ペイン




彼は毎晩、いつも痛みにうなされている。

ここ数日はまともに眠ることも出来ていないようだった。

ベッドに横たわったまま何度も身体の位置を変え、少しでも楽な体勢を探してもがき続ける。

それでも決して声は出そうとしない。

身動ぎの音に彼の様子を見に行くと、彼は横になったまま目線だけをこちらに向けた。

額にうっすらと浮いた汗と乱れた髪。

取り繕う気力すらなく、手足を投げ出し荒い呼吸をする身体にそっと手を当てた。

触れただけでも痛かろうに、彼は振り払おうとはせず静かにこちらを見ている。

こちらを気遣ってのことなのか、それとももうその力すらないのかわからない。

恐る恐る胸を撫でる手に、彼の汗ばんだ肌がべったりと吸い付く。

汗で濡れた服は重く身体を包んでおり、それが彼の体温を奪ってしまっているようだ。

着替えさせてやりたいが、今は動くのもおっくうだろう。

水で絞ったタオルを首筋に当て、そっと汗をふき取ってやる。

呼吸の度に彼の薄い胸が上下し、苦しそうな息遣いが静まり返った部屋に響く。

何度も水を絞り、身体にタオルをあて、さする。

こうしてやることしか、できない。

彼は小さく呻くと、身体をよじって横へ向け、息を吐いた。

痛みがおさまるまで耐え忍ぶことしかできない彼は、目を閉じ、自分の身体を抱きしめるように腕を回した。

背を丸め、歯を食いしばり、声を殺して痛みをやり過ごそうとする。

苦しそうな彼を、ただそばで見ていることしか出来ない無力さを噛み締める。

「……っ」

どうしていいか分からず、ただ彼の背に手を当てる。

彼の痛みが、伝わってくるようだった。

胸の奥から伸びてきた茨が全身を締め付けるような。

痛みが、身体に根を張って、のがさない。

彼の身体に覆いかぶさり抱きしめた。

彼がビクリと身体を震わせ、顔が苦痛に歪んだ。

わかっている。こうして触れることが、彼の痛みを増してしまうこともわかっている。

それでも、抱きしめられずにはいられなかった。


大丈夫だと伝えたかった。

何も出来ない自分が苦しくて、彼の身体に触れていたかった。


これは、僕のエゴだ。



「ごめん……ごめんね……」


僕は、お前を苦しめている。

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SCFR マリーゴールド @Rusio

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