第2話 眠り姫は唐突に

 転校して来て二日目。最初はどうなるかと思ったが、私は無事に自己紹介を終えて一日目の学校生活を終了した。

 そして、今はというと次の授業は移動教室なので廊下を歩いている最中だった。

 すると「雨宮さ~ん」と、のんびりとした口調に名前を呼ばれ、私は後ろを振り返った。



「あ、茨城いばらぎ先生」

「昨日は、ごめんなさいねぇ~」

「はい?」


 先生に謝れるようなことされたっけ? と、思い私は首を傾げる。頭の中でそれを思い出そうとするが、いくら考えてもそれらしい事は思いつかなかった。



「ほら、自己紹介の時よ~。私ったら、また眠ってしまったみたいでぇ」



 茨城先生は頬に手を当て、困った顔をしながら言った。

 私は「あぁ」と、呟きながら思い出す。私が転校してきた初日、クラスの皆に自己紹介をしようとしたのだが、私は緊張のあまり頭が真っ白になり言葉が出てこなかった。

 すると、今私の目の前にいる先生に緊張が移ったらしく『ふぁ~、緊張して眠くなってきちゃったぁ~』と、言うとそのまま先生は寝てしまったのだ。その後、クラスの皆は『やれやれ』と言った感じで呆れ、私は唖然となっていた。

 そのせいもあり、私の緊張はスッカリ無くなると、私は皆の前で改めて自己紹介をしたのだ。もちろん、隣で先生が爆睡している中でだ。



『雨宮春奈です。私は皆さんと違いなんの力もない普通の人間ですが、宜しくお願いします』



 こんな感じでできたのだから、寧ろ万々歳だ。

 既に重大なミッションを終えた私にとっては、それが昨日のことだろうが頭の中では早くも削除していた。

 故に、最初は何のことだかわからなかったのだ。

 私は慌てて先生の前で手を小さく振る。



「いえ、いいですよ! 気にしないでください!」



 そう言うと、私はふと先生の生まれ変わりについて尋ねてみた。



「先生は……『 いばら姫』の生まれ変わりなんです、よね?」

「あら、この学校の事を知っているのねぇ〜」

「はい。雪子ちゃんから聞きました。あ〜……後、学校長先生からも……ははは……」



 私は先生から目を逸らし、窓の外を見て苦笑する。そんな私の顔を見ると先生も「あら〜」と、言いながら苦笑した。



「校長に会ったのねぇ~」

「はい。……あの変態が学校長というのに驚きと不安が隠せません」



 私は真面目な顔で抗議するかのように先生に言う。



「大体なんなんですか、あれ!? いつも間にか後ろにいると思ったら、どうどうとスカートの中を写真で撮ったり。それに、この前なんて着替え姿を撮られたんですよ!? しかも、普通に更衣室の中に居たし――って、先生!?」



 私は先生を見ると、先生は壁にもたれながらスヤスヤと眠っていた。

 どうやら私の話しは聞いていないらしい。私はポカンと口を開け「ね、寝てる……」と、呟いた。

 そして、ガックリと項垂れた。



「これ、どうしよう……」



 「はぁ……」と溜め息を吐くと、幸せそうに眠っている先生を私は今一度見る。



(これ、やっぱり私が保健室まで連れて行かないといけないよね……。次の授業、遅刻決定か……ガクリ)



[完]


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