過去

柊木緋楽

1 異変が起きた日

もう遠すぎて覚えていない。

正確にあの出来事が起きたのはいつだったか。

だがあの出来事が起きる以前まで、私はアイツと仲が良かった筈だった。

家にも遊びに行っていた。

でもあの日私は、アイツに裏切られた。

それは学校の帰り道の事。

一年生の、学校の帰り道での事。

「昨日底無し沼に沈んだ石を取れ。」

この言葉は今でも忘れる事はない。

アイツは泥の水溜まりを指差して言った。

当時の私は単純でとても嘘に騙され安かった。

私はその水溜まりを本気で底なし沼だと思い込み、恐怖した。

「嫌だ」

普通にそう言った。

“底無し沼”に沈む恐怖に駈られて。

だが次の瞬間の事だったんだ。

「早く取れや」

私の両肩をアイツは押した。

その瞬間私はバランスを崩し、とっさに手をのべた。

なんとか顔に泥が付く事は免れたものの、その時既に、私の体の半分は泥水に沈んでいた。

泥水が掛かった部分は重く、当時の私の筋力では立ち上がるどころか、起き上がる事さえ困難だった。

と、そこで私がもがいていると、私とアイツのやり取りを見ていた者が、私へ手を差し伸べた。

そして立ち上がって気付いた。

お気に入りの黒い長靴に、泥が入り込んでいた。

ちなみにその長靴の中の材質はモフモフといった感じだったのだが……まあ察せるだろうから割愛させていただく。

私は長靴から泥を取りだし、泣きながら帰った。

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過去 柊木緋楽 @motobakaahomaker

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