7.そしてまた日常がはじまる

「――という感じよ。その後、私はクロウさんから様々なことを教えてもらって、妖怪やお化けを退治するようになったの。ね? たいして面白い話ではなかったでしょう?」


 長い長い昔話むかしばなしえて、ひばりちゃんは退屈たいくつそうにため息をもらした。

 けれども、話を聞いていた心ちゃんはと言えば――。


「いやいやいやいや~! めちゃくちゃ面白い話じゃないですか、それ! なんですか~! 超巨大ちょうきょだいなハクビシンとのあついバトルとか! 少年マンガの主人公ですか、ひばりちゃんは~!!」


 ひどく興奮こうふんしていた。

 ひばりちゃんにとっては「少しずかしい小さな頃の話」でしかないが、心ちゃんにとってはマンガの主人公の活躍かつやくのように思えたらしい。


「そ、そんな大層たいそうなものではないわよ。大げさねぇ、心ちゃんは……」

「そんなことないですよ~! ひばりちゃんもクロウさんも、あとついでに孔雀くんも、むっちゃくちゃカッコイイじゃないですか~!!」

「よ、よろこんでもらえたのなら、良かったけど……」


 心ちゃんがべためするものだから、ひばりちゃんの顔はもう真っ赤だった。

 かなりれているようだ。


「あ~、でも、一つだけ分からないことがあるんですけど~」

「あら、何かしら?」

「鎌倉には、妖怪がたくさんいるんですよね~? 『本当にいる』方の妖怪が。でも、あたしはクロウさん以外の妖怪なんて見たことないですよ? えるのは、人間のお化けと『本当はいない』妖怪ばっかりですけど~」


 ――そう。ひばりちゃんの話によれば、この鎌倉のまちには、たくさんの妖怪が暮らしているらしい。

 けれども、心ちゃんはクロウさん以外に「本当にいる」タイプの妖怪を見たおぼえがなかった。

 心ちゃんに視えるのは、死んだ人間の幽霊ゆうれい――つまりお化けか、「トイレの花子さん」のような「本当はいないもの」ばかりだ。


「ああ、それはね。……ほとんどの妖怪は、人間と深く関わることもないから、ずっと姿をかくしてらしているのよ。多分、私くらいの強い霊力の持ち主じゃないと、視ることはできないと思うわ」

「じゃあ、クロウさんは?」

「クロウさんは特別とくべつよ」


 ひばりちゃんはそう答えながら、ひざの上で寝息ねいきを立てるクロウさんをやさしく優しくなでる。


「この子は、私と『主従しゅじゅうちぎり』をむすんでいる。つまり、つねに私とつながっている状態じょうたいなの。その分、人間との距離きょりが近くなっているのね。だから、ある程度の霊力を持つ人間には、視えてしまう」

「へ、へぇ~? そうなんですね~!」


 いかにも「分かった」というような表情を見せる心ちゃん。けれども、実際には全く分かっていないことは、ひばりちゃんにはバレバレだった。

 「さて、心ちゃんにもよく分かるような上手うまたとえはないだろうか?」と、ひばりちゃんが考えをめぐらせていると――。


「やあ、お待たせ二人とも! 少し下調したしらべに手間取てまどってしまってね!」


 孔雀くんが、いつものさわやかな笑顔を浮かべながら部室へと入って来た。

 どうやら今まで、一人で依頼いらいの下調べをやっていたらしい。


「……新しい依頼? 私たち、何も聞いていないのだけれど」

「もう、孔雀くん! ホウレンソウをサボっちゃ駄目だめですよ~! 報告ほうこく連絡れんらく、ソウ……ソウ……ソウ……。ええと、何でしたっけ~?」

相談そうだん、よ」

「そう、それです~!」


 ひばりちゃんと心ちゃんのやり取りに、孔雀くんは思わず苦笑にがわらいする。

 「西小にししょう王子おうじ」として、児童たちだけでなく先生たちからもチヤホヤされる孔雀くんに、ここまで駄目出だめだししてくるのは、この二人だけなのだ。

 孔雀くんにはそれが、とても心地ここちよかった。


「ごめんごめん。今回の依頼人が坂城さかきくんだったから、二人には近寄ちかよらせない方がいいかな? と思って、教室で話を聞いてきたんだ」

「あ、それは大正解だいせいかいですね」

「……むしろ、坂城の依頼なんて受けない方がいいのではないかしら?」


 予想通よそうどおりの坂城くんのきらわれように、孔雀くんが再び苦笑いを浮かべる。

 坂城くんからは、前に調査ちょうさした「火の玉事件」以外にも、厄介やっかいな依頼をたくさんけていた。坂城くん本人の悪ガキ振りとあいまって、女性陣じょせいじんからは完璧かんぺきに嫌われているらしい。


「あはは、そういうわけにはいかないよ。坂城くんの持ってくる情報じょうほうは、中々あれでバカにできないんだ」


 孔雀くんは苦笑いを止めて真剣しんけんな表情になると、今回の事件の内容ないようを二人に話し始めた。


「今回の依頼はすごいよ? なんと、日がれるほんの一瞬いっしゅんだけ、校庭こうていすみっこに、大昔おおむかしに取りこわされたはずの木造もくぞう体育倉庫たいいくそうこが現れるんだって――」


 こうして、「鎌倉西小学校ミステリー倶楽部」のあわただしい毎日は過ぎていく。

 三人と一匹は、学校の平和を守るために今日もどこかで「学校の怪談かいだん」や「七不思議ななふしぎ」のなぞっているのだ――。



(鎌倉西小学校ミステリー倶楽部 おしまい)


※次回以降、番外編を掲載予定

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