第14話 Enfant Terrible(ガキ反乱)

「炸裂する衝動。」


 食後の珈琲を飲んでいた日向ちゃんが、突然言った。


「日向ちゃん?どした?」


 ひかりちゃんが、ビックリした顔で、日向ちゃんに言う。


「何だろ?何か言っちゃった…。」


 言った本人が、不思議そうな、顔をしている。


「颯太がいるから嬉いんだろ…。」


 兼太君が、ひかりちゃんに言うと、ひかりちゃんは

「そうゆうことを 言わないの!」と、言わんばかりの顔をしている。


「ところで颯太君。そのワンちゃんは何ていう種類なの?」


 ひかりちゃんは僕に聞いてきた。


(主よ。アイリッシュ・ウルフ・ハウンドと言ってくれないか?)


「このワンちゃんはね、アイリッシュ・ウルフ・ハウンドっていうんだ。」


 なるべく普通に言ったつもりだったが、母さんにはバレた。


「あそこの寮でペットはいいのか? それに、この高そうな犬。何で安月給の颯太が飼えるの? 」


 母さんは 何かを探ろうとしている。


「颯太。あんた、何か隠しているでしょ!」


(主よ。母さんには言わない方が良いかと思う。)


((わかっている。))



「まぁまぁ! お二人さん、良いではないか? せっかくみんな揃ったんだし!」


 日向ちゃんは僕の隣で言った。


「そうだ! なぁ颯太。俺の部屋に来ないか?見せたいものがあるんだ!」

 兼太君…。なんだか、みえすいた嘘がバレバレ的な…。


「あんた達! 母さんに何を隠しているの?!」


 あぁ…。母さんキレた…。どぉするの?兼太君…。


「何言ってんだよ!何を隠すんだよ!」


 兼太君…。アタフタしすぎですよ!


「あっ! 僕帰らなくちゃ…。図面描くの忘れてた!」


 バンッ!!!


 ひかりちゃんが、テーブルを両手で叩いた。


「もぉー! あなた達ねぇ! 嘘が下手すぎ! お母さんじゃなくてもわかるんだけど!!

何を隠してるの?おかしいでしょ? 兼太君! 私はあなたの奥さんで、颯太君は私の弟なの!

颯太君も正直に言いなさい!てか、みんな正直に言いなさい!」


 ヤバい…。

ひかりちゃんがキレるとめんどくさいな…。


 兄貴…。目が、およいでるんですけど…。


 日向ちゃんは…。もっとダメだ…。


((Fayray。))


(主よ。私はもっともっと無理だ。)


 兄妹が、下を向いて沈黙したその時、電話が鳴った。


 プルルルル……。


 電話に出たのはひかりちゃん。


「はい。椚田です。」


「はい。あら~、ご無沙汰しております。はい。少々お待ち下さい。今変わります。」


 ひかりちゃんは そう言って、母さんに電話の子機を渡した。


「日向子さんから。」


「まぁ…。」と言って、子機を受けとる母さん。


「こんばんは!日向子さんお久しぶりです。 」


 どうやら日向子さんは 僕のことを探っていたようだ。

 僕がピンチとわかったということは ルキエラが近くにいるということだ。

 話が終わった母さんが、僕に言う。


「颯太。日向子さんがね、会合でこっちに来ていて、けっこう近くにいるから来るって。 ちょうどいいから全部聞くからね! あんたの今、起こっている事!それと椚田家の事をね!」


 兼太君と日向ちゃんは顔を見合わせている。

 そんな二人を交互に見るひかりちゃん。


「椚田家の事って何?」


 ひかりちゃんは 恐る恐る聞いてきた。


「どうする? 颯太から言うか?それとも日向子さんから言ってもらうか?」


 母さんはお怒りモードだ。


 みんなが僕を見ている。


((Fayray…。母さんは 何かしら、知っているようだ。))


(主よ。 私はあなたの使い魔だ。あなたが決めた事に私は全て従う。これは嫌みでも何でもない。私はあなたについていく。)


 Fayrayは僕の心に話しかけた。


「母さん、ひかりちゃん。今から言うことは 全て真実です。 でも心配しないでほしい。僕を守ってくれる人と、犬?」


「犬ではない! Church Grimmだ!」


 Fayrayが声を荒げて言うと、母さんとひかりちゃんは お互いに顔を見合わせている。

 驚き過ぎて、声も出ないようだ。


「犬じゃないの? Church Grimmって墓守はかもりの主でしょ?何で?何で颯太君といるの?」


 ひかりちゃん。何気に知っていますね?


「ひかりちゃん。 実はね、Fayrayは 僕の使い魔なんだ。」



「はぁ…。」


 母さんはやっぱり。という顔をして、ため息を吐いた。


「そのワンちゃんね、前に1度だけ見たことがあるのよ…。私があなたのお父さんと結婚する前にね…。」


「使い魔…? 意味がわからないよ! 兼太君!どういう事?」


 ひかりちゃんは兼太君に食い下がった。


「ひかり、すまん。俺もさっき知った。そして俺も小さい頃に、一度だけ見たことがあるんだ…。じいちゃんと話しているところを…。」


 兼太君は申し訳なさそうに、ひかりちゃんに言った。


「ひかりちゃん…。 実は私もね、今日初めて知ったんだ…。颯太の生きる本当の意味と言うか……。」


 日向ちゃんも申し訳なさそうにひかりちゃんに言え。


「ひかりちゃん、ごめんね。実は私も主人からは詳しく聞いていないのよ…。というよりも、あの人には資格がなかったようでね…。」


 母さんは それ以上の事は本当に知らないようだ…。


「颯太君の生きる意味って? 義父さんには資格がなかったって?何なの?」


 ひかりちゃんは いてもたってもいられないようす。


「まずFayrayの事から話すね。」


 僕は深呼吸をしてから話始めた。


「実は僕、初めて女性を好きになったんだ。 えっと、こんな事を家族に話すのって可笑しいよね…。」


 みんな驚いている。


「僕はその人と無理やり離されたんだ。

 悲しくて…。たまらなくなって…。そして最後には僕が、悪者扱いにされたんだ…。」


「悪者って?どういう事?何で颯太君が?」


 ひかりちゃんが言う。


「わからない…。僕はただ…。その人の事が好きになって…。大好きになっていて。そしたらね、なんだか、身体中が熱くなって…。何かが僕から…、僕の背中から出てきたんだ。Fayrayが…。多分、僕がピンチになったら出てくる仕掛けだったのかな…。Fayray……そうだろ?」


 Fayrayはドヤ顔をして答えた。


あるじの想像どおりだ。

あの時、ルキエラと日向子が来なかったら、主はあのエルフに、粉々に切り刻まれただろうな。

おそらく私と契約させるタイミングを見計らっての事だろう。

加えて答えると、主の母さんと、兄さんが見たのも私だ。その時は君達のジイさんと契約をしていた。

その時の私はジイさんから、銀(イン)と呼ばれていた。」


「やっぱり…。あなたのような犬は滅多に見ないですからね。」


 母さんが言った。


「私は犬ではない、できればFayrayと呼んでくれないか?主が付けてくれた、大切な名前だ。」


「そうですよね。大変失礼しました。Fayrayさん。」


 母さんはだいぶ落ち着いてきたようだ。


「颯太?お前が好きな女って、あの…。あの時の…。

あの時にいた、牙の女か?」


 日向ちゃんは頭を抱えながら言った。


「牙の女?それって誰なの?」


 ひかりちゃんは興味津々だ。



「うん。あの時に、日向ちゃんが見た人。その人のお父さんは 北の大地の王で、トゥルーバンパイアのセルス王。

お母さんはエルフの女王だった人…。その二人の子供で、名前はバゲットさん。」


 母さんとひかりちゃんだけでなく、兼太君まで、驚いている。


「颯太? お前…何を言っているんだ?ゲームのやりすぎだぞ?」


 兼太君は 僕に言った…が、先ほど見た光景を思い出したようで、僕の話を聞く状態に戻った。


「その人ね、人間界に来たのは とある人物の悪事をあばくために、来たんだって。

内容はわからないけど……。」


 母さんとひかりちゃんは 相変わらず夢物語を聞いているような顔をしている。


「ああ…。あとルキエラ。いるんだろ?」


 僕が言うと、日向ちゃんは眉間にシワを寄せた!


「やぁん!坊や…。わかってたの?」


 突然姿を現せたルキエラに、みんなが驚いた!


「あっ…あなた!誰なの!?」


 母さんは椅子ごと後ろに倒れそうになった。

 ひかりちゃんは 手を口にあてて、驚いている。


「そ…颯太…。この美人さんはいったい…。」


 兼太君…。ルキエラのテンションを上げるようなこと言わないで……。


「兼太!気持ち悪いことを言うな!」


 日向ちゃんはお怒りモード。


「やだぁ~!お兄様ったら…。でも、ごめんなさいね~。私は坊や一筋なの。」


 と言いながら、僕に近づいてきた。


「お前…牙の女って…。この人のことか?」


 兼太君は僕に言う。


「こら!颯太に近づくな!」


 日向ちゃんが席を立つ!


「ルキエラ。主に近づくな! 皆が嫌がっているぞ!」


 Fayrayの言葉に、ルキエラは躊躇した。


「ルキエラ。今はごめんね。後でゆっくりお話をしよ? それでもいい?」



「あぁん。もちろんよぉ。」


 ルキエラはモジモジしている。


 正直…。キモいぞ…。



 ピンポーン…。



 インターフォンの呼び鈴がなった。

 おそらく日向子さんだ。


「あっ!日向子さんじゃない?」


 ひかりちゃんはそう言って、玄関に向かった。


 母さんは立ち上がり、リビングにお茶の支度を始める。


「日向子さんお久しぶりです。」


 兼太君は立ち上がりリビングに案内をした。


「日向子さん、こんばんは。夕飯は食べましたか?」


 日向ちゃんが、日向子さんに聞く。


 はっきり言って、皆が地に足が着いていない状態。


「日向ちゃん、ありがとう。いただいてきましたので、お構い無く。」


「日向子ぉ。私の服は持ってきてくれたの?」


 ルキエラは相変わらず、空気をよんでいない口調だ。


「はい。早く服を着てちょうだい。」


 日向子さんは ルキエラに風呂敷を渡した。


「あの…。日向子さん。色々とお話を聞きたいのですが…。」


 母さんが早速、話をきりだした。


「この度は突然お邪魔しまして申し訳ありません。颯太君のこともあり、早目にお話に伺おうと思いまして……。」


 日向子さんは 相変わらずのマイペースで、優雅にお話をしている。


「ルキエラ、服を着たら隣に座りなさい。」


「はーい!」


 ルキエラは能天気な返事をした。


「そこじゃない!!」


 僕の隣に座ろうとしたルキエラに、Fayrayと日向ちゃんはユニゾンした。


「もぉ…。御姉様とFayrayは仲が良いのですね。」


「ルキエラ。貴様は少しおとなしくしていろ!」


 Fayrayがルキエラを威嚇した。


「ホントにヤメテいただけませんか?その御姉様という言い方…。ホント…マジで……。イラつきがマックスなのですが…。」


 日向ちゃんはまたもや、遠い目をして棒読み状態で言った。


「早速ですが…。」


 日向子さんは 椚田家の事を話始めた。




 まだ日本が大陸とつながっていた頃、ルキエラやFayrayが住む世界と、私たちの人間界は 誰もが行き来できる状態でした。


 とりあえず、説明のしやすいように、今は人間界と魔界と言うことにしましょう。


 ごめんなさいねルキエラ。


 魔界と言っても、姿形は人間に近い者もいればその名のとおり、悪魔のような姿の者もいます。


 そして、人に対して、友好的な者と、敵対心を持つ者。


 もちろん人間を好んで食べる者、人間の血を好んで飲む者も…。


 でも…それは、人間が豚肉、牛肉、鶏肉や羊とヤギを食べるのと同じなんです。

 だからといって、それを許せる訳でもありません。

 ヒンドゥー教の神が、牛を神聖な生き物としたのも、それからかも知れません。

 その他の宗教でも、各動物の肉を食さない理由も、それが関係しているかも知れません。


 そして、あまりにも人間を襲う者が増えたので、各地方の神々は力を合わせ大陸を切り離したのです。


 切り離した場所は 人間界と魔界の通路。


 日本が小さな島国になったのは その通路が他の大陸よりも多いからです。


 そして、その通路は海の下となりました。


 人間を大好物とする魔物は海水…。これはよく聞く話ですが、塩と綺麗な水は聖水や、聖なる粉の効果があります。


 その当時は澄んだ綺麗な海も、今では濁ってきています。

 聖水としての効果も、塩以外の効果はあまりありません。


 そんな中、今この時代に、魔物が人間を襲いに来たら、どうなるかわかりますか?


 若者は奴隷として連れていかれます。

 女性は乱暴され、老人と子供は役にたたないので殺されます。

 歯向かうものがいれば、1人残らず皮を剥がされて、燃やされます。


 先に言いますが、日本には自衛隊や警察。公安のスワットの部隊がいますが、銃やミサイルでは奴等を倒すどころか、足止めもできません。

 人間は 自分の…。私利私欲の為に必要な、人間を殺す道具しか造れなくなったんです。

 今の時代の最新鋭の武器、プルトニウムを使ったミサイルでも、魔界の住人には効果はありません。魔界の住人には専用の武器が必要なんです。


 昔は日本にも、天下五剣と呼ばれる名刀

 三日月宗近…。

 童子切安綱…。

 大典太光世…。

 数珠丸恒次…。

 鬼丸国綱…。

 と言う名の剣がありました。


 しかしこれも、今では魔物を斬ることができるかはわかりません。


 トリシューラと言う言葉はご存知でしょうか?

 ヒンドゥー教の神 シヴァが持つ三叉槍です。

 その三つに別れた矛先にはそれぞれ意味があります。

 icchaとは欲望、愛、意志。

 kriyaとは行動。

 jnanaとは知恵をあらわします。


 その槍は 浄化の効果をあわせ持ちます。

その槍で斬られた者の、悪しき心を浄化するわけです。

 そしてこの槍はある者の中に隠しました。


 全てにおいて無欲の生き物。

 全てにおいて従順な生き物。

 全てにおいて正義の生き物。

 それがChurchGrimmです。


 その昔、大陸が別れ、今の日本が出来上がった頃。

 椚田の祖先は 唯一魔物と戦いました。

 何代にも渡り、魔物と戦いました。

 それを見た、シヴァ様が、椚田の一族に授けた槍。

 それがトリシューラです。


 しかしトリシューラは誰もが持つことはできません。

 ChurchGrimmとの相性。

それに見合う心。貫きとおす信念。全てを愛する気持ち。

 その他、たくさんある条件を満たさなければなりません。


 過去にトリシューラを持つことができた人は メタという名の女性です。

 その名から想定すると、おそらく縄文時代や弥生時代だと思います。

 その当時Fayrayは メタという女性から、ハオと呼ばれていたようです。

 人間とChurchGrimmは 名前を授けて契約となります。


 Fayray、その時のようすはどうだったの?


「そうだな…。全てが、混沌の渦に包まれていた。大型の魔物が、人を丸飲みしていた。メタの家族も…。メタの目の前で食べられていた。バキバキと骨を噛み砕きながら…。」


 その当時、 人間界と魔界の通路は すでに海の下でした。なのに魔物が人間界にいた、と言うことは 誰かが人間界に送り込んでいたようです。


 メタはハオと、魔物の討伐をし。当時の日本を守りました。

 その時の主犯格、だいたいの目星は付いているようですが、今のところハッキリとは言えません。


 そして今、あの時の…。

あの混沌の時代が、来ようとしています。


 しかし、魔界の…。北の大地の王 セルス王はそれをいち早く、察知しました。


 そして、ルキエラに…。


 自分の娘を 人間界に送り込む。

そして、現状を報告させる。と言ってきました。

 そして、我が娘には 気をつけて見ていてもらいたい事がある。

 決して…。決して娘を 人間に恋をさせないように!

と言っていました。


 そうでしょ?ルキエラ。


「確かに言っていたな。 たがな、あの娘…。坊やの事が大好きになってしまったようだ。なんてったって、別れ際に手を伸ばして。

 颯太ぁ~!私だけを見てくれぇ~! 私は颯太を愛しているぅ~!

 と言っていたな。 」


 僕は自分が情けなくて涙がでてきた。


「僕は…。バクエの声が聞こえなかった…。何で?何でルキエラには聞こえたの?」


「ん?エルフだからよん♪ あの時、バグエの声はルシエールに風にされたからなのよん♪ だから人間には聞こえなかったのよん♪」


 腹立つ!

 何か腹立つぞ!

 ルキエラさんよ!

 何でそれを僕に言わなかったんだ!


「続きを話してもいいかしら?」


 そして、当時の主犯格ですが、なんとなくわかってきたのです。

 これは憶測なので、まだどうにもできません。

 そしてこれも憶測だけど、メタの時代に起こった事が近い将来、今の日本で起こりえると言うことです。


 みんな声がでないようだ。

 特に、母さんとひかりちゃんは微動だにしない。


 話は変わりますが、椚田家の事を詳しくお話します。


 椚田家の人間は、先祖代々 女性はルキエラと、男性は隔世代でChurchGrimmと契約をします。

 先ほどの話ですが、メタはFayrayと契約を交わしたのですが、それはルキエラがまだ、人間界にいなかったからです。

 ルキエラはその当時、エルフ族のおさでした。

 椚田の一族が、ルキエラと契約を交わすようになったのは 飛鳥時代の白雉 (はくち) 、 孝徳天皇の時の 650 ~ 654年頃だと聞きます。


「えっ? ルキエラさんって、今何歳なんですか?!」


 ひかりちゃんは目を見開いて、ルキエラに聞いた。


「わからなぁい。」


 相変わらずの口調で言うルキエラ…。


 ひかりちゃん、飛鳥時代で6世紀として考えて、今は20世紀。

 単純計算で1,400歳。

 その当時に既に、長をしていた事を考えると、もっとおばあちゃんよ。

 ちなみに颯太君の愛する人は だいたい200歳位。


「ちょっと日向子! 坊やの前でそんな事を言わないで!」


 ルキエラの発言など、無視するかのように母さんは話を始めた。


「えっ? もし…。もしもの話だけど、颯太が、その人と結婚したら、母親の私よりも歳上っていう事になるの?

そんな…。私は…私はいったいどうしたらいいの…。」


 心配する母さんに、ひかりちゃんの一言。


「お母さん、問題はソコじゃないような気が…。」


「そうだぞ! 颯太! 結婚なんて、まだダメだ!お姉ちゃんは許さないぞ!」



「日向ちゃんは ちょっと落ち着いて!まだ日向子さんの話は終わってないから!」


「だいぶ話はそれましたが、続きを話させてもらいます。」


 そして兄さんには…。あなた達のお父さんには その資格はありませんでした。

 それは父が…、あなた達のおじいちゃんが契約者だったからです。

 仮に兄さんにその資格があっても、颯太君のようにはいかなかったと思います。


 兄さんは…。

 その…。


「日向子さん。大丈夫です。わかっておりますので気にしないで下さい。」


 母さんは気まずいようだ。


 父さんは 血の気が多い人だったようで、何度も警察のお世話になっていたらしい。

 僕が産まれてからは1度も無かったらしいが……。


 日向子さんは咳払いをし、続きを話し出した。

 颯太君がFayrayと契約をしたのは昨夜の事です。

 そして、颯太君が愛する女性と引き離されたのも昨夜の事です。

 そんな事があったにも関わらず、トリシューラを扱えるようになったのは先ほどです。


 私は…。私とルキエラは昨夜、バゲットさんに冷たくしました。

 バンパイアの娘が…。

 隠世かくりよの住人が、私の唯一の親族、颯太君の近くにいるのが…。

 颯太君に恋心を持った事に耐えられませんでした。

 セルス王からの言いつけもあったので、私は思いきり彼女をいじめました。

 ルキエラも同じです。


 颯太君と、バゲットさんの気持ちも、考えずに責め立てました。


 昨夜バゲットさんが、走って外に行った時…。

 私は彼女に言ったこと…。

 本人にとっては とてもショックだったと思います。


 バンパイアの血が流れていながら人の子に魅了されるなんて、お父さんが聞いたらどう思うかしら?


 彼女は全身で震えていました…。


 颯太君に恋心を持ったことに対する罰だと思って言ったんです。


 罰を受けるべきは私です。

颯太君…。私はあなたの幸せを奪おうとしました。

 あなたの理解者であるべき立場なのに、自分の感情で…。

 私は最低な叔母です。



 颯太君、私はとても後悔しました。


 先ほどまで、私はセルス王のところに行っていたのよ。

 組合の会合というのは嘘です。

 隠世に行き、セルス王とルシエール妃に全部お話をしてきたの。

 バゲットさんにも謝罪しました。


 そしてね…。ルシエール妃はあなたに 謝罪したいそうよ。

 セルス王は バゲットさんの事もあるので、腑に落ちないようだったけど。


 でも大丈夫よ。

ルキエラが人間界にいることをルシエールに言わなかったことがバレて、セルス王ったら、怒られていたわ。

 王様も今は王妃に頭が上がらないみたい。


 颯太君も トリシューラを完全に扱えるようになったら、バゲットさんに会いにいきましょう。


 バゲットさん…。人間に恋をしたから、今は隠世から出させてもらえないみたい。

 あと、これは日向ちゃんに言わなければならない事なんだけど……。


 メタの生まれ変わりである日向ちゃんは 颯太君に惹かれていたのではなく、颯太君の中のFayray…。

 つまり、その当時のハオに惹かれていたのよ。

 だから…。言いづらいのだけど…。


「日向子さん…。それは私もなんとなく気が付いた…。Fayrayを見たときの安心感が…。初めて会ったはずなのに…。会いたかったって思ったんです。」


 Fayrayは日向ちゃんに近づいた。


「主の姉様。貴女は日向と言う名だ。メタは何千年も前に亡くなった。私は主の使い魔で、Fayrayだ。

だが、主だけでなく、私とも仲良くしてもらえるとうれしい。」


「そうですね!これから宜しくです!」


 日向ちゃんはそう言ってFayrayに抱きついた。


「良かったわね、坊や!」


 意表をついてルキエラは僕に抱きついてきた。


「颯太に触るな!」

「主に触るな!」

「颯太君に触らないの!」


 日向ちゃん、Fayray、日向子さんは同時にルキエラに怒鳴った。


「全てわかりました、日向子さん。

主人が亡くなった時に、日向子さんが颯太を引き取りたい。と申し出た意味が…。」


「あの時は 私も気が動転していて…。」


「私はこれから、この子に何をしてあげれば良いのでしょうか?」


「今までどおりで、良いのではないでしょうか?」


「母さん、心配しないで!僕にはFayrayと日向子さんがいて、そして1番頼れるルキエラもいるから! ルキエラ! これからも宜しくね!」



「ままままま任せてくれ! それじゃあ帰るぞ日向子! 坊や!また会いに来てもいいか?」


「当たり前じゃないか! ルキエラなら大歓迎だよ!」


「あぁん!坊やぁ!大好きだぞ! また来るから!おやすみ!」


 ルキエラはそう言って、ワープゾーン的な光の輪の中に、日向子さんの手を強引に引っ張り消えていった。


 そして家の中が静まり返った。


「主よ。ルキエラの扱いlevelが突然アップしたな。」


「あぁ。そうだね……。」


「颯太…。母さんはいつでも、あなたの見方だからね。些細なことでも頼ってくるんだよ。」


「うん。わかってるって! それじゃぁ!本当に図面を描かなきゃならないから、今日は帰るね! 久しぶりの母さんと、ひかりちゃんのご飯美味しかった!また来るね! 」


「兼太君と日向ちゃんも、今日はありがとう。また遊びに来るね!」


 日向ちゃんは複雑な顔をしていたが、大丈夫かな……。


 そして僕はバイクで寮に向かった。


 母さんは未だ納得はしていないようだけど、追々納得してもらえるようにしていこう。


 日向ちゃんは 何となくだけど弟離れしてくれるかもしれない。

 できれば、早いとこ彼氏を作って、幸せになってもらいたい。


 そして僕は…。

トリシューラを扱えるようになるんだ!


 あっ!

 そうだ…。



((コンビニ寄るけどいいか?))


(あぁ。私はアイスというのを食べたい。)


((アハハ。わかったよ。買ってあげるよ。))


 寮に帰る途中、僕はコンビニに寄った。


 僕は翌朝のパン。Fayrayにはアイスを買ってあげた。

 会計を済ませて外に出ると、1人の女性に話しかけられた。


「こんばんは。

あの…。椚田颯太さんですよね?」


 えっ?

 誰?


((Fayray、隠世の者か?))


(いや、うつの者だ。)


「はい、そうですが…、どちら様でしょうか?」


「いつも妹がお世話になっております。大榧 美梨みりといいます。美桜の姉です。」


 あぁ…。

 何だか、一波乱ありそうな雰囲気だ……。





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