第5話 Go for it!

 翌朝 7:30…。



 ピンポ~ン

   ピンポ~ン


 ピンポン ピンポン

 ピンポン ピンポン


 ドンドン…。

 ドンドン…。



「颯太ぁ…。うるさいぞぉ…」


 バゲットさんが寝起きの声で言う。



「ん?」


 僕は枕元に置いた携帯電話を手に取り、時間を確認した。


「7:36か、誰だろ?こんな早くから…。

って!

バッ!? バゲットさん!?

何で一緒に寝ているんですか!?」


 僕は驚き、ベッドから飛び起きた。


 ドンドンドンドン!


 ピンポ~ン

 ピンポン

 ピンポン ピンポン ピンポン





「颯太!いるんだろ!鍵を開けろ!」


 この声は!?


「バゲットさん!ヤシタさん!起きて下さい!そして隠れて!」


「なんだぁ?」


 眠そうな目をこすりながら、起き上がるバゲットさん。


「なぁにぃ~?」


 同じく眠そうな顔で、起きるヤシタさん。

 

このシチュエーションは非常にまずいぞ!


「とにかく起きて!隠れて下さい!」


 ベッドの上で大きなアクビをしている2人。

あぁ呑気だ!

この2人、呑気さんだ…。


「お願い!二人とも!隠れて!」


 なんて事だ!

寝起きから泣きそうだ!


「颯太ぁ!! 5秒以内にこのドアを開けろ!!!」


 怒っている…。

姉さん怒っている…。


「はいはい!今開けるって!

いいですか?隠れてくださいよ!」


 小声でバゲットさん達に言い、僕は玄関に向かった。


 カチャ…。

 ガチャ…。


「颯太ぁ!!!」


 ドスッ!ドスッ!ドスッ!


 物凄い足音だ!

早朝ですよ、姉さん!

取り敢えず落ち着かせねば!


「日向ちゃん、おはよ!」


 僕は左手でチョップをするように ヨウ!のポーズで、朝の挨拶をした。


 *この人は僕の1つ年上の姉、椚田くぬぎだ日向ひなた 24歳

超心配性の姉だ。


 僕は日向ちゃんに、無理やりソファーに座らされ、抱きしめられた。


「だから私は颯太の一人暮らしは反対だったんだ!」


 日向ちゃん?半泣き状態?

もうやめてって。

僕はもう大人なんだけど…。


「ん? 颯太?」


 日向ちゃんは突然立ち上がり、部屋を見渡した。


 颯太は動揺している。


 日向ちゃんは クンクンと匂いを嗅ぎ出した。


 颯太は変な汗が出てきた。


「ひ、日向ちゃん?どうしたの?」


 颯太の心臓はレッドゾーンに突入した。


「女の臭いがするな…。」



「ギク!?」←バゲット


「ギク!?」←ヤシタ



「なっ何を言っているのかな?誰もいないじゃん!?」


 颯太は 不思議な踊り を始めた。


「まぁいい。

颯太は昨夜、理恵さとえにコクった訳だが。」


 直球ド真ん中!


「何で?なっ何の事?」


 颯太はレッドゾーンを通り越して、ブラックアウトに陥りそうだ。


「昨夜さぁ…。

理恵さとえから電話があったんだよね…。」


 颯太はブラックアウト寸前。


「こんばんは~!お姉さま。ってね。」


 僕は床に崩れ落ちた…。

我ながら、よく崩れ落ちるものだ…。


 颯太は遠い目をしている。


「それでさ、ちょうど弥彦やひこ君もいたみたいだから。

理恵さとえ大榧おおかやって女の子にも会って、詳しい話を聞いた訳だ。サイゼでね。」

(弥彦君=笹目部長)


 日向ちゃんはあきれた声で言う。


「まぁ、悪いのは理恵だが、大勢いる社員の前で ”理恵でフデオロシ宣言” をした颯太も悪い!」


 だから直球だってばよ…。


 日向ちゃんは部屋を色々と物色しながら話を始めた。


「一応、理恵にはビシッと言っておいたけど…。」


 散らかった雑誌を整えながら話は続く。


「颯太。別に、理恵の事が好きなわけじゃ無いんだろ?」


 少し心配そうに聞く日向ちゃん。


「日向ちゃん何を言っているの?それは神に誓います。」


「とにかく!お姉ちゃんは心配なんだよ…。」


 その後も日向ちゃんのお小言は続く。


 ​「だいたい颯太は 酒が弱いクセに、お酒を飲むからこうなるんだ!」


 まだまだ続く。


「ご飯は3食ちゃんと食べているのか?コンビニ弁当じゃダメだぞ!」


 まだまだまだ続く。


「いかがわしい所に行ってないだろうな!」


 何でそれ?

まだまだまだまだ続く。


「キャバクラとかさ!ソープとかさ!行ってないだろうな!」


 は?

何で?

日向ちゃんはテンションMAX状態。


「もぉ我慢が出来ない!そうだ!私もここで暮らそう!」


「ちょっと待って!そんな所には行っていないって!

それに、日向ちゃん一緒に暮らすのは…。

ココは独身寮だし。」


「ま…まぁ、そうだな…少し熱くなりすぎた…。」


 日向ちゃんは息切れをしている。

そして深呼吸をした。


「最後に、大榧って女は何だ?颯太に惚れているのか?」


 何を突然!?


「まさか…。それは無いんじゃないかな…。」


「しつこく颯太のことを聞かれたぞ?」


 日向ちゃんは苦虫を噛み潰した顔で言った。


「面倒くさいから、颯太には気になっているがいるよ。って言っておいたけど。」


 おいおいおいおいおいおい!?


「何を言ってくれちゃっているの!!」


 日向ちゃんは目がつり上がった。


「颯太?まさか、あの女の事が…。」


 日向ちゃんはまたもや泣きそうだ。


「違うよ。」


 あぁ…。めんどくさい…。


「本当か?本当に本当か?」


 しつこいッス…。


「本当です。」


「良かった…。」


 そう言って日向ちゃんは僕の頭を抱きしめた。

マヂでキツいッス…。


「あと…。さっきから気になっていたのだが…。」


 日向ちゃんは深くため息をついた。


「ソファーの横にいる小さい茶坊主ちゃぼうずと、牙のガキは何者だ?」


 !?!?!?!?

何で?


「日向ちゃん!?見えるの?」


 またもや心臓が暴れだした!


「オイ! ガキ共! 弟に手を出したら許さないからな!」


日向ちゃんは バゲットさんと、ヤシタさんを鋭い目つきで、威嚇した。


「誰がガキだ!」


 怒りをあらわにする、バゲットさん。


「バグエ!ダメ!」


 バゲットさんを静止させるヤシタさん。



 日向ちゃんはバゲットさん達を睨み付けたまま、玄関へと向かった。が、僕は驚きのあまり、その場を動けずにいた。



「そうだ。さっきの話が本当だったら、13:00に駅前のDOUTORに行きな。」


「何で?どしたの?さっきの話って?」


 不思議そうな顔をしている僕に、日向ちゃんはニコリとして玄関の扉を開けた。

僕は後を追うように、アパートのエントランスまで日向ちゃんの見送りに向かう。


「日向ちゃん、ありがとう。

その…。

理恵ちゃんの事…。

これからは気をつけるよ…。」


「ああ…。うん…。

お姉ちゃんもちょっと言い過ぎた…。」


 日向ちゃんは 先ほどの、熱くなった自分が少し恥ずかしくなったようだ。

そして、愛車のSR400に乗り、デコンプをコキコキと何度も握っている。


「お姉ちゃんは颯太の事が心配だ…。何かあったらお姉ちゃんを頼るんだぞ!」


 日向ちゃん…重いっす…。


「じゃ私は仕事に行くから。それと、あまり怪異に関わるなよ。

何となくだけど、颯太に害を与えるような、怪異ではなさそうだけどな…。」


 そしてSR400は日向ちゃんのキック一発で始動する。

そして僕の頭を軽く撫でてから、走り去った。


 マジ重いっす…。



 部屋に戻った僕を待っていたのは、牙のガキと茶坊主と言われた2人。


「何だ!?あの女!貴様の方がガキであろう!!」


 バゲットさん、マジギレっすか…。


「うわぁ~ん!!茶坊主って言われたぁ~!!茶坊主って何ぃ~!?」


 ヤシタさん…。知らないのに悔しいの?

 

 でも無理もない…。あの威嚇した目で突然あんな事を言われたら、ほとんどの人は怒るだろう。

 僕も日向ちゃんと姉弟きょうだいじゃなかったら、確実に接触を避けるタイプの女性だ。


「ブラコン女め! ブラコン女め! 貧乳ブラコン女め!」


 ヤシタさんはパタパタと飛び回りながら叫んでいる。


「何!? あの女ブラコンか!? あはは!!」


 バゲットさんは腰に手をあて、仁王立ちで高笑いをしている。


「あはは!! 情けないのぉ!」


 それはもう、嬉しそうに高笑いをしている。

 

 あの…。僕の姉なんですけど…。

言い過ぎで、笑い過ぎです。


「あはは…。

ふぅ…。

で?

ヤシタ。ブラコンとは何だ?」


(意味もわからずに、あの高笑いって…。)

   ↑

 颯太・ヤシタ 心の声



 そういえば、日向ちゃん…。

バゲットさん達を見ても、驚いていなかったな…。



     ◇



 12:45 駅前DOUTOR


 予定よりも早く到着した僕は、コーヒーを飲みながらPS Vitaで暇を持て余す。

デート・ア・ライブのツインエディションだ。

いわゆる、ギャルゲである…。

 彼女のいない僕が、彼女をつくる勉強という訳だ…。

はいはい…。情けない男ですよ、僕は…。


 すると。


「椚田君?」


 顔を上げるとそこには

ミルクティーと、パリパリチョコミルフィーユをトレーに乗せた、大榧おおかやさんがいた。


「あれ?大榧さん?こんにちは。」


 大榧さんは何かを言いたそうだ。


「大榧さんは買い物?お昼?」


「あの…。 昨夜…。 日向さんにココに来るように言われて…。」


 そういうことか!

日向ちゃん何てことを…。


「そうだったんだ。実は僕も今朝、日向ちゃんが来て…。」


 僕は荷物を退かして、大榧さんに席を空けた。


「昨夜の事だけど。僕…、すごく酔ってしまって…。沢山の人に迷惑かけちゃって…。」


 店内のクリスマスのデコレーションをバックに、大榧さんはジッと僕を見ながら、ニコニコと笑顔で話を聞いている。

 聞いているのかな?


「大榧さん?」


「椚田君。」


 大榧さんは深呼吸してから話しを始めた。


「今日、この場所で私と、お話をしている事は忘れませんか?」


 突然のキツイ一言。

しかも笑顔だ。


「大榧さん?」


「お兄さんに興味のある女性と、今の私は同じ分類になっていませんか?」


 何?どうしたんだ?


「大榧さん…。

何も言い返せません。すみませんでした。」


 大榧さんは笑顔で僕を見ている。


椚田くぬぎだ君は高校の文化祭で、私と一緒に、出店でみせのレジをしていて、退屈そうな顔をしていたんだよ。」


 何で今その話?


「僕は…。その…。すみません…。」


 あぁ。何も言い返せない。


「椚田君が、生徒会の図書役員に入った時も、私がクラスの図書委員になって、放課後、貸出カードを一緒に作っていたんだよ。」


 あぁ。図書役員…。

日向ちゃんに無理矢理やらされたんだよな…。


「進路も…。教員なんて興味無かったけど…。」


 興味も無いのに教員試験受けたの?


「大榧さん?」


 どうしよう…。

何を話せばいいのかわからない…。

 大榧さんは相変わらずの笑顔でこちらを見ている。


「そうだ!椚田君、このミルフィーユ食べてみる?」


 大榧さんはミルフィーユの先をフォークですくい、そのフォークを僕にむけた。


「あぁ…。ちょっと待ってて、新しいフォークを貰ってくるね。」


 僕は大榧おおかやさんからの、ミルフィーユを食べる前に席を立ち、カウンターに向かった。


「ちっ…。」


 舌打ち?

今の声って、ヤシタさん?

大榧さんは膝の上で、手をグーに握って、床を見ている。


 そして、僕が店員さんにフォークをもらい、席に着くと…。


 ガーーーン!


「無い! ミルフィーユ…。」


「食べたくないのかと思って、食べちゃった。」


 笑顔で大榧おおかやさんは言う。


「食べたかった?」


「え? いや…別に…。」


 フォークを握りしめている、自分が情けない。


「じゃあはい! あ~ん。」


 え!?


「おっ大榧さん!!! 何をしているの!?」


 耳まで赤くなっているじゃないですか!


「食べてくれるまでこうしてるから。」


 恥ずかしい。物凄く恥ずかしい。


「すみません…。イタダキマス。」


 カタコトの日本語になった自分が情けない。

大榧さんは下を向いている。

 クリスマスが近いので、店内ではずっとラブソングが流れている。

そのせいか、恥ずかしさは倍増している。

 今は、西野カナのGO FOR ITだ。

しかも、サビの盛り上がっているところだから、居ても立ってもいられない。


「お…美味しいですね。」


 僕が話しかけても大榧さんは、下を向きながら何度も首を縦に振るだけ。


 そして、大榧さんは突然立ち上がった。


「椚田君!ごめんね!

ちょっと用事を思い出しちゃて!帰るね!」


 そう言って、自分のトレーを持って片付け始めた。

 

 僕は呆然とそれを見ている。


 アウターも着ないで出口に向かう大榧さん。


「追いかけなきゃ…。」


 思わず口に出ていた。


「颯太!ボケっとしてないで追いかけて!」


「ヤ!? ヤシタさん!?」


 僕も急いで帰る支度を始める。


「早く!追いかけるの!」


 僕は急いで外に出た。

いない!

いない!

 右を見ても、左を見ても見つけられない。

駅前の連絡通路から、下の通りを見下ろした。

すると、横断歩道を小走りで渡る、大榧おおかやさんを見つけた!


「大榧さん! 待って!」


僕はありったけの声で叫んだ。


「そこで待っていて!」


 雲一つない晴れた日。

年末でいつもより交通量の多い交差点。

冬の高い空に、車のノイズと僕の声は共鳴した。

 そして僕は走る。

連絡通路の階段を駆け下り、人混みをかき分け。

小走りから早足になっている大榧さんの肩を軽くポンとした。


 驚いた表情の大榧さん。


「やっと追いついた…。大榧さん、時間…。まだ大丈夫?」


 いきなり走ったから苦しい。


 息せき切って来たことが、バレないように僕は平然を装うが、昨夜の二日酔い気味の、僕の身体は正直すぎた。


 ゲホゲホッ!


「椚田君!大丈夫!?」


 大榧おおかやさんは心配そうに話しかけてくれる。

本当に、優しい人だな…。


「大榧さんが、待ってくれなかったから…。心と身体に40のダメージを受けました。」


 僕は膝に手を付きながら、大榧さんを下から見上げて言った。


「もぉ…。その言い方。昔の椚田君みたい…。」


 良かった。怒っているんじゃないんだ。


 僕はあらためて、大榧さんに言う。


「まだ。時間があいているようでしたら、少し歩きませんか?」


 僕の問いかけに、大榧さんは嬉しそうな顔で、言っくれた。


「はい!私で良かったら、ご一緒します。」








「まったく、世話のやけるガキ共だわ…。ね?バグエ。

どしたの?バグエ?」

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