第4話 No more trouble…

 22:15国道沿い…。


 忘年会の帰り道。


 飲み過ぎと、自分に対する嫌悪感で凄い吐き気がする。

 信号待ちで空を見上げると、満天の星空。


 嫌悪感が星の光で洗い流されるようだ。

 ずっと見ていたいが、疲れた首が反抗してくる。


「はぁ…コクちゃった…。」


「あぁ。コクったな。」


「うわぁ!?」


 僕は冷たいアスファルト舗装の地面に座り込んだ。


「きゅ!急に話しかけないでくださいよ!」


「プププ…キャハハハ!」


 突然現れたバゲットさん。先ほどの、忘年会のことを思い出し、爆笑状態だ。


「何ですか!」


 僕は少し怒った口調でバゲットさんに言った。


 自分が悪いのに・・・。


 女性と普通に話が出来て、色々と勘違いしてしまった自分が憎たらしい。

 お酒に飲まれて舞い上がって…。中原さんに失礼な事を言ってしまって…。


 気を使ってくれた笹目部長、頭を抱えていたな…。


「まぁ私も少し笑いすぎたな…。

 ホレホレ、信号が青だぞ。」


 バゲットさんにまで気を使わせている…。


「あの四角いのが青になったら渡れるのだろ?」


 少し自慢気な顔をしている。覚えたての子供みたいだ。


「ほら!立ちなさいって!」


 顔をそむけながら、僕に言う。

 恥ずかしいのかな?


 あれ?立てないぞ?


「あの…立てないです…。」


 僕は情けない声をだした。


「情けない男だな!」


 両手を上に向けて、困ったポーズをしている。

 も、萌える…。


 バゲットさんはあきれた声で言いながら、僕を軽々と立たせた。


「歩けないんだろ?」


 バゲットさんは そう言うと、僕の左腕を自分の肩に回した。


「だ!大丈夫です!大丈夫ですって!」


 これじゃますます自分が情けなくなる…。

 僕の左手首は、ガッチリとバゲットさんの右手がつかんでいる。


「歩くぞ!」


 僕はバゲットさんの言葉に、ビクッとした。


「すみません…。ありがとうございます…。」


 僕達は冬の国道沿いを ゆっくりと、歩き出した。

 初めてのことなので、わからないけど、恋人同士ってこんな感じなのかな…。

 ん?普通は逆か…。あぁ…。情けない…。

 バゲットさんって、すごく線が細い…。

 腕とかこんなに細いのに、何ですごく力持ちなのかな…。


 あれ?そう言えば、バゲットさん。いつもと違う服を着ている。男物みたいだな…。


「って!それ!僕の服じゃないですか!?」


 そう言うと、バゲットさんは立ち止まり、顔を近づけてきた。


 真紅の瞳が僕の目と行き交う。

 吸い込まれそうだ…。


「何か言ったか?」


 僕は我に返った!


「なんだか今吸い込まれそうでした…。」


 バゲットさんは少し機嫌が悪そうに言う。


「今のは"魅了"。貴様には効かないようだな…。」


 魅了?なんだっけ?あれ?僕を眷属けんぞくにするのか?!


「で?なんだ?」


「そうそう。バゲットさん!それって僕の服ですよね?」


 バゲットさんは、舌を出しテヘっとしてから言った。


「これはアレだ!」


「あれって?」


「あ~~!別に良いではないか!」


 照れ臭そうに言うバゲットさん。


 なんだろう、この人って普通に可愛いな。


「はい。別に構いません。かまわないんだけど…。」


 それ…。先週の部屋着で洗っていないんだよな…。

 明日、休みだから洗おうと思っていたんだけど、さすがに言えない…。


「バグエ!それ洗ってないんだってさ!」


 何処からともなく声が聞こえた。

 へ? 

 誰?


「いたたたたた! 痛い!」


 バゲットさんが僕の左手首をギリギリと握りしめている。


「痛いです!バゲットさん!痛いです!」


 バゲットさんは 僕を威嚇した目で睨み、左手首を握りしめてきた。


「バグエ!そんな事で怒らないの!この子の手首がちぎれちゃうよ!」


 誰が喋っているの?

 ヤバイ!助けて!


「キサマ!洗っていない服を我に!」


 光る真紅の瞳。


「だって!それ僕の!痛いぃ!」


「バグエ! やめなさい!」


 握られた手首が徐々に開放されていく。

 多分。今の僕って、泣きそうな顔をしているんだろうな…。


「すみません!休みの日に洗おうかと…。明日休みなので。」


 僕は バゲットさんの、肩の先に拉致られている、千切れそうになった、手首をフリフリした。


「颯太が謝ることじゃないわ。悪いのはバグエでしょ!」


 誰?

 小人?

 妖精?

 バービー人形みたいに小さい。

 腰のあたりから綺麗な羽が生えていて。

 その羽根はキラキラと輝いている。羽ばたくと輝く星屑のようなものが舞い散る。


「あの…どなたですか?

バゲットさん?この人…。何で僕の思っていることが、わかったんですか?」


「あぁコイツは…。」


「ヤシタでーーす!」


 バゲットさんの説明を遮って話し出すヤシタと名乗る小人。


「コヤツは・・・」


「バグエの使い魔でぇ!エルフなのぉーーー!私はね、その人のやましいと思う気持ちがね、わかっちゃうんだよん。」


 軽い…。

 軽いぞエルフ!

 ライトじゃないか!。

 アビリティはダークだけど…。

 やはり、ゲームと現実は違うんだな…。てか、これ現実なんだよな…。バンパイアとエルフか…。


「私が話そうとしているのに!ヤシタが話すな!」


「だってさぁ!バグエは硬いからさ、颯太が可哀想じゃなぁい?」


 あはは…。この2人仲良しだな。


「あの…お二人さん?寒いので帰りませんか?」


「はぁーーーい!」


 ヤシタさんは元気に返事をして僕のアウターの胸ポケットに入った。


「コラ! ヤシタ!颯太の所に行くでない!」


「…zzzz」


 たぬき寝入り?関西系か?


「すまない颯太。ついカッとなってしまった。」


 本当に申し訳無さそうな顔をしている。


「いえ!大丈夫です!あの、聞いてもいいですか?」


「何を?」


「さっきの魅了って、僕を眷属に?」


「魅了と、眷属は別だ。

 こちらの世界に来た時に、最初にキサマを見つけて、まずはキサマを魅了して、私のパシリにしようと思ったのだが、颯太には効かないんだ…。

 まったく不思議な男だな。

 まぁ、それからだな。キサマに興味がでたのは。」


 魅了が効かないって、女性不信だからかな?


「ところでバゲットさん達はどこに住んでいるのですか?うちの展示場ですか?」


 バゲットさんはニコニコしている。


「最初は展示場って所だったけど、今は颯太と一緒だよ。」


 アウターの胸ポケットから、ピョコっと顔だけだし、ヤシタさんが言った。


 え?


「言っている意味がわからないのですが。」


「キサマと同じ、あの狭い部屋だ。」


 同じ?


「そうそう。狭い部屋。だから、気を失った時も、あの狭い部屋に運んだんだよ。」


 ヤシタさんは楽しそうに言う。


「そうなんですよ!それを聞きたかったんですよ!

 朝起きたら、シャワーも浴びて、歯も磨いて、パジャマにもなっていて…。」


「それはバグエがやったんだよ。バグエはネクロマンシーの術が使えるからね。」


「ハハハッ!私は…」


「バグエのお父さんはtrue Vampireだからね。」


 ヤシタさん、また割り込みトークですね。


「ヤシタ!お前が喋るな!」


 ヤシタさんは 僕の胸ポケットに潜り込んだ。

 本当に仲が良いな。

 なんだか、うらやましいな。


「ん?ネクロマンシーって、僕生きてますが。」


「意識が無ければ死人しびとと変わらない。操ることなど簡単だ。」


 それって…。


「もしかして僕の…見ました…?」


「ん?何を……。」


 バゲットさん何かを思い出したようだ。

 そして顔を真っ赤にしている。


「いや…その…。僕の…。」


「ん? 

 あぁ、バグエ!

 あのお粗末な物体のことじゃない?

 バグエ言ってたじゃん!」


「ヤ! ヤシタァ!!」




 お…お粗末って…。

 僕は12月の極寒のアスファルトの上に崩れ落ちた…。


 トホホ…。

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