その6

 ここは、戸沢高校の美術室。

 アイちゃんが、モクモクとキャンバスに絵を描いていると、いきなり壁が

ドカン!

と、破壊され、戦車が入ってきた。




「やあ、アイちゃん、こんにちは!」

と、タイガーさんが戦車の上から顔を出して言う。




「あ、虎さん、こんにちは……」

と、スカートの裾を払いながら、アイちゃんは返した。




「うむむ、アイちゃん、少しはなんか感情リアクションを表してほしいのだ」

「え、じゃあ『』」

と、アイちゃんは棒演技を披露。

「うう、もういいのだ」


彼女アイちゃんの足元には、破壊の拍子に飛んできた頭蓋骨が落ちていたりして、まあ凄惨ぐっちゃぐちゃ状況かんじだった。




「ところで、その骸骨アタマはなんなのだ」

と、虎さんは震えながら聞いた。

 虎さんは怖がりらしい。




 アイちゃんは、答える。

「うん、これは、何十年も前に学校で殺人事件が発生した時の、だね。

へぇ、こんな所に閉じ込められていたんだ……」




「うむむ、高2とは思えぬ冷静沈着さなのだ。

ところで、なんでそんなにこの骸骨に詳しいのだ?」

「うん、知ってるというより、……」

「ふーん」

 虎さんは、なにか察して軽く頭を振った。




「そういえば、今日はどんなことを聴かせてくれるの?」

「ああ、そうだったのだ、忘れてた!」




 虎さんは、あちらこちらに遊学りょこうしており、アイちゃんはその話を聴くのが楽しみらしい。




「ツルナゴーラという山あいの地域くにで、あるプロジェクトで超人ヒーローを研究してた知り合いがいてな」

「うん、うん」

「カミナリにビックリした拍子に、研究用の液体おくすりを全身に浴びて、




「へぇ、なんかオマヌケさんだね……」

「ははは、確かにそうなのだ」

と、虎さんは人差し指を鼻にこすりながら笑う。




 ドカーン!!!

「ぐわ、やられたー!」

「わあ、先生プロフェッサーありがとう!!」

「ははは、困ったことがあったら呼んでね」




「わあ、先生の料理おいしー」

「ははは、そうでしょ、そうでしょ」

「掃除までしてくださって、ほんと助かります」




「わあ、先生、ベンのお散歩してくれてありがとー」

「ははは、犬の散歩うんどうくらい、天才のあたいにはお手のモノさ」




「……なんか話聞いてると、便使

と、アイちゃんが疑問を口にした。

「うん、本人が良いって言ってるから、これでいいのだ、多分」

 虎さんは、したり顔で言う。




「じゃあ、また行ってくるのだ」

「ばいばーい」

 虎さんは、キャタピラーの音を響かせながら、また旅に出た。




 アイちゃんは、見送った後、転がっていた骸骨アタマをテーブルに置いて、じーっと見ながら、こう呟いた。

「アタマしかなくなっちゃったね。

これで、




 ……なんだ、バレてたのか。

「うん、ものすごいからね」




 骸骨オレを、ジーッと見つめながら、彼女は言う。

「後で、お話聞かせてね?」


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