第4話

会社から帰って来て、家族から思わぬ、理不尽な無視という仕打ちにあって、義男は完全に切れ掛かっていた。

妻も、長女も、三女も、そして先ほど帰ってきた次女まで自分を無視していることに耐えられなかった。

このまま寝てしまおうとも考えたが、寝所が一緒の妻が横に寝ている状況でとても寝られないと思った。

「お前らどうしたんだよ。何でもいいから話せよ」

妻と次女はそれも無視した。

「いい加減にしろよ。何があったんだ」

「・・・・・」

「何もしゃべらなければ分からないじゃないか」

「・・・・・」

本当にどうしたんだ。俺が何か悪いことをしたのか。

それにしても、妻と次女は何故表情ひとつ変えないのだ。

義男は、ふたりを睨みつけた。

だが、ふたりは義男の方を見ようとはしない。

まるで義男の存在が無いような雰囲気だった。

「お前ら本当にいい加減にしろよ。どうして俺を無視するんだ。何かお前たちに悪いことでもしたというのか」

「・・・・・」

口を開こうとはしない。

義男は思い切りソファを蹴飛ばして、浴室に向かった。

あれは完全に自分に敵意がある。

俺はよほどのことを家族にしたのだろうか。

さっきまで物を投げつけてやろうかと怒りが渦巻いていたが、浴室の湯船につかるとだんだん冷静になって来た。

自分に落ち度はないはずだ。浮気をしたことはない。

そりゃ、会社に可愛い子がいて、好きになりそうなことはあったが、娘と変わらないような年頃の女の子を誘惑しようなんて考えられないと遠くで見ているくらいなものだ。

付き合いも若い頃に比べれば少なくなったから、帰宅時間もそんなに遅くない。

家族を疎かにして仕事ばっかりということはない。

子供たちの学校の行事には参加してきた。最近は娘たちが大きくなったので、頻繁に学校に行くこともないし、娘たちと会話も出来る限りしてきた。

妻とはもう二年以上も性交渉はないが、五十歳になった夫と四十七歳の妻との間では珍しいことではないだろう。

だいいち、そんなことで娘たちも巻き込んで妻が自分に対して反乱を起こすことはないだろう。

では、家族たちの怒りは何なのだ。

やはり、女ばかりの家族だから、唯一の男である自分に生理的な嫌悪感が沸いたのか。

人に聞いたことはないが、女という生き物は生理的な生き物という実感はある。意味も無く不機嫌になることはこれまでもあった。

だが、それは妻ひとりだったり、娘のうちのひとりが旅行中に突然黙り込んでしまったりということはあった。

だから、今回もそれなのかも知れない。

たまたま、それが妻と娘たち全員が生理的な要因で自分を一時的に嫌悪しているのだろう、そう無理矢理結論つけた。

とりあえず、今日は大人しく寝よう。明日の仕事に差し支えたらそれこそ大問題だ。

義男は、風呂から上がるとそのまま寝所に行き、ベッドに入った。




⑤に続く。





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