第3話:神父と神主

「あっと、あなたは?」

「えっと、ここの住人?」


 戸惑った様子の神父さんに対して、こっちも戸惑い気味に返事を返す。

 取り合えず、後ろの武装した人たちが気になる。

 というか、怖い。

 神父さんがいなかったら、完全に強盗だと思っただろう。


「なるほど、ある朝目が覚めたらここにいたと」


 簡単に状況を説明する。

 メインで話をしている神父さんは、ミルドさんというらしい。

 他の2人は修道士で、ミルドさんの付き人らしい。

 武装した人たちは護衛の冒険者とのこと。


 俺の知っている冒険者と違う。

 俺が知っている冒険者といったら、世界摩訶不思議発見のフトシ君人形のような恰好をした人だ。

 グレーというか、ベージュの服と帽子で双眼鏡を首からかけて、秘境を探検する人。


 目の前の冒険者と呼ばれた人は鎧やローブを着ていて、剣や弓、杖を持っている。

 RPGのコスプレかな?


 ミルドさんに湯気が立つ湯飲みを差し出す。


「あっ、えっと……ありがとうございます」


 お茶を出さないととか頓珍漢なことを考えていたら、目の前に急須と湯飲みが。

 緑茶で良いのかな?

 顔からして、コーヒーとか紅茶の方が合いそうだけど。

 でも、せっかくだからとそのまま差し出した形だ。


「風味が豊かで美味しいですね」


 良かったらしい。

 口にあったみたいでなにより。

 で、神託というのは?


「ここに現れた神の御子が寂しがっている。手助けせよとの神託が下りました。多くの人がいる場で突如神像が喋ったので、この奇跡に……」


 ミルドさんの言葉を手で遮る。

 確かに、寂しいなとは思っていた。

 でも、ちょっと待とう。


 神の御子?

 誰が?


「えっと、ここに神はいらっしゃらないのですか?」


 普通の人である私しかいませんが?

 祭壇はあるけど、ご神体のようなものは無かった気が。

 鏡とかあったっけ?

 いや、何もなかったような……


 しばらく調査をしたのち、今回連れてきた修道士の1人を置いて帰るらしい。

 うーん、まあ話相手がいてくれるのは助かる。

 それと、色々とこの国について教えてくれるらしい。

 何か、俺の知っている世界と違う気がしなくもない。

 そもそも、聞いたことのない国だったし。

 まあ、全ての国を知っている訳じゃないけど。

 ヨーロッパ圏のような人種の住む国で、ここまで聞き覚えが無い国というのもあり得ない気が。

 ちなみに、国の名前はラーザニアというらしい。

 美味しそうな国だ。


 そんなことを考えたからか、夕飯は珍しく洋食だった。

 ラザニアだ。

 まあ、あっちの国っぽい人たちが来てたからよかったけど。


 一口食べたあと、全員が一気に掻き込んでいた。

 確かに美味しいけど、そこまでかな?

 冒険者の人達が空になった器を寂しそうに眺めていたので、おかわりいるのかな? とかって考えたら器にまたラザニアが盛られてた。


「あなたでしたか……」


 ミルドさんと修道士さんがそう言って五体投地みたいな恰好をしてたので、慌てて引き起こす。

 確かにラザニアを出したのは私ですが、そこまでの感謝の形を示されても困ると答えた。

 凄く困った表情をしていた。


 どうやら、この敷地内だとある程度思った通りのことが起こるみたいだ。

 まるで、夢の世界だな。


 その後、1週間ほど一行は滞在して修道士の方を1人残して帰っていった。

 暑いけど、大丈夫かな?

 冒険者の人の中に、水と氷の魔法が使える人がいるから大丈夫らしい。

 魔法って……と思ったけど、実際に見せてもらった。

 凄いとしか表現できない。


 俺にも出来ないかな?

 そう思ったら、出来た。

 水と氷の魔法の知識と仕組みが、いつの間にか記憶にあった。

 そして、自在に使えることができた。


 魔法使いの女の人が、膝をついて両手を組んで祈っていた。

 なんか……どっちかっていうと、嫌な奴じゃない?

 見ただけで出来るうえに、見せびらかすとか。


「とんでもない! 見ただけで魔法が使えるなんて、神童と呼ばれ賢者にまでなられたエルファストラフ様以来です! やっぱり……」


 凄くキラキラした目で、見つめられて少しドキッとした。

 やっぱりの後の言葉が、よく聞こえなかった。


 ミルドさんが、近いうちに教会の許可を取って私もと言っていた。

 私もなんだろう?

 よく分からない。


 一行を見送るときに気付いた。

 外と中の境界を示す陽炎の位置が、緑のある場所から少し離れているのを。

 1mくらいだろうか?


 そこまで涼しかった。

 うん、良かった。

 ちなみに、皆本堂で寝泊まりするように勧めたけど、庭にテントはっていた。

 恐れ多いらしい。


 

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