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 自転車置き場に着くと、立夏は2年以上使ってきた自転車にカギをかけた。

 そこに雪野冬也ゆきのとうやがやってきて「おはよう」と声をかけてきた。

 立夏はもちろん「おはよう」と返し、「進路調査書、出した?」と続けた。

「いや、まだ。立夏は?」

「私? 私は出した」

「進学?」

「進学」

「そっか、進学か」

「冬也は進学しないの? 頭いいじゃん」

「いや、そういうことじゃないんだ……」

 意味有りげに冬也はそう言った。立夏はそれ以上続けることは、冬也をキズつけるような気がして、出てくる言葉を押し殺した。

 しかしそんな立夏を見て冬也は話を続けた。

「俺も進学ということにしとこう」

「……」

 ただ黙っていた。冬也がどこか強がっている気がしたから。



 終業式が終わった。

 冬也に誰もいない屋上に呼び出された立夏は内心ドキドキしていた。それは期待感からではなくこれから失うかもしれないというユウウツ感からだった。なぜなら立夏は知っているのだ。冬也がキスをするわけではなく、別れを告げることを。

「あのな、立夏……」

 真夏の太陽が屋上にいる分より暑く感じる。

 頭をポリポリとかく冬也。そして――。

「別れよう」


 やっぱり


 立夏は2回目の「別れよう」を聞いた。

「なんで? 3ヶ月以上も付き合ったのに……なんでよ」

 冬也への2回目の返答も一字一句間違ってない。イントネーションや間合いでさえ。

「帰らなきゃいけない」

「どこに?」

「それは言えない」

「……」

「ごめん」

「いつ帰るの?」

「今日」

「急すぎ!」

「ごめん」

「……」

「……」

 沈黙の時間が流れた。

 夏の空の下をかける風が立夏達を横切る。肌に触れるその風は熱を帯びた体に気持ちが良かった。


 プハッ!


 立夏の唐突な笑いが沈黙を破り、冬也はそれに驚く。

「何笑ってんの?」

「なんか同じことを繰り返してるみたいでさ。既視感だっけ、こういうの」

「繰り返し? 既視感?」

「そう。時間が戻ったみたいに」

「ふ~ん」

 納得いかない様子の冬也をおいて、笑う立夏。そして冬也は急に不安な顔つきになり、立夏の両肩を掴んだ。

「おまえ、変なノート拾わなかった?」

「な、何よ急に」

「いや、なんでもない」

 両肩から手を離した冬也は踵を返し、階段を降りる。

「ちょっ、ちょっと待ってよ! 私達やり直せないの!?」

 冬也には立夏の声は届かず、冬也はただただ急いで教室に向かうだけしかできなかった。





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