第1話 初めましゅて
(う、うぅ……緊張するよぉ……)
教室の前で、私はカチコチになって固まっていた。
今からこの教室に入り、人前で自己紹介するということを考えるだけで胃がキリキリと痛くなってくる。私は、掌に『人』という文字を三回書いて飲み込む。
「効かない! 効いてる感じしないよ、おまじない!!」
私は頭を押さえ「うぁぁぁ!」と叫ぶと、頭の中で自己紹介の失敗例をシミュレーションした。
『は、初めましゅてっ!!』
(はぁー!! 噛んじゃったー!!)
噛んだ事に教室にいる生徒全員が笑い、私は俯きながら赤面する――というのを想像して、私は既にかなり落ち込んいた。
まるで肩や背中に石を背負っているかのように重い。
「どうしよう……初めから失敗したら……」
(きっと、それ以降、笑われ者になっちゃう……)
チェックのスカートの裾をギュッと掴む。考え過ぎかもしれないと周りは言うだろうが、何の力も無く、ただただ平凡な私がこの学校でやっていくには『自己紹介』の印象が大事なのだ。
すると、先生のホームルームが終わりこれから担任になる茨城先生が私の名前を呼んだ。
「皆〜、最後に今日は新しい仲間を紹介するわねぇ~。雨宮さん、入って〜」
(き、きた!)
私は意を決して教室の扉を開く。すると、クラス全員の視線が一気に私に集まった。
私はそれがいたたまれなく、俯き気味に教台へと歩いく。
(は、はう……帰りたい……)
「雨宮さん、自己紹介をお願いね~」
「は、はいっ!! え、ええと……ええと……」
既に頭の中で予行演習は何度もしたのに、いざクラスの皆の前に立つと心臓は早鐘し、目がかなり泳ぐ。頭の中の考えていた文字は、もうすっかり白紙になっていた。
(ど、どうしよう?! 昨日、あんなに考えて来たのに、もう忘れた!!)
「ええと……ええとぉ~」
「あらあら、緊張してるのねぇ~」
側に立っている先生が、のんびりとしながら言うとにこやかに微笑んだ。すると、先生は突然「ふぁ〜ぁ」と小さく欠伸をすると、近くにあった椅子に座り教卓に突っ伏してしまった。
「そんなに緊張していたら、こっちまで緊張が移っちゃったわぁ~……。ふぁ~、緊張して眠くなってきちゃったぁ~………すー……すー……」
そう言うと、先生は一瞬で眠りに落ちてしまった。
私は唖然となりながら寝ている先生を見る。
(えー……)
まさか学校で、しかも先生が生徒の目の前で堂々と眠るとは思わなかった。いや、誰も思わないだろう。
すると、目の前にいた生徒が「まただよ~」と、言い始めた。
(え、また!?)
「先生~、起きてくださいよ」
「無駄でしょ。先生、一度寝たらあまり起きないもん」
「あ~……確かに」
教室の生徒は、私の事は無視して茨城先生のことや「次の授業茨城先生だよ。どうする?」という話をしていた。
取り残された私は、すっかり緊張は解け、逆にこの後どうすればいいのかわからず内心困り果て、この状況に放心していたのだった。
「私の自己紹介……ガクリ……」
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