すごいエルフと、ある意味すごいエルフ

第21話 カゲロウデイズ

「あぁ…。颯太さん…。貴方様はどのような女性がお好みですか?明るくお喋りをする私?それとも物静かな私?貴方様の望みなら、どんな私にもなりますわ。」

 ソファーで寝ている僕に、アリゼーは寄り添うように話しかけている。


「うぅ…。」


「ちょっと!アリゼー! 颯太がうなされているじゃない!やめなさいよ!!」

「何よヤシタ!貴女こそ朝から騒がしくするのをやめなさい!颯太さんが起きてしまうわ。」

「フェイレイも起きているんだったらさぁ!こんな気持ち悪い儀式みたいなこと止めさせなさいって!」


「私は人の恋路を邪魔する趣味はない。」

「あら、ありがとう。番犬ちゃん。」


「フェイレイでよい。」

「ありがとう、フェイレイ。」


「フェイレイ、あんたって淡白なモノノケね。」

 あきれるヤシタ。



 僕は騒がしさのあまり、起きてしまった。

「う…ん? おはよう。」

「主よ、おはよう。」

「颯太さん。おはようございます。」


「颯太おはよう!ねぇホットケーキを作って!」

 苦笑いをする僕…。



「ヤシタ!主は起きたばかりだ!少しは待てないのか?」

 フェイレイはヤシタをあやしている。


「8月14日の~♪午後12時過ぎ~♪」

 ヤシタは歌を歌いごまかした。

 (ヤシタが歌っているのはProject Divaの収録曲。)


「凄いねヤシタ! カゲロウデイズまで進んだの?」

「うん!天王様もだよ!」

 天王様もハマってたんだ…。


「さぁ、颯太さん! お着替えをしましょう!お手伝い致しますわ。」

 アリゼーは僕の着替えを用意して待っている。


「ちょちょちょっ! 自分で出来るから!大丈夫ですって!」

「そうですの?」

 残念そうなアリゼー。


「なぁ、フェイレイ。 これじゃアリゼーが可哀想だよ。どうやれば術が解けるの?」

「術をかけられた者の眼を見て、願うとかどうだ?」

「そうか!! ねぇアリゼー!」

 僕はアリゼーの両肩に手を置き、アリゼーを見つめた。


「あぁ~~。颯太さん。朝からなんというご褒美でしょう…。ありがとうございます!」


「あっ?いえ…。 とんでもないです…。」

 もぉ泣きそうだ…。


「クックックッ…。」

 笑うフェイレイ。


「おい!フェイレイ!」

 僕は声を荒げた。


「主よ。できるかも…の話だ。」

「だよなフェイレイ。怒鳴ってごめん…。」


「あの…。颯太さん、もう一度お願いします!」

「お断りします!」

 僕はアリゼーの懇願を断った。



「おはよう颯太。」

「おはよう、バグエ。」

 バグエは寝起きで、ノビをしながら近づいてきた。僕はそんなバグエの頭を軽く撫でる。肩をすくめるバグエ。



「おはよう颯太。」

「おはようございます。天王様。」

 天王様も近づき、僕に頭を出してくる。


「えっ?」

 天王様は僕に頭を向けまま、微動だにしない。


「天王様おはよー!」

 ヤシタが楽しそうに天王様の頭を撫でている。


「ねぇねぇ天王様のつのってさ! 何で折れてるの?」

「おいヤシタ!!」

 バグエがビックリしたようにヤシタを恫喝した。


「自転車で派手に転んでしまってな。痛かった。」

 天王様は照れた様子で、頭をカキカキしながらヤシタに話している。そんな天王様をアリゼーが威嚇した眼で言った。

「その角。私がへし折ってやったはずだが?」


 うわ。もしかしてアリゼーも天王様と犬猿の仲か?

「あっ! そう言う話は結構です。」

 僕はアリゼーに言った。


「さぁ! 朝食を作りましょう!」

 僕は気を取り直し、薄力粉と強力粉を出して分量の計算を始めた。


「あれ? バニラエッセンスが無い!」


 周りをよく見ると、ダイニングテーブルにキャップの開いたバニラエッセンスの小瓶が倒れている。


「誰? これ使ったの。」

 僕はみんなの顔を見た。


「それ…。本当に食材でしたの?」

 アリゼーが驚いたように言う。


「アリゼー? アリゼーが使ったの?」

「いいえ。昨夜、ヤシタがペロペロと舐めていましたわ。」

「ヤシタ…。」

 ヤシタはヘッドフォンを着けて、Vitaを始めていた。



「仕方がない。ホットケーキミックスを買いに行ってくるね。」

 僕は着替えて玄関を出た。


 そしてエレベーターを降りた1階のエントランス。よく見ると、玄関のガラス窓に映るのは部屋にいた人達と同じ人影。


「あの。ちょっと買い物に行くだけなので、部屋で待っていてください。」

「私は颯太と一緒にいたいから付いてきたのだが?」

 バグエ…。


「私は颯太さんが心配でついてきました。」

 アリゼー。ただの買い物だってば…。


「私はバグエの使い魔なのよん。」


(天王様とフェイレイは?)

「「いるでござる。」」

 天王様はいつの間にか、僕と融合していて、フェイレイもいつの間にか、僕の影の中にいる。てか、何で声を合わせる?


「はぁ。しかたがない…。天王様、人の姿になれますか? その…。角の無い人の姿に…。」

「これでよいか?」

 早っ!?

「はい。ありがとうございます。」

「フェイレイは?」

「主よ。私には角がないぞ?」

「人の姿だ!!」

「そういうことでゴザルか。では、これで良いか?」

 そう言って、フェイレイは。

「フェイレイ?何で幼女? それって…。」

「主よ。私が人だった時期はこのくらいの幼児期だ。 これが私のオリジナルだ。」

「そっそうでゴザルか…。」

 ところでヤシタは?

「ヤシタもその耳…。人間みたいにできる?」

「はぁい! どお?」


 どお?って、片方だけかよ! 何であなたはいつもそうなの?

「ヤシタ…。できれば両耳でいってみようか?」

「はぁい!」

「アリゼー。君も出来れば、での衣装ではなく、普通の服でお願いします。」

「かしこまりました。では これでいかがですか?」

 アリゼーはOL風のスーツ姿になった。


「アリゼー。ありがとう。なんだかアリゼーに癒されます。」


 この人達って凄いな…。これじゃ日向ちゃんのお店で服を買わなくてもいいような気がする。と、心の中で呟くと。

「ダメだぞぉ。颯太。今日は洋服を買いに行くんだぞぉ。」

 そう言ってバグエは僕にすり寄ってくる。


「約束だもんね。大丈夫だよバグエ。」

 そんなやり取りをする僕たちを なぜかみんなが白い目で見ていた。


「さ、さぁ!それじゃみんなでJonathan'sジョナサンにモーニングに行こう。」

「行こう!行こう!」

 楽しそうなヤシタであった。






 お店に到着。各自、それぞれに注文をした。そして、次から次へと来る品々はは 僕の予想に反していた。


「はい。颯太さん、どうぞ。」

 そう言ってアリゼーが、僕にステーキに食べさせようとしている。朝からステーキって、この人の胃袋は24時間営業だな…。

 それに何でモーニングメニューから選んでくれないんだ?お給料は入っているだろうけど、銀行がまだ開いてないのに…。


「ごっ、ごめんねアリゼー。さすがに朝から肉は厳しいや…。」

「はい!あーん!」

 ですから。聞いてましたか?


「こりゃ食べるまで止めないな。」

 フェイレイが楽しそうにしている。

 僕はアリゼーが持つフォークを左手ごと手に取り頂いた。

「あぁ。颯太さん。私の手を!」


 なんだかアリゼーがルキエラになりつつあるぞ? なんとかこの術を解きたいのだが。

「天王様、この魅了って…。」

「そういうのはわかりませーーん!」

 天王様!?


「ねぇバグエ。」

「すまんが私にもわからないな。」

 ゲッ!

 ヤシタにもわからないだろうし、後でルキエラか日向子さんに聞いてみるか。


「ところで颯太よ。ドリンクババーの使い方を教えてくれ。」

 あの、天王様?バが1つ多いです。わざとですよね?


「それでは一緒に行きましょう。」

 僕は天王様とドリンクバーのところへ…。って? 何でみんなで来るの?


「あの。みんなで来ると他のお客さんに迷惑になるから、一人づつね。」

 天王様に説明が終わり、次にヤシタが来た。


「ヤシタはどれにする?」

「甘くて冷たいのが飲みたいよん!」

Qooクーでいいかな?はい、どうぞ。」

「ありがとう!」


 次にバグエとアリゼーが来た。

「二人は何がいいかな?」

「「甘くて冷たいのが飲みたい。」わ。」

 ユニゾンが流行っているのか?

 それとも、この二人って実は仲良し?


「別に良くも悪くもないぞ。」

「そうねぇ…。バグエは私の妹みたいなものですわ。」

「そうなんだ。あっ。Qooでいいかな?」

「「うん!」」


 そしてフェイレイ。

「フェイレイは何を飲む?」

「主よ。気が付いているか?」

「ああ。シレーヌだな。 コーヒーでいいか?」

「ああ。 冷たいコーヒーで。」

「入り口のテーブルにいるマンバギャルだな。」

「マンバギャル?」

「一昔前に流行ったギャルだ。」

「一昔前にってところがシレーヌだな。」

「それはオバチャンだからしかたがないさ!」

「それもそうだ!」

「「アハハ!」」


 バン!!!! シレーヌはテーブルを叩き立ち上がった。

「貴様ら!!」

「ヤバい! 逃げるぞフェイレイ! アハハ!」


 僕とフェイレイは笑いながらテーブルに向かった。そんな僕とフェイレイを見たアリゼーは言う。

「颯太さん。またシレーヌをからかったの?」

「ん? シレーヌがいたのか? 確かシレーヌは偽物のセルフィーと東の遺跡に行っているはずだけど?」

 バグエは怪訝けげんな顔をしている。


「ゴブリンの数を数えるくらい、いくらシレーヌでもすぐにできるんじゃないかしら?」

 アリゼーは僕達の笑いにのってきた。


「おいおい。シレーヌは20匹以上数えられるのか? 両手、両足で20までだろ? まずは100まで数えられるようになったほうがよいな!」

「フェイレイ、それは言いすぎだぞ! ぷぷっ!」


「貴様ら! いい加減にしろ!!」

 シレーヌが僕達のテーブルに来た。それを見た店員さんも、驚いて仲裁に来る。


「お客様? 落ち着いて下さい!」

 店員さんは マンバギャルに少し戸惑っている様子だ。


「小僧! 今日でなくてもよい! 東の遺跡に来てくれ! 私の妹がそこにいる。助けて欲しいんだ…。」

 泣きそうな表情になったシレーヌ。


「後で聞くよ。 シレーヌも美梨のスクールに来るでしょ?」

「行くには行くが、セルフィーには…。」

 聞かれたくない? のかな?


「わかった。外で待っててね。」

 シレーヌは しぶしぶお会計をしてお店を後にした。てか、なぜシレーヌは現世うつしよのお金を持っているんだ?


「あの大丈夫でしょうか?」

 店員さんは 驚いて、僕に聞いてきた。それもそうだと思う。普段の生活で、東の遺跡とか、高校生風の女子が社会人の僕に小僧と罵ったり。

 何より妹が誘拐されたニュアンス。そしてこの僕がそれを助けるなんて。普通の生活をしていて、あり得ない話だ。それに、僕の団体…。はっきり言って異様だ。


「はい。大丈夫です。友人がご迷惑をお掛けしました。」

 僕は丁寧に謝った。


「さぁ僕たちも行きましょう。 僕はシレーヌと少しお話をしてきますので、先に部屋へ戻っていてください。」


 僕はお会計を済ませた。勿論カードでね!そして僕はフェイレイと外に向かった。と言っても、みんなが部屋に帰るはずもなく。結局みんなでゾロゾロと近くの公園に来たのだった。




「シレーヌ、すまない。みんな来ちゃった。」

「小僧、貴様は凄いな…。アリゼー様まで仲間にするとはな…。」


「それは…。僕の過ちだ。アリゼーにはいつか必ず埋め合わせをするつもりだ。」

「颯太さん。それって、婚儀でしょうか?」

「違います!」

 僕はアリゼーの問いかけに、全力で否定をした。


「なあシレーヌ、東の遺跡はゴブリンが住みかにしているって聞いたけど?」

 バグエは心配した様子。


かしらはロードクラス。500匹位の集落だ。」

「そのくらいの集落、貴女なら片手でも大丈夫でしょ? あぁ…。そう言えば、そこにいるゴブリンって、半数以上が元人間でしたっけ?」

 アリゼーは意地悪そうに言う。


「あぁ…。ウサミックスに住むエルフやドワーフの若い娘を拐って…。はらまして人数を増やしているらしい。たぶん…。そこで暮らしていた妹も…。」

 シレーヌの眼からは大粒の涙がポロポロと流れ落ちている。


 ん?どう言うことだ?人間を獸化させているのはアリゼーじゃないのか?


「あの…。アリゼー?人間を獸化しているのはアリゼーって…。」

 僕は意を決してアリゼーに問いかけた。


「嫌だわ、誰がそんなことを? あぁ! それであの時。榛名湖の時、私から逃げるように去ったのね。颯太さん、私ショックを隠しきれませんわ…。私の頭を撫でてくださらない?」

 さすが魔女様だ。話しの持って行きかたがうまい。


「すみません…。」

 僕はアリゼーの頭を撫でた。


「おい! 颯太!」

 バグエは突然怒りだした。

「あわわわ! ごめんなさい!」

 バグエは頬を膨らまして怒っている。

「ごごごゴメン!もう少し!」

「何がもう少しだ!」


 よし!これで…。

「颯太さん、本当にありがとうございます。もっとナデナデしてください。」

「ヨシヨシ!」

 そう言ってアリゼーの頭を撫でるのはヤシタであった。


「気安く触るな! 出来損できそこないのハイエルフが!」

 アリゼーは鬼の形相でヤシタを怒鳴り付けた。


「あひゃひゃひゃひゃ!!」

 しかしヤシタは楽しそうだ。


「ところでその事は ルシエールは知っているのか?」

 天王様はシレーヌに聞いた。


「天王様。この事件を調べるよう、私に言いつけたのはルシエール様です。全容まではわからないと思いますが、所々はご存じかと…。」

つらいな…。後は私に任せるのだ。」

 そう言って天王様はシレーヌの頭を撫でた。


 ん? シレーヌも?


「天王様! ありがとうございます!」

 やっぱりシレーヌもか…。


「颯太よ。これは私としても見逃せんな。」

 天王様が珍しく怪訝な顔をしている。


「本来、隠世かくりよの出来事に手を出す義理は無いのだが、今回は獸化した人間の事もあるので早急に対処したい。したがって、で颯太に私の必殺技を伝授しようと思う。」


 マヂか!? 正直嫌だ!

「もしかして必殺技とは 名前はさておき、くだ飛竜ひりゅうですか?」

「カッコいい名前だろ?」

「すみません…。あれを叫ぶのはちょっと抵抗があるような、無くは無いような…。」

「あるのか?」

「あるような、無くはナイヨウナ…。」

 僕の声は小さくなった。


「あるのか!!!」

「すすすっすみません! 突然、なっ無くなりました!!!」

 酷いよ天王様…。

「よし! それでは期をみて特訓だな!」

 あぁ…。


「ぷっ! 下り飛竜…。」

 ヤシタが小声で言った。


「あの…。天王様。」

 シレーヌが言いづらそうに天王様に話しかける。


「どうしたシレーヌ。」

「実は遺跡には シャーマンが5匹ほどいます。」

「ウッヒャー! 5匹もいるのかい!?」

 てっ天王様? 先程までの威厳が…。


(シャーマン = 魔法使いのような術を使う。ゴブリン程度の獸だと、第2尉程度。しかし5匹で攻撃されると、けっこう厄介。)



「ゴブリンのシャーマンか…。確かに厄介だわ。それでは私も颯太さんと一緒に行きますわ。ですから安心してください。颯太さんは私がお守り致しますわ。先程のお礼もしたいですし。」

「何を言うアリゼー! 何のお礼だと言うんだ! 颯太は私が守るんだ!」

 バグエとアリゼーが言い合いを始めた。


「ところでシレーヌ。何故セルフィーには聞かれたくないんだ?」

 僕は当然の事をシレーヌに聞いた。


「それは セルフィー……。」

 シレーヌが言いかけたその時。物凄い殺気と共に、疾風のごとき一陣の矢がシレーヌの首に突き刺さった。


「小僧…。我が妹を…。」

 そう言って、シレーヌはその場に倒れた。が、みんなはシラけたようにシレーヌを見る。勿論、僕もその一人だ。


「あー。あの。こうやってシレーヌが倒れるとさ…。 いかにも死んじゃった感があるけどさ…。シレーヌってこんなんじゃ絶対死なないでしょ?」


 僕の問いかけに答えたのはヤシタ。

「シレーヌはね、斧で10等分に切り刻んでも問題ないと思うよ。」

「凄いなシレーヌ!何等分まで耐えるかやってみるか?」

「バグエ?怖いこと言わないで!」

「それはでみなさん。ハリキッテやってみましょう!」

「アリゼー! ちょっと待って! ちょっと待って! てか、どっから出したのその斧は?」


 本気モードのアリゼーを僕は間一髪で静止させた。そして、僕はなんとなく確信に近づいているような気がしてきた。


「今さ、この矢を打ったのって確実にセルフィーでしょ? そして話を聞いていたから、シレーヌを射ぬいた訳でしょ? でもさ、セルフィーならこんな事でシレーヌが息絶える事が無いって事も知っているんでしょ? なんだかさ…。」

 天王様の目が游いでいる気がする…。


「ちなみに。 アリゼー。」

「はい。何ですか?颯太さん。」

「本当は僕に魅了なんてされてないでしょ?」

「あらぁ? バレちゃった?」

「僕に本名で呼ばせないからね。それに、ルキエラも昨夜は何かを探ろうとしていた。」

「凄い観察力だこと。」

「東の遺跡の事もそうだけど、前に美梨と一緒に行ったセルフィーの砦。主がいないはずなのに綺麗に整理整頓されていた。それって話が所々変だよね。」


 僕の話にみんなが黙ってしまった。と言うよりも、何かを隠しているようにも見える。


「主よ。セルフィーは確かにヤクシャ様に抹殺されたぞ!」

「うーん…。その謎はまだわからないな。あとさ、人間を獸化と言うのは本当なの?」


「それは本当だ。あと…。私の颯太を思う気持ちも本当だ。」

「バグエ。 ありがとう。」

「颯太。私を信用してくれているのか?」

「バグエの瞳は嘘をついていない誠実さがあるもん。」

「颯太!」

 バグエは僕に抱きついて来た。


「颯太よ。話を聞いてくれないか?」

「天王様、僕はこれから仕事の打ち合わせがあるので…。歩きながらでもよろしいですか?」


 そして僕達はシレーヌを残し、寮へと向かった。勿論、天王様と話を進めながらだ。



「颯太よ。今から話すことは真実だ。すまないが、昨夜お前の家族に言ったことは 全てが真実ではない。そして、颯太は近いうち隠世に行ってもらう事になる。そして、現世うつしよでの生活に戻ることは無いと思ってくれ。」


「なんとなくだけど、そんな気はしてました。僕が大榧さんにしたこと。理恵ちゃんにしたこと。それを見た兼太君とひかりちゃんが僕に嫌悪感を抱いたこと。美梨が僕に恐怖を感じたこと。日向ちゃんがバグエを受け入れつつあること。今までの出来事が、徐々に僕を周りの人達から遠ざけようとしていたもんね。」


「颯太よ。残るはお前の母さんだ。彼女はお前を本当の息子のように愛している。それはお前の父の分身みたいなものだからな。」


 僕達は部屋に着いた。そして、僕は出かける準備をしながら天王様と話をすすめる。


「天王様。僕は今後、隠世で暮らすと言う事ですよね。メタさんが天界で暮らしているように。」

「気づいていたか…。」


「主よ。どう言うことだ?」

 フェイレイが珍しくそわそわしている。


「フェイレイ、おそらく当時のハオの前で息を引き取ったメタさんはフェイクだよ。」

「何故だ!?」

 フェイレイは よほど驚いたのか、本来の姿に戻った。


「そうでしょ?天王様。」

「フェイレイ。すまんが、颯太の言うとおりだ。メタの一族を1度リセットする必要があったんだ。メタは善悪の区別をハッキリしすぎた。それは人間に対してもだ。」

「リセットしなければ、日向ちゃんが僕の役回りだったんだと思う。」

「そのとうりだ。」

「そして、その後。まあ、何百年か後に、門番に名乗り出たのがルキエラですよね。」

 天王様は驚いている。


「何故そこまでわかったんだ?」

「ルキエラが僕に近づいているのは シヴァ様との契約のため。アリゼーを敵に見せかけて、実は善人だった。と言う事にして僕を油断させる。そしてトリシューラを奪う。勿論、フェイレイごとね。」

「おい! アリゼー! どう言うことだ? 父さんはルキエラの居場所を知っていたようだが、母さんは知らなかった。それと関係があるのか? どうなんだ!?」

 バグエも気が動転しているようだ。


「バグエ、落ち着いて。アリゼーは何も知らないよ。さっき頭を撫でた時にアリゼーにかけるれたルキエラの術を解除したんだ。ちなみに、その術は僕に恐怖を植え付ける術式。シレーヌもセルフィーに術をかけられていた。それは天王様が解除したけどね。」


「バグエ、恥ずかしいけどそのとうりですわ。私は何も知らない。ただ颯太さんを怖がらせる事に、集中していたの。本当に情けないわ…。」


「そしてね。バグエのお母さん、ルシエールさんは気づいたんだと思うよ。東の遺跡で起こっていることが、僕を誘き寄せて、フェイレイを抹殺し、トリシューラを奪う。そして…。現し世と隠世の門番、管理者になろうとしている者が隠世にいることも。」


「それがルキエラなの?」

 バグエは驚いている。


「バグエ…。違うんだ…。言いづらいけど…。」

 僕は口ごもった。


「バグエよ。 お前の父…セルスだ。そして颯太よ、近いところまで気が付いたが…。セルスとルキエラは…。夜の王と闇の王になろうとしている。」

 天王様は口ごもる僕の代わりに真実を告げた。


「やはり神様が関わっていたんですか…。ルキエラに力を貸しているのは 夜の女神、 Νύξニュクス様ということですか?そしてセルス王は暗黒の神 Ἔρεβοςエレボス様ということですね?おそらくルシエールさんはバグエを逃がすために、何も気づかない振りをしてバグエを僕の側に行かせたんだと思う。」


「そんな…。ヤシタは?ヤシタは知っていたのか?」

 泣きそうな顔をするバグエ。聞かれたヤシタも、今にも涙がこぼれおちそうな表情で、首を横にふる。


「バグエが知らないことはヤシタも知らないよ。安心して。」

 僕はバグエを抱きしめた。そんな中、アリゼーがバグエに聞く。

「バグエ。最初に現世うつしよに来たとき、バグエは私を見張るように言われたと思う。」

「うん。父様に言われた。」

「何故かわかるかしら?ルシエール様がエルフ族の会議に行って留守にしていたからなの。おそらくバグエが近くにいると具合が悪かったんだと思う。あと、颯太さん…。」

「はい。何でしょうか?」

 アリゼーは意を決した顔をしている。


「私のことをエリーゼとお呼びください。これは魅了とは関係ありません。術の解除のお礼とも関係ありません。私があなた様に好意を持つことは私自信の真実の心です。どうかお側に居させてください。」

「エリーゼ…。ありがとうございます。心強いです。こちらこそ宜しくお願い致します。」

 アリゼーは嬉しそうにニコッとした。


「凄いな小僧…。」

 ん?

 んん!?

「シレーヌ!? 勝手に人の部屋に入ってくるな! それから首に刺さった矢を抜けって! マヂで気持ち悪いから!」


 首に矢が刺さりっぱなしのマンバギャル。しかも偉そうにダイニングテーブルに片膝を立てて座っている。マヂで吐きそうだ…。


「さぁ! 告白タイムも終わったことだし! みんなで行こぉ! おぉ~!!」

「こら! ヤシタ! 私の話は終わっておらん!」

 シレーヌはヤシタを怒鳴り散らす。そんなシレーヌに僕は会心の一撃を与える。

「あーーー! もぉシレーーーヌ! 矢を抜け!!」

 僕はそう言って、シレーヌの首から渾身の力で矢を抜いた。

 するとシレーヌは「フガッ!」と言い、その場で気を失った。


 あぁ…。こんな爬虫類いたな…。仰向けで死んだフリする爬虫類…。


 僕達は 気絶した爬虫類を残し、美梨のcatch the waveに向かう事にした。

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