決戦前夜の宴・当日の宴

第23話 Boys Jump The Midnight

「可愛い? ねぇ颯太! 可愛い?」

「うん。」

「バグエよ。 主は満身創痍まんしんそういだ。」

「なんだかんだ言っても、日向殿は良い姉ではないか! なぁ颯太? この服、可愛いな!」

「見て見て! 颯太! 私も可愛いよね!」


「キサマら! もう一度言う! 主は満身創痍だ!」

「フェイレイ、大丈夫だよ。ちょっと喉が…。」


「大きな声で、下り飛竜ぅ~~~! だもんね! オモシロかった~! あっ…。」

 テンションの上がりすぎたバグエは 天王様を見て口を押さえた。


「何故だ? 下り飛竜、ダメか?」

 天王様は 少しブルーになっている。


「だだだダメじゃないです! 少しだけ、恥ずかしいと言うか。恥ずかしく無くはないみたいな…。」

「恥ずかしいのか~~!」

 天王様は膝から砕け落ちた。


「あっ! 日向! お帰りぃ! ありがとう! この服、可愛いよぉ~!」

 ヤシタは嬉しそうに日向ちゃんに抱きついた。


「あっ。ああ…。悦んでもらえて、私も嬉しいよ…。」


「あの…。日向殿…。ありがとうございます。何とお礼を言ったら良いか…。」

「いや…。いい…。あと…。バグエも私の事は 日向と呼びつけでいいよ…。」

「日向!」

 バグエも日向ちゃんに抱きついた。


「今まで、キツいこと言ってすまなかった。バグエは私よりも歳上なのに、生意気な事を言って…。」


「そんな事…。颯太をこんなにも良い青年に育ててくれた人に、私は感謝しかしてない。」

「主よ。今のうちにホカッテ来たらどうだ?」

 フェイレイは 僕の事を心配してくれている。

「ありがとう。そうするよ。」


「さぁさぁ! みなさん! 夕飯の支度を始めますよ!」

 母さんがみんなを促す。


「天王様もホカッテ下さい。ほこりがすごいですよ。」

 ひかりちゃんは天王様を促す。男がここにいると邪魔なんだろう…。


「兼太君も 行っちゃって!」

「はぁい。」

 僕達は3人で浴室に向かった。





「男連中がいないと、空気が爽やかね。」

「アハハ! 母さん言いすぎだ!」

 日向ちゃんは笑いながら言った。


「確かにそうねぇ。特に兼太君は最近、加齢臭に近いと言うか…。」

「そう言えば、ひかりさん。笹目って人は友人か?」

 バグエは ひかりちゃんに質問した。


「笹目君? 彼は中学と高校が一緒の同級生よ。何で? 会ったの?」

「今日、美梨と言う娘のスタジオで会った。 彼女もおったな。」

「へぇ! 笹目君の彼女は 五和いつわと言って、彼女も同級生よ。ちなみに私と美梨と五和はいつも一緒に行動していたの。少しキツイ性格だけど、良い娘よ。」

「ふーん。」


「ひかりちゃん! バグエはね、五和ちゃんが颯太の事を知っていたから、ちょっとだけ心配なんだよ。イッヒッヒッ。」

 ヤシタがバグエをひやかす。


「ちっ違う! 最初の時の日向みたいに色々と言われたらイヤだな、と思っただけだ!」

 バグエは頬を膨らませて言った。


「ゴメンって。私はバグエを受け入れたよ。」

 そう言って日向ちゃんはバグエの頭を抱き締める。




 一方、むさ苦しいがいる洗面所では…。


「うわぁ寒いぃ~! 何で天王様と颯太は寒くないんだ? フルチンでドライヤーとかスゲーな!」

「兼太君、何を言ってるの? 体温のステータスを上げればいいじゃん。」

「ステータスって…。んなことできるわけねぇだろ!」


「本当だ! バグエ! 来て来て! 颯太と天王様がスッポンポンだよ!」


「ヤ、ヤシタ!?」

 バグエがリビングからヤシタを怒鳴った。


「おっと! ここから先は男のロマンだ。お嬢さんは入っちゃいけないよ。」

 兼太君はヤシタの手を引きリビングへと向かった。


「もぉ! バグエもすぐに来ないからだよ!」

「ヤシタは小さい子みたいだな。」

 日向ちゃんは呆れたように言った。


「そうだな。ヤシタはまだ80歳位だもんな。」

 バグエは顔を赤くしていった。スッポンポンがツボったようだ。


「ちょっと待って! 80歳? ヤシタちゃんまで私よりも歳上なの?」

 母さんは驚きすぎて眼を見開いている。


「見た目は私たちよりも年下なのに、何だか人間ってもろいと言うか…。」

 ひかりちゃんは落ち込んだ。


「でも、人間は私たちにはない文化がある。 電気や水道。車に飛行機。どれも素晴らしい。私達の世界には 車は無いぞ。飛行機だって。だから私達は馬やラクダを使う。私は父がバンパイアなので空を飛べるが。飛べない者もいる…。」

「バグエ、飛べるの? どうやって?」

 驚く日向ちゃん。そんな日向ちゃんに、バグエは隠してあった翼を開いた。


 バサッ!

 翼を拡げるバグエ。


「四六時中、翼を出していると邪魔だから、いつもはしまってある。」

「おぉ!」

 驚く椚田一家。


「そう言えば、ヤシタも羽みたいのあったよね?」

 日向ちゃんがヤシタに言うと。

「あるよん。」

 ヤシタも綺麗な羽を出した。


「おぉ!」

 またもや驚く椚田一家。


「すごい! すごいすごいすごい!」

 日向ちゃんの眼が輝いている。


「颯太も飛べるのか?」

 日向ちゃんがお風呂上がりの僕に聞いてきた。


「僕が飛べないのは聞くまでもないでしょ?」

「あぁ…。」

 落胆する椚田一家。


「でも。最近の颯太のジャンプ力はすごいぞ!スカイツリー位までなら楽勝だよな!」

 天王様が自分の事のように自慢気に話す。


「うーん。まぁそのくらいなら。」

 驚く椚田一家。


「昨日の夜なんてさぁ。地上に着く寸前で、野良猫を避けて、シャッター蹴飛ばしたよね!」

 ヤシタ。言わないで…。


「シャッター? 大丈夫だったの? てか、スカイツリーって、634mでしょ?」

「シャッターはすぐに直したよ。それよりも、ひかりちゃんって物知りだね! てか、雑学王だよね。」

「あ、ありがとう。でも、その高さまでジャンプして、降りたときに、足は痛くならないの?」

「え? 風圧をかければ大丈夫じゃん?」

「颯太君…。当然のように言うけど、普通はそんな事できないよ…。」

「まあ、そうだよね。」

 僕は恥ずかしくなった。


「ただいま戻りましたわ、颯太さん!」

 エリーゼが突然現れた。


「だっ? 誰!?」

 兼太君は嬉しそうに言う。


「颯太。今度はどちら様?」

 母さんは半ば呆れてきている。


「突然すみません。わたくし、アリゼーと申します。バグエの母、ルシエール様にお仕えしております、北の山の魔女でございます。こちらの世界で言う、警察や病院みたいな事をしております。そして今は颯太さんにもお仕えしておりますわ。あの、颯太さん。お帰りなさいのご褒美を…。」


「エリーゼ、お帰りなさい。少しはゆっくりとできましたか?」

 僕はエリーゼの頭を撫でながら言った。


「ああ…。颯太さんありがとうございます。私、早くあなた様に会いたくて、急いで用事を済ませて参りました。ついでにゴブリン達の事も調べてきましたわ。そうだ! 颯太さん、のちほどお話があります。できれば二人きりでお話を…。」

「わかりました。」

「あの。お取り込み中のところすみません。私達は貴女の事を何とお呼びすれば良いですか?」

 珍しく日向ちゃんがエリーゼに質問をした。普通ならひかりちゃんなのに…。


「私の事はアリゼーとお呼びください、日向さん。そして貴女が颯太さんのお母様ですね。そしてひかりさん。 すみません、そちらの男性は?」

「兼太! 颯太のお兄ちゃんだよん。」

 何故かヤシタが紹介をした。

「初めましてアリゼーさん。」

 兼太君、嬉しそう…。


「まったく男って……。」

 ひかりちゃんは呆れている。鼻の下を伸ばし、デレデレしている兼太君を見ると、さすがに僕から見ても、情けない兄貴だと思える。


「さぁお母様。夕食の支度をいたしましょう。今夜はパーティーですからね。私もお手伝い致しますわ。」

「待て! アリゼー! 私がお母様とやるんだ!」

「は? 子供はテレビでも見てケタケタと笑ってなさい。」

 嫌味たっぷりでバグエに言うアリゼー。


「何だと! アリゼー!」

「あら~? 怒ったの? 短気な女は嫌われるわよ。ねえ颯太さん。」

「う…ん…。」

 僕は疲れからか、夢の世界と現実を行ったり来たりしていた。


「ほらみなさい。」

「お前達! 少しはあるじを休ませろ! 今日の主は 昨夜から下り飛竜の特訓で満身創痍だと言っただろ!」

 フェイレイは本気モードに入った。


「そうでしたか! 知らなかったとはいえ、申し訳ありません颯太さん。バグエ。そう言うことでしたら、貴女がお母様のお手伝いをしなさい。私は颯太さんにhealヒールをかけますので。」

 夢の世界から戻れなくなった僕を エリーゼはお姫様抱っこで寝室に連れていった。


「バグエ! アリゼーは颯太にイタズラしそうだから、私とフェイレイで見張ってくるね!」

 満面の笑みで言うヤシタ。


「私も行こう。アリゼーには聞きたいこともあるのでな。」

「天王様。ありがとうございます。フェイレイとヤシタも頼む。」

「任せろ。バグエはこちらの世界のもてなしをしっかり覚えろよ。」

「アハハ。辛口だな。フェイレイ。」

「さぁさぁ! 早くしないと、みんな来ちゃうわよ!」


 今夜は椚田家の年末恒例、年の瀬パーティーだ。

 来客者は

 笹目ささめ弥彦やひこ & 新屋敷しんやしき五和いつわカップル。中原なかはら理恵さとえ。そして今年は大榧おおかや美梨みり&美桜みおう姉妹も呼ばれた。

 加えると今年は天王様、バグエ&ヤシタ、エリーゼもいるから大所帯だ。何となくだけど、セルフィーとマンバキャルも来そうな予感がするが…。




 椚田くぬぎだ家、2F寝室。


 僕はエリーゼに膝枕をされていた。


「アリゼー。遺跡のゴブリンはどうだったのだ?」

 天王様がアリゼーにきりだす。

「メスに飢えた小鬼ゴブリンだらけで、汚ならしいところだったわ。一応、ドワーフとエルフの娘達を見つけたけど…。その…。助けてしまうと、他の街にも被害が出るから…。可哀想だけど、今は助けなかったわ。」

 下唇を噛み締め、悔しそうな顔をするエリーゼ。


「囚われた娘達には申し訳ないが、最善の処置だな。で、日向子は?」

 天王様も苦虫を噛み潰したような顔をする。


「今はルシエール様がかくまっているわ。」

「とりあえずは安心だな。」

 天王様はホッとしたようすだ。


「ルキエラは?」

 僕はエリーゼに質問をした。


「あら。起きてしまったのね。」

「うん。ありがとうございます。もう大丈夫です。これ以上、癒されると夜眠れなくなっちゃいそうで…。」

 僕はエリーゼの膝枕に恥ずかしくなってきた。


「セルスとルキエラ様は雲隠れよ。北の大地が心配だわ…。」

 遠い眼差しをするエリーゼ。僕は起き上がり、そんなエリーゼを抱きしめてあげた。


「おい、アリゼー! なんだそのニヤケヅラは!」

 フェイレイがあきれたようにアリゼーに言う。

「うふふ。だって、颯太さんが優しいんだもの。甘えさせてもらっているのよ。」

「主よ。北の大地、北の山はアリゼーの兵隊がいるから大丈夫だ。 魔女に騙されるな!」

「そうなの?」

「はい。大丈~夫よぉ~~~。」

 エリーゼは満面の笑顔で言った。


 トホホ…。僕は女性に騙されやすいのかな…。


「この話は颯太さんと、お二人でお話をしたかったのに。とんだ邪魔が入ってしまったわ。」

 僕の肩に頬をのせながら言うエリーゼ。


「ところで、リビングが騒がしいけどみんな来たのかな?」

 僕はみんなに聞いた。


「パーリースタートだね!早く行こうよ!」

 ヤシタは先に行ってしまった。



 そして、僕達もヤシタに続いてリビングに入る。情けないことに僕は 未だフラつくのでエリーゼに支えられながらの登場だ。


「「ゲッ!?」」

 理恵ちゃんと弥彦君が声を揃えて驚く。


「あら~。笹目さんに中原さん。いらっしゃい。」

 エリーゼは笑顔で二人に言う。


「え? 二人とも知り合い?」

 日向ちゃんは二人に聞いた。五和ちゃんとちゃんは 弥彦君を軽蔑な目で見る。


「笹目さんは たまにですが、うちのお店に来ていただいているのですわ。所長さんに無理矢理連れてこられている感じですが。」

「はは…。」


 面目なさそうにうつむく弥彦君。だが、僕の方を見て強い口調で言った。


「おい。颯太。どういう事だ? バゲットさんがお前の彼女なんじゃなかったのか?」

 弥彦君は 笑顔で僕に聞くが、その目は怒り心頭そのものだ。


「そうよね。颯太君どういう事? バゲットさんの目の前で、他の女性とイチャイチャして!」

 五和ちゃんまで…。


「あの、エリーゼ。もう大丈夫です。ありがとうございました。何だか僕が悪者的な感じなので、少し離れていただいても良いですか?」


「そんな、嫌ですわ! 2日も会えなかったんですよ! バグエもかまわないでしょ?」

「別にかまわん。 た・だ・し! 颯太にイタズラをしたら許さんぞ!」


 笹目カップルと理恵ちゃんは不思議そうな顔をしている。


「なぁ、バゲットさん。颯太が他の女性と、こんなに密着していて嫌じゃないの?」

 理恵ちゃんが不思議そうにバグエに聞く。


「ええ。颯太は私以外の女性に興味がないですから。」

 バグエは普通に答えた。


「スゲーな、バゲットさん。」

 驚く理恵ちゃん。


「颯太君はバグエの事が大好きだもんね。」

「ひかりちゃん! やめてって!」


 ピンポーン。


「あっ!美梨じゃん? 私が出るね!」

 そう言って五和ちゃんが玄関に行った。すると、「颯太君。一瀬いちのせさんって人がみえてるよ。」


「あっ! 忘れてた。昨日電話あったんだよ。お前の住所を教えてくれって。」

 弥彦君は慌てて僕に言う。

「そうなの? 」

 僕は玄関に向かった。


「ねえ、ちび颯太もいた? 私も行こうっと!」

 ヤシタもついてきた。


「こんばんは。」

「椚田さん! ありがとうございます!」

 一瀬さんのご主人は 涙を浮かべてお礼を言ってきた。


「そんな…。やめてください。」

「高坂での一件以来、お世話になりっぱなしで、なんてお礼を言ったら良いか…。」


「お兄ちゃん。」

「あっ! ちび颯太!」

 ヤシタが颯太君を抱き上げた。


「やめてよ! お姉ちゃん!」

「やめなぁい! ウリウリ!」

 ヤシタは楽しそうに颯太君をくすぐっている。


「わざわざ気を使っていただきありがとうございます。本当に気にしないで下さい。実は今、笹目もいますが、何かありましたら呼びますが。」

「いえいえ。満点ホームさんの施工に文句なんてありませんよ。それよりも、たまにで良いので颯太に会ってもらえませんか?」

「そんな…。たまになんて。僕はいつでも大丈夫です。こちらこそ、よろしくお願いします。宜しくね。颯太君!」

「やったぁ!」


 実際、颯太君の能力。TTRには 僕も興味がある。

 (TTR = Time To Repeat 時間移動する能力)






 そして、「さぁ! 乾杯しましょ!」母さんの一言でパーティーがスタートした。


「なあ颯太。バゲットさんとはどうやって知り合ったんだ?」

 弥彦君は眼がトローンとスワリだした。


「えっと…。それは 秘密と言うか…。」

「じゃあさ! なんでママとそんなに仲がいいんだよ!」

 弥彦君は小声で僕に恫喝した。


「困ったな。話すと長くなると言うか。」

「なんだよ! 結局だんまりかよ!」

 弥彦君はいきなり怒鳴り出した。


「落ち着け弥彦! 見苦しい。ところで、そちらの男性を紹介していただきたいのですが。」

 五和ちゃんは 天王様を見て言う。話が変わって助かった。


「初めまして。椚田の父、颯太の父の親戚です。椚田くぬぎだそらと申します。」

 天王様は自ら自己紹介をした。


「そうなんだ、天さんイケオジだな。」

「ちょっと! 理恵ちゃん失礼でしょ!」

 ひかりちゃんは驚いたように言った。


「颯太さん。こんな臭そうなオッサンの事などいいので、私の髪型はいかがですか? あなた様のため、良い女になろうと思いまして、髪を切ってまいりました。」

 エリーゼはそう言って立ち上がり 、クルっとその場で回った。


「あっ。はい。気がつかなくてすみません。 リボンが大きくて可愛いと思います。」

「リボンではないですわ!」

 頬を膨らませるエリーゼ。

「キャハハハ! お婆ちゃんのおめかしが気づかれて無い! キャハハハ!」

 大爆笑するヤシタ。


「アハハ…。アリゼーさん。颯太はお酒に酔っていてわからないんですよ。ここまでゴスロリが似合う人はいないですって! 髪型も可愛いし、私が男だったら死に物狂いでアリゼーさんにアタックしますけど!」

 日向ちゃんが珍しく同姓を誉めている。


「日向が女を誉めるなんて初めてだよな?」

 理恵ちゃんはビックリしている。


「日向! 私も誉めてくれ!」

 バグエも酔っているのかな?


「バグエは私の妹だもんな! 可愛くて大好きだよ! 歳上だけど。」

「はっ? 歳上なの?」

 驚くお客さん一同。


「まぁまぁ! 皆さん! 女性に年齢の事は失礼ですよ。そしてアリゼー。颯太はお前が戻って来たから安心したんだろ。それで酒に酔ったんだ。良かったじゃないか?」

 バグエも安心したように話す。


「おい! 颯太! どういう事だ? 何でアリゼーさんがいると安心するんだ?」

 怒りだす兼太君。


「だってさー。エリーゼは頼りになるからさー。」

 自分でもお酒に酔って、がまわっていない事がわかる。


 ピンポーン。


「あっ! 今度こそ美梨じゃない?」

 ひかりちゃんと五和ちゃんが声をそろえる。

「あっ! ママンだ!」

 ヤシタは飛び上がった。



「こんばんはー。お邪魔しまぁす。」

 美梨と大榧さんが登場した。思った通り、セルフィーとマンバキャルも…。


「私、颯太君の隣ぃー!」

 美梨が駆け寄って来た。


「私はママンの隣ぃー!」

 ヤシタはセルフィーに駆け寄った。


「ワタシハシレーヌノトナリィー。」

 大榧さんは低い声で言った。


「初めまして、颯太殿の母よ。私はヤシエッタの母でセルフィーと申す。アリゼーと同じ魔女をしております。と言っても、私は東の滝だが。今後とも、娘がお世話になることもあると思う。その時は宜しくお願いしたい。これは東の台地にある街。ウサミックスの土産物でコンデンスチーズだ。口に合うかわからんが、貰っていただきたい。」

 セルフィーは母さんに挨拶をした。

「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、楽しく過ごさせてもらって、ありがたいです。色々とお手伝いもしてくれたんですよ。本当に助かりました。それに可愛いお嬢さんですね、ヤシタちゃん。」

「不出来な娘を誉めて頂き、ありがとうございます。」


「「「魔女?」」」

 弥彦君 五和ちゃん 理恵ちゃんが声を揃えた。


「ちょっとセルフィー。ダメでしょ!」

 美梨はセルフィーをダメ出しをしたいようだが、うまく言えないようす。


「魔女ってシャーマンの事です。セルフィーの国ではそう言うみたいですよ。」

 大榧さん。ナイスフォローです。


「へぇー。そうなんだ。」

 半信半疑の五和ちゃん。


「セルフィーさんから頂いたコンデンスチーズを用意しますね!」

 ナイスひかりちゃん!


「私も手伝います!」

 バグエもついていった。


「ところで、そちらの女子高生は?」

 母さん、気づいちゃたか…。


「母さん、気にしないで。その人は空気だから、話しかけない方がいいよ。」

「こら! 颯太! 何て事言うの! 謝りなさい。」

「母さん。こいつは空気だから本当に、気にしないで大丈夫だ。」

 フェイレイが喋ってしまった。

「フェイレイちゃんまで…。」


「ななななな、何で犬が!?」

 お客様一同の声


「あっ…。」

 椚田家一同が声を揃えた。


「アハハハハハ! 椚田家面白~い! てか、フェイレイショボ~い。アハハハハハ! 喋りたいのを我慢していたんでしょ! アハハハハハ!」

 美梨は笑っている


「だいたい貴様が魔女とか言うからだろ!」

 フェイレイはセルフィーに怒る。


「違うでしょ! シレーヌが昭和な女子高生の格好なんてしているからじゃない!」

 セルフィーはシレーヌのせいにした。


「何を言うか! 以前日本に来たときに立ち読みした、eggという雑誌では女子高生はみんなこういう格好をしていたぞ!」


「ぷっ! そんな…。eggって…。ぷぷぷ!」

 大榧さんは笑いを堪えている。


「eggポーズ! いぇい!」

 シレーヌはポーズをきめた。


「ウゲ…。吐きそう…。」

 飲んだお酒が逆流しそうだ。


「ちょっと待って!」

 五和ちゃんが口喧嘩を静止させた。


「何で犬が話すの!」

 五和お怒りモード中。


「お嬢さん。お言葉ですが、私は犬ではない! チャーチグリムだ! 今はあるじに仕えている。主の使い魔だ。」

 フェイレイは丁寧に説明をした。


「チャーチグリムって墓守りですよね。ブラックドッグとか呼ばれている。そんな貴方が何故? 使い魔に?」

「シヴァ様の命により、遥か昔より椚田家に仕えている。」

「シヴァ様ってヒンドゥー教ですよね? 椚田家はヒンドゥー教なの? 今だって、肉とか普通に食べてるじゃない。」


 五和ちゃん…。食い付いてくるな…。


「あれ? 何か騒いでいると思ったらフェイレイさん、喋っちゃったの?」

 ひかりちゃん、呑気ちゃん。


「はい。セルフィーさんから頂いたコンデンスチーズでぇす。」

「これは少し火で炙ると美味しいのよ。」

 そう言ってエリーゼは指先から小さな炎を出した。


「ちょっと!? ちょっとちょっとちょっと! おかしい! おかしいって! 何で? 魔女? さっき言った魔女って本物の魔女なの!? アリゼーさんも魔女なんですか?」

 五和ちゃんパニック状態。


「はい。魔女でーーす。」

 エリーゼは テヘって顔をする。


「もぉ最初は颯太さんにあげようと思いましたが、五和さんにあげますわ。どうぞ。」

 エリーゼは少し溶けたコンデンスチーズを五和ちゃんにあげた。


「あ…ありがとうございます。」

「どうぞ。召し上がって下さい。」

「うわ! うわ! うわ! 何これ!?」

 驚く五和ちゃん。


「アリゼーさん。私にも下さい。」

 日向ちゃんはエリーゼに、おねだりをした。


「はいどうぞ。ちょっとセルフィー。ボケッとしてないで貴女もやりなさい!」

「アハハハハハ! ママン、ボケボケェ!」

「まったく、現世うつしよの者は火も使えんのか…。ほら。食べてみなさい。うまいぞ。」

 セルフィーは弥彦君にあげた。


「うわ! うわ! うわ! 何これ!?」

 驚く弥彦君。


「うわ! うわ! うわ! 何これ!?」

 理恵ちゃんまで…。この人達って美味しいものを食べると語彙力がなくなるのか?


「美梨と美桜も食べるか?」

 セルフィーが面倒くさそうに言った。


「私はいらなぁい。」

「私もいらないです。」


「何で? こんなに美味しいものを!」

 兼太君は大きな声で言った。


「だってさー。それ美味しいからってさー。2切れ食べただけでニキビが出来るんだもーん。」

 手が止まる女性陣。


「おい! 大榧! お前知ってたのか?」

 怒りながらもコンデンスチーズを食べる理恵ちゃん。


「はい。」

 笑顔で返す大榧さん。


「私もプツプツできちゃいました。」

 肩を竦めながら言う大榧さん。


「ダメだぁ~! この味! やめられない!」

 日向ちゃんはパクパク食べている。ちなみに理恵ちゃんも、ひかりちゃんも五和ちゃんも…。


「プツプツなんて気になんてしていられない味だな!」

 理恵ちゃんはモリモリ食べている。


「初詣はみんなでニキビだらけだな!」

 日向ちゃんもモリモリ食べている。


「ねえエリーゼ。みんなの顔にプツプツできたら治してあげてね。」

「えーー。先ほど五和さんは私に意地悪なことを言いましたから、どうしましょ…。」

「ねぇねぇアリゼーさん! 私は治してくださいね!」

 日向ちゃんはパクパク食べながら言った。


「はい。」

「私も! アリゼーさん!」

 理恵ちゃんもノリで言った。が…。


「貴女は嫌でーーす。」

 笑顔で言うアリゼー。


「そんなぁ…。」

「冗談です。皆さんまとめて治しますよ。」


 ホッとする一同。


「ねぇねぇバグエ! 後ででいいんだけどさぁ! 私を抱っこして飛ぶとかできる?」

 日向ちゃん? 何を言ってるの?


「うーん。日向くらいなら大丈夫だな。」

 バグエは普通に答えた。


「あぁ。もぉ。私の常識のキャパ超えたわ…。」

「大丈夫よ五和。どうせ帰りにはみんなの記憶を消すんだから。」

「ちょっと美梨? やめてよ! 怖いこと言わないでよね。本気にしちゃうじゃん!」

「五和よ。お前は知りすぎたのだよ。ワハハハハ!」

 美梨が楽しそうに言う。


「美梨が言っても怖くない。」

「そうかぁ…。私はひかりみたいに顔が怖くないからね。貫禄ないかぁ~。」

「何言ってるの? この前の美梨ちゃん…。椚田君を殺そうとしてた時、鬼の形相だったよ。」

「美桜! あれはセルフィー! 私が颯太君にそんな事するわけ無いじゃん! ねぇー颯太君!」

 美梨は僕に腕を絡ませてきた。


「おい! 小娘! 颯太にくっつくな! 颯太は私の恋人だぞ!」

「誰が小娘よ!」

「あら? わからない? 貴女が小娘よ、それに今日の颯太さんは私の物なのよぉ~~。」

 そう言ってエリーゼは 僕を抱き抱え天井ギリギリまで浮かび上がった。


「ちょっとアリゼーさん! パンツが!」

 慌てる日向ちゃん。


「兼太君、嬉しそうだねぇ。」

 顔をひきつらせるひかりちゃん。


「拝むな! 弥彦!」

 五和ちゃんまで怒っている。


「おやおや…。ヒッチャカメッチャカね。」

 セルフィーが呟いた。


「でも、今年は楽しいわ…。」

 母さん、幸せそう。


「アリゼーさん! 私だって2日間も椚田君に会っていなかったんですよ! 独り占めは止めてください!」

「美桜! お前は既にフラれたろ? もぉあきらめろ!」

「バグエさんこそ、落ち着いていられるのも今のうちですよ! 私だって昨日からヨガ教室で身体を鍛えているんですからね! エイ! ヨガファイヤー!」


 そんなヨガができるのはダルジムだけですよ。みんなの心の声。

(ダルジム = ストリートファイターⅡのキャラクター。)


「とにかく! アリゼーさん! 降りて! おじさん二人がアリゼーさんのパンツで、大変なことをヤリだしますよ!」

 日向ちゃん…。


「ちょっと弥彦? マジか?」

「しないしない!」


 バサッ!バグエは翼を広げた。


「アリゼー! 颯太をかえせ!」

「あぁ! バグエまで! あなた達スカートなんだから! 飛ばないの!」

 必死な日向ちゃん。


 エイ! パタパタ…。

「アハハ! 颯太をかえせぇ!」

「ヤシタまで…。」


「大掃除しておいて良かったー。これじゃ埃が落ちて大変なことになっていたわね。」


 母さん。ここは、あなた達いい加減にしなさい! でしょ?


「つ…翼…。」

 五和ちゃんと理恵ちゃんは開いた口が塞がらない。


「ママさんのパンツ…。」

 弥彦君…。情けないっす。


「アハハハハハ!」

 美梨は楽しそうだ。


「ヨガファイヤー! エイ! ヨガファイヤー!」

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