第6話:色々と実験をしてみた

「暑い」


 境目の外に出て、あまりの暑さにげんなりする。

 涼しくならないかな……


 ならない。

 必死に、暑い! 暑い! と涼しくなるよう願ったが変化は無かった。

 喉が渇いた、水が飲みたい。

 そう思っても、何も出ない。

 

 やはり、願い通りになるのは敷地の中限定のようだ。

 

 次にアンかテメスさんに外に出るようお願いした。

 そんな絶望したような顔をしないでくれ。

 ちょっとした実験だから。


 アンが泣きそうな顔をしながら、外に出ていく。

 うん、陽炎の位置に変化はない。

 暑そうだったので、すぐに戻ってきてもらう。


 住人になったら境界が広がることは分かった。

 その住人が外に出ても、範囲は変わらず。

 ただ、完全に出て行ったわけじゃないので、分からない。

 所属がここで、外に出かけた程度ならということもある。

 ただ、これ以上実験のしようがないのであきらめる。


 次に敷地内で出来ることを、考える。


 ちなみにアンのことを呼び捨てなのは、彼女の希望だ。

 彼女はここの完全なる住人。

 テメスさんは、駐在員? みたいな扱い。

 でもって、アンは俺の従者になりたいらしい。

 まあ、綺麗だし秘書……にしては、言葉遣いが。

 まあ、護衛ってことで。


 一応部屋も用意した。

 テメスさんは色々と持ってきていていたが、アンはその身一つ。

 身に着けていたのも、小汚い貫頭衣のみ。

 それとサラシと褌。


 女性の下着を出すのは気が引けたが、とりあえずいくつか用意する。

 彼女にあった下着が欲しい。

 女性の下着を欲しいと思うのは、かなり抵抗を感じた。

 問題なく出てきた。


「なんというか……恥ずかしい形だな」


 日本の下着は、少し抵抗がありそうだ。

 女性に手渡した下着に言及するのもどうかと思うが、出てきたのは俺からしたらまともな下着だ。

 別にやたらと股の部分が狭かったりしてるわけでも、Tバックみたいな尖った形じゃない。

 Tバックじゃないが、上の方に穴が空いていて縁が刺繍で補強されていた。

 何故?

 ああ、尻尾ね。


 下着自体はそれなりに面積の広いものだ。

 それでも少し抵抗があるのか。

 俺からしたら、褌の方が……


 ブラジャーも、彼女のイメージ合わせたからかスポーツブラだ。

 

「これは動きやすい! それに着るのも楽だ!」


 こっちは、好評だった。


「サイズもぴったり……ぴったり?」


 なぜかジトっとした目で見られた。 

 いやいや、見てないから。

 テメスさんがうんうんと頷いている。

 いや、納得してないで庇って?


 次に服。

 テメスさんを参考に、彼のオフのときの普段着であるチュニックと布のパンツ。

 腰ひも。

 それ以外に、ワンピースやノースリーブのシャツやら、Tシャツ、ブラウスにジーパン、タックの入ったスカートや、ホットパンツなどなど。

 下に履くものは、裾が大きく広がったスカート以外全部穴が空いていた。

 彼女用にと願ったからだろう。


 彼女が外から中に入ってから、気付いた。

 俺のこの謎の力は敷地限定。

 もしも衣類もこの敷地限定だったら、外に出た瞬間に服が消えているところだった。

 危ない。


 試しに実験。

 この敷地の中で出した水差しを外に持って出る。

 俺の手に、水差しはそのままある。

 そこで、消えろと念じてみる。

 消えた……

 出ろと念じる。

 出てこない。

 うん……


 もう一度敷地に戻って水差しを出す。

 そして、外に置く。

 別に水差しじゃなくても良かったけど、しょっちゅう出してるからなんとなくこれにしてしまった。

 透明のガラスの水差し……割れないかな?

 取り合えず、時間が経っても消える様子はない。

 このままずっとここに置いておこう。


 敷地内で俺が出来ること。

 地形変化。

 それから、物を出す。

 自分の技術向上。

 編み物が出来るようになりたいと願って、棒と毛糸で挑戦したらやり方が分かったし作れた。

 外に出てやってみたが、問題なくできた。

  

 ちなみに敷地内で魔法を使ったりしても何も感じなかったが、外で氷を魔法で作り出したら脱力感が凄かった。

 これも、なにか制約があるのかもしれない。


 敷地内だとどれだけ動いても疲れないけど、外に出て少し歩いたら疲れた。

 ちょっと神社から離れすぎた。

 ああ、面倒くさいな。

 一瞬で帰れたらな……


 気が付いたら、本堂にいた。

 そうか……

 また、謎の現象が起こってしまった。

 これも、要検証か。


 次に、生き物は……作りだせなかった。

 こないだミミズが出たから、出来るかと思ったのに。

 色々と考えた。

 兎出てこいとか。

 出てこなかった。

 しばらくして、門に何かがぶつかる音が。


「サバクホラアナツノウサギ!」


 アンが目を輝かせて捕まえようとしていたのを、手で制す。

 兎は俺をジッと見つめたあとで、こっちに飛び込んできた。


「危ない!」


 アンとテメスさんが焦った表情で叫ぶが、兎は角が俺にぶつからないように頭を逸らしつつ胸に柔らかくぶつかる。

 思わず抱き留める。

 フンスフンスと鼻で俺の匂いを嗅いで、胸にグリグリと顔をこすりつけてくる。

 可愛い。


「サバクホラアナツノウサギが懐いてる?」

「なるほど、流石です」


 アンは驚いていたが、テメスさんは頷いている。

 放っておこう。

 もしかして、ここにいる動物なら望めばくるのかな?


 寂しいって思ったからテメスさんたちが来たわけだし。

 

 ……ちょっと待て! さっき、色々と動物たちや人が出ろって願った。

 願ってしまった。

 取り急ぎ、慌ててキャンセルする。

 出来たかどうか分からないけど、さっきのなしでと強く願った。

 

***

とある王国


「ドラゴンが砂漠に向かっていたのですが、突如方向を変えて山に戻っていきました」

「そうか……なんだったんだろうな?」


***

とある港町


「急に陸にあがって、一心不乱に内陸に向かおうとした魚ですが、何故か海に戻っていきました」

「いや、よく生きてられたな。新種か?」

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