3ページ




 教室で机の中を調べる冬也。立夏はその姿を後ろから見ていた。

「ねぇ、冬也の探してるのって小さい青色のノート?」

「えっ! なんで立夏が知ってるの!?」

「だってそれ家にあるから」

「そ、それたぶん俺の! 返してくれ!」

「えー。どうしよっかなー。あのノートには不思議な力があるしなぁ」

「……」

「それに冬也と別れたくないし」

「……」

「遠距離恋愛でもいいからさ」

「おまえの思っている以上に遠いぞ」

「はぁ? 海外ってこと?」

「1000年先の未来だよ」

 立夏は目をパチクリさせた。

「じょ、冗談でしょ?」

「本気だよ」

 冬也はシャツから肩をのぞかせ、立夏に見せた。

「この紋様が見えるだろ?」

「見える、けど、何それ」

「荒廃した未来から送り出されるときに刻印されるものだ。どこにも逃げられないように」

「荒廃? 未来はどうなっているの?」

「科学技術は進んでいるが、それにともなって自然は破壊された。毎日が凍えるような寒さの大寒期だ。もちろん夏なんてものはない。俺は生まれてから一度も夏を体感したことがなかったから、1000年前のこの世界に“時間移動”をしたんだ」

「そんな……」

「あくまで一つの未来だ。俺のいる未来がそうなってしまっただけだ。未来を創るのはおまえ達だろ」

「でも……」

「とにかく俺は“時間移動法”に違反した。おそらく立夏がそのノートを使ったからだろう。だから未来に帰らなきゃいけない」

「だから別れようって言ったのね……」

「……」

「もう1回……」

「ん?」

「もう1回だけ使わせて」

「あのな――」

「お願い!」

「……」

 冬也は良いとも悪いとも言わなかった。少し思案していたが結局口を開かなかった。

 立夏はそれを肯定的にとらえて、家に向かって急いだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る