第4話:新たな住人

「おはようございます」


 外に出ると、修道士のテメスさんが挨拶してくれる。

 毎朝、本堂の拭き掃除と庭の箒掛けをしている。

 取り合えずの日課らしい。

 それから祭壇に、熱心に祈っている。

 その祭壇にはテメスさんが描いてくれたこの世界の神様の絵と、そっくりな神像が。

 白くて長いひげをたずさえた、立派なおじいさんだ。

 こういうのが祭壇にあったら良いかなと考えていたら、ちょっと照れた表情の神様の神像が目の前に。

 そしてその神像を見た瞬間に、テメスさんが五体投地していた。

 

「はにかんだ表情が人間味があってなんというか、こう……より親近感を感じますね」

 

 神像を見る目は穏やかで、とても柔らかい。

 そして、嬉しそうに1時間近く祈りを捧げている。

 これは、朝昼晩の3回だ。


 色々とこの場所について、教えてもらった。

 ここはミガーテ大陸とよばれる場所らしい。

 他にも大陸はあるらしいが、行くのは物凄く大変とのこと。

 交易が最近になって、ようやく開かれたとか。


 そしてこのミガーテ大陸。

 原因不明の砂漠化が進み、徐々に人が住める場所が減っていってるとのこと。

 すぐすぐというわけではないが、学者の話では500年以内に大陸全土が砂に覆われるのではないかと。


 そしてこの神社がある場所は、その砂漠の一部らしい。

 というよりも、ほぼ真ん中に位置するらしい。

 とはいえ、突如現れた地図にも載ってないオアシス。


 神託を受けて探す旅に出たものの、神の言葉じゃなければまず信じなかっただろうとのこと。

 絶対にたどり着けないだろう場所だったが、神のお告げだったため死の行軍を決行。

 来る途中、まるでここに導くかのような奇跡の数々を目にしたらしい。

 結果、驚くほどに簡単に辿り着けたらしい。

 楽しそうに語ってくれた。

 いや、それって無事に帰られるのかな?


 それと、テメスさんに感化されて、俺も何か出来ることはないかなと模索中。

 やっぱり1人じゃないって素晴らしい。

 しかも働き者のテメスさんを見てたら、なんかやらなきゃって気になってくる。


 何が良いかな?

 何も思いつかない。

 農業か、工業か。

 芸術活動……ふふふ、絵は得意じゃない。

 そもそもモチーフが庭か砂漠しかない。


 まあ、ゆっくりと考えよう。


「主は座っていてください」


 テメスさんは俺のことをしゅと呼ぶ。

 俺の苗字は神主こうずなんだけど?

 何度説明しても、しゅになる。 

 言いにくいのかな?

 そんなわけないと分かっていても、そう思うことにした。


 ちなみに謎の広くなった領域も、望んだら緑が生えた。

 なんでかな?

 そんな疑問を首を傾げながら口にする。


しゅが望んだからです」


 いや、そうなんだけど。

 なんか、意味が違って聞こえる。

 あれだな……

 宗教家だから、言葉も宗教っぽく聞こえるんだろう。

 そういうことにしておこう。


 縦横1mずつ広がったけど、元が一辺10mあるからそれだけで約20平米広がったことになる。

 いつまでもテメスさんをテントに寝泊まりさせるのもと考えていたら、敷地内に小さな建物が現れた。

 表札に見たことも無い文字が。

 でも読める。

 テメスって書いてある。


「もったいない……」


 それを見て、テメスさんが涙してた。

 その後部屋に入る前に五体投地をしてた。

 うんうん……いちいち大げさだけど、もしかしたらこれがこの世界のデフォなのかもしれない。


 違った……

 本人に聞いたら、やっぱり神にささげる最大の敬意らしい。

 俺はただの人だからやめてくれと頼んだら、何やら複雑な表情を浮かべていた。


 テメスさんとの2人暮らしも、だいぶ慣れてきた。

 ちなみに俺は色々と、やり散らかしている。

 今は、木を削って像を彫っている。

 こないだは絵を描いてみたけど、やっぱりいまいちだった。

 もっと上手に描けたらなと思ったら、急に筆が進んで写実的な砂漠の景色が。

 鉛筆一本で、かなりリアルに描けてしまった。


 望んだらだめなのかもしれない。

 その絵はテメスさんが、部屋に飾っている。

 ある日、聞きたいことがあってテメスさんの部屋に行ったら、その絵を拝んでいた。

 入り口が開いていたので、目に入ってしまったが。

 そっと、回れ右して自分の部屋に戻った。

 ズルした絵を大事にされてるみたいで、心がちょっと痛い。


 そんなこんなで1カ月くらい過ぎたころに、庭でテメスさんと雑草を抜いていたら何かが敷地に入ってきたのが分かった。

 ちなみに仕事と思えるような作業的なことがしたいと思ったら、庭に雑草が生えてしまった。

 これはちょっと迷惑だ。

 そう思っただけで、雑草が申し訳なさげに頭を下げて枯れ始めたので慌ててその考えを振り払う。

 いまさら、この意思をもってそうな雑草を抜くのも。

 今度はそう考えたら、かなり寂しそうな空気が伝わってきた。

 

 抜いたら嬉しそうだったので、プチプチと雑草を抜く。

 不毛だ。

 そして、その姿を見ていたテメスさんが慌てて止めに入ってきた。


「そのような雑事は私が」


 いや、俺のために生えてくれたんだから。

 押し問答の末に、一緒に草抜きをすることに。

 それよりも……


 一瞬現実を忘れようと思ったけど、見て見ぬふりは出来ないよね。

 視界の端に映った人影。

 この敷地に入った瞬間に、綺麗にパタンと倒れた。

 また五体投地かなと思ったけど、ちょっと様子がおかしい。

 侵入者は傷だらけの憔悴しきった人だった。

 獣の耳と尻尾がある。


 やっぱりここは地球じゃなさそうだ。

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