敵と味方とエトセトラ

第15話 D.I.Jのピストル

(主よ。図面を描くのでは?)


((仕方がないじゃないか!僕だって眠くて、今すぐにでも寝たいんだ!))


「こんな時間だし、颯太君はご飯食べたよね?」


 コンビニでの買い物の後に、出逢った女性。大榧おおかや美梨みりという、大榧さんのお姉さん。

 正直、何か嫌な予感しかしない。


「はい。食べました。」


「いつもどこで食べるの?自炊しているとか?」


 この人って何だか面倒だな…。


「今日は実家で食べました。」


「ふぅーん…。旅行のお土産を渡しに行ったの?」


「えぇ、まぁ…。」


((心が探れるって、何だか嫌な気分だ…。大榧さんのお姉さんの声が、ガンガン聞こえてくる…。))


(あるじよ。モテ期、到来だな! うらやまやましや、だっけ? そんな事よりも、アイスが溶けてしまうのでは?私はそれが心配だ…。)


((ハンドルに掛けてあるから大丈夫だよ。外は氷点下だし。ちなみに、うらやまけしからん!だ。))


「颯太君もパフェ食べる?」


「いえ。僕はドリンクバーだけで大丈夫です。飲み物を持ってきますが、何を飲まれます?」


「うーん…。一緒に行きましょ。」


 気まずい。帰りたい。話ってなんなのかな…。

 強制的に連れてこられたファミレス。本当に、僕って押しに弱い…。



「わぁ!颯太君って、コーヒーはブラックなの? シブいね!」


「いえ。格好をつけている訳ではなく、甘いコーヒーを飲むと、気持ち悪くなるんです。」


「アハハ。颯太君は可愛いね。私はそんな事、格好つけているなんて、思っていないよ。」




 僕たちはドリンクを持って、席に着いた。




「あの。大榧さんのお姉さん。お話とは何でしょうか?」


「ねぇ颯太君。私の事は美梨ちゃんでいいよ。」


 何なの?この人は!


「あとさぁ。颯太君は歳上の女性をどう思う?」



(主よ。アイス…。)


((わかってる!ちょっと待ってれ!))



「えっと…。その前に、僕から質問をしても、よろしいでしょうか?」


「うん。どうぞ。」


「何故、僕の事を知っているのですか?」


「ふふん。だって私は、ひかりの結婚式で、ピアノを弾いたんだよ。その時に颯太君にも挨拶をしたよ。」



(主よ…。私はアイスが食べたい。)


((Fayray、もう少し我慢してもらえないか?))



「そうでしたか…。すみません。あの時はたくさんお客さんがいて、ほとんどの人を覚えていないのです。大変失礼致しました。」




((Fayray…?もしかして、この人にどっかのエルフが乗り移ってないか?))


(それはない。単純に、主に好意を持っているだけだ。)



「ねぇ颯太君。隣に行ってもいい?」


「あの、それはヤメテいただけませんか? それよりも、真面目にお話をして頂きたいのですが…。」


「ふーん。本当に真面目な子ね。」



 そう言って、美梨さんは話を始めた。



 今日ね、 美桜みおうが仕事から帰って来たらね、目をね、真っ赤にしていたのよ。

 あぁ…。これはどっからどう見ても泣いていたな…的な…。

 こういう時ってさぁ。姉妹でも聞けないわけよ。てゆーか、逆に家族だから聞けないってゆーか…。



(主よ。この娘の話し方はイラつくな。)



 それでね、コンビニでお菓子を買ってぇ、美桜と一緒に食べながらぁ、それとなぁく、聞こうかなぁ…と。

 そしたらね、颯太君がいたわけよ!こんなちょうど良いことって、ないじゃない?



(本当にイラつく話し方だな。アイスよ。)


((自分で言うのも、なんだけど、そこは主と言ってもらいたいな。))



「あの…。先ほどの話の流れでは、僕が連休で旅行に行っていた事をご存知のようですが?」


 大榧さんのお姉さんは  あ!? と言う顔をした。


「てへ。バレたか。」



 姉妹でも性格は全然違うんだな…。



「実はね、美桜の大好きな、颯太君という男の子がね、どういう子なのか、興味があったの。」


「そんな…。やめてください。」


「本当だよ。私ね、ちょうど見ちゃったんだよねぇ。美桜がぁ、颯太君の事を好きになる瞬間。」



 もぉやだ…。帰りたい…。



「あの…。帰らせていただきます。」


 僕はそう言って席を立った。


「ダメ! 帰ったら大声出すから!」



((Fayray…。助けて…。))


(アイスの恨み…。)



 僕は諦めて座ることにした。



「わかりました。 それでは 僕の何を知りたいのでしょうか? 一緒に旅行に行った相手ですか? その人とどういった関係か、ですか?」


「颯太君ってさぁ、怒った顔も可愛いね。」


 まったく、この人は!!


「いい加減にしてください!僕は会社から連休を頂いて、昨日から仕事に行っておりません!大榧さん…、あなたの妹さんが泣いていた理由も僕にはわかりません!これが僕の言える全てです!」


 大榧姉さんはビックリした顔をしたが、すぐに元に戻った。


「颯太君、ごめんなさい。 今日は帰りましょう。お疲れのところ、一緒に居てくれてありがとう。ここは私が出しておくから、お先にどうぞ…。」


 この人にだけは 借りをつくりたくないな…。

 僕は大榧姉さんの手から伝票を スッと抜き取り、会計をして外に出た。



「颯太君!」


 後ろから呼ばれたが、僕は振り向かなかった。

 足音が近づいてくる。嫌だな…。




(主!構えろ!)


((えっ!?))



 僕は振り向き、咄嗟に彼女の左手を掴み、投げ飛ばした。

 景色が一瞬で変わる。何だこれは?!

 隠世かくりよ



「良い反射神経だ!」


 何?この声は?


「やはり乗り移っていたか!」


 Fayrayが僕の影から飛び出して言った。


「心を掻き乱そうとしていたから、怪しいとは思っていたが、こういう事だったようだ。主よ。」


「Fayray、一瞬で隠世かくりよばされたようだが。魔女か?」


「そのようだ…。」


「構えも良い! しかし、トリシューラを出さないで、私に勝利するつもりか?人の子よ!ずいぶんとナメられたモノだな!」


 美梨さんの姿の魔女は臨戦態勢に入っている。


「この感じ…。東の…か?」


「Fayray。東のって、東の滝の魔女のことか! 良かった!魔女って現世うつしよでいう所の、警察や病院だろ? 」


「そういう事だが、何故だ?主よ。」



「それだったら! 怪我をしても傷口を治してくれるよな!!!」


 僕は飛び上がり、素手で魔女に戦いを挑んだ!


 戦いかたは さっき掴んだ! 相手の攻撃は 腕に神力を集中させれば、シールドを張れる。


 ガツン!!


 あの細い足からきた蹴りとは思えないほどの、衝撃を感じた。シールドを張らなかったら、腕が折れただけじゃすまなかったな。


 僕は落ちていた小石を拾い、神力を集中させて、大榧姉の姿の魔女に向かって投げた!

 右目を狙ったのだが、ギリギリで避けられてしまった。


 だが、魔女の右目のすぐ下に紅い線が入る。


「Fayray!」


「任せろ!」


 Fayrayが魔女と大榧姉を分離させた。


 よし!


 僕は左手で隠し持っていた短い木の枝を 神力しんりきで短剣の形にした。


 そして魔女のお腹に突き刺す。


 突き刺した場所からは…。


 何で?


 煙が出てきた?


 クソ!フェイクか!


 後ろに気配…。


 僕は5mほど後方に飛び、回し蹴りを入れた!


 ボキッ!


 よし! あばらに入った!


 今度はクリーンヒットだ!


 倒れる魔女。


「グホっ! やるなこぞ…」


 次に、全身全霊の一太刀を魔女にいれる。


 バキッ!!!


 鎖骨に入った!


 枯れ木の枝だけど、コイツもクリーンヒットした。枯れ木を 神力で木刀にしたのが効果的だった。左側の首の付け根あたり、人間だったら全身の力が抜けて、30分くらいは立てないはずだ。


「小僧…。人が話している時に攻撃するとは…。グホッ!」


 倒れ込む魔女。魔女は本来の姿になっていた。


 美梨さんは…?


 良かった。美梨さんは 少し離れた場所で寝かされていた。


「ありがとうFayray。」


「任せろ。容易いことだ。」



 僕とFayrayは東の滝の魔女に近づいた。



「って!?ヤシタ?! 東の滝の魔女ってヤシタだったの?」


 僕は驚いて大声で言った。


「ふざけるな! あんなバカ娘! 親子の縁など、絶ちきってやった!」


 あぁ。やっぱり…。こりゃ、一波乱あるな…。


「所で、美梨さんは大丈夫なの? 今はそれが1番心配だ。」


「違うだろ!今は私の心配をしろ!」


 満身創痍の魔女が言う。


 でも、自分で仕掛けてきて、これかよ…。


「東の滝の魔女。何故、僕を襲った? 大榧姉を使ってまで。 場合によっては許せない事だぞ!」


「ふん! ルキエラ様に稽古をつけてやれ。と言われてな。 人の子にこんな力があったとは…。 不覚だ…。」


 まったく…。ルキエラ…。


「東の滝の魔女。 名前を聞いてもいいかい?」


「Selphie…スペル。セルフィーだ。」


 あれ?何だか意識を失いそうじゃん!


「大丈夫? セルフィー! しっかりして!」



 ボコ!


 グッ…。


「アハハ! これだけやられたんだ! 1発くらいはやり返さないと、気がおさまらん!」


 僕は セルフィーからお腹にワンパンを喰らった……。


((息ができない……。))


「東の!貴様!噛み刻んでやる! 」


 Fayrayが、セルフィーに飛びかかる寸前で、僕はそれを制止させた。


「気…気がすんだかい? まずは 美梨さんの頬の傷を治してくれ。 その後はセルフィー、僕は最後でいい…。」


 ヤバい…。苦しい…。


 セルフィーは 美梨さんの近くに行き、傷を治し、僕に近づいてきた。


「坊や、苦しいだろ? お前から治してやろう。」


 セルフィーはそう言って、光る手を僕にかざした。


「ありがとう。セルフィー。」


 ん?何でコイツにお礼を?何か違う気が…。

 まぁいい。この人の性格もだいたいわかった。


「小僧はずいぶんと、ルキエラ様に好かれているようだが、どういう事だ?」


「そんな事はわからない。」


「淡白な男だ…。」


 セルフィーはヤレヤレ…、と言う顔をしている。


「ところで東の。この娘とは面識があるのか?」


 Fayrayが当然の質問をした。


「直接はない。」


「セルフィー。どういう事だ? ファミレスでは 僕の心を掻き乱そうとしていたけど。」


「アハハ! それは私は知らん! 話は全てこの娘の心の物だ。貴様も聞こえたであろう?」


 あぁ、思い出したくない…。


「まぁいい。 それよりも、この人をどうする気だ?」


「あぁ。寝ている間に現世うつしよに戻す。」


 ならば安心だな、ってオイ!?


「えっ? 颯太君?」


「おい! 起きちゃったじゃないか!!」


 僕は驚いた!


「颯太君?やだ。ここどこ? 何でここにいるの? 」


「オイ! 東の! 早くこの娘の記憶を消し、現世へ送れ!」


 Fayrayは叫んだ。


「はぁ? 何言ってくれちゃってんの? たかが墓守はかもりの分際で偉そうに!」


 美梨さんの声が突然変わった!


「貴様?! シレーヌか! 何故その娘と同化している!?」


「まぁまぁ。二人とも待て!」


 仲を取り持とうとする東の滝の魔女。これは何かを知っている口調だ…。


 それにつけても、ひっちゃかめっちゃかだ。

 昨夜から僕の脳は処理能力が追いつかないぞ?


 今度は シレーヌか?

 確かセイレーンの事だよな…。

 何で陸地にいるんだ?

 しかも大榧おおかや姉さんと同化って…。


 それよりも、東の滝の魔女が、ヤシタのお母さんか…。


 あれ?けっこう脳の処理が、追い付いている。


「オイ! ガキ!」


「ガキって言わないの!! 颯太君でしょ!ちゃんと名前で言って!」


「うぬぬ…。颯太君?」


 端から見ると、壮大な独り言だ…。


「なんか、笑える。」


「笑わないでぇ!」


 えっと…。今のは美梨さんだな。


「笑わないで!」


「うわ! キモ……。」


 思わず 口に出してしまった。多分、今のはシレーヌだな。


「何でキモいのよぉ!」


 美梨さんは泣きそうになっている。


「オイ!独り言娘よ!私はシレーヌと話がしたい!」


 Fayray、今のは…。


「独り言じゃないもん! うわぁーん!!!」


 泣く大榧おおかや姉さん…。


「あぁ泣かせた。Fayrayが女の子を泣かせた!」


 僕はFayrayをからかった。


墓守はかもりが女の子を泣かせた!」


 大榧姉が、シレーヌの声で言った。


「やかましい! 貴様! ここでその娘と分離させるぞ!」


「颯太君が…。私をキモいって言った…。うわぁー!!」


「なんだ? 泣かせたのは主か…。」


 Fayrayは ホッとしている。


「なぁんだ…。泣かせたのは小僧か…。」


 セルフィーは楽しそうに言った。


「何だ? 泣かせたのは墓守じゃないのか…。」


 シレーヌが独特の声で言った。


「アハハハハハハ!! やめて!その声! その三段オチ…。 アハハハハハハ!!」


 あっ!?

 大榧姉さんが僕を睨み付けた。


「颯太君が私を笑った…。うわぁーん!!!」


「主は女泣かせの悪い男だ…。」


 くっ…。Fayray…。


「あぁ。確かに女を泣かすのは良くないな。ルシエール様に報告だな。」


 セルフィーまで。


「笑わないで!」


 シレーヌ!?


「ギャハハハハ! シレーヌやめろ! ギャハハハハ! ジワル!ギャハハハハ! それ、反則だって!ギャハハハハ!」



「颯太君のバカ!」


「颯太君の…、笑わないで!」


「シレーヌ!! それ無理! ギャハハハハ!」


「主よ。 さすがに笑い過ぎだ!」


「Fayray。気が合うな。私もそう思うぞ。」


 何なんだ?セルフィーとFayrayが意気投合している!


「笑わな…」


「もぉやめて!!」


「すまない。やり過ぎた。」


「次やったら、シレーヌなんて追い出すからね!」


「本当にゴメン!2度としません。」


((すごいな。 Fayray。壮大な独り言だな。これはジワルな))


(主よ。もう笑うのは我慢した方がいいぞ。多分もう1発来るはずだ! それがシレーヌだ!)


 僕は気を取り直し、大榧姉さんにフォローを入れることにした。


「あの、大榧姉さん…。笑ったのは大榧姉さんの事ではなくて、シレーヌの……。」


「じゃぁ、私の事を美梨ちゃんって呼んで!」


 はい?


「なんですか?突然…。」


「美梨ちゃんって呼びなさい!」


 めんどくさい……。


「美梨さん…。」


「美梨ちゃんって呼んで!!」


 怖い…。


「美梨ちゃん…。」


「ありがと! さぁ帰りましょ!颯太君。」


 突然ニッコリと笑い、僕の手を引く大榧姉さん。


「ちょっとちょっと! 待って下さい。 聞きたいことがあります。Fayrayからも。」


「じゃあ、ファミレスに行こ。」


 本当にこの人は…。


「はぁ……。」


 僕はため息を吐いた。





「人前で、Fayrayが話をしたら大変なことになります。大榧姉さんも…。」


「美梨ちゃんでしょ!」


「み…美梨ちゃんも、壮大な独り言になりますよ。」


 大榧姉さんは少し考えている。


「じゃあ、セルフィーのところに行きましょ。」


 セルフィーのところに、って?

もぉ眠いよ…。



 僕たちは セルフィーの住む砦がある、東の滝に来た。


「まぁ、ゆっくりとくつろいでくれ。」


 偉そうに言うセルフィー。


「颯太君、一緒に座ろ!」


 大榧姉さんは 僕の左腕をガッチリと抱きかかえている…。


「美梨はこんなガキの、どこが好きなんだ?」


「いいじゃない! モノノケにはこの子の良さが、わからないわよ!」


 あの…。近すぎませんか?お姉さま?


 ここは早いとこ質問をして帰ろう。


「Fayray。シレーヌに質問があるんだろ?」


「まずは私からね。」


 大榧姉さんが、意気揚々と言う。


「最初に言っておくけど、颯太君を好きになったのは 美桜よりも私の方が先だよ! 」



 部屋が静まり返った…。



「美梨よ。何のためのカミングアウトだ?」


 セルフィーがあきれた顔をしている。


 Fayrayも開いた口がふさがらない状態だ。


「独り言娘よ、貴女の気持ちはよくわかった。 私はその事については何も言えないが、頑張ってくれ。」



 オイ!Fayray!何を言っているんだ!?


「うふ。ありがとうFayray!」


「ところで、大榧姉さんとセルフィーは何故、繋がっているんだ?」


「美梨ちゃんでしょ!」


 ウザ…。


「答えてくれ、セルフィー。」


 僕は大榧姉さんを無視した。


「美梨ちゃんでしょ!」


 シレーヌ!?


「シレーヌ!今は黙っていろ!」


 Fayrayが怒鳴った。

 危なかった!?不意討ちはとても危険だな…。

 Fayrayが怒鳴らなかったら、大爆笑の渦潮に飲み込まれていた!


「たまたま、ルキエラ様に用があって。そちらに行った時にな…。」


「オイ!答になっていないぞ! アリゼーと関係があるのか?」


 僕はいきなり確信をついた。


「はぁ? アリゼー? 私はあの根暗女は好かん。」


((Fayray、僕からは以上だ。後はFayrayが聞いてくれ。))


「それでは、シレーヌとお嬢さんの出会いを聞いても良いか?」


 大榧姉さんは僕の左腕を 相変わらずギュッと抱きかかえながら、話す。


「ドイツにいるときに、友達になってくれたの。 日本に来たいって言うから同化したんだよ。 お風呂の時は離れるけどね。」


 大榧姉さんは 軽く答えたが、本当にそれだけだろうか?


「隠世の者と同化って、怖くはなかったのですか?」


 僕は大榧姉さんに当然の質問をした。


「シレーヌはね、もう人間を食べないんだって。 人間よりも人間が作ったご飯のほうが美味しいからなんでしょ?」


 大榧姉さん。それは純真無垢な考えだ。


「あぁ、そうだな。 エルフは臭くて不味いし、人間は骨が多いからな。」


 普通に怖いことを言うな…。


「シレーヌよ。何故、嘘を言う。貴様はインドラ様に人を食さない身体にされただけだろ。」


 インドラ様って…。


「インドラ様って、帝釈天の事だろ?実在するのか?」


 僕は驚いた。


「主よ、世の神々は実在する。 だからトリシューラが、あるのではないか。」


 そりゃそうだ…。


 ん? てことは!?


「なぁFayray! 気になる事があるんだけど、阿修羅と帝釈天は本当に戦ったのか?阿修羅の娘の舎脂しゃちーを帝釈天が奪ったって本当か?」


 Fayrayは

 は?と言う顔をしている。

「何だ? 誰がそんなデマを?」


「えっ?  違うの?

 だって、その戦いで阿修羅は 闘神と呼ばれるように、なったんじゃないの?」


 Fayrayは相変わらず


 は? と言う顔をしている。


「アスラ様は普通に、天界で神をしておられる。闘神の名が相応ふさわしいのは どちらかと言えば、シヴァ様だな…。」


「ねぇ颯太君。 その話つまんない!」


 えっ?何!?面白いじゃん!


「大榧…、美梨ちゃん、何を言っているの?バリバリ面白いじゃん! 全てが靴返されているんだよ!」


「ねぇ颯太君。 さっきの続き!」


 でた…。本当にこの人は苦手だ…。


「所で、大榧…、美梨ちゃんは 隠世かくりよには何度か来ているのですか?」


「うーん…。わかんないなぁ…。」


 会話にならないじゃん!


 初めてだ!女性に対して、こんなにイラついたのは!!!


「シレーヌよ。わからないとはどういう事だ?」


 Fayrayもイラついているようだ。


「私がセルフィーに会いに来ているのだ。 週に1度は薬をもらわないと、鱗がくすんでくるのでな。」


 そう言えば、セイレーンって歌声が綺麗なはずなのに。何でこんな声なんだ?


「なぁ、シレーヌ。 シレーヌは綺麗な歌声で、舟人を惑わしたんだろ?」


 シレーヌはものすごく嫌な顔をしている。


「オイ!クソガキ! そんなにその答えを知りたいか? ならば教えてやるがな! 全てはインドラのせいだ! あの忌々しい、色キチ好色男め!!」


 あっ! ヤバ…。今のは逆鱗みたいな?


「そうだったんだ…。すまなかった。」


「ねぇ颯太君。 さっきの続き。」


 ヤバい…。本当に無理だ!本当にイラつくんだけど!


「小僧。もう少し穏やかな気持ちになったらどうだ?」


 セルフィー、あんたもイラつく原因の1つだ!


「それじゃ、僕を襲った時は?美梨は記憶があったの?」


「おぉっと? いきなり呼びつけか? いきなり亭主関白か? 」


セルフィーが僕を冷やかす。


「あっ…。すみません!つい勢いで! 今後、気をつけます。」


 僕は誠心誠意、謝った。


「うん。それじゃ今からは 美梨って呼びつけにして! ちょっと呼んでみて?」


 僕は頭を抱えた。


 マヂデカエリタイ…。


「ねぇ。早く。」


 何なの?この押しの強い人は!


「ミリ……。」


「もぉ、本当に可愛くて大好き!」


「私は大嫌ーーい。」


「ちょっと!シレーヌは話さないで!」


「だって。このガキ、嫌いだもん。」


「ねぇ、ミリ…は僕を襲った時の記憶はあるの?」


「あるよ。いきなり私から、伝票をスッと、抜き取って行かれて、ムカついた。」


 そこは襲ってないじゃん!


「アハハハハハハ。小僧落ち着け!」


 笑うな!セルフィー!


「親子揃って、そっくりな性格をしているな。セルフィーは…。」


 嫌味を言ってやった。


「当たり前だ!親子だからな。私の分身みたいなものだ。」


「わかった。今は親子の話は置いといて、これからどうするかだ。

セルフィーはルキエラから、何のために、僕に稽古を付けさせたのか、理由を知っているのか?」


「ねぇねぇ颯太君。」


「美梨は黙っていて。」


 あっ!ヤバ…。


「ごめんなさい。颯太君。」


 大榧姉さんはそう言って、ニコニコしながら黙った。


 逆に恐いな…。


「えーと。話しても良いかな?」


 セルフィーはほくそ笑んでいる。


「早いとこ、お願いしたい。」


「結論から言うと、何故かは知らん。

 ただ…。トリシューラを出現させたのだから、ただ事ではないのはわかる。

 そして、そこに北の大地が関係しているのもな…。

 話は変わるが、バグエと恋仲になったのであろう?

 小僧。

 セルスは怖いぞ。奴は嫉妬深くてな…。

 娘を人の子に取られたとなっては 小僧の命も危ういかもな。 アハハハハハハ!」


「東の。結論を言え。」


 Fayrayが言うと、セルフィーは真面目な顔になった。


「アリゼーには 後ろ楯がいる。

 小僧、今日は現世うつしよへ帰れ。

 そして精気を養え!

稽古なら私がいつでも付けてやる。

 今日はバグエに会おうとはせずに帰る事を薦める。」


「僕は日向子さん…。

 叔母と約束をした。僕がトリシューラを扱えるようになったら、バグエに会いに行くと…。

 だから、それは心配ない。」


「私だって!ドキドキするようなイカれた人生でも良いと思ってるもん!」


 は?美梨さん?

 どしたの突然!

 ブランキー?D.I.Jのピストル?


「美梨、今日は帰ろう。 正直、僕は昨夜から色々ありすぎて、あまり睡眠をとれていない。 できればすぐにでも、ベッドに入り眠りにつきたい。」


「うん。それじゃ帰ろ。」


 あれ?どうやって帰るの?

 って…。あれ?

 あれれ?


 Jonathan's?さっき迄いた

ファミレスの駐車場だ…。

 凄いなエルフ…。


 時間は?

21時40分……。


「美梨? あれ?美梨は?」


 帰って来たのは僕だけか?

 Fayray?


「大丈夫だ。嬢ちゃんはそこにいる。」


「やぁ!」


 美梨は後ろから、突然、僕に抱きついてきた。

 気配を感じることができなかった…。

 これもシレーヌと関係があるのか?


「美梨、一人で帰れますか?」


「うん。大丈夫だよ。車だし。

 あとね。

落ち着いたら、美桜にも言うんだ。

 私もね、颯太君が大好きなんだよ。

バンパイアの娘に、負けないくらい、いい女になるからね!」


 美梨はくったくの無い笑顔で、車に乗り込みエンジンを始動させた。


「Fayray。あと少しでアイスが食べられるね。 それじゃ颯太君、おやすみなさい。」


 美梨は駐車場から、出ていった。



((Fayray、美梨はどこまで内容を知っているのかな…。))


(主よ。それは私にもわからない。ただ、警戒はした方が良さそうだ。)


((何となくだけど、アリゼーよりも、ヤバい匂いがする。))


(主よ。実は…。セルフィーはある事がきっかけで、何年か前にヤクシャに抹殺されたはずだ…。)


「ヤクシャって…。八部衆の夜叉?何故だ? 今、一緒にいたのは誰だ?」


「主よ。それは私にもわからない。」


 Fayrayが珍しく、不安そうな顔をしている。


「抹殺って…。」

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