第4話

 私はいつ生まれたのかも分からず、いつのまにか存在していた。人は私を戦姫ヴァルキーエと崇め、神の1人として崇拝した。

 なぜ私が崇拝されているのかも知らず、私はただ『神』としての務めを果たしていた。


 公平さを重んじ、愛を持って人を見なければいけない。たとえどんな悪人だろうと悔い改め私を必要とするなら私は必要なものを与えた。平等、公平に。

 私を呼ぶ声があれば、私はそれに耳を傾け必要な知恵、力を与えた。それらは決して人の理から外れてはならない。それがルール(・・・)だ。


 神というのは私以外にも何人かいて、それぞれの役割がある。その中で私は戦姫として「立ち向かうもの」「勇気が必要なもの」に助けを与える。それが私の役割だった。そして、それらは平等に与えられなければいけなかった。


 しかし、彼は私の目に留まった。


 特別な力も特にない凡庸な人間が自らの意思で運命を捻じ曲げようとしていた。その意思は曲がることのない力強いものだった。

 彼のその強い想いによって、彼自身の運命が変わりつつあった。

 彼に興味を持ち、注意深く見ていた。彼はまさしく凡庸。しかし、人一倍固い意志の持ち主だった。


 彼は山で獣と遭遇した。獣はコカトリスと呼ばれる神鳥のなり損ないだ。しかしなり損ないといえど、今の彼には手に余る存在だ。

 そこで私は彼に勇気を与えた。私の本意はその場から逃げるための勇気だった。しかし、その勇気を彼は使命感として受け取った。自分がやらなければいけないという使命感から、彼は見事コカトリスを討ち果たした。


 しかし、彼の身体は大きく損傷していた。長くは持たないだろう。

 私は「助けたい」という自らの意思で、彼に回復を施した。望まれてもいないのに、彼を助けた。

 彼を特別視し、死ぬはずだった命を助けた。神である以上、人に対して公平・平等である必要がある。しかし、私はそれを無視した。


 その結果、私は神から堕ちた。


 後悔の念はない。私は自分のやりたいことをできる。使命感に追われることのない歩みができると思うと胸が高鳴る一方だ。


「……俺は……」


 どうやら、彼が起きたようだ。彼にはこれからのことについて話さなければいけない。


 1つは彼にこの世界を救う英雄になってもらうこと。彼にはその素質がある。

 そしてもう1つ。これが最も大切なことだ。


 私と彼の幸せな家庭をどのように築くかについてだ。

 さぁ、私と話し合おう。私たちの未来についてしっかり話し合おうじゃないか。

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