん。私、お店を続けようと思いますが、よろしいですか?」

 エリーゼは僕に聞いてきた。


「どうしたの突然? ああ。でも、その方がいいんじゃないかな。お店でのエリーゼは楽しそうでしたよ。」


「わかりました。なんだか颯太さんが悪者になってしまったので。それでは中原さん。私、続けます。お店に行きます。ですので、颯太さんを責めるのはもうお止めくださいね。でも、ママはあけみちゃんに譲りましたので、私のことはアリゼーとお呼びください。」

 エリーゼは中原父に、笑顔で言う。エリーゼ…。その言い方…逆効果…。


「嬉しいけど腑に落ちない! ねぇ! 梶浦さん! 大榧さん! えっとそこの君! ヤシチ君!」

「弥彦です…。」

 名前を間違えられ、弥彦君のショックを受けた顔が面白い…。


 …と、そこに…。

「よぉ! ハオ!」

 突然現れた1人の女性と先ほどまで一緒にいた恰幅の良すぎるおじちゃん。


「メタ!? 乾闥婆かんだっぱおう様!?」


 弥生時代のような衣服で現れた女性…。メタって…。メタさん? 僕のご先祖様の?


「ずいぶんと賑やかだな! おい天王! 聞いたぞ? 私の回鍋肉がそんなに嫌か!? あーーーん!?」

「メタ! それは…。」

 メタさんにタジタジな天王様。


「まあいい! そしてキサマが颯太か?」

 めっちゃオラオラだな…。


「はい…。」

「お前、Νύξ,ニュクスとやったんだって? しかもエルフに寄生したΝύξ,ニュクスと。寄生して弱っちくなったΝύξ,ニュクスに四苦八苦したらしいな!」

「あっ…。はい…。」

 ヤバい…。言い返せない…。


「でもΝύξ,ニュクス様…強かったんですけど…。」

 メタさんは僕の話なんて簡単に遮った。


「はあ? 何言っちゃってんの? バカか? トリシューラ持って何を言っちゃってんの? おいハオ! 大丈夫かこいつは?」

「あーー。メタ。今はうたげ中だ。わきまえろ。」

 宴と言う言葉に、妙に反応したメタさん。


「あん?  宴? そうか…。皆さんすまなかった…。じゃあ私にも飲ませろ! って…。お前…。」

 日向ちゃんを見て、息を飲むメタさん…。


「私だ…。本当に私だ! スゲーな!」

 日向ちゃんは嬉しそうにメタさんに近づく。


「お前が噂の日向か? 私の生まれ変わりだろ?」

 メタさんは友達のように日向ちゃんに話しかける。


「スゲーな! 私だ!」

 日向ちゃんも嬉しそう。


「日向! 私のことはメタでいい! それより、この酒旨いな! 何だ? こりゃ?」


「これはビールだ! 旨いだろ? ホラホラもっと飲め!」

「おーとっとっ…。ぷはー! 日向も飲め!」

「おーとっとっ…。ぷはー!」


 ぷぷぷっ! ヤバい! 話し方まで一緒だ!


「バゲットさん。少しでいい。颯太を貸してくれ。」

 そう言って理恵ちゃんが僕に寄りかかってきた。背もたれのない丸椅子なので疲れたらしい。というよりも日向ちゃんに抱きつかれて、疲労ひろう困憊こんぱいのようだ。


「颯太さん。この人で筆下ろしをしてはいけませんよ! 私、ここで見張ってますからね!」

「エリーゼ。それは神に誓って致しません。」

「でも見張っておりますわ。だって、あなた様を見ていたいのです。」


 あれ? もしかしてエリーゼさん、酔ってる?


「おい! 颯太! お前は戦いはまるでダメ夫のマダオだが、女を手込めにするのは得意だな!」

「メタさん。僕はそんな事してないですって!」

「僕はそんな事してないですって!」

 口を尖らせて僕の真似をするメタさん。あれ? 前にも誰かにやられたな。


「違うぞ! メタ! 颯太はこうだ! 僕はそんな事してないですって!」

 日向ちゃんまでメタさんと同じ事を! この二人の意気投合具合がとても嫌だ…。


「ギャハハハハ! こうか? 僕はそんな事してないですって!」

「あっ! いいねぇ! 近づいてきた!」


「やめて…。もうやめて…。僕はそんなにメンタル強くないんで…。」

「颯太! ちょっと外の空気に触れに行くぞ!」

 バグエが怒り気味で僕に言う。


「うん。日が暮れてきたから、ストール掛けて。」

「ああ。うん。ありがとう。」

 僕はバグエにストールを掛けると、バグエは僕の手を引いて早足で外に出た。


「バゲットか…。ずいぶんと可愛らしくなったじゃないか? 自慢の娘だろ? ルシエール。」

「ええ。ありがとう。貴女は相変わらずね。」

「ハハハ。それ、誉めてるのか?」

「ふふ…。何しに下界に来たのかしら? 颯太殿を天界に連れていって修行でもさせる気?」

「天王を連れて帰り、乾闥婆かんだっぱを置いていく。その次は夜叉だ。夜叉が来たら嫌だろ? セルフィー。アハハハ!」


「…忌々しい女だな。キサマは…。」

 メタを睨み付けながら言うセルフィー。


「おい! 乾闥婆! セルフィーにそろそろ還してやれよ、本体。」

 天王様と楽しそうに話をしている乾闥婆かんだっぱ王様。メタに話しかけられ、セルフィーの方を見る。


「よっこらしょ。」

 重そうに立ち上がる乾闥婆王様。


「最近、メタの料理で太ってしまってな…。さぁセルフィー。 こちらに来なさい。」

「本気か? 本体が戻ればまたキサマらに楯突くぞ!」

 セルフィーは真顔で言う、が。


「そんな事をしたら今度は殺す。」

 セルフィーに軽い口調で言うメタ。


「さぁセルフィー。憎まれ口はその位にして…。」


 乾闥婆王様の手が光だす。

 右手から出た光はセルフィーを包み込む。

 そして、影のようなもう1人のセルフィーが現れた。

 その影のようなセルフィーは今いるセルフィーと同化する。

 同化と同時にいっそう輝きだすセルフィー。

 そして光は優しく弾けた。


「ありがとう。」

 セルフィーにエリーゼと同様の風格が現れた。


「ママンだ! 本当のママンだ!」

 ヤシタが大喜びで、はしゃいでいる。


「セルフィー良かったな。東の滝を任せてもよいか?」

 ルシエールも嬉しそうにセルフィーに言った。


「ルシエール様。今まで大変ご迷惑をお掛け致しました。東の遺跡の件は私とシレーヌで出来るところまでは致します。ただ…。」

「獸化した人間は颯太殿と日向子にお願いする他はないであろう? なぁ? 姉上。」


「そうだな…。セルフィー。私も行こう。おそらくΝύξ,ニュクス関連の連中もいるだろうからな。」






 そして、外にいる颯太とバグエは。


「ねぇバグエ。怒っているの?」

「違う…。あのメタって女が気に入らないだけだ。」

 バグエは頬を膨らませている。僕とバグエは通りに面した、梶浦さんの敷地内にあるベンチに座り会話をしていた。

 通りには相変わらず、初詣帰りの人達が歩いている。晴着を着たバグエをチラチラ見る人もいた。


「メタさんの言った事なんて気にしないで。日向ちゃんとお酒で盛り上がっていただけだよ。あとトリシューラを使える僕が不甲斐ないからかな。もっと鍛練するよ。」

「颯太…。颯太は強いな…。」

「ねぇバグエ。話は変わるけどさ。僕ねルシエールさんに言ったんだ。バグエと結婚を前提に付き合わせてもらっていますって…。」


 バグエは えっ? という顔をして下を向いた。そして「うん。」と、そのまま下を向きながらへんじをする。


「バグエ。こんな僕だけど、いいかな。バグエのために…。北の大地のためにもっと頑張るよ。だから…。」


 僕はベンチから立ち上がった。


「こんな僕だけど、バグエと一緒に生きたいんだ。僕をバグエの人生のパートナーにしてくれませんか? お願いします!」


 僕はバグエにお辞儀をして右手を出した。


「バカ…。」


 えっ? バグエもベンチから立ち上がり僕の方を見る。


「こちらこそだよ…。ありがとう颯太。…大好きだ!」

 バグエはそう言って、僕の右手を握ってくれた。


あるじよ。みんな見ているぞ。」

「フェ? フェイレイ?」

 僕は驚いて周りを見回す。

 梶浦さんのガレージの窓から、ところ狭しと顔を出している酔っぱらい達。

 通りからは初詣帰りの人達が、こちらを見て拍手している。

 ヒューヒューと言う声も聞こえる。


「あーあ…。こうなっちゃったらもぉ無理だわ…。」

 美梨が大榧さんに言う。


「ホント…。私なんて、ヨガ教室まで通ってさ…。まだヨガファイヤーも覚えてなかったのに…。」


「おい大榧。今の状況で言いづらいけどさ、ダルジムの技はヨガフレイムだ。そして、この世にそんなヨガは存在しないぞ。」


 弥彦君の言葉に、えっ? という顔をする大榧さん。

「ヨガ教室まで無駄だったの?美梨ちゃん。」


 妹の頭を撫でるお姉さんの美梨。何も言ってあげられないようだ。


「さぁ! そろそろ御開きにしようか!?」

 何故かこの場を仕切るマグミさん。


「そうだな。それじゃアリゼー。こいつらの記憶を頼んだぞ! 私はこれから椚田家で飲みなおすから。終わったらお前も来いよ。」

 何故かルキエラも仕切る。たぶんルキエラとマグミさんが組んだらハチャメチャコンビだな…。


「そうね。ルシエールさんも来て下さい。母親同士のお話を致しましょう。同じシングルマザー同士ですからね!」

 母さんは照れ臭そうにルシエールさんに言う。


「あらやだ! 言われるまで忘れていましたわ! そうですね! 私はセルスに捨てられてしまったのですわ! あの男、許せませんね!」

「そうですね! 一緒に懲らしめる作戦でも練りましょう!」

「はい! そうしましょう!」

「セルフィー達も来てね! 僕達は東の遺跡の攻略ミーティングだね! シレーヌ、遅くなってごめんね。」


「小僧…。宜しく頼む…。」


「さぁ! 行こう! 椚田家へ!」

 何で仕切るの?マグミさん…。



 ーーーーEndーーーー

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